超古代文明の――『マミヤ』を発見し……。

さらには、生涯の伴を得る……。

おそらく、俺の人生で最も激に満ちたであろう一日はその後、飲めや歌えやの騒ぎという形で幕を閉じた。

「ご結婚ということでしたら、式を挙げることをオススメします。

當船に搭載された空間プロジェクター技を駆使すれば、古今東西、はたまた空想を現実にしたものまで、様々な形式での式を挙げることが可能です」

と、イヴが言い出し……。

彼の勧めるまま、俺とウルカ殿はにわかな著せ替え人形にされてしまったのだ。

といっても、実際に服を何著も著たわけではない。

『マミヤ』が裝甲の一部を展開すると、キートンが置いてきたのとは似て異なるドローンなる飛行球がいくつも飛び出してきた。

そいつらが玉の一部を開閉し出すと、周囲の景や俺たちの著ている服が突然、別のものへとすげ替わって見えたのである。

のクッセツ？　なるものをいじり、あたかも実際の景や服が存在するように見せかけているらしい。

これは、盛況だった。

特に、ニーポンなる古代國家の形式を用いた裝束と風景はバンホーたちのお気に召したらしく、ハレギなる姿となったウルカ殿を見た彼らは誰もが涙ぐんだものだ。

しかも、ドローンたちは、王宮お抱えの楽団もかくやという見事な音楽を鳴り響かせ……。

盛り上がった俺たちは、先々の難しい話や、ここに至るまでの苦労譚は一旦置き、大宴會へと興じたのである。

バンホーたちサムライにとって、ウルカ殿は仕えるべき姫君であり、自分たちの娘や妹も同然のはず。

で、あるからには、俺ごときが突然結婚を申しれたことに思うところもあっただろうが……。

最終的にはけれ、祝福してくれたようで……これは何よりである。

そして今、俺は『マミヤ』の中に用意された自室のベッドで起床していた。

見た目は武骨なそれだが、全を包み込むようなその寢心地は快適のひと言である。

どうやら、寢ている間に微細な振で筋のこりをほぐすような能力もあるようで、五年間に渡る野宿生活で節々に痛みをじていたは、生まれてきたばかりのような心地だ。

そして、起き上がった隣を見れば……。

一糸まとわぬ姿のウルカ殿が――いたりはしない。

俺を舐めてはいけない。

こちとら、誇り高き貞である。

どころか、こんなに大勢の人間と會話するのも五年ぶりなのだ。

そこは王族のというやつか、変にどもったりとかはせずに済んだが……ただ會話すべきことを會話するだけでも、アスルという人間のはパンパンだったのである。

その上、アレがナニするじのモニョモニョとか……あらゆる意味で限界を超えていた。

そう……俺とウルカ殿はまだ出會ったばかり。

式も挙げたことだし今後は妻として扱うが、まずは、お友達のような距離から始めていきたい。

『おはようございます。予定の時刻まで、あと一時間です』

誰もいない部屋の中に、無な聲が響き渡る。

イヴのものとはまた別……システム音聲なるものらしい。

なんだか姿なき者に見られているようで、メイドたちに世話されていた王宮時代とはまた別の張をじるな。

だが、こういうことにも慣れていかないと……。

『まずは、支度を整えることを進言します』

ベッド以外、何も存在しなかった部屋の壁から洗面臺だの鏡だのが飛び出し……。

それを利用して、俺は支度を整えた。

--

システム音聲に導かれるまま、食堂へ向かうと……。

廊下の途中で、イヴとウルカ殿に遭遇した。

「おはようございます、マスター」

「おはようございます。

その……アスル様……」

「おはよう、ウルカ殿。

二人とも……どうかな？」

俺はさっそく、陣に意見をうかがうことにする。

なんの意見かといえば、他でもない……。

外見を大きく変えてみた、俺の印象についてだ。

自室の壁に収納されていた、カミソリなどを用い……。

今の俺は、不ヒゲを綺麗にそり落とし、髪も整えてある。

ここで得た裝束以外、かつて王宮で過ごしていた頃に近い姿だと思うが、どうか？

「その……大変よくお似合いです」

どうやら、反応は上々だ。

ウルカ殿は顔を赤らめながら目を逸らし、そう言ってくれた。

「大幅に清潔さが増したと思います」

一方、イヴはといえばこんなじである。

まあ、君はそうだよね。

「ウルカ殿も、実によく似合っているぞ」

さて、こちらが褒められたのならば返禮するのが男の務めだ。

だが、新たな裝いとなったウルカ殿は、そんな禮儀など関係なく褒めそやしたくなるほど――しく、また可憐であった。

裝束そのものは、イヴが著ているをウルカ殿の格に合わせたものだ。

だが、著ている人間が違うと、こうも印象が変わるのか……。

同じであっても、イヴが著ていると仕事著のような印象が先行するのに対し、ウルカ殿が著るとどこか背びしたじがして……実にらしい。

後ろに開けたからは、銀の並みを持つ尾が、誰はばかることなく飛び出しており……。

艶やかな銀の髪は、後頭部で球形に整えられ、獣人國伝統の裝飾品とおぼしき串でまとめられている。

髪を下ろした姿も高貴さをじて良いが、これはこれで、年頃のらしい活発さがじられてて大変よろしい。

「その……お褒め頂き、恐悅至極(きょうえつしごく)です」

もじもじしながら、消えりそうな聲でそう言うウルカ殿であるが……。

キツネのごとき頭頂の獣耳も、おから生えた尾も、先ほどからせわしなくいていての揺れが見て取れるようだ。

「では、參りましょうか……。

バンホーたちも、待っておりましょう」

手を差しべながら、ウルカ殿にそう告げる。

ウルカ殿は當然として、バンホーたち彼の臣下も『マミヤ』にそれぞれの部屋をあてがわれ、そこで一泊していた。

俺とウルカ殿が違う區畫に部屋をもらったのは、イヴいわく「配慮」であるらしい。

「その……。

そちらへおもむく前に、アスル様へお願いしたき儀がございます」

だが、ウルカ殿は俺の手を取らず……。

上目づかいになりながら、こちらを見やった。

「なんでしょう？」

――チューかな？

……と思ったのは一切、表に出さず、務めて紳士的な顔つきでそうたずねる。

果たして、ウルカ殿のお願いは……別のことであった。

「その……わたしのことは、ウルカ、と呼び捨てにして頂きたいのです。

晴れて、夫婦(めおと)となったのですから……」

と、もじもじしながらそう告げてくる。

――あー！　もう！　かわいいなあ！　この嫁(よめご)は！

一回りほども年の離れた新妻(にいづま)を抱きしめたくなる衝をグッとこらえ、さわやかに返す。

「承知した。

では、參ろうか……ウルカ」

「……はい」

今度こそ俺の手を取ったウルカと、食堂へ向かい歩み出す。

「マスターから、うわついたを察知しました。

これから、真面目な話をすることになると思われるので、ご注意ください」

腰までびた髪は、萬(ばんしょく)の輝きを発し……。

しかし、表はどこまでも平坦なイヴに、そう釘を刺された。