《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第1話 新兵
緑深き森と、なだらかな草原が広がっている。陸の乾いた風が吹いている。
その草原の一角に、人影が5つ。十代半ばくらいの達だ。皆それぞれ、その中學のものと思われるバラバラな制服姿である。達は皆腰を落として、一心に足もと一面に広がる植を採っては、傍らのカゴにれていく。
菜摘みだ。初夏の日差しはもう強い。達は、日を選びながら、菜摘みを続けている。が降り注ぎ、風が木々を揺する音と、小鳥のさえずり、それしか聞こえない、のどかな風景であった。――――が。
ドォォォォォン!!
遠方で大きな音がした。長く響く音だ。5人のはうさぎの様に一斉に顔を上げ、不安げな表を浮かべる。森の方、木立の隙間から、音のした方角に土煙が立つのが見えた。
「逃げよう!」
1人がそう言った。
「Botが出たんだよ!」
もう1人が続けて言った。
達は聲を上げながら一斉に森を離れ草原側へ走り出す。その先の緑の中に、全長10m程の白亜のクルーザーがあった。
「急いで」
「早く早く」
5人は乗り込むと、その中の1人が運転席に勢いよく駆け込み、エンジンを起する。らかな駆音と共に、クルーザーは空中に浮かびながらき出す。
快調に加速し、森の中を駆け抜けようとしたその剎那。
クルーザーの後方の草木が弾け飛んだ。
先ほどの音と煙の正、Botがその姿を現した。
全長は6m程の球形、クリームの樹脂のような裝甲に、幾つかの黒い、スリットがっている。本から四方に架臺の様なアームがびていて、その先端には浮遊裝置、フローターが取り付けられている。そのフローターで木々の合間をフワフワと浮遊しながら、メインカメラで逃げるクルーザーを捉え、追いかけていく。
「やばいよ。追いつかれる」
Botがクルーザーに迫る。本下部から金屬製のアームを展開し、その先鋭な腕先をクルーザーに向けてばしてくる。
「きゃあああ!」
Botの腕がクルーザーに屆こうかというその剎那、巨大な落下が二者の合間に割ってった。
響き渡る轟音と飛び散る砂礫。
その轟音の中心にいたのは、肩高15m程の人型の兵だった。
その人型はゆっくりとを起こすと、その頭部がBotを視認する。
國鉄の骨格に白銀の裝甲、左手は巨大な四角盾と、その右手には自の長の2倍はあろうかという長さの、長柄の槍を裝備している。
中型クラス(ケントロン・イソス)の人型戦闘兵、
DEAMETER(デアメーテル)だ。
バババッ!!
Botが3條のビームを発した。白銀の巨人は避けるでもなくそれを肩でけ止める。命中したビームは裝甲の表面で弾かれ、の粒子が巻き上がった。
「みんな! 大丈夫?」
見上げる程の白銀の巨の、その大きな、壁面のような背中でクルーザーをかばいながら、DMT(デアメーテル)に乗る年、咲見(さきみ)暖斗(はると)が聲をかけると、暖斗のインカムは一斉に黃い聲で満たされた。
「あ、あのう、あ、ありがどうござ‥‥」
「ナイスフォロー。暖斗くん。助かったよぉぉ」
「ちょっと、ちなみさん、いちこのセリフに食い気味に來ないでよ!? ほら、いちこ。ちゃんと咲見さんにお禮言いなよ」
「え~。ちなみが悪いのぉ? 詩(うため)ちゃん」
「いいから。ちなみさん、ちゃんと運転して」
「まずは安全圏まで行くっス。咲見さんが戦えないっス」
目の前のBotを牽制しながら、達のそんな聲を耳だけで聞いて。
クルーザーがこの場から、十分に離れて行くのを確認して、暖斗はあらためて槍を構える。Botは「3機現れた」と聞いていたが。今視認できるのは目の前の1機のみだ。
「暖斗くん、他に2機いるけど、距離がある。合流される前にコイツを叩こう」
あの5人とは違うの聲と共に、灰の3 m程の球が、構えをとる暖斗のDMTの右側にフワフワと現れた。
Botに似てはいるがこれはKRM(ケラモス)、暖斗のDMTをサポートするドローン。
作しているのは、岸(きし)尾(お)麻(ま)妃(き)だ。
麻妃のサポートドローンは、暖斗のDMTのまわりをつかず離れず浮遊する。
「侵角度は100點満點。AI最善手だよ。上手くクルーザーを逃がせたね」
麻妃はし呑気な口調で言った。
「じゃあ、暖斗くんの初陣ということで。シミュ通りにやってみようか?」
「うん」
「重力子エンジンは異常ない?」
「うん、OK。正常出力だよ」
「よっし。じゃあ、回転槍(サリッサ)の刃部(じんぶ)回転を始めるよ? シールド殘量はアナウンスするから」
「わかった」
ゴリゴリゴリ‥‥‥‥ガリガリガリガリ‥‥‥‥
暖斗の答える聲と共に、回転槍(サリッサ)の回転が始まった。「サリッサ」というのはDMTが持つ長柄の槍の名稱だ。長い柄の槍で、その先端に半明の三角錐、先が尖ったドリル――刃部(じんぶ)を持つ。複雑な多面の角に刃が付いていて、それを回転させながら、戦闘は行われる。
Botがビームを撃ってきたが、暖斗は上手く躱した。
その間に、サリッサの回転が速まっていく。
「麻妃(マッキ)。まだ?」
「もうちょい。もうちょい回避してて」
そんなやり取りの間に、サリッサの刃部はその回転を増し、周囲に獨特の回転音が低く響き渡る。
「よし。暖斗くん、シールド殘量十分。サリッサ刃部の回転數が規定値を超えた。突撃(アサルト)して」
「了解。‥‥‥‥突撃(アサルト)!」
麻妃がそう言い終わるのを待たずに、暖斗機は風になった。
鋭く突撃した槍の一閃が、Botに突き立てられていた。
ガギン!!
視界が一瞬炎でふさがり、それが晴れると、大きく裝甲を削られたBotが目にってきた。
暖斗はそのまま槍に力を込めていく。
「おお! 暖斗くん、芯を食ってる。いいじ!」
Botから火花が飛び出てきた。回転する刃が複合樹脂の裝甲を研削し、フレーム、部骨格に達した証左だ。火花がまるで噴き出るのように、四方へ飛び散る。
「うおおお!!」
暖斗がさらにもう一段、槍を突き込む!
部を大きく穿たれたBotは、力なく地に落ち、スリットかられていたも消えた。
1機撃破だ。敵の殘骸からサリッサを引き抜く。と同時に、麻妃の聲がした。
「2機來てるよ! 5時の方向!」
「了解!!」
暖斗はそのまま引き抜いたサリッサを水平に薙いだ。右後ろの方向だ。
赤紫の槍先が一閃!!
背後から近づいていたBotはその槍先に打ちのめされ、巖壁に激突する。
Botというのは、AI搭載の移兵だ。前の戦爭の時に地雷のように、そこら中に敷設された。そのの3機が、暖斗たちの戦艦か、菜摘みの娘たちに反応したのだろう。
あらかじめ力された行パターンに沿ってく。全長6mという大きさから見て、小型のタイプだ。
普通に戦えば、中型クラスのDMTに敗ける要素はないが――――。
「3機目は7時。距離とってるよ。砲撃注意」
3機現れたBotの、最後の1機は暖斗に近接せず、一定の間合いでフワフワと浮いたままだった。1機目が予想外に早く落とされたので、消極的な選択をしたのかもしれない。
果たして、3機目は麻妃の予想通り、ビームを放ってきた。暖斗は左右に機して、弾を躱していく。何発かは盾や本に當たったが、裝甲の表面で弾かれての粒子に変わった。
砲撃を避けながら、上手く3機目のBotに近づいて、回転槍の一撃をれる。
バギン!!
急所に槍を打ち込まれたBotは、部機を四散させて煙をあげた。
「ビームによる裝甲損傷なしだよ。うん、これはイケそうだね。さすが暖斗くんだ」
麻妃の弾んだ聲が、暖斗の耳のインカムからってくる。
「シールドがちゃんと機能してるよね」
暖斗も答える。
暖斗機は長方形の巨大な盾を持つ。そしてそれとは別に、DMTのエネルギーを使って生み出される対學兵用の防システムが「シールドバリア」。先ほどから被弾したビーム砲を、DMTの裝甲表面での粒子に変えているのがそれだ。
巨大盾も含めて、DMTの全を覆っている。シールドを生み出すエネルギーが無くなるか、張られたシールドを上回るエネルギー量のビームに被弾するとシールドが割られ、本にダメージがる。
ちなみに、サリッサの回転刃のような理攻撃は、シールドでは防げない。あくまで學兵のみだ。理防の「盾」、學兵防の「シールド(バリア)」この2つを使いこなしながら、戦闘が行われる。
「なんかさあ、母艦の方で盛り上がってるよ。『#暖斗くんカッコイイ』とかで」
「ええ? 麻妃(マッキ)。全回線(チャット)開いてんの? なんで?」
「そりゃあ、ウチがこの戦闘データ、リアタイで送信してるから。通信アプリで」
「よくこの距離で送信できたね」
「今さ、クルーザーのリスクオフで戦艦が進出してきてて。いやあ、みんな心配してたんだよね。Bot3。暖斗くんが排除できない、となると、この先の旅が難しくなるし、やっぱDMT戦闘は危険がともなうじゃん?」
「‥‥『パイロット枠』で選ばれたのは僕だけなんだし、16人中男子は僕だけなんだから、いいよ、こういう事は僕がやるから、あんまり気にしないでって言っといて」
麻妃は、大げさに聲をあげる。
「聞いた? 聞きました? 皆さん。どうですか。ウチの馴染みは男気があるでしょう?」
ちょっとディスられてる気がするが。
「ちょっと待った! ‥‥僕の音聲まで聞こえてんの?‥‥そっちに」
「うんうん。みんな謝してるって。『どうかご無事で帰ってきてね』って。あ、音聲だけじゃなくって、映像も送ってるから。ウチのKRM目線(カメラ)のヤツ」
「な‥‥!? 早く言ってよ」
暖斗は赤面した。今まで初陣に上手く集中できていたハズだけど、15人の子に注視されていたとすると、やはり気恥ずかしい。だいたい自分は、注目されるとしくじるタイプだ。
もう戦闘は終わりかと思われたが、生き殘りのBotが砲撃をしかけてきた。慌てて躱す暖斗。さっき巖壁に叩きつけてやった2機目が復活したようだ。
「シールドダメージ微小。暖斗くん。突撃(アサルト)できるよ」
「うぉ‥‥!」
麻妃の聲と同時に、回転槍を構えて突撃した――――。が、しかし。
Botに避けられてしまった。かなり華麗に‥‥。
サリッサの三角錐の大きな刃部が、空しく空を切る。
めっちゃ恥ずかしい。
とりあえず後進(バックステップ)して間合いを取った。
「‥‥暖斗くん。今『うおおお』って雄びあげようとして、ためらったでしょ」
「お、俺、雄びなんかあげねーし‥‥」
「いや、さっき言ってたじゃん。普通に。‥‥あと一人稱が『俺』になってるよ。そんなに子の目線を意識しなくていいって」
「べ、別に、してね~し。っていうか、そういうイジリは戦闘中は‥‥」
「あっ來た!」
先程のBotが、距離をつめながらビーム撃をしてきた。暖斗のMDTは盾でそれを防ぎつつ、敵の懐に飛び込んで長槍を繰り出す。突槍が何度か空を切ったが、かすめる刃部の回転が徐々にBotの裝甲を削っていき、敵の反撃は止まっていった。
ガギン!!
暖斗の繰り出した最後の一撃が、Botの急所であるスリットのをとらえた。
そのまま地面に押し付けて回転を叩きこむ。
裝甲が研削される白煙の後、金屬同士がぶつかる甲高い金斬り音、大量の火花とともに、Botは発四散した。
暖斗は、撃破を喜びつつも、心中複雑だった。
「思ったより手間取ってしまった‥‥。まだ新兵(ベイビイ)なのかな。僕は」
「やったね。暖斗くん。おつかれさま」
麻妃は、そう暖斗に聲をかけると同時に、母艦のIT解析部門に呼びかける。
「どう? 解析できてる?」
「ああ、暫定値だけど出たよ。結論から言うと、咲見くんはやはりギフテッドで、『アレ』が発癥する率は100%。あれだけMDT本に被弾したのに、エネルギー殘量が多すぎる」
麻妃の耳につけたインカムに、すぐさま返答の聲。聲の主はいが、利発そうな口ぶりだった。
それを確認した戦艦の艦長が、號令を発した。
「わかった。ありがとう。それじゃあ出番が確定ね? 醫務室の逢初(あいぞめ)さん、手筈通り準備をお願い。あと、庶務係の人中心にDMTデッキに集まって。暖斗くんを迎えるわ」
「‥‥‥‥はい」
艦長のインカムに、逢初(あいぞめ)依(えい)と呼ばれたの、小さな返事が響いた。
艦長は艦長席から降りながら。
「わたしもデッキで暖斗くんを迎えるよ。心配だし。その間ここを頼むわね」
戦艦の艦橋、そこにいる數人のが、艦長の聲に反応して頷いた。
*****
「あ~~良かった。何とかBotを撃破できたよ~」
戦艦「ウルツサハリ=オッチギン」へ帰艦する、DMTの隔壁縦席(ヒステリコス)の僕は、安堵の気持ちでいっぱいだった。
「途中、グダっったけどな」
「それは麻妃(マッキ)が、茶化すような事言うから」
「でもまあ、良かったよ。Botが排除できるんなら、このエリアの掃空ができる。そうすれば先へ進める。このガンジス島にある、わが軍の戦略資集積基地、ポイント=カタフニアに」
ポイント=カタフニア――僕らが、そこに行くように、と指示された場所だ。基地があって、きっとプロの正規軍人さんがいっぱいいるはずだ。
そこまで行けば、安全だろう。
だけど。
その間の航行は、この戦艦に乗艦する中學2年生16人、本當にこれだけのメンバーで行わなければならない。
そして、男子は僕ひとり。
「この戦艦を、みんなを守らなきゃ。この僕が。‥‥‥‥なんとしても!!」
程なくして、暖斗のDMTは無事著艦した。
暖斗はDMTの隔壁縦室(ヒステリコス)のハッチを開き、エンジンをアイドル狀態にする。
甲高いモーターの駆音と共に、開いていくハッチ。その向こう側に、タラップに並ぶ子たちの制服姿が見えてきた。
7人はいるだろうか? 何のために?、は愚問だ。みんな、初陣を飾った自分を出迎えに來てくれたのだ。
その暖斗の予想は自意識過剰などではない。ハッチが開くその向こうに、暖斗の姿をみとめると、子達は誰ともなくパチパチと拍手をしだした。
自分の初陣にしては大げさだと、素直にじた。暖斗は思考する。
さっき麻妃にからかわれたけれど、この戦艦「ウルツサハリ=オッチギン」は、僕以外は全員子。たった16人の中學2年生で運航されている。そのの7人が、わざわざDMTデッキまで「お迎え」に來てくれている。
正直こそばゆい。
そういえば麻妃が、「みんなで応援してた」とは言っていたっけ。後半の戦いが若干グダグダだったし、ハズいので足早に立ち去ろう。
そう暖斗は考えて、タラップに軽快に駆けあがった――――はずだった。
「待って! 咲見くん!」
ズダン。
艦長の聲が屆く頃には空しく、暖斗はタラップの階段で
思いっきりコケていた。――――のみならずアゴの辺りを痛打する。
「痛‥‥‥‥ぐっ」
痛てて。というセリフを慌てて飲み込んだ。カッコ悪すぎる。うわ‥‥やっちゃった。と頭の中が焦燥と忸怩(じくじ)で、こんがらがっていく。
痛いのもあったが、とにかく恥ずかしかった。
子たちが一斉に駆け寄ってくる。
「いや、大丈夫だから。皆さん、そんな大げさな」
暖斗はそう言った。いや、そうでも言わないとカッコがつかない。あわてて苦笑いを顔に張り付けてから――――立ち上がろうとして。
「‥‥‥‥?」
――――立ち上がろうとして。
「‥‥‥‥?」
――――立ち上がろうと、して?
暖斗は自のの異変に気付いた。
首から下が、まったくかない――――。
「咲見くん。落ち著いてね。大丈夫。大丈夫ですからね」
艦長のの聲も、暖斗の耳にはらなかった。そのまま7人の子たちの協力で、擔架に乗せられ、醫務室へと運ばれた。
DMTの整備場所から醫務室へは、同じ1F。暖斗を乗せたキャスター付きのベッドが、戦艦の廊下を進んでいく。天井に向けた視線に、いくつもの廊下の照明が通りすぎて行くのを見上げながら――
――暖斗は呆然としていた。
だがこの先の醫務室で、さらに暖斗を困させる事態が起こる。そこで暖斗は、「たった1つしかない選択肢」を選択することを迫られる事になるからだ。
醫務室は、先述の通り、戦艦「ウルツサハリ=オッチギン」のDMTデッキと同じ、1Fで。
り口は両戸開きの自ドアだ。
「逢初さん、連れてきたよ」
「は~い」
艦長の言葉に明るい返事をした、逢初(あいぞめ)依(えい)、と呼ばれる。
紺の襟の白セーラーとその元には赤いラインのった水のリボン。同じ紺のプリーツスカートと、なぜか制服の上から白――丈の短いドクターコートを著ている。艶やかなセミロングの黒髪は軽く白にかかり、白のの中に浮かぶ大きな黒瞳が、暖斗をのぞきこんできた。
顔の距離がすごく近い。
「あ~、アゴも打ってきてますね。ああ、外傷はないけど、出してくるかな? これは~」
「ちょっとさわりますね」
は、暖斗のアゴにれた。
特有の、らかくしなやかな指が、頼りなげに暖斗の下顎をすうっとでる。
「痛い? ‥‥った覚はありますか?」
逢初が、その大きな黒瞳で質問してきた。
この時點で、暖斗のは、首から下がまったくかすことができなかった。
軽く息を吸って、口腔や舌がくのを確認しながら、取りあえず質問に答える。
「うん。うっすら、指がれたのがわかったよ」 と答える。
「よかった」
は、15㎝ほどの距離のまま暖斗を見つめながら、笑顔になった。
「下顎の打撲傷は大丈夫。言語の発音も異常は認められない、と」
そして、暖斗を連れてきた子たちに目配せする。
「‥‥‥‥ああ、私たちはじゃあ、これで。咲見くん、あとで岸尾さんも來ると思うから。の異常は、この逢初さんに聞いて下さいね。おだいじに」
そう言って艦長たちは醫務室から出て行った。
そうか、さっきデッキに子が集まったのは、僕を迎えるため――じゃあなく、けなくなった僕を運ぶため、か。
暖斗はそう考えた。
そうか、調子に乗ってイキリムーブをしなくて良かった。
ここ醫務室は、5 m四方くらいの白壁の部屋だ。部屋の隅には柱があって、そこに全方位から見えるモニターがある。暖斗にはよく判らない數字が並んでいるが、たぶん自分の脈とか圧なのだろう。
自分のいるベッドは壁に長辺を付ける形で置かれていて、天井に吊るされたカーテンを引けば一応簡易的に個室みたいになるじだ。
奧の方にも空間があるようだが、ここからではよく見えない。
ただ1つ、病院と似つかわしくないところがある、部屋の照明だ。白い蛍のライトでは無く、オレンジの、まるで夕暮れのような味と明るさだった。
まるで、そう、――――今から誰かを寢かしつけるような。
「さて、咲見くん」
夕日のような照明を背にしたが、キャスター付きの丸椅子、――ドクターズスツールという名前なのは後に聞いたのだが――、その椅子(スツール)を引いて、暖斗の寢るベッド傍らまでやっていた。そしてプリーツスカートがシワにならないよう、両手を後ろ手に回しながらゆっくりと著座する。
ドクターコートの間から見える水のリボンが、かすかに揺れた。
「あのう、僕のは治るの?」
暖斗は、単刀直に聞いた。
この、逢初とは、実は同じ中學でクラスメイトなのである。
學校ではほとんど會話をした記憶がない。
たしかこの春、2年生から同じクラスだったか。ほぼ面識がないが、「初めまして」をするよりは、まずはこの狀況を早く確認したい、そう考えたからだ。
は、笑顔のまま答えた。
「せっかちな質問ですね。でも自分ののことだし、心配ですよね。うん。じゃあ、細かい説明は省きますよ?」
そう言うと、は、左手の人差し指を立てながら続けた。
「まず、あなたのがかないのは、DMTに乗って戦った『後癥』と呼べるものです。そしてそれは、適切な栄養補給と休息で完治、癥狀は消え去ります」
「よかっっった~!」
暖斗は大聲を上げた。
「いやあ、早く言ってよ。戦闘の衝撃で頸椎ガー、とかを想像したんだからね。なんだ、治るのか~。よかったあ」
暖斗の張が一気に解けた。それはそうだ。最悪「一生ベッドの上」を想像していたのだから。みんなと、この目の前のクラスメイトの様子から、その最悪はなさそうだとはじていたけれど。
とにかく、Botも撃破できたし、この癥狀も治るし、と、暖斗はやっと気持ちを落ちつかせることができた。
ああ、早く風呂にって自室でゲームでもやりたい。
「‥‥‥‥ん? 何それ」
疑問を投げかける暖斗の視線のその先には、の右手があり、その右手には、白いがっているガラス製の小瓶がにぎられていた。
「何それ」
暖斗はもう1度たずねた。
小瓶の上部には、ラテックス製の造作(ぞうさく)がしてあった。暖斗にはそれに見覚えもあるし、自ら使ったこともあったはずだ。はるか昔の話ではあるが。
は、申し訳なさそうに、小聲で話し始めた。
「咲見くん。これがなんだかわかるよね。そのを治すためには、これで栄養を摂ってもらわないといけないんです」
逢初依は真顔だった。
「ええッ!! マジで?」
「うん。申し訳ないのだけれど」
「ウソでしょ!?」
「いいえ。わたしも醫學を修める。噓は言いませんよ」
暖斗は、けないベッドの上で首を振る。必死の形相だ。
「ちょっと待ってよ。いきなりすぎだよ」
「説明は省くと言ったから‥‥‥」
「省きすぎだって!! じ、じゃあ、治らなくっていいよ! それやるくらいなら!!」
逢初依は困り顔を作り、弟に諭すように、さらに顔を近づけた。
「そうもいかないわ。この戦艦で正パイロットは咲見くん1人。早く回復してもらわないと、みんなが困っちゃうし、あなたを治すこと、それがわたしの職責だし。それにまた、Botが出たりするかもよ?」
追い詰められた暖斗が、絶した。
「だってその飲み、ほ瓶とミルクじゃないかあああぁぁぁ!!!」
「‥‥‥‥」
依は困った顔のまま沈黙していた。絶してからしして、まわりが見えてきた暖斗が、頭に浮かんだある疑問をここで口にする。
それは恐ろしい質問だった。
「あれ‥‥、僕は今、その『後癥』ってヤツで首から下がかないんだよね?‥‥‥‥一、‥‥‥‥一、どうやって、そのほ瓶でミルクを‥‥‥‥飲む‥‥と?」
それまでその、からこぼれ落ちそうな黒瞳で暖斗を正視していた依が、はじめて目を逸らした。見れば、彼は不安げに髪をさわり、消えらんばかりに顔を赤らめている。
そして、うつむいて、
消えそうなほどのかすかな聲で、
こう囁いた。
「‥‥‥‥‥それは、‥‥‥‥‥わたしが」
※ 本気か!? ほ瓶はマジ無理! というそこのアナタ!!
ここまで、この作品を読んでいただき、本當にありがとうございます!!
ブックマーク登録、高評価が、この長い話を続けるモチベになります。
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Twitter いぬうと ベビアサ作者 https://twitter.com/babyassault/
Twitterでの作品解説、ネタバレ、伏線解説、ご要があれば。
包帯の下の君は誰よりも可愛い 〜いじめられてた包帯少女を助けたら包帯の下は美少女で、そんな彼女からえっちで甘々に迫られる高校生活が始まります〜
雛倉晴の通っていた小學校には、包帯で顔を覆った女の子――ユキがいた。小學校に通う誰もが一度もユキの素顔を見た事がなく、周囲の子供達は包帯で顔を覆うユキの姿を気味悪がって陰濕ないじめを繰り返す。そんな彼女を晴が助けたその日から二人の関係は始まった。 ユキにとって初めての友達になった晴。周囲のいじめからユキを守り、ユキも晴を頼ってとても良く懐いた。晴とユキは毎日のように遊び、次第に二人の間には戀心が芽生えていく。けれど、別れの日は突然やってくる。ユキの治療が出來る病院が見つかって、それは遠い海外にあるのだという。 晴とユキは再會を誓い合い、離れ離れになっても互いを想い続けた。そして數年後、二人は遂に再會を果たす。高校への入學式の日、包帯を外して晴の前に現れたユキ。 彼女の包帯の下は、初めて見る彼女の素顔は――まるで天使のように美しかった。 そして離れ離れになっていた數年間で、ユキの想いがどれだけ強くなっていたのかを晴は思い知る事になる。彼女からの恩返しという名の、とろけた蜜のように甘く迫られる日々によって。 キャラクターデザイン:raru。(@waiwararu) 背景:歩夢 ※イラストの無斷転載、自作発言、二次利用などを固く禁じます。 ※日間/週間ランキング1位、月間ランキング3位(現実世界/戀愛)ありがとうございました。
8 95乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】
【TOブックス様より第4巻発売中】【コミカライズ2巻9月発売】 【本編全260話――完結しました】【番外編連載】 ――これは乙女ゲームというシナリオを歪ませる物語です―― 孤児の少女アーリシアは、自分の身體を奪って“ヒロイン”に成り代わろうとする女に襲われ、その時に得た斷片的な知識から、この世界が『剣と魔法の世界』の『乙女ゲーム』の舞臺であることを知る。 得られた知識で真実を知った幼いアーリシアは、乙女ゲームを『くだらない』と切り捨て、“ヒロイン”の運命から逃れるために孤児院を逃げ出した。 自分の命を狙う悪役令嬢。現れる偽のヒロイン。アーリシアは生き抜くために得られた斷片的な知識を基に自己を鍛え上げ、盜賊ギルドや暗殺者ギルドからも恐れられる『最強の暗殺者』へと成長していく。 ※Q:チートはありますか? ※A:主人公にチートはありません。ある意味知識チートとも言えますが、一般的な戦闘能力を駆使して戦います。戦闘に手段は問いません。 ※Q:戀愛要素はありますか? ※A:多少の戀愛要素はございます。攻略対象と関わることもありますが、相手は彼らとは限りません。 ※Q:サバイバルでほのぼの要素はありますか? ※A:人跡未踏の地を開拓して生活向上のようなものではなく、生き殘りの意味でのサバイバルです。かなり殺伐としています。 ※注:主人公の倫理観はかなり薄めです。
8 125最果ての世界で見る景色
西暦xxxx年。 人類は地球全體を巻き込んだ、「終焉戦爭」によって荒廃した………。 地上からは、ありとあらゆる生命が根絶したが、 それでも、人類はごく少數ながら生き殘ることが出來た。 生き殘った人達は、それぞれが得意とするコミュニティーを設立。 その後、三つの國家ができた。 自身の體を強化する、強化人間技術を持つ「ティファレト」 生物を培養・使役する「ケテル」 自立無人兵器を量産・行使する「マルクト」 三國家が獨自の技術、生産數、実用性に及ばせるまでの 數百年の間、世界は平和だった………。 そう、資源があるうちは………。 資源の枯渇を目の當たりにした三國家は、 それぞれが、僅かな資源を奪い合う形で小競り合いを始める。 このままでは、「終焉戦爭」の再來になると、 嘆いた各國家の科學者たちは 有志を募り、第四の國家「ダアト」を設立。 ダアトの科學者たちが、技術の粋を集め作られた 戦闘用外骨格………、「EXOスーツ」と、 戦闘に特化した人間の「脳」を取り出し、 移植させた人工生命體「アンドロイド」 これは、そんな彼ら彼女らが世界をどのように導くかの物語である………。
8 83ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~美人ヴァイオリニストの橫顔、その陰翳が隠す衝撃の真実
ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生シリーズ6作目です。 兄は……本當は俺のことをどう思っているのだろう? たとえ半分しか血がつながっていなくても、ずっと優しくしてくれた。 その意図に裏なんてないと、ずっと信じてきた。 でも、今はもう真実がわからなくなってきた……。 優しかったはずの異母兄が、本當は自分を疎んじていたことを知った藤江周は、ある日、義姉の口から自分の出生の秘密を知らされることになる。 なんとしてでも義姉を兄と離婚させ、本當に好きな男と結ばれるようにしてやりたい。 そう考えたが、現実は思うようにならない。 そんな折、義姉の実家が経営する溫泉旅館『御柳亭』が廃業の危機に追い込まれていることを知る。なんとか経営を立て直すことができないだろうかと、周が和泉に相談したところ、知り合いの會計士を紹介してくれる。 その會計士は旅館従業員の中に橫領犯がおり、その不正が経営を圧迫していることを突き止めるが、真相に迫るにつれ、命を狙われるようになる。 一方そのころ、宮島の紅葉谷公園で白人男性の他殺體が発見される。被害者は結婚詐欺師として捜査2課がずっと追っていた人物だった。 警察は詐欺被害者の內の誰かが犯人だと考え、捜査本部を設置するが、判明している詐欺被害者達には全員、アリバイがあった。
8 131始創終焉神の俺、異世界を満喫する!
神々を造り出した最古の神である俺、覇神魔王 竜鬼(はしまの りゅうき)はある日反逆した神達に殺された。そして異世界へ飛ばされてしまう。しかし自分の作った神が始めて反逆してくれたことに喜んでいた竜鬼は、異世界を満喫することに!?圧倒的な力で反逆者からの刺客を倒しながら世界を変えていく、彼の伝説が始まる… 処女作になりますゆえ、暖かい目で見ていただけると幸いでございます。投稿は速くするよう心掛けますが、不定期で投稿させていただきます。また、この作品では神の數えかたを一人、二人,,,とさしていただきます。よろしくお願いいたします。
8 187都市伝説の魔術師
ゴールデンウィークが明け、六月。『事件』後、家族と仲睦まじく暮らしていた柊木香月とその妹夢実。 彼の本業である學生生活と、『裏の仕事』も順風満帆に進んでいた。 彼の裏の仕事は魔術師だった。それも魔術師として優秀な存在であった。 最強の魔術師にも弱點はある。 「私は……仕方がない。都市伝説に『殺されても』仕方ないのよ……!」 「そうであったとしても、罪を裁かれようとしても……女性が涙を流している。それだけで助ける理由には充分過ぎると思うのだが?」 魔術師柊木香月は都市伝説から彼女を守るべく、取った行動とは――! 「……どうしてお兄ちゃんは毎回のように女の子を助けてくるのかな? もうこれで數えきれない程の回數なのだけれど。お兄ちゃん、慘殺か虐殺、どっちがいい?」 「ちょっと待ってくれ夢実! いつから君はヤンデレになったんだ! 頼むからそのコンパイルキューブを仕舞ってくれ! なあ!? 頼むから!!」 現代に生きる魔術師とその爭いを描く、シリーズ第二弾登場!
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