《地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇は殺そうとしてきた兄への復讐のため、來訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝國を手にれるべく暗躍する! 〜》第6話 妙な贈り
早朝からグーシュは出立の準備に追われていた。
とはいえあれこれと荷を詰めるような作業をしていたわけではない。そういった作業はたちが黙っていてもやってくれる。
では何をしているかと言えば、皇室の者に付き纏う義務、公式行事用の甲冑を著込む作業である。
軍用の実用を重視したものではない、儀禮用の見た目を重視した鎧のためただ著るだけで途方もなく時間がかかった。
グーシュ自がまず著飾り、その後金屬甲冑をまるでパズルのように決められた順番で著込んでいく。それもただ単純に著るだけでは無く、一つ著込んだら専用の蝋を塗り込み、磨いて艶を出し、また著込んだら磨き。の繰り返しだ。
今回は急ぎの、しかも出立の儀式という言わば帝國々の儀式のため二時間ほどで済んでいるが、子爵領について海向こうの使者に會うために著るとなれば三時間以上はかかるだろう。その拷問じみた作業にグーシュは珍しく文句も言わずに黙っていた。
甲冑係の者たちは訝しんでいたが、なんの事は無い。海向こうからの使者と會うのが楽しみな事と、昨夜寢ずにミルシャと盛り上がったせいで眠かったのだ。
すると、唐突に眠気を覚ますような訪問者がやってきた。帝弟、つまり叔父のガズルだった。
「おう、やっとるな。立派立派、ああ、よいよい作業は続けよ」
「ああ、叔父上」
叔父のガズルは帝室では有名な好家だった。はもちろん付き人や貴族、庶民や街の花売りにまで手を出すと評判で、正妻側室妾人お気にり、ほうぼうに五十人も子供がいた。グーシュに対しては概ねよい叔父を演じてくれてはいたが、グーシュ自やミルシャを見る目があまりにあからさまで、グーシュとしては珍しく苦手な人だった。
それでも姉のシュシュリャリャヨイティが帝都にいた頃はまだマシだったが、最近では骨な態度に出ることが多かった。
これだけなら問題人だが、本人にも多自覚があるのか「俺は無能だから政治に関われば迷がかかる。帝室を絶やさぬ仕事だけする事にする」と宣言、放の限りを盡くしていた。
グーシュ的に何が一番嫌かというと、放皇族という事でこの叔父と同じ括りで扱われることだった。
「そう言えばお久しぶりです。ここニ、三週間顔を見ませんでしたね。わらわの出立の儀式に? 」
グーシュの言う通り、普段なら城の中をうろついて周り、空き部屋にを連れ込む姿が目撃される叔父がここの所おとなしかった。その事を指摘すると、叔父の無駄に整った顔に一瞬喜びと焦りがり混じった様な表が浮かぶ。
「叔父上? 」
「あ、ああ。儀式にはでんよ、私は公的なことにはかかわらんからな。実はとてもいいを見つ……出會ってね。すっかり夢中になっていたのだよ」
「大食いの好家がり浸るとは、よほどの……」
「ああ、あの娘は本當にすごいぞ。それでな、彼なんだがお前の熱狂的な支持者らしくてな」
「わらわの?」
「お前が庶民にも分け隔てなく接する皇族と聞いて、一度會ってみたかったんだと。だがお前を街で見かけてもついつい込みして話しかけられなかったんだそうだ」
グーシュも皇族ということを考えればあまりに當然のことであったが、彼が酒場で食事するような気安い皇族であることを考えると、なるほどその人は隨分と奧手なようだ。
「叔父上、まさかそこに付け込んで……」
「違う違う……そんな恐れ多い、ではなくて、それでな、これを渡してくれるよう頼まれたのだ」
そう言って叔父が差し出してきたのは、親指の爪ほどの青い寶石をあしらった首飾りだった。
見たことが無いほど繊細でな細工が施されており、寶石に興味が無いグーシュをして唸らせるほどだった。
(この細工……帝都のではないな、南方式とも北方工業都市とも違う……)
「き、気にったか? ぜひお前にに著けて貰いたいとのことなんだが、ああ、それが嫌ならせめて持っていてほしい。あれだ、を守る祈りが込められて……」
「叔父上!」
「う、うん? 」
「ありがたく頂戴しましょう。ありがとうございました」
「おお! そうかそうか。彼も喜ぶ。ではな、大切にしろよ」
一息にそう言うと、叔父はそそくさと退室していった。
「殿下、何か妙でしたよ? あの方の贈りなど貰わない方がよろしいかと」
不自然な帝弟のきに部屋に居た馴染みのが心配げに言った。
「確かにわらわのもでないで行ってしまうのは妙だが、これを見ろ! 見たことの無い細工の首飾りだ。これは珍しいものだ。後で細かく調べてみよう。おい、首に下げてくれ、鎧の下なら目立つまい」
しかし珍しいものに目がくらんだグーシュには無駄だったようだ。
諦めたようにが首飾りをグーシュの首に下げた。青くき通った石が靜かに揺れる。
グーシュが居た部屋からし離れた空き部屋。そこに帝弟は慌てたようにった。る際は周囲を確認するほど気を使って、だ。
部屋には先客がいた。目立たない格好をした一人のだ。
「帝弟様、首尾は? 」
が冷たく問うと、帝弟はすがりつくようにしながら応えた。
「うまく行ったぞ、當たり前だ。私はグーシュには好かれているからな。しっかりけ取った。あいつは、ああいうに目がない、大丈夫だ。しばらくは近くにおいて離さないはずだ」
「ありがとうございます。では、いつものようにお屋敷で……」
がそう言うと、帝弟は表をけさせた。口からよだれを垂らし、恍惚とする。
「おう、おう。ああ、お前の紹介してくれた達は本當に素晴らしい……今までの漁りが無為に思えるほどだ、今日も頼んだぞ、本當に頼んだぞ! 」
興しながら、帝弟は部屋を出ていった。興したその目は走るほどだ。
部屋に殘されたは、”キツイ目つき"でその様子を眺めていた。
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