《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》兵談義
オイコスたちがコウとクルトを迎えにきた。
二人ともスーツだ。
「いってらっしゃい。コウ君。たまには君も正裝しないとね」
斷然スーツ派のジェニーの指揮で、コウのスーツはユースティティア陣によって仕立てられた。
「フリーな服裝でいいと聞いているんだが……」
コウは最後まで抵抗したがアシアのエメが許さない。
「自由な服裝で良いと聞いて酷い目にあう話、日本でたくさんあったと聞いた」
「それは……」
就職活経験があまりないコウでも聞いたことはある話である。
「クルトさんは自前のスーツですって! さすがよね。――観念しなさい」
「はい……」
「オフとはいえ組織を代表する會食でもあるのよコウ君。ネクタイは流れで外しなさい」
ジェニーにここまで言われては返す言葉もないコウ。
しばらくは陣による著せ替え人形扱いであった。
こうして二人はヴァーシャとの會合に向かったのだ。
目的地はもっとも安全な場所。――聖域アルティスのコントロールタワーにある高級ラウンジ。ヘスティアの手配によって貸し切りである。
「大事になったなあ。もっとフランクに行きたかった。軽く酒を飲みながらヴァーシャと構築談義でもしようかなってじだったのに」
「君とヴァーシャとの會合です。もっと張を持ったほうが良いですよ」
クルトがやんわりとコウの立場を自覚させる。
「とはいえ彼との構築談義は私も楽しみです。気楽にいきましょう」
二人はエレベーターを使い中層にある區畫に到著する。
扉はスライドして開き、中には夜景が広がるクラシカルなバーがあった。
「……なんで」
バーテンダーをみて絶句した。眼鏡こそかけていないがヘスティアである。にこりと笑って無言のままだ。
先客もすでにいる。こちらには違和を覚えないコウ。ヴァーシャだった。
「こちらへどうぞ」
バーテンダーに促され、ヴァーシャの隣に座るコウ。ヴァーシャとクルトに挾まれる格好だ。長の二人に挾まれ、若干きまずいコウ。
「今日はよく來てくれた」
コウはヴァーシャに対し禮を告げると、ヴァーシャは微笑みで返した。
「私も君とゆっくり話したかったところだ。試合前にね。幸いここでは敵も味方もない。もちろん、ミスタークルトもね」
「そうですね。私も貴方と話す機會はしかった」
二人が敵意や恨がないといえば噓になるだろう。しかし二人はそのをうまく制していた。
コウとヴァーシャにいたっては生では初対面とは思えないほどである。
「まずは乾杯といこう。――君たちの勝利を祝って」
ヴァーシャがヘスティアに頷いてみせる。二人のドリンクは注文済みのようだ。
クルトにはビールベースのカンパリ・ビア。コウには飲みやすいマリブ・コークが差し出された。
自はクワーシャ。ロシア伝統の飲みクワスにウォッカを組み合わせたものだった。
「それでは乾杯」
三人がグラスを重ね合わせる。不思議な気分になるコウだった。
「さっそくだがテウタテス戦の想を聞かせてもらえるかな」
「わかった。――あれは制圧兵。非常に反応速度が高い、ね。演算能力も秀逸。だからこそ裝甲筋が重要になってくる」
クルトは思わず心した。ヴァーシャはコウが話しやすい話題からっている。意図的だろうが、効果的だ。
コウは知ってか知らずか、クルトも気になる話題を振ってくれる。
「ほう。すぐ隣に裝甲筋の第一人者もいる。どういう理由か詳細を聞きたい」
「私もですね」
「上手く言葉にできるといいんだが…… 相手は腕部のき、未來位置を正確に予想していた。しかし、そこで裝甲筋と刀が生み出すしなり(、 、 、 )が不確定要素になってくる。これが以外と有効でね」
ヴァーシャが深く頷く。コウの言葉を噛みしめて、己の知識と照らし合わせる。
「剣の軌道は読めるだろう。しかし不規則な鞭の軌道を読み切ることは出來ない。そういうことだな?」
「鞭とはいいえて妙だ。バルバロイはシルエットの腕部の能から剣速、振り下ろした停止位置まで読めるだろう。裝甲筋は違う。手首一つ、振り方一つで変化することが可能だ」
三人はそれぞれの目的をそっちのけで裝甲筋の可能について語り合う。
むしろヴァーシャのほうがコウのペースに飲まれてしまったのかもしれないと思うクルトだ。
「我々は対処可能だが、一般兵はそういうわけにもいくまい」
コウとクルトは剣。ヴァーシャはシステマという軍隊格闘技の遣い手だ。フェイントや変化技はシルエットの作に反映させることは容易である。
しかし生で特殊訓練をけているものは、星アシアでも多くはいない。
「軍勢との戦いはまた別問題だろう。対マーダーに特化しすぎているとじたな。テウタテスは巨だ。戦車の主砲による集中砲火やリアクター搭載型の超音速ミサイルなどで対処可能だと思う。シルエットで対処する必要はないよ」
「手足がある戦車みたいなものか」
「接近戦に強い戦車だな。それこそ接近戦慣れしていないパイロットだと瞬く間に切り刻まれる」
「暗は予想外でしたね。よく対処しました」
クルトもしっかりシルエットの常識に縛られていた。予測していたコウには服せざるを得ない。
「どこかに裝備できないか、常に考えていましたけどね。やはり追加裝甲で対処するしかないかな」
コウが苦笑した。試みるたびにアストライアの冷たい視線が向けられる日々を思い出したのだ。
自分が思うより食い下がっていたらしい。
「サイズも一回り大きい。君は以前そのようなシルエットを構築していただろう? メガレウス攻略戦の時、私は見たぞ」
ヴァーシャが気になっていた質問をぶつける。十メートルサイズのドリル型シルエットがメガレウスの裝甲を破壊していた。
「ドリルのあれはアナライズ・アーマーだよ。ラニウスの陸戦型と同じ仕組みだ。工兵専門だから、テウタテス戦には厳しいな。何よりあんな鈍重な機では的にしかならない」
ヴァーシャが言及している機はフユキとヴォイが運用したドリル裝備の工兵機エランドであろう。
「諸兵科連合で運用するメタルアイリスでは、単機に火力を満載するよりもファミリアたちに支援火力を任せる、か」
「火力満載が必要な時もあるさ。ただ常に必要なタイミングがわかるか、という話に繋がる」
「兵において使わなければ死荷重という葛藤は常につきまとう。二十一世紀における米國の海軍戦闘機でさえ、オプションになってしまった。かつてベトナム戦爭での教訓を忘れて、な」
ベトナム戦爭での教訓。それはミサイル萬能論が蔓延し、戦闘機から機銃裝備を排除した結果、舊ソ連の戦闘機に苦戦を強いられる結果となってしまった逸話であった。
コウがいた時代最新鋭の戦闘機は三タイプ造られた。陸上戦闘機であるA型こそ機関砲は裝備されていたが、短距離/垂直離著陸型のB型、艦上戦闘機のC型はオプション兵裝とされた。
「あの時代はアウトレンジ。対空ミサイルは全方向に飛んでいきます。接近戦の必要は低かったとしても、ステルス機同士では偶発戦の可能は高かったと聞きますね」
「機は極力軽量化したい。しかし歩兵代わりのシルエットも役割分擔が進み、アサルトシルエットとバトルシルエットという區分分けが生まれた」
「発案者はコウ君ですね」
「なんだと! そのカテゴリまで君が考えたというのか!」
改めて知る事実にヴァーシャは喜びを隠せない。
コウの號令代わりの一言が広く普及した形だった。
「深い意味はなかったよ。突撃用と重武裝部隊に別れていたから、咄嗟に命名しただけだ」
コウは苦笑する。深い考えで生まれたカテゴリではない。
「合理的だよ。機力を優先したい部隊と重火力を有する部隊をシルエットという分類に留めるほうがおかしいとじていた」
「その結果が生まれたシルエットがカザークだとしたら、皮なものだ」
カザークは今やアルゴナウタイ全で運用されている裝甲筋採用機。
兵衛が構築したアクシピターから解析され、ラニウスに似た構造に先祖還りしたようなシルエットだ。
「そこは裝甲筋の先駆者たちに敬意を払おう。発案者の思想に似るということは、私が間違っていなかったことの証明だ」
悠然と笑うヴァーシャにコウとクルトも苦笑しか返せない。
あまりに自慢げなヴァーシャであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
酒も話も進み、あっという間に二時間ほどが経過した。
「ヴァーシャ。相談があるんだ。そこのバーン――ヘスティアの企みによるものだけど」
「三人連れだというのにバーテンダーに話を振るとは、ヤボってもんですよ? 粋にいきましょ」
鼻で笑って取り合わないヘスティア。粋を語る超AIとは、と心愕然とするコウ。
「バーンは常に何か企んでいるからな。話を聞かせて貰おう」
「ヘルメスの配下に言われたくはないですー」
ヘスティアの抗議を、先ほどの彼同様に微笑でけ流すヴァーシャ。
「俺たちはバルドとチームを組んでいる。金なら分配できる話なんだが。――副賞にテウタテスが貰えるらしい」
「なるほど。私を呼ぶわけだ。買い取りを希したいのか?」
ヴァーシャは冷ややかな目でヘスティアを見據えた。明らかに政治案件をぶちこんできたのだ。
これはヴァーシャでなければすぐに判斷できない容であろう。
ヘスティアはにっこりと笑うだけだ。
「勝てれば、の話だ。決勝戦の相手さえ不明だしな。買い取りなどはそちらが飲めないだろう。ヘルメスが星エウロパから呼び寄せた兵だからな。本來ならストーンズのものだろ」
「ふむ」
迂闊な返事はできない。コウの探りと判斷したヴァーシャは冷水を浴びせかけられたような気になる。
なかなかどうしてしたたかな切り出しだ。
「そこでだ。バルドに報酬に相応しい金額を支払うと同時に俺がテウタテスを解析した容はヴァーシャ。あなたに送付するという條件を付けたいと思う」
「なんだと?」
予想外な提案にヴァーシャは息を飲む。まさかコウからそのような提案が為されるとは夢にも思わなかった。
クルトも心驚愕したが、平靜を裝う。弟子ともいえる青年がどのような考えか見極める必要があった。
「そう驚くこともないだろ。もともとはヘルメスが星エウロパから呼び寄せたんだ。テウタテスの部構造ぐらい把握していたっておかしくない。知識としてすでにそちらにあるものを、解析が正解かどうかさえ不明なレポートを送るだけだ。解析レポートは俺の分のみだ。他の構築技士の見解までは渡せない」
ヘルメスが呼び寄せたのだ。超AIである彼ならバルバロイやテウタテスがどのような代か。とっくに把握しているに違いない。
この様子だとヴァーシャが把握していなかったようだ。これもコウの予想通りともいえる。同盟関係とはいえ、兵解析をバルバロイが許すはずもない。
「答え合わせはそっちでやれるだろ? まったく見當違いの分析をしていたら、俺の知らないところで笑ってくれ」
「答え合わせ――ふむ。そのような楽しみ方も確かにある。私はその條件で構わない。だがトライレームとしてはどうだ? クルト」
これは個人案件でもあり、政治案件だ。コウとヴァーシャという構築技士のみで立する渉容であり、トライレームとアルゴフォースという両組織が許すかどうかにかかっている取り引きだ。
テウタテスはアルゴフォースという組織でも未知の兵なのだ。
「君たちが同意するなら私も異論はないですよ。コウ君の解析レポートは楽しみです」
「ふむ。あえてもう一つ注文を付けたい」
「聞こうか」
あまりにもコウにとって都合の良すぎる條件だ。ある程度の渉は覚悟していた。
「クルトの見解も聞きたい。彼もまた剣士であり構築技士。今この場にいる人としては最適だ。二人の分析が同じとも限らないだろう? 二名の構築技士の見解なら許可も得やすい」
クルトに視線をやるヴァーシャ。挑発するかのような視線だが、悪戯を思わせる微笑も浮かべている。
歴戦の構築技士との、軽い駆け引きを楽しんでいるのだ。
「構いませんよ。私のレポートを彼に渡しておきましょう。あとは君がヘルメスの許可をもらえるかどうかでしょうね」
兵の解析という分野ならアストライアがいるコウのほうが長けている。
彼のレポートなどフレーバーにしか過ぎないだろう。きっとヴァーシャもわかっていて提案してきていると踏んだ。裝甲筋を得意とするクルトの見解を純粋に知りたいのだ。
「持ち帰って改めて許可を貰う必要はあるが、前向きに提案を検討するということだけは約束しよう」
テウタテスの所有権爭いはヘルメスとヘスティア間のもの。コウとヴァーシャは第三者に過ぎない。ヘルメスと星エウロパのバルバロイとの同盟関係とは無関係である。
「そうか。ダメだった時はまた相談するさ」
「ほう。うまくいけばまた飲める機會が生まれるということだね?」
「つまり私も目が離せないということになりますね」
あらゆる意味で目が離せない二人。ここまでに嫌味や皮さえ無く、純粋な見解や構築話、格闘技の話に終始していたのだ。トライレームでもコウにこれほどの友人がいるかあやしいとさえ思うクルト。
クルトはアシアの危懼も當然だと判斷していた。々な意味で目が離せない。悪ノリする兵衛やケリーでも難しいだろう。自分が同席不可な場合、ウンランか川を付けたいほどだ。
「裝甲筋の第一人者とまた飲める機會か。それもまた心待ちにしているよクルト」
掛け値なしの本音であろうヴァーシャ。彼は構築しか頭にない。この短い會話のなかで、クルトも痛した想だ。
それは構築技士にとって好ましい心を生んでしまう。
「距離は大切に。二人とも。エキシビションマッチもあるでしょうに」
疲れた聲をだすクルトの聲に思わず笑うコウとヴァーシャだった。
「付き合わせてすまない」
「私としても構築談義はむところです。何より目の前に原因もいますし。――何故そんな副賞をつけたか問いただしたい気分ですが」
クルトが向けた視線の先にいたヘスティアはにっこりと笑い返す。
「ノーコメントですッ! といいたいところですが。――三機のシルエットに敗北するような兵を後生大事に死蔵する趣味はありませんよ。舊傭兵機構のような趣味はね」
痛烈な皮を込めてうそぶくヘスティアに、星アシアの舊制への不満をじる三人だった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
コウとクルトとヴァーシャによる和やかな會食です。再びスーツに著られるコウ! フリーな服裝で、は本當に油斷なりませんよね。日本獨自の文化かな、あれ……
クルトはアシアのエメに二人の雰囲気を事前に聞いていました。そこでざっくり兵衛とケリーではNGだと判斷しています。アベルは論外です。
生真面目さ度みたいなものがパラメータにあるのでしょうか。
文中にでてきた戦闘機は日本も二種導していますね。
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ヴァーシャはヘルメスに振り回されているので、ようやく楽しみを見いだすことができて強気です!
次回はいよいよ兵衛とヘルメスが遭遇します!
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大変勵みになります! 気軽に想等もお待ちしております!
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