《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第9話 右手Ⅱ①
逢初(あいぞめ)依(えい)さんに、スプーンでミルクを飲ましてもらいながら僕は、相変わらず彼のピンクのエプロンが、僕の肩に當たりはしないかと気にしていた。
「あ、暖斗(はると)くん。今暖斗君が飲んでるミルクって、一応『ミルク』って呼んでるけれど、
絋國軍特製のMK(マジカルカレント)後癥候群回復用のスペシャルサプリメントなんだからね?」
一応、ミルクを口に運んでもらう作業は、大分彼と息があってきた。もう「ハイ、いち にの さん」と聲をかけなくても飲めるくらいに。
だけどそうは言っても、スプーンが來るタイミングに集中しているから、返事ができない。かわりに目配せと眉のきで返事をするルールになっている。
僕は、YESの意味で両目を1回閉じる。
「うん。運営の人が、出航前に沢山積んどいてくれたんだよね。こうなることを分かってたのかな? 戦艦なのにお菓子もたくさん積んであったし」
そう話す彼とは、ギリギリ絶妙には離れている。
「でも足りないも出てきたんだよ? だって、験乗船は6日間の予定だったでしょう? 例えば替えの下著とか。あとは‥」
「‥‥ぶほあ!」
「あ、‥‥‥ごめんなさい! ‥‥‥またしても今のはわたしが悪いよね」
盛大にミルクを噴いた僕に逢初さんはペコリと頭を下げると、急いで首回りを拭いてくれた。
「今回は、前かけがあるから被害がないよ。よかった。やっぱりこの子は優秀です!」
‥‥なんて彼は言っているが、やっぱりこの娘は天然だ、と僕は再認識した。
どうしようか? 今後のためにもツッコミをれた方がいいのかな‥‥‥‥。なんて逢初さんの顔を見て考えていたら。
「何か変?」
彼が言った。目を伏せている様に見えるけど、なぜか僕の目線やきは彼には丸見えみたいだ。
「どう? こうするのは2回目だけれど、慣れたかな?」
「こうする」というのは「ハイ、あ~ん」の事だ。僕は、眉をしかめてNOのサインを送る。
「そう。実はわたしも慣れてないよ。さんざん、姪っ子たちのミルク係をやらされたのに、まさか同級生の男の子に、だもんね。ふふ。」
逢初さんはし、はにかんで笑った。彼の笑顔を見ながら、僕は思い出していた。
50年前、僕らの世界を、未知のウイルスが襲った。
新型サジタウイルス。
たくさんの人が亡くなったって聞いた。特に男の人。
死亡率はの人の倍だったって。で、3年くらいして、そのサジタウイルスの流行は何とか収まった。今でもたまに染者が出たってニュースになるけど、弱毒になってるから、基本大ごとにはならない。
けど、その後、この國――絋國で起こった事は大変だった。
男子が生まれない。
男子が、とにかく生まれてこない。生まれたとしてもたまにしか。
僕の中學のクラスは男子10人子30人、だけどだけ、子40人のクラスもある。
どうしてそうなっちゃったかは未だにわからない。
わかってたら、國とかが何とかしてるよね。とっくにさ。
民族の違い、流行った変異株の違い、打ったワクチンの違い、専門家の偉い人達はいまだに々言ってるけど、とにかく50年、この狀態が続いてしまっている。
あ、周りの國は、またそれぞれ狀況が違うらしいよ。よくは知らないけど。
僕のひいおばあちゃんがたまに僕に愚癡るんだけど、絋國は昔男平等の國だったんだって。々問題はあったらしいけど、なくとも「男平等」の看板を掲げていた國だったんだって。
でも、アフターサジタで男の子ばっか大事にされて、今どきの男の子はみんな威張っていて良くないって。暖斗はそんな風にはなるな、ってよく言われたよ。
たまに麻妃(マッキ)とかが、
「ウチら『ひと山いくら』のセール品だし」
とか、
「ウチらが死んでも代わりの子はいるっしょ?」
とか言うから、今どきの子の方が、今のこの狀況をけれちゃってる。またそれを見てひいおばあちゃんが口をモゴモゴさせるんだけど、しょうがないよね?
だってどうしようもないんだもん。男子がないのは。ただ、こんな僕にも、自分の意見みたいなのはあって。
前にも1回言ったけど、それは。
「暖斗くんは何で、この艦に?」
逢初さんに話しかけられて、僕の考え事は途切れた。
「ああ、僕の場合は‥‥‥この乗艦が兵役としてカウントできるから。まさかメンバーが男子1人だとは思わなかったけどね」
「じゃあ、將來はDMT(デアメーテル)のパイロット?」
「まさか!! 軍隊は何とか回避したいよ。父さんみたいな研究者なら‥‥‥‥いや、ゴメン。僕は何も考えて無いんだよ。ホントは。逢初さんみたいにもう目標持って々取り組んでいるって、すごいと思う」
「あれ、なんかほめられちゃった? 暖斗くんに」
「でも、逢初さんの目標はガチすぎて、ほんのちょっとだけ引いたけどね」
「あ~、ひど~い。わざと上げといて下げるなんて。ふふ。」
ニコニコと笑う彼の笑顔を見ながら、僕はまぶたが重くなるのをじた。
「あと、正式にはね。DMTの縦士は『ケラメウス』って言うんだって‥‥」
このセリフを彼に言ったはずだけれど、ウトウトしていて記憶がない‥‥。
僕はこの後、寢落ちしてしまったようだ。
だけど、この後、逢初さんが、僕にこんな事をするなんて、思いもしなかった。
あ、それは、し後になってわかる事なんだけど。
※え? 逢初さんが暖斗くんに? 何すんの? 何すんの? というそこのアナタ!!
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