《地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇は殺そうとしてきた兄への復讐のため、來訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝國を手にれるべく暗躍する! 〜》第9話 皇様が出來るまで
なぜなのか。
なぜ、わからないのかが、わからない。
小さい頃のグーシュはその考えに常に囚われていた。
やりたいことを真っ直ぐにやる。自分が得をするように迷いなく立ち回る。しいものは全力で勝ち取る。そういった事をする度に、周囲はグーシュの事を恐れ、蔑んだ。
姉だけは何も言わなかった。ただ、「あなたも私と同じ」と言って笑っていたが、なぜ大人の男や同年代の男子にびるだけの姉と自が同じなのか、理解が出來なかった。
父と兄はグーシュと向き合ってくれていたように思うが、彼らの言ううまい立ち回りということが分からなかった。グーシュは孤立していた。
それでも自分より劣る周りにあれこれ配慮する事の意味が分からず、ただただ自分の考えを押し通し続けた。
「グーシュ様のご気はボスロ帝に似ております。先祖の書いた日記とそっくりですじゃ」
そう言ってグーシュを最後まで見捨てなかったのは、こう言ってくれた教育係の老教授と、
「いいですかグーシュ。利を得たいのならまっすぐ進むだけでは結局損をします。しいがあればその周りと自分の周りをじっくり見回しなさい。そして次にしいの事まで考えて、先々まで障害が殘らないように、殘っても障害を飛び越える手段を殘すようにしいを手にれなさい。あなたが今やっている方法では、目先のを一つ手にれてもそこで終わり。先を見た大きな視點で利を得ること。これが父上や兄上の言う『うまい立ち回り』です」
グーシュの行に助言を與えてくれる母だけだった。
二人はグーシュに周囲との接し方を教えてくれた。
「ボスロ帝は豪放磊落なお方でした。細かいことを気にせず、心が大きかった。グーシュ様も同じようにすれば、かのお方と同様に人を得られましょう。他者をよく見なさい、殿下。そしてその者がしい”利”を與えなさい。その”利”を持っていなければ、その者が言ってほしい『言葉』と『態度』を與えなさい。相手が平伏したなら、こちらも目線を下げてやりなさい。上の者が同じ目線になると、人は自然と親しみを覚えます。それは先々を見ればあなたの”利”となり”武”となるのです」
「父上と兄上だけは、あなたの見ているものよりはるか大きいものを見ています。もしあなたがあの二人の事が分からなくなっても、大丈夫。あの二人はあなたを裏切らない。ですからあなたは父を助け、兄と切磋琢磨し、帝國の”利”を考えなさい」
「殿下が”未知”を好んでいることは知っております。でしたら帝國の”利”と殿下の目的を一致させればいい。さすればなんの問題もありません」
グーシュは二人の言うことを聞いて立ち回るようにした。
食べたことの無い街の食べがしければ、城を抜け出さず、たちを手伝い、見張りの兵士に差しれをれ、優しい聲を掛けた。
読んだことの無い本が読みたければ、司を手伝い、書院の擔當の悩みを聞き、便宜を図った。
そうしたら、周りの人間はらかくなり、しいものは時間がかかっても手にった。
人間は”利”でくのだ。母と老教授の言うことは正しかった。
だから兄に対してもそうした。グーシュは己の知識の全てを持って兄と対峙した。
それが兄と自分を切磋琢磨し、しいては兄を長させて帝國の”利”になる。
帝國が”利”を得て大きくなり、周囲が自分に良い印象を持ち続ければやがてグーシュの願いも葉う。
そう、未知の探求。古文書にしかない海向こうへ大船団を率いて旅立つのだ。
だが、そんなグーシュの考えは失敗してしまった。
兄妹で初めて家臣をえた朝禮に出席を許された時。父から今季の稅収の予測を聞かれた兄を、グーシュはいつものようにやり込めた。兄はツテを使って大陸全土の作柄や流通の事を調べて朝禮にんでいたようだが、街で行商人や出稼ぎの農民から生の話を聞いた上で、兄と同じ文書を擔當司から読ませてもらっていたグーシュはより詳細な予測を述べた。
結果があの事件だった。グーシュはただ単に、兄に教えたかっただけなのに。生きた言葉と報を比較する事を……しかしその気持ちは伝わっていなかった。
このやり方ではミルシャを失ってしまう。
だがグーシュはそれでも兄の事を信じていた。兄はそれでも優秀な男で、今回の事はグーシュと兄の”利”が一致しなかったのだと考えた。だからを引いてもう抵抗しない姿勢を見せれば、もうこの事は終わり、兄が帝國に”利”をもたらせば、自分の目的も葉う目があり、ミルシャは傷つかない。
”利”だ。”益”だ。”得”だ。人間はこれを求めるはずだ。
”害”だ。”不益”だ。”損”だ。人間はこれを嫌うはずだ。
だから兄は自分の考えたとおりにくはずだ。自分を救ってくれた老教授と母の言ったことはただしかったではないか。
けれども……ミルシャは何なのだろう?
グーシュは不意に今までと違う観點でミルシャを考えた。
ミルシャは自分にとって一番大切な存在だが……ミルシャは”利””得””益””なのだろうか?
しばしば現れる、自分にとってわからない行をする者たち……損得でかず、理解できない奴ら。
彼らがもし……彼らにとってのミルシャのためにいていたとしたら……
そこまで考えが及んだ所で、目が冷めた。
グーシュリャリャポスティは覚醒した。そこは先程と変わらない白い部屋で、醫者のが足を組んですぐ橫で椅子に腰掛けていた。見ていた夢の事は、すっかり霧散していた。
「お目覚めですか? 」
目覚める前と同様の、冷たい印象の聲。しかしが溫まった今聞くと、不思議とこちらを心配する気持ちがじられた。ちらりと足の間に目をやってからを起こすと、意外なほどは回復していた。
「ああ、済まなかったな。しかし、その筒の下にも履をしているのか……北方のは筒の下には何も著ていなかったがな」
そう言うと、はサッと組んだ足を崩し、両手で膝下を隠した。海向こうのでもを見ると照れるようだ。つまりは恥じらう、同じがある。渉できるのだ。
「話に聞いた通りのお方のようですね。さて、眠られる前に申し上げた事、覚えておられますか? 」
無論、グーシュは覚えていた。だが、熱を取り戻したと頭は、グーシュにいつもの態度と思考を取り戻していた。
「ミルシャが保たん、だったな。覚えている。さあ、ミルシャの所に案せよ」
力強く命ずると、はし驚いた表を浮かべた。
「もっと、取りすのかと思っていましたが……同じ様な狀況になられた方は普通もっと慌てますよ。ここはどこかとか、部屋の中なのに明るい、とか……」
「わからんことはわからん! ならばまずはミルシャだ。それに『保たん』ということは言い換えれば今はまだ『保っておる』ということだ。それにそなたも急かさんようだし、十分余裕があるんだろう」
そう言うとは立ち上がり、薄い履を足元に用意してくれた。
「スリッパ……この履を使ってください。ご案しましょう。しかし……子爵様のお話や調べた限りでは、あなたはもっとミルシャ様の事となると取りすのかと思っていました」
調べる……やはり海向こうの者たちは予想以上にこちらの事をしらべているようだ。
不用心なのか次々と報が得られる。その事に気を良くしつつ、グーシュは立ち上がりながら笑顔で告げた。
「無論ミルシャは大事だ。だから、もしミルシャに何かあったらわらわも自害するつもりであった。だからミルシャに會えるならば良し、だめならば死ぬ。それだけだからな、いちいち慌てる必要など無い」
「………………異世界人……怖(こわっ)……」
が何か呟いたが、グーシュには聞こえなかった。まあ、どうせ自分のおおらかさに心しているのだろう。グーシュは自分を肯定すると、に促され歩きだした。
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