《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》無拍子

エイレネ艦ではA級構築技士たちが試合を観戦している。川も遠隔通信で議論に參加していた。

「超反応だと? MCSで強化された超覚――六すら上回るのってのか!」

「いえ。そうではなく、ほんのわずかな挙から、導き出される作を高速演算している形ですね。當然MCSも行っているはずですが…… おそらくバルバロイはよりダイレクトな反応なのでしょう」

ケリーの疑問にクルトが反応する。彼も剣士としてどう反応するかシミュレートしている。

「撃ち合いでは不利でしょうね。腕分をかす角度、速度から予測している。MCSも當然行っていますが、より未來位置を高速演算しているということでしょう」

ウンランもまたバルバロイというサイボーグを分析中だ。

「しかし兵裝がレールガンでないことは意外だな。ガウスライフルとはね! 懐かしいな。俺たちがネメシス星系に飛ばされた時もそうだった。炸薬を使った銃よりレールガンやガウスガンのほうが作りやすかったからな!」

「転移した星アシアでは炸薬制作に制限がありましたからね。オケアノスの技制限も電磁力で飛翔を飛ばすものまでには干渉できませんでした。しかしあの時代は本當に制限が多かった。おそらくレールガンを持つことも可能でしょうが、四本腕には反が大きすぎるのかもしれません」

「両腕を使えばいいだけなのにな。ただそれだと四本腕のメリットを帳消ししちまう!」

「両手で銃を構えるぐらいなら何故四本腕にしたか。コンセプトの問題になってしまうのでしょう」

最初の転移者グループであるケリーとクルトが過去を懐かしみながらも、テウタテスのコンセプトを解析中だ。

おそらくバルバロイもその手の技制限があると予想するには容易かった。

「技制限をくぐりぬけるためにサイボーグになったというのに。皮なものだ。裝甲材はアンティーク同様だろう? 星エウロパはバルバロイの盡力によって鋼材稼働施設だけは溫存できたってことかな」

ウンランが想を述べる。星アシアとの差異はあるが、大きな差はない。

「金屬水素は技制限で使えないのではないかと」

川が通信を経由し、エイレネ艦にいる構築技士たちへ挙からの推測を披した。推進剤に炸薬。金屬水素生爐は星アシアにおいてはエネルギー技のゲームチェンジャーだった。

「金屬水素貯蔵爐でさえアシアの技開放を待つ必要があったからな! そうでなければ水素の金屬相を維持できない。すぐガス化しちまう。宇宙艦は殘っていても、そこから生した金屬水素利用は許されなかったということか」

「金屬水素はコウ君の大手柄ですね」

航空機屋だったケリーと川が、実を込めて話し合う。

「彼らにとってもテウタテスに搭載できるほどの金屬水素生爐はなかったのでしょう。もしくは小型化できなかったか」

「重工業星にしては意外だね。ガウスライフルに腔砲。追加腕にはそれぞれ口徑の異なる機関砲。サイボーグになってまで維持した技はあの程度ではないはずだ」

そうでなければ割に合わないと思うウンラン。脳まで機械化した代償にしては安すぎる。

「それでも圧倒的に劣勢な數で、ストーンズと引き分けに持ち込んだ。コウたちはタイマン狂いだからな! 相手が悪いな」

ケリーがにやりと笑う。コウと兵衛。そしてアルゴフォースの傭兵バルド。揃いも揃って剣士だ。量ですりつぶす戦略のマーダーを想定した機とは相が悪いだろう。

「タイマンに弱いとは限りませんよ。あのバルドの評価がヒョウエ三人分らしいですからね」

クルトは同じ戦場に立てないことを焦燥すら覚えたものだ。

それほどの難敵と試合する。殺し合いではないのだ。

「抑えなクルト。気持ちはわからんでもない。おそらくあのヴァーシャもそうだろうな」

「でしょうね」

シルエットでシステマの再現を試みたヴァーシャが、おそらくクルトの心境にもっとも近いことだろう。手に取るように想像できた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「バルドめ。あの初はなんだ」

苛立ちを込めてヴァーシャが呟く。

己が戦場にいたなら、あのように無様な失態は曬さないという確信だけはあった。

「テウタテス相手には仕方ないんじゃないかな。パイロット込みで考えてやりなよ」

怒りの形相を隠さないヴァーシャにヘルメスがフォローしてやる。

テウタテスの能を把握しているヘルメスには、ヴァーシャの怒りはいささか八つ當たり気味とさえ思えるのだ。

「なおさらです。脳まで捨てた機械にMCSとの組み合わせで劣るなど……」

「厳しいなヴァーシャは。けれどぼくとしてもあの程度の機械、超えてもらわないと困る。星アシアの最高レベルの戦力が、一介の兵卒に過ぎないバルバロイに倒されるのは、ね」

「そうでしょうとも。同盟関係にあるとはいえ、バルバロイはストーンズですらない。そして星アシアであの三人は最高峰であり、バルドはあの場にいるわけですから」

「アルゴフォース代表みたいなものか」

ヘルメスは愉快だった。ここまで的になるヴァーシャは珍しい。

そのような愉悅を味わいたくてしたのだ。MCSで強化された生が機械に劣っては困る。それはヘルメスの本音でもある。

「勝負が決したわけではない。敗北したら特訓程度でいいだろ?」

「バルバロイに勝利したら小言程度で抑えますよ。負けたら足腰が立たなくなるぐらいのしごきは行います」

苦々しくヴァーシャは回答する。

バルドは理知的ではなく、本能で戦う部分がある。その點だけが不安だった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「決まっている。それは――微だにせず突っ込むのみ」

「おい。コウ。てめえ本気でいってるのか」

「本気だ。バルド。あのテウタテスと近接戦闘の経験は?」

「あるぜ。持ち替えも早い」

「持ち替えはあるんだな。――抜刀した狀態で突っ込もう。どうせ斬らないと有効打にはならない」

コウが微笑みながらいう。バルドのいうことは、コウの予を確信に変えた。

「余裕の笑みだな。――何に気付いた?」

そうと決まればバルドも抜刀する。コウの言葉を疑う理由はない。

このままではじり貧。撃によるダメージレースでは打ち勝てないだろう。

「目の前のあれはシルエットではない、ということを確認しただけだ」

五番機は居合いの姿勢を取り、兵衛のラニウスは二刀に持ち替える。

「シルエットではない。おそらく視界も360度。側面に回り込んでも無駄だ。テウタテス二機は俺たちと完全に正対していないだろ? 二機で腕部の死角を補っているんだ。こちらの移は背面のメインスラスターのみ。こちらの背中までは視認できまい」

「そういうことかよ。こちらの作で超反応するなら、停止狀態で突っ込むということか」

バルドも理由には納得する。

「無拍子だな。拍子と調子を完全に消す。シルエットならではだ」

兵衛もコウが言いたいことは直的に理解したようだ。

「超反応による撃ち合いだとこちらは不利。しかし斬り合いならタイミングや間合いが重要になる。細かな挙の一切を封じて突っ込めば、相手は超反応ではなく想定するパターン対応になるはず。近付くことは容易い」

「ぎりぎりまで近付いて、超反応で攻撃するテウタテスの懸かりを利用する、ってことだな」

「超反応なら、むしろ近付いて接近戦のアルゴリズムをい出してやればいい。そこからなら剣の駆け引きに持ち込むんです。この三機なら接近するまでの被弾は耐える。相手は通常のシルエットを想定して裝甲筋や剣の知識もない。――超反応に対応する変化技、奴らに対応できるかどうか」

兵衛の問いにコウがよどみなく答える。

バルバロイとテウタテスの組み合わせは単純ではないだろうが、兵として簡略化されている。複雑な駆け引きを好むとは思えなかった。

「近接武に持ち替える暇は與えないってことか? 俺の時は素早かったから十分対応できると思うが」

「これは集団戦。適切な距離になれば近接用のアルゴリズムによって専用の兵裝に持ち替えるはずだが、バルバロイの奧の手がそこにあると予想している。もし持ち替えなかったらその時こそ――」

コウが告げる核心に、二人は盲點を突かれた格好だった。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

対テウタテス戦。現地で戦うものはその対応力を。観戦者はスペックとコンセプトを見極めるために注視している狀況です。

シルエットではない人型兵はそれほどまでに警戒させるものです。

次回、決著です!

最近、海外で日本神話とフィンランド神話が似ていると話題があったそうで。

ずばり日本神話とフィンランド神話をテーマにしたメカアクションを連載しています。

「魔機裝ミルスミエス~鋼と魔法のカレヴァラ戦役! 霊姫と征く反転攻勢!」

現在10萬字執筆し、ネメシス戦域優先のため更新停止中ですが落ち著いたら再開したいと思っています。

もしよろしければこちらも応援よろしくお願いします!

超反応の次は隙のないク○ゲーCPUが! ヴァーシャは地獄のトレーニングメニューを考え始めている! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。

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