黒のは、尊大な態度でゴンゾに告げた。

「この區畫では十二歳以下の娘を買ってはならない……知らぬとは言わせんぞ」

「い、いえ。わたしは十五です」

貓佐の見た目でそれは無理がある、一木は心の中でんだ。

いや、この國の住人の見た目と年齢はどうなのだろうか？　例えば日本人は歐米人から見るとく見えると言う。一木から見ると、貓佐は十二、三歳に見えるし、黒い服のは十五歳ほどに見えた。

星系についた直後に、諜報課を送り込む書類に決裁したのは一木だ。

だが、もうし文化參謀部とすり合わせをしてからにするべきだったと、一木は後悔した。

とはいえ文化參謀部に報を送るのも諜報課なので、うまくいったとも限らないが。

「そ、そうだ。なんの問題もねえ！　」

ゴンゾが言い逃れようとするが、は不敵に笑う。

「ほう、これでもか！　」

そういうと、は突然貓佐のローブに隙間から右手を突っ込むと、をまさぐり始めた。

會議室の一同は唖然とする。この國の常識的行なのか？

一木がシャルル大佐をちらりと見ると、驚いた顔をしていた。やはりいきなり他人のをむ行為は非常識な行の様だ。

「このわらわに噓をつくとはな。このはどう考えても十二……ん？　んんん？　」

をむの表が疑問に満ちていく。アンドロイドであることがばれた！？

一木は咄嗟にぶ。

「貓佐！　撤収だ！　」

その瞬間、二のアンドロイドのきは素早かった。

獣のごとき俊敏さをもってを躱すと、一瞬でり口に向かって走る。

だが、の対応も素早かった。廚房の方に向かってぶ。

「ミルシャ！　男の方を止めろ！　」

瞬間、廚房から人影が飛び出し、り口に立ちふさがった。皮鎧を著たポニーテールの騎士がり口に立ちふさがる。

そして手に持った曲刀を素早く抜刀し、足首を狙って斬りつけてきた。抜刀、それもかなりの速度だ。強化機兵の補正裝置がスロー畫面を別枠で表示してくれなければ、一木には騎士が何をしたか理解できなかっただろう。

しかしゴンゾも諜報課のＳＳだ。騎士の刀が足首にあたる瞬間、ゴンゾは大きくジャンプすると、建の天井の梁につかまり、そのまま摑まった勢いでり口上の壁を突き破り外に出ると、兎のごとく逃げ出した。

だが騎士もさるもの。外に逃げたゴンゾに懐から取り出した短刀を投げつける。

ゴンゾはそれを紙一重でよけようとするが、あらかじめそれを計算して投げられていたのだろうその短刀は、急カーブを描きゴンゾの首に命中した。

しかし、そこまでだった。人間なら致命傷だっただろうその一撃をともせず、ゴンゾは細い路地の奧にまで逃げ出した。

そして、貓佐もゴンゾが派手に立ち回っている隙に、黒服のをあっさりと振りほどいて、窓から逃走していた。

會議室でそれを見る一同。

一木は激しくくゴンゾの視點にやや酔っていたが、自分が逃走を促した手前文句を言うわけにもいかない。

すると、殺大佐が一木に聞いた。

「なんで貓に逃げるように言ったんだ？　」

「……アンドロイドだとばれた可能があったからだ……」

「諜報課のＳＳよ？　んだくらいでわかるかしら？　」

一木の言葉にミラー大佐は懐疑的だ。だが、むくりと起き上がったシャルル大佐は違った。

「いや、あのはプロだ。多分ばれた」

「なんの拠が？　」

「一流の料理人がを目利きするときと同じ目をしていた……アンドロイドっていう概念がなくとも、何か普通の人間じゃないとは気が付かれたと思う」

先ほどとは違い、真面目な表で語るシャルル大佐に、一木も頷いた。

「この段階でのリスクは避けたかった。けれども結局、ずいぶんな騒ぎになってしまったな……」

危機を覚える一木だが、ジーク大佐がめる。

「捕縛されるよりはマシさ。そうなれば面倒どころの話じゃない」

そうしていると、貓佐がゴンゾに合流した。ずいぶんと逃げ回っていたようで埃まみれだった。

「申し訳ありません、お見苦しいところを……」

「貓佐、今回の事はいいが、これからはより慎重にいてくれ。それで、あのなりのいいは何者なんだ？　」

「はい。あのはグーシュリャリャポスティ。帝國の第三皇です。改革派筆頭とみられていて、こういった繁華街にまで繰り出して庶民と流することから人気があります」

貓佐の言葉を殺大佐が補足する。

「貓佐に帝都の調査をさせていたら見つけたんだ。派閥こそないが、皇太子と違ってな考えがあって、庶民の人気も高い。どうにかあの皇様を擔ぎ上げれれば反発を抑えて渉出來るかもしれない」

「ミルシャ！　」

思わぬ闘騒ぎにざわつく鶏宿の前で、呆然と立ちすくむミルシャの所にグーシュがやってきた。

「お前、あの男を殺そうとしただろう？　止めろとは言ったが、あそこまでしろとは……」

「ですがグーシュ様、あの男はまっとうな存在ではありません」

そのミルシャの言葉に怪訝な顔をするグーシュ。

「そっちもか？　あの娘もなんかおかしかった……をんだ時鼓がな、うまく言えんが変なのだ。その上どうも溫が妙だった。まるで冷えたを湯につけたような溫かさで違和があった。本當に人間かと疑ったぞ……男の方は？　」

「足を斬ろうとしたとき気が付きました。息遣いが無い、あの運量で呼吸しない人間がいるでしょうか？　」

そのミルシャの言葉を聞いて、グーシュは楽しそうに笑った。

「これは……」

「これは？　」

「『対決！　騎士団対星辰より來たりし侵略者』と同じ展開だ！　きっとあの二人は侵略者の手先なんだ！　」

そのグーシュの様子を見て、ミルシャはため息をついた。また、悪い癖が。

「今嫌な顔しおったな！　今夜はびっしり語るからな、覚悟しろ！　」

「ええー。この後城でやることがあるのではなかったのですか？」

「さっき聞いた南部の不作についての話か。むろん、話を吏に伝えてからだ。今夜は寢かさんからな！　」

「寢かさ……さっきまで宿で……したのにですか？　」

「問題あるか？　」

そう言ってグーシュは赤面するミルシャを連れて城へと帰っていく。

「けれども、あの不審な二人の事は報告しなくてもいいのですか？　」

それを聞くと、グーシュは仏頂面になった。

「治安関係の事には口出ししないことにしてる……いろいろうるさいからな。兄上がなんとかするだろ」

文化活やら庶民の暮らしの事で多便宜を図ることは目こぼしされていたが、こと騎士団の領分に関しては、グーシュが関わることはやたらと警戒されていた。

間者の報など流せば面倒なことになるだろう。グーシュはそう判斷した。

それに、面白い連中は放っておいてみたかった。楽しいかもしれない。

グーシュはあの妙な連中が自分にちょっかいを仕掛けて來ることを祈った。

結局この日の出來事は、帝國側には記録されなかった。

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