《「気がれている」と王家から追い出された俺は、自説通りに超古代銀河帝國の植民船を発見し大陸最大國家を建國する。 ~今さら帰って來てくれと言っても、もう遅い! 超テクノロジーを駆使した俺の建國史~》魔の大発生
――魔。
尋常な生命とは思えぬ様々な能力を持ち、人間、獣人、エルフなど……俺たち知的生命を執拗(しつよう)に狙う生たちの総稱である。
『マミヤ』がなぜ、建造されたのか……?
どうして、ご先祖様はあれだけの力を封印したのか……?
喫(きっきん)の問題ではないこともあり、そういった諸々(もろもろ)に関してはいまだ調べずじまいの俺であるが、魔の存在に関してだけは早い段階でデータバンクを調べていた。
その結果、超古代人たちの考察を知ることができたのだが……。
彼らが下した結論はといえば、これは、
――この世界が生み出した抗。
……と、いうものだった。
抗、というのは、俺たち人間のにも宿る、悪い風などを撃退する存在とのことだ。
俺のに、俺自の意識すら離れた存在が無數に巣食うというのはなんとも気持ちの悪い話であるが、ひとまずそれは置いておこう。
先人たちは、この世界――星というらしい――そのものを、一つの生命として位置づけた。
この世界が一つの生命であった場合、その外――宇宙というらしい――からやって來た先人たちは、まさしく異であり、悪い風ということになる。
この世界はそれに対し、過敏な反応を示した。
すでにこの世界へ生きていた生を、外界からの異に対抗し得る力と姿を持った存在へ、急速に進化させたのである。
それが、魔という存在のり立ち……。
と、いうのが先人たちの推測だった。
なんとも、居心地の悪い話である。
俺たちは、ただ平穏に生きているだけのつもりでも……それはこの世界にとって、侵略行為以外の何でもないと判斷されているのだから。
まあ、判斷されちまったものは仕方ない。
そう判じられたところで、俺たちには他の行き場などないのだ。
侵略者なら侵略者らしく、徹底的に抗――魔たちと戦うだけである。
それは、あちらとしても同じ考えなのだろう……。
魔たちは時たま、一気にその數を増やし人里を襲うことがあった。
地震や津波と並ぶ、災害の一つである。
厄介なのは、その予兆というものが一切じられぬこと。
普通の生ならば、一度の生行為で生み出される個數には限度があり、間引きをおこなっていくことで増えすぎることを抑制(よくせい)することも可能だ。
が、魔たちにそんな常識は通用しない。
本當に、どうやってそれだけ數を増やしたのかと問いただしたくなるほど……。
実に唐突に、その數を増やすのである。
その現象が今回、我が友ベルク・ハーキンが治める領土で発生した。
しかも、それは過去にないほどの規模であり、友好的種族であるエルフらの自治地區を今も襲っているのである。
うん、まあ、あれだ……。
先人たちの推測通りだった場合、『死の大地』からほど近い地理的にも、『マミヤ』の覚醒に呼応したとしか思えないな。
……このことに関しては黙っておこう。
親しき中にもあり、である。
--
「魔の規模は、どんなものなんだ?」
「一、二、三……たくさん、だ」
俺の質問へ、順繰(じゅんぐ)りに指を立ててみせたベルクがおどけた調子で返す。
もはや、數えるのが意味をさないほどの規模……。
と、いうことであろう。
「こちらも、備えがなかったわけじゃない。
魔の大発生は、いつどこでも起きうる問題だからな。
が、いくらなんでも今回は……數が多すぎる」
そのまま、執務機に乗っていた羊皮紙をぴらりと投げ渡してくるので、け取り目を通す。
「うわ……っ」
通して、思わずうめき聲をらしてしまった。
群れを構する魔たちの種族は、王家への報告でも屆いている辺境伯領お馴染みの連中だが、この數は……。
なるほど、ベルクほどの男が困り果てるのもうなずけるというものだ。
いかに辺境伯領が潤(うるお)っているとはいえ、これだけの數に対抗できる兵力を常に用意しているはずもない。
で、あるならば、徴兵するなり兵を借りるなりするしかないが、どちらにせよ時間がかかる。
そんなことをしている間に、エルフの自治地區は落とされるだろうし、被害はそれ以外の地域にも広がっていくことだろう。
また、仮に兵力を員できたとしても、別の問題が生じる。
どうやって、それだけの大軍を布陣するのか……だ。
ハーキン辺境伯領の特徴は、領土の大半を覆うかな森林地帯である。
森林と大兵力……両者の相がどれほど悪いかについては、いまさら語るまでもないだろう。
「詰みだな……」
「ハッキリ言ってくれるな」
羊皮紙を放り捨てた俺に、ベルクが顔をしかめながら言い放つ。
「一応、聞いておくが……。
アスル、もし貴様が私なら、この狀況でどう差配する?」
「俺なら、か……。
この狀況下で考え得る最もマ(・)シ(・)な流れは、そうだな……」
腕を組んだ友の視線をけつつ、考える。
「まず、エルフは見捨てる。
その周囲に存在する森林地帯も見捨てる。
その間に、農民や奴隷を徴兵し、他領や王家から兵を借りて數を揃える。
後は平地で陣取り、人間憎しと迫ってくる魔らの大軍を迎え撃つ……。
単純だが、これが一番、辺境伯領の被害を抑えられるだろう」
「を真っ二つにされるよりは、四肢を切斷された方がまだマシ、といった論法だな……」
「だから詰み、と言ったんだ」
肩をすくめながら、そう答えた。
「ふん、見捨てる諸々(もろもろ)の損害や、兵を借りる代金を考えれば、今日までの繁栄も一転しての大借金生活か。
長きに渡る辺境伯家の歴史も、めでたく私の代でおしまいだな」
吐き捨てるようにしてそこまで言うと、ベルクは銀杯を傾ける。
「で、だ……。
アスル、私ならぬ貴様なら、この狀況をなんとする?」
「なんとでもできるさ」
その質問を予期していた俺は、軽い口調でそう答えた。
いかに『マミヤ』の超技を背景に持つとはいえ、これは言うほどたやすいことではない。
が、たやすくなければなんだ?
無二の友がかつてないほどの窮地(きゅうち)へ追い込まれており、しかもそれは、事によれば俺が大願を果たしたのが原因なのだ。
これを助けないならば、それは狂気王子(ルナティック)と名乗ることすらおこがましい愚者である。
まあ、対価はしっかりと頂くがね。
「頼めるか? 友よ」
「頼まれたさ。友よ。
その代わり、奴隷の方はきちんと用立ててくれ」
同時に歩み寄り、固い握手をわす。
それから、ごく短いやり取りをわし……。
これからの行について算段を終えた俺は、來た時と同様――窓から消え去ったのである。
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