《地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇は殺そうとしてきた兄への復讐のため、來訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝國を手にれるべく暗躍する! 〜》第10話 司令訪問
自的に橫りして開く扉に驚きつつ部屋を出て、廊下にでる。そこは継ぎ目の無い、金屬とも陶とも違う質で出來た建だった。隨分と大きい建のようで、左右に部屋がいくつもあり、どこまで言っても天井にある白い源により明るかった。
「そう言えばおぬし、名前は? 」
「務參謀部衛生課課長のニャル中佐です。ニャルより前の部分は所屬する部署と役職を。『チューサ』は階級を表します。ああ、細かい言葉の意味は後ほど。ニャル、で構いません」
先を歩くに聞くと、やはり無に答えた。
「ニャル……か。素敵な響きだ……海向こうの言葉でも、の名はしい意味を持つな」
「製造順に適當につけた名前にそんな事を言ってくれたのは殿下が初めてです……私の前後のSSなんて、ニャリとニャレでしたからね。まあ、栄に思っておきましょう」
海向こうでも褒める、という事の有用は変わらないようだ。しかし製造順……えすえすとは何か?
「のう、ニャ……」
「さあ、ここです」
疑問を呈する前にミルシャがいるという部屋についた。
グーシュが反応するより早く、ニャルが部屋の扉を開けた。
その部屋は先程の半分程の大きさの部屋だった。、寢臺が一つと機が一つ。何やら収納する空間が設けられているだけの部屋で、こじんまりとしているが客間のようだった。
その寢臺に、先程のと同じ格好の二人組に押さえつけられているミルシャがいた。
両手両足を布で縛り付けられ、猿ぐつわをした狀態で泣きはらした顔で眠っている。
「ミルシャ! 」
グーシュはびながら駆け寄った。
寢臺の隣に立っていた二人のは、疲れ切った顔とグシャグシャにれた服裝でニャルに向かって手のひらを額につける仕草をした。グーシュはそれを無視してミルシャに駆け寄る。
「課長……さきほど鎮靜剤が効いてきて眠った所でした……あと二時間は……」
「えんかー(殿下ー)!」
「えぇ……目覚めた……」
「ここの人間って一……」
呆然とする二人には構わず、グーシュはミルシャに駆け寄ると、手足の拘束と猿ぐつわを外した。
子のように抱きついてくるミルシャを抱きしめてやると、ミルシャは泣きながらグーシュを抱きしめ返した。
「橋が……落ちた……あとょ……隊長や兵士達……が私達を抱きしめて……川の尖った巖から……」
「そうか……あの者たちが……」
「そ、そうしていたら……この者たちが見たことも無い空飛ぶ乗りで……助けてくれたのです。ですがその後殿下をどこかに連れて行ってしまって……」
ミルシャがそういって恨めしげに背後にいるニャルを睨むと、ニャルは両手を上げて弁解した。
「グーシュ殿下を治療するためには仕方なかったのです。頭を強く打っている可能もあったので、早急に検査する必要もありました。ところがその方が暴れたり、殿下を連れて行くなと騒ぐもので……ここに拘束したのは確かに暴でしたが、ご了承ください」
「で、ですが……でんかぁ……この様な得の知れない相手に殿下を委ねるなど……殿下が死んでしまわれたら……」
グーシュはよしよしとミルシャをあやしてやる。しかしこうなると疑問が次々と湧いてくる。
一緒に落ちた兵士たちの事……一何が起きたのか……空飛ぶ乗りとは……なぜあの狀況で自分たちを助けることが出來たのか……ここはどこなのか……
「助けて貰ったのだ、許すも何もこちらとしては謝しかないが、聞きたいことが多すぎてな。そろそろそういったことの話を聞かせてもらえるのだろうな? 」
「勿論です。ですが、私にはお話する権限がありません。司令の所にご案しますので、こちらにいらしてください」
「司令というのは、子爵から連絡があった甲冑をきた貴人のことか? 」
「甲冑……まあこの世界で言えばそうなりますか。それに渉を行う責任者という點では間違いではありません」
そう言って部屋の外を促すニャルについていこうとすると、ミルシャがクイッとグーシュの服を引っ張った。
「殿下、代表の方と會うにはこの服裝ではまずいのでは? 」
ミルシャに言われて見ると、たしかに。素の上にひらひらとした薄い服を著ただけの格好では、流石にはしたない。
「ニャル、服を持ってまいれ」
「……仰せのままに……」
しばらくしてニャルが持ってきたのはびみする不思議な布でできた服だった。下著も隨分と機能的で、著心地がいい。寢といい、海向こうは繊維関係が進んでいるのかもしれない。
ミルシャも想は同じようで、しきりに心していた。しかしよくあのがる下著があったものだ。
「ではご案します」
促されニャルについていく。後ろからは二人のがピッタリとついてくる。
「お主ら、名前は? 」
後ろの二人に聲をかけると、し戸ったようにニャルの方を見た。ニャルは小さく頷いた。
「第四四歩兵師団第三工兵大隊ルニ宿営地造隊所屬、ミラ一等兵であります」
「同じく、ルニ宿営地造隊所屬、クシー一等兵であります」
張した様子で名乗る二人。橫目で観察しながら言葉をかけようとするが、ふと気になる単語に気がついた。
「ルニ……宿営地? ではここはルニ子爵領なのか? 」
前を向いてニャルに問うと、彼はこちらを見ずに答えた。
「そうです。ルニ子爵に許可を得て、街より三キロ……こちらの言うところの二ミロー離れた丘に宿営地を造中です。ここは丘の中心部にある本部施設になります」
その言葉に思わずミルシャと共にグーシュは周りを見回した。
「すごいのう……そなたらが來てからまだ十日と経っておらんのに、こんな大きな建を……」
「そんな馬鹿な……この石材はどこから? 子爵領に石切場があるなど聞いたことがありません」
「それは、司令にお聞きになってください」
ピタリと足を止めて、ニャルは目の前にある扉を示した。この大きな建の代表の部屋にしては隨分と質素な扉だ。というか他の部屋の扉と変わりない。白くのっぺりとした橫開きの扉があるだけだ。いや、しばかり縦も橫も大きく、扉の端に四角くて黒い硝子が取り付けられているところが他とは違う。
グーシュが観察していると、ニャルがその扉の橫にある硝子に手をかざした。するとピッという音が鳴り、その硝子からの聲が聞こえてきた。
「衛生課長。お連れしたのか? 」
ミルシャが驚いて悲鳴を上げる。「扉が喋った」と小聲で呟いていた。
ニャルはそれには反応せずに、硝子に向かって言葉を返す。
「はい。後はお願いしますね。それでは殿下、どうぞ」
「……なるほど。部屋の中にいる人間に來訪を伝え、會話できる裝置か。上役の部屋にあれば便利かもしれんな」
「か、壁が喋ったのではないのですか? 」
「ここは不思議なが多いからな。もしかしたら喋る壁かもしれんな」
怯えるミルシャを勵ますように手を繋いでやると、慌てたように「大丈夫です」と背筋をばし、後ろに控えた。その様子を見て、すっかり安心したグーシュは扉の前に進んだ。そして扉が軽く音を立てて開いた。
部屋は先程の客室の倍ほどの大きさがあり、り口近くには応接用と思しき、グーシュから見ても豪勢で、らかな革張りの長椅子と硝子で出來た機が置かれている。
り口の脇にはニャルと同じくらいの長のが立っていた。相変わらず人なのは変わらないが、髪が短めの銀で、他のたちより豪華な黒い服を來ていた。
折り目のついたきれいな引(ズボン)に、元が開いた上著。そして上著の下には白い服を著込み、首から帯狀の緑の紐の様なを吊り下げていた。妙な服裝だった。
しかし、豪華な長椅子よりも、豪華な室よりも、豪華な服裝のよりも目を引く存在が部屋の奧にある執務機の前に立っていた。
それは確かに甲冑を著込んだ人間に見えたが、明らかに人間では無かった。全が黃掛かった白く艶の無い金屬で構されてはいるが、両足の付けは明らかに人が中にる様な構造をしていない。まるで鎧と鎧を細い金屬の棒で接合したような形になっている。
腰の部分もやたらと細く、人間がにつける様な形狀には見えない。それでいて肩はやたらと大きくせり出していて、ゴテゴテと何かの部品が取り付けらている。
一番甲冑らしからぬのが顔だ。通常視界を確保するスリットがある場所には、薄く曇った硝子がはめ込まれていて、その硝子の奧には何やら丸い部品が據え付けられていた。しかもその丸い部品は、キュイキュイという妙な音を立てて部屋にったグーシュとミルシャを目のように追っていた。
するとその甲冑らしきは、手のひらを額に充てる仕草をした。先程のニャルとたちのやり取りを見ていたグーシュは『敬禮』だととっさに悟り、拳をみぞおちにあてる騎士団式の答禮をした。それを見てミルシャも慌てて拳をみぞおちにあてた。
「ようこそいらっしゃいました、グーシュリャリャポスティ皇殿下」
手を下げると、流暢なラト語で甲冑もどきは喋った。聲は男ので、年は二十から三十くらいの若い聲……意外なことに見た目に反して、ニャル達とは違う隨分と人間味のある聲だった。
「いや、助けていただいた上にこの様なもてなし……謝しかない。帝國皇として、この事は正式にお禮申し上げます」
「いやあ、皇殿下にジャージなど著せて申し訳ない……サイズが合う服がそれしかなかったのです」
耳慣れない言葉だ……流れからすると、どうもこの著心地のいい服はあまり公的な場にはふさわしくないのようだ。
「大変よい著心地に、付き人のミルシャ共々喜んでおりました。お気になさらずに」
グーシュの言葉を聞くと、甲冑もどきはどこかホッとした様なきをする。そしてこちらに向かって近づいてくると、長椅子に座るように促した。
きはらかで、それが甲冑を著慣れたグーシュには逆に不自然だった。あのサイズの甲冑を著込んでいれば、どんな大男でもあんな歩き方は出來ないだろう。
「ああ、申し遅れました。私はあなた達の認識で言うところの、海向こうから來た使節の現地指揮をしている者です。地球連邦軍異世界派遣軍第049機艦隊所屬、第四四歩兵師団師団長、一木弘和(いちぎ ひろかず)代將と申します。グーシュリャリャポスティ皇殿下、こちらにいらっしゃった経緯はあまり良いものではありませんが、それでも我々はあなた達を歓迎いたします」
そう言って一木という甲冑もどきは手を差し出してきた。とてつもなく大きい手だが……なんのつもりだかグーシュには分からない。
「司令、この國に握手の習慣はありません……」
一木の隣に移していたが小さく呟くと、うろたえた様な仕草を見せる一木。グーシュは困する。全権大使相手に隨分と間の抜けた男……でいいのだろうか? のようだ。海向こうの意図が読めず、迷いが生じる。どうするべきか……。海向こうはなんの”利”がほしいのだろうか。
「い、いやー、申し訳ない。これは握手という故郷の習慣で、お互いに手を握り合うという信頼の挨拶でして……」
しどろもどろになって弁解するこの甲冑もどきを見て、グーシュは元気が湧いてきた。
海向こうの者たちは恥らい、褒めると喜び、失敗すれば慌てるこちらと同じ存在のようだ。
たとえ空を飛ぼうが気味悪いほど人揃いだろうが、指揮が甲冑もどきのお化けだろうが、心のが同じなら何とかなる。
グーシュはしどろもどろになる一木の大きな右手を、しっかりと摑んだ。
「イチギ代表、ルーリアト帝國第三皇、グーシュリャリャポスティである。以後よろしく頼むぞ」
そう言って顔にある硝子の向こうにある丸い部品をハッキリと見據え、笑顔を向ける。
この笑顔は數多の司や兵士を骨抜きにしたのだ。どうだ?
「こちらこそよろしくお願いします」
そういってグーシュの手を握り返す力は、まるで小鳥をる時のように優しく、弱かった。そして目元の部品はキュイキュイと揺れた。
照れているのか? 隨分と純な男? のようだ。
アクシュという挨拶を終えると、グーシュ達と一木は長椅子に座った。やはり座り心地はよかった。
「それでイチギ代表、私は詳しい報を求めている。聞きたいことが山ほどあるのだ」
「ああ、ご安心ください。きちんと説明しますよ。とりあえず急を要することと致しましては、あなた達二人以外の兵士の方々ですね。それに関してはご安心、と言っていいかはわかりませんが、十二名の生存者を含む百五十名の方全員を収容しています。生存者の十二名はきちんと治療中ですのでご安心を」
「そうか……あなた達に謝を。あの狀況でと生存者を救ってくださるとは……」
「気になさらずに。それでですね、詳しい説明の前に、ひとまず見ていただきたいがあります。シキ、例のものを」
「司令、私はマナです」
部屋に冷たい沈黙が訪れた。一木の後ろにいる。マナというは、気にした様子もなく何やら二つ折りになった、まな板程の大きさの黒い板を持ってきて、機の上においた。板を開くと、白くる硝子がはめ込まれていた。
「いや、本當にごめん……マナ? 」
「司令、お気になさらずに。殿下、こちらを」
「これは? 」
「今からここに、音とく絵が映し出されます。私達の事を口頭で説明するのは難しいので、一旦こちらを見ていただきたいのです」
一木の言葉とともに、硝子にラト語で文字が映し出される。それとほぼ同時に、の聲で文字が読み上げられる。
『これを聞いている方へ。これは映し出されているの中に人間がいるわけでもありません。これはずっと前に喋った聲を機械で記録して、再び聞かせているだけです。同じように、いている私の姿もずっと前に記録されたものをに映し出しているだけです』
話しているのは若いだった。あまり極端な背格好では無い、マナに似た服裝の中中背のだった。
隣ではミルシャが呆然としていた。グーシュの手をしっかりと握り、理解の範疇を超えたを見ていた。もっともそれはグーシュも一緒だった。ただ、グーシュの場合驚きよりも歓喜が勝っていた。
今、自分はとてつもない未知に接している。そういうだ。
「では、地球連邦という國のり立ちからご説明しましょう」
聞いたことのない楽による、聞いたことの無い音楽が流れ始める。
右下に曲名、『しく青いドナウという川』とラト語で記載されていた。
楽団も無しに曲が流れることにグーシュとミルシャはさらに驚いた。
だが、そんな驚きは怒濤のように訪れる報に、すぐに消し飛んでしまうのだった。
意見・想・誤字・字等ありましたら、よろしくお願い致します。
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