《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》暗
三機のシルエットは走するかの如く、地を這うようにテウタテスとの距離を詰める。
バルバロイは思考した。彼らは三機揃って近接武を構えている。この星アシアでもかなりの手練れだと判斷する。
テウタテスは武を持ち替えることなく、撃を継続する。
「コウの予想通りだ!」
三機の目標はまず雷神。白いテウタテスである。
「ああ。あとは俺たちの技量次第だ。――へまするんじゃねえぞ、バルド君。ヴァーシャにどやされるぜ!」
「怖ぇこというなー!」
そのびを聞いて、ふたたび片眉をぴくりと上げるヴァーシャ。ヘルメスは噴き出しそうになるが必死に堪えた。
「あと十秒もしねえうちに斬り合い距離だ。業の冴え、見せて貰うぜ二人とも」
「てめえもな! 兵衛!」
コウは無言で気を引き締める。
三機のシルエットは彼らからみて左側にいる雷神に襲いかかる。
スラスターは一切の減速をせず、五番機が特攻し抜刀する。
テウタテスの右追加腕部から、刃が飛び出し五番機に襲いかかる。五番機は初めて地面を蹴りつけるように踏み、わずかに速度を落とす。
空振りしたテウタテスの刃。五番機は鞘引きで剣の軌道を変え、右上下の腕を斬り飛ばす。
「どんなに剣速が速かろうが、タイミングさえ判ればこっちのものだ」
兵衛がにやりと笑う。暗による攻撃などリーチも短く対処はしやすい。所詮奇襲用だ。
「よくこの剣速相手に余裕でいられるなヒョウエ!」
バルドが悲鳴をあげる。シルエットでの暗戦には慣れてはいない。想定もしたことさえなかった。
コウは無言。戦場ではどの方角から攻撃が來るかは読めないもの。場慣れした戦い方だが、相手の先を読み続ける剣といえるほど繊細さはない。
「敵も対応できてねえようだな!」
バルドにようやく余裕が生まれた。以前は超反応で手も足もでなかった相手だが、今は剣が通じている。
バルバロイの予想を遙かに上回る、な腕部の可域。彼らの予測と超反応を覆したのだ。
「――ッ!」
バルバロイの思考にエラーが発生する。
あまりに疾い斬撃ゆえに空振りした。振り上げた腕部を制して、立て直すほんの僅かな一瞬を狙い、五番機は斬撃を放ったのだ。
當然より腕部のほうが細く、切斷は容易い。
「予想通り、か」
コウがすかさず回転し、背後に目があるかのように襲いかかるテウタテスの左腕の斬撃を流す。
その間に兵衛が追加の左腕部を切斷し、バルドは減速せず突進しテウタテスのコックピットを貫くのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
バルドはコウが試合前に話したことを思い出す。
「ある程度の距離になれば近接武に持ち替えるはずだ。もし持ち替えなかったらその時こそ――シルエットではない証明。蔵武を持ち出す。暗だな」
「暗だとぅ!」
言わずと知れた暗殺用武のことだ。人類史には様々な暗が存在している。
シルエットに蔵型の暗はあり得ない。フェンネルOSが許さないからだ。
「シルエットだと不可能な武裝だが、シルエットではない人型兵なら武を仕込むはずだ。火は暴発する可能がある。蔵する兵裝は近接武だろう。暗を仕込んでいるようなら、腕の中は空だ。裝甲筋すらない。シルエットと違い基幹の骨組みもないだろう。そんな箱の組み合わせ腕部なら、切り落とせる」
「まあな。しかしシルエットではない人型兵ってのも厄介なもんだなァ」
「MCSが萬能すぎましたからね。それを補うためのサイボーグ化と、シルエットのごく一部を模倣した紛いがテウタテスです」
コウの解説に心するバルド。構築技士だからこそシルエットの構造は把握しなければならない。
腕に武裝を仕込む。発武ならするし、使わなければ死荷重にしかならないのだ。MCSはそんな不合理を認めない。
「制圧兵にとって近距離武裝は持ち替えたくもないだろう。暗のほうが道理だな」
兵衛とて傭兵相手の商売なら近接武裝は蔵にしたいと思っている。死荷重だろうが、腕部二本がフリーになるメリットは大きい。
フェンネルOSの萬能と常識が、彼らに予想を許さなかったのだ。
「格納兵裝なんざシルエットの常識ならあり得ねえがな。あいつはシルエットじゃねえ。よく気付いたなコウ」
「構築技士なりたての頃、アストライアに構築を叩き込まれたからな――人類が手腳に武を埋め込んだり取り出すことが一般的になれば、シルエットもできるようになりますと」
「きつい教師だな」
バルドは憎まれ口を叩きながらも、さすがはアストライアだと心嘆する。
アストライアはアルゴフォースでも畏怖すべき存在である。意外なことにヘルメスもアストライアは褒め讃えている事が多く、ストーンズ全はともかくアルゴフォースでは軽んじる者はいない。
たった二百機の艦上戦闘機でアルゴフォース空軍を抑えて見せたアストライアは、エメ提督の名とともに今なお語られている。
「ノーコメントだ」
この言葉をリアルタイムで聞いた構築技士全員が苦笑や同意の笑みを浮かべる。蔵武は構築技士なら一度は考える兵裝であった。
「さすがだな。伝説の兵開発統括超AIアストライア。あいつの最初の師が彼で良かった。コウに変な癖を與えず育てただけのことはあるぜ」
「わかりやすい回答ですね。シルエットが何たるか、無用な言葉を重ねない。私達の知識をすんなり吸収できた理由も、アストライアの基礎教育の賜でしょうね」
ケリーとウンランも言葉をわす。
「彼はどちらかというと応用が得意なタイプだったはずです。アストライアの教育方針は他の生徒に教える際に見習う必要がありますね」
クルトも同意し、コウたちに視線を送る。
アストライアの教育方針は徹底した基礎。シルエットに限らず車両、戦闘機、艦船などの構築をコウに叩き込んだ。
基礎が無ければ応用だけに長けていても、いつか必ず躓(つまづ)くと見抜いていたからだ。
基礎不足は、不合の原因を究明できないことに繋がる。想定外の事態に対応できないということだ。
アストライアは無表でコウと五番機を見守っている。
「アストライア。嬉しい? 恥ずかしい?」
意地悪い笑みを隠さないアシアのエメが、畫面のアストライアに問いかける。
『ノーコメントです』
両方だろうと、アシアのエメは思う。
教え子と同じ回答をするアストライア。
心なしか誇らしげな視線を五番機に送っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
テウタテスは殘る一機。彼らからみて右側に位置する碧緑の機である風神だ。
「ナンダコイツラハ……」
意思疎通は基本通信で、聲帯を使うことはない。急用だ。
しかし今の彼はヘスティアに支配され、たった今仲間を喪った。使い道は獨り言を発するぐらいだ。
計算によると自らの撃墜さえ予知できた。
「キョウイ」
このシルエットは星エウロパと脅威となるだろう。仲間に伝えたいところだが、それもままならない。
「リフジン」
脳まで機械化し、処理速度は遙かに人間を超えた。
フェンネルOSの解析など到底不可能だったが、表面上近いものを開発した。
それでもただの生の人間とフェンネルOSの組み合わせに敗北しようとした。
バルバロイにとっては理不盡そのものだ。
しかも一人は老人。壽命も長くなく、個としては終了間近な存在である。この點に関してはヘスティアを疑ってはいない。
彼らは多重駆け引きを要求してくる。それはかつて地球にあったボードゲーム。チェスや將棋といったものに近い。
よほどの相手なら、読み負けることもない。おそらくフェンネルによる覚強化のせいもあろうが、 眼前の三人が駆るシルエットは例外だ。
彼らは數手先の変化を読み取り、また彼にも駆け引きを強いる。いずれ駆け引きに敗れ、致命的なダメージを負うだろう。
「バルバロイ。ぼくが願い、君たちが捨てたものがそれだよ」
ヘルメスの言葉が聞こえたような気がした。
「カンカク、カ。セイ、カ」
覚か生か。ヘルメスが願ったもの。すでに彼らがもっていたものだ。
今やバルバロイにとってはどうでもいいものに過ぎない。
「ハイボク」
眼前に迫る五番機。
五番機が放った刀の切っ先が裝甲を超えて彼ごと貫通する。
敗北要因を解析中に彼の思考は中斷されたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
シルエットではない人型兵。差異はやはり暗でしょう。
ネメシス戦域159話『アストライア先生の教えてブリコラージュ』の伏線回収です!(遠すぎ?)。
隠し腕とか隠しガトリングなどは燃えますが、やはり蔵武は死荷重の恐れがあります。とくに弾切れのある撃武はその可能が高く、相手の位置を即座に補足する必要がある腕部依存の照準速度を落とすことは本末転倒。
マク○スΔでは腳部に剣を蔵していましたが、あれはありだと思います。
腰のスカートアーマーに隠し腕、は天才の発想だと思います! 作どうしているのでしょうか。バイオセンサー?
テウタテスは主腕は隠し武なしで追加腕部のみ暗蔵可、不要と判斷したら追加腕部ごとパージ可能です。
暗系は好きですが設定遵守! テウタテスのほうが発想は自由?! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。
大変勵みになります! 気軽に想等もお待ちしております!
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