《地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇は殺そうとしてきた兄への復讐のため、來訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝國を手にれるべく暗躍する! 〜》第5話 未來の軍隊
參謀たちの詳しい紹介は後ほど。
月基地はクレーターの中に作られたで、地下深くに作られていた。
直徑百キロ近いクレーター全域に、異世界派遣軍最大規模の艦隊整備、建艦のための施設が広がる。
しかもその設備は無數のSSとSAによって行われるため、常駐人員はたったの五十人ほどだという。
地上の宇宙港に著くと、そこでは第049艦隊の出迎えが待っていた。
ストレートの金髪に驚くほど白い。SSおなじみの整った顔立ちに、大きなサングラスを掛けたと、筋質で長の高い(それでもマナよりは小さかった)青い目の白人男だ。
一瞬人間かと思ったが、制服元の”SS”のロゴを見るに、異世界派遣軍では珍しい男型アンドロイドのようだ。
一木とマナが近づくと、二人は無帽のため頭を下げる敬禮で出迎えた。
それを見て一木とマナも答禮する。
「お待ちしてました。第049機艦隊旗艦SAのシャフリヤールです」
白人の男が答えた。笑顔の眩しい、ハリウッド俳優の様な三十代半ばくらいの男だ。
「同じく、機艦隊首席參謀のダグラス大佐だ、よろしくー。ダグでいいよ」
やたらと砕けた口調でサングラスのが答えた。上に向かって隨分と馴れ馴れしい。舐められているのかと疑念に囚われるが、ここは張している新人に気を遣ってくれていると前向きに考えることにした。
「本日付で第049機艦隊所屬、第四四師団師団長に著任しました、一木弘和代將です。こっちは副のマナ大尉、よろしく頼む」
「良かったー、もっと落ち込んでるかと思ったら意外と大丈夫そうだ」
「こらっ、ダグ……君はもうし……申し訳ありません代將。失禮をお許しください」
シャフリヤールは隨分と常識的なようだ。
いや、わざわざ階級の存在しないSAがSSであるダグラス首席參謀を叱った……つまりはこちらの張をほぐそうとしているのか? 一木がそう思っていると、ダグラス首席參謀がサングラスの隙間からちらりと一木を窺い、ニヤリと笑みを浮かべた。
「シャフリヤール、小芝居は必要無いみたいだ。一木代將は出來た人だよ」
なるほど、と一木は心した。派遣軍の中樞を擔う參謀職を擔うSSともなれば、ここまで気を遣った対応が出來るのだ。
「今のが君の言っていた代將閣下の張をほぐそうという小芝居だったのかい? 私は常々君の口調を苦々しく思っていたんだが、小芝居が終わりだというのなら直してくれるのかな? 」
「これは私の個さ。直せないよ。さて、代將」
両手を開いて、いささか格好つけたポーズを決めてダグラス首席參謀は通路の先を示した。
「お車を用意しています、どうぞこちらへ」
訂正。一癖も二癖もある參謀のようだ。
そして、個という言葉を聞いて一木は思い出した。艦隊參謀の特徴を。
參謀職のSSは、勿論通常の意味合いでの、所屬部隊の司令部の実務や、指揮への助言や各種報を調べ、伝える役割を擔っている。
だが、この異世界派遣軍に置いてはもう一つ重要な使命を帯びている。
それが量子通信を用いたリアルタイムネットワークを艦隊と各師団に構築することだ。
この量子通信は、異世界派遣軍を組織する際にナンバーズからもたらされた解析困難なブラックテクノロジーの一つで、量子ゆらぎを用いて、距離による制限と時間による遅延をまったくけずに通信可能な超技だ。
地球でも研究、一部で実用化されていた技ではあるが、ナンバーズからもたらされたはその次元が違っていた。
空間歪曲ゲートをいくつもくぐり、通常空間を何週間も移した先の異世界にいる參謀が、地球やエデンの本部にいる參謀と瞬時に通信や報共有可能な圧倒的通信力がその強みだ。
この強力な通信能力を用いて、異世界派遣軍はネットワークを築いている。
分隊長が分隊メンバーと無線通信でリンクし、分隊長と小隊長も無線通信でリンク。
そして小隊長達と無線通信でリンクした中隊長と大隊參謀がリンクし、その大隊參謀はより上位の連隊參謀、師団參謀、艦隊參謀と量子通信によってリンクするのだ。
さらにこの陸上戦力の構築したネットワークに、軌道コントロール艦によって制される無數の偵察衛星や、軌道空母から発艦した各航空機、航宙艦のもたらす衛星軌道や宇宙空間の報までが、場所を選ばずにネットワークで繋がれる。
処理に多のラグを許容すれば、前線にいる參謀のすら共有可能なこの強力な通信能力により、異世界派遣軍は従來の軍隊とは比較にならない高度な連攜能力を持つに至った。
ほとんど遅延なく末端の分隊所屬SSのリアルタイムの狀況を知ることが出來る高度報ネットワークの力だ。
しかも、この強力かつ解析困難で貴重な設備をもった參謀型SSを守るため、參謀型SSには歩兵型SSとは比較にならない戦闘能力が付與されていた。
組織の幹にして、最強のSS。それが參謀型SSだった。
だが、一方でそれが思わぬ欠點も生むことになった。
艦隊參謀ともなるとその量子通信裝置は最高レベルのが搭載されており、彼らはほぼ常時報をリンクしている。
そのせいで、彼らは集まって會話していると、不意に誰が誰だかわからなくなり、その狀態を放置すれば自我が融解して同じ存在になってしまうという。
ナンバーズ提供のアンドロイドにとって、自我とこそが要となる。
彼らはロボット三原則の様なある種絶対的な規則を持たず、人間並みのとそれを厳しく律するための、地球人類への、親、親しみといった、強い好意を用いて制されている。
ロボット三原則の無いアンドロイドを何十億も運用している事に一木は當初驚いたものだが、実用化以來、日常で”狀酌量の余地の無い”傷害、殺害行為に及んだアンドロイドは存在しないという。
もとより、ナンバーズに導を半強制された上、ソフト面でほぼブラックボックスのアンドロイド達を気にしても仕方ないということでもあるようだが……。
つまりは、ダグラス首席參謀のこの口調やサングラスもそういった自我融解防止のためのものだと言うことだ。もし先程、気を悪くして、その上したり顔で注意などしようものなら赤っ恥だ。
一木はしかっりと心の中で反省すると、車から見える景を見渡した。
通路の幅はサッカーのスタジアム程もあるだろうか。天井に至っては高層ビルもかくやと言うほどだ。
そしてその通路の両脇には、びっしりと航宙艦が並んでいた。
全長百メートル程の護衛艦や駆逐艦、全長二キロほどもある戦列艦や旗艦がひしめく景に、一木は心が踴った。まさにSFの景。宇宙戦爭や機戦士顔負けの景に、張はどこへやら、すっかり心が踴っていた。
「研修で來たときはもっと空いていたから、正直驚いた。艦隊がこれほどのものとは」
「今はちょうど、戦略軍のローテの時期ですからね。前線にいた艦隊が帰って來てます」
運転しながらシャフリヤールが答えた。
異世界派遣軍の艦隊は、降下部隊の輸送と支援を擔當する機艦隊と、空間戦闘に特化した打撃艦隊のペアである航宙団を異世界派遣の基本単位としている。
さらにこの航宙団を三つ合わせて編されるのが戦略軍と言われる編単位で、常設の部隊としては最大のものとなる。三つの航宙団は前線→整備→訓練、休養のローテーションを組み、その戦力と練度を維持する。訓練、休養は派遣先や駐屯場所で行うから、ここにいる艦はシャフリヤールも含めて現在整備中ということだ。
見渡せば、周囲の艦の周りでは作業用のSLが所狹しとき回っている。戦略軍が現在二十あるので、単純に考えて四千隻近い艦がひしめいているのだ。
規模の大きさに一木はめまいがした。
「ああ、著きましたよ一木代將。このイケメンの、旗艦シャフリヤールです」
ダグラス首席參謀が示した先には、細長く分厚い二等辺三角形の形狀をした艦が見えた。
旗艦、シャフリヤールだ。
停車した車からダグラス首席參謀とシャフリヤールにエスコートされて降りると、不意にダグラス首席參謀が耳元で囁いた。
「代將、あの新妻を取られないようにね」
「新妻……って、どういうことだ?」
驚いて問い直すと、ダグラス首席參謀はいたずらっ子のように笑った。
「シャフリヤール……名前の元ネタは千一夜語の王様だ。毎夜処を招いては、殺してしまう……代將も早くマナ大尉に手を付けないと、あのイケメンSAに……ってイッター! 」
瞬間、ダグラス首席參謀の頭にシャフリヤールの拳が降りそそいだ。
どう見ても人間なら死んでいるレベルの威力だった。
「代將、こいつの言うことはお気になさらずに。代將の事は存じております。心の傷はゆっくりと治してください。こいつもこんな事してますが、代將の事を案じております。艦隊一同、代將の事をしっかりサポートします、いつでも気軽になんでもご相談ください」
シャフリヤールの優しい言葉が一木の心にしみた。
背後でがっかりした表のマナ大尉に気が付かないふりをしつつ、一木は「ありがとう」と極まって呟いた。
「あ、一木代將」
と、する一木に真剣な表でシャフリヤールが続けた。
「どうしたシャフリヤール? 」
「私はダグラスが言ったような事はしませんから……そこだけは覚えていてください」
隨分と必死の剣幕に、一木は苦笑した。そこまで気にしなくても……。
「亡くなったパートナーに申し訳が立ちませんので……」
「どういうことだ?」
一木が聞くと、黙ってしまったシャフリヤールに変わってダグラス首席參謀が答えた。
「こいつは本當はジョージって言うんです。サウスダコダ州ののパートナーだったんですよ」
パートナーアンドロイドがなぜ……一木は驚いた。
「今地球では、亡くなった人間のパートナーアンドロイドが余って問題になってるんです。再利用を嫌がる人も多いらしいですし。それで、異世界派遣軍に余ったパートナーアンドロイドを送り込んで、艦船用SAや參謀、指揮SSにしてるんですよ」
一木は現代地球の闇を見た気がして、げんなりとした。
労働することもなく、理想の人間関係を築いて安定した生活を贈る理想郷……だが、結局はこういった暗部が存在してしまうのだ。
いつか、異世界派遣軍の仕事を通してこういった問題の解決に助力できれば……一木は心の中で願った。
「さあ、っぽい話はここまでです。代將、私はここで旗艦として働くことに不満なんてありません。昔は彼のために働くことで人類に貢獻する喜びをじていましたが、今はこうしてこの艦を制して、軍務に盡くすことで人類に貢獻しています。満足していますよ」
シャフリヤールの言葉を聞きながら、一木とマナは艦に続くエスカレーター式のタラップを登った。
登った先は、格納庫だった。通常は艦隊運営スタッフであるSSやSLの格納スペースになっているとダグラス首席參謀が教えてくれたが、今目の前にいるのは一木の部下である第四四師団の幹部と兵員の一部、そして艦隊參謀たちだった。
一木とマナが敬禮しながら格納庫にると、居並ぶSS達が銃を構えて、指揮と思われるが大聲でんだ。
「捧げー銃(つつ)! 」
掛け聲とともに、一斉に銃の中央部を持ちながら上に引き上げ、右手で銃の下部を向けるたち。
一木は自分の部下となる歩兵型SSを眺めた。
長は異世界派遣軍の基準である160センチほど。どの個ものや顔立ちこそ様々だが(人種的特徴は設立時のゴタゴタの関連で、設けないことになっていた。)整った顔をしていた。
頭には非戦闘時や式典で被る黒いベレー帽を被り、防弾ベストは著ずに、戦闘服のみを著ている。
上著には袖がなく、肩から二の腕の上部までだけが人間の様な見た目の人工皮で覆われ、それより下は黒い、ゴムとも金屬ともつかない質で出來ている。
下半には短い膝上のスカートを履き、腕同様足の付から太ももの上部までが人間の様な皮で覆われ、それより下は腕と同じ黒い質で出來ていた。靴は軍用の合繊維で出來たガッシリとした靴を履いている。
ちなみに仕掛けやらでこんな服裝をしているわけではない。
戦闘時、最も破損しやすい手足を迅速に換するため、こういった構造になっている。
下半に履くは師団レベルで異なり、袴、ロングスカート、何も無し、破りやすいスパッツや短パン、腰布など様々らしい。
どうにも素行の悪い子校に來た様な気分だった一木だが、そう考えるとこの師団はまだマシなのかもしれない。
余談だが、服の下も手足と同じ黒い質で出來ている。防弾、衝撃吸収能を持った材質で出來ており、生半可な攻撃では破損すらしない。將學校の授業で一糸まとわぬ歩兵SSを見る機會が一木にはあったが、想としては『黒い長手袋とニーソックスをにつけたスク水姿の』だった。
異世界住民を威圧しないと言う目的は達しているのだが、どこか釈然としなかったのを一木は思い出した。
そんな歩兵達の間を抜けると、頭を下げて敬禮する艦隊參謀たちの元にたどり著いた。
一木は彼らの前に行くと、張した面持ちで答禮した。
「一木、紹介しよう。うちの艦隊參謀たちだ」
ダグラス首席參謀が一人ずつ指し示しながら自己紹介してくれる。
參謀長のアセナ大佐。
外務參謀のミラー大佐。
文化參謀のシャルル大佐。
報參謀の殺(シャー)大佐。
補給參謀のポリーナ大佐。
艦務參謀のミユキ大佐。
作戦參謀のジーク大佐。
務參謀のクラレッタ大佐。
そして首席參謀のダグラス大佐。
彼らが參謀として艦隊の報ネットワークを支えながら、同時に司令に助言や提案を行い、さらに事務方として各參謀部の部長を兼任。現場部署である各課を指揮するというのが艦隊の仕組みだ。
一癖も二癖もある面子に、一木は一層張を強くした。
と、一木はあることに気がついた。
「そういえば、同僚の師団長達はどうしたんでしょうか? 直屬の上司でもある師団長分隊の隊長にも挨拶をしたいんですが……」
その言葉に參謀たちの顔が変わる。
なんだ、何があったんだ?
艦隊の師団定數は七。定數割れする艦隊もなくないとは聞くが、いくらなんでも。
「一木代將、わるいけど……」
言いにくそうにダグラス首席參謀が呟く。まさか……。
「君の同僚は艦隊再編の関係や個人の事の結果、ほか艦隊への引き抜きと退職によって現在存在しない。今は君一人だけだ」
その言葉に一木は衝撃をけた。
「ま、まあ安心してくれ一木代將。我々一同は君を支え、一杯サポートする。逆に言えば我々のサポートを君一人で獨占できるんだから、お得なもんさ」
まったく前向きに考えられない……この面々に一人で接する気苦労を考えて、一木は疲労を覚えた。
だが、一木は知らなかった。
數日後にこの編での出撃指示が下り、あまつさえ降下して異世界との流の最前線に立たされる事になることに。
「名付けの日」まで、あと32日。
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