《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第13話 重婚制度①
醫務室は、まだ朝だというのに、例によって夕暮れの様な照明だ。早朝の出撃で朝飯を食べ損ねた僕は、またここで朝食の代わりにミルクを飲む羽目になった。
「そう言えば暖斗(はると)くん。今日は『宴』をするらしいよ」
「宴? パーティみたいなヤツ?」
「そう。わたしたちだけでこの戦艦(ラポルト)をかして、もう9日でしょう? そろそろ息抜きみたいなも必要じゃないかって」
「ふ~ん」
「今日までの3回の戦闘で、このエリアのBotは掃空できたらしいし、敵に見つからないすごくいい停泊ポイントがあるんだって」
逢初(あいぞめ)さんは溫めたタオルで首やを拭いてくれている。「宴」があるからなのか、いつもよりニコニコしている気がするが。
足もとに転がるがあった。
「何それ」
「あ、ごめんなさい。角薬瓶が」
「どしたの?」
「朝、艦が回避運したでしょう? わたしドジだから、醫務室全然片付けてなくて、が落ちまくりだったの」
僕の自室と一緒だよ、と。
それを打ち明けて、2人で笑いあった。
「あ~。どうしようかな。言おうかな?」
「何? どうしたの?」
「う~ん。うふふ」
「何さ」
「え~。だって」
彼は含み笑いをしながら、を左右に振り始めた。白セーラーの上に羽織った白が、揺れる。
「暖斗くん。寢起きで出撃したでしょう? 目が、‥‥‥ほら」
タオルの端が目元をかすめた。
「汚れてるよ。洗わずに行ったから。かな」
「‥‥そりゃあ、そんなヒマ無かったよ」
ばつの悪そうな顔をした僕を見て、逢初さんは、あはは、と笑った。足をパタパタさせて。僕の表にツボったみたいだ。
「でしょうね。だからとがめたりはしてないでしょ? 早朝の出撃ご苦労様」
ひとしきり笑った後、彼はペコリと頭を下げた。相変わらず顔が近いので、前髪が僕の頬にぐいっと近づく。
‥‥‥‥やっぱり、いつもより會話がスムーズな気がする。あ、お互いこの狀況に慣れて、「打ち解けて」きたのかな。逢初さんだって、最初すごい、ほ瓶でミルクの時は恥ずかしがってたし。
そうか。そうかもしれない。
「逢初さん。そう言えば、この艦全然スピード出さないよね。たしか子さんが、『DMT(デアメーテル)1機しかないから慎重にいく』とか言ってて」
「そうよ。エリアごとに安全確認しながら進むって方針。でも、この先のエリアには、村があって、そこで食料や資材調達もできるらしいよ」
「村」と聞いて、僕はを乗り出した。首から下はかないんだけど。
「村? 集落? 同い年の男子いないかなあ!」
「あ~。殘念。迎え婚タイプのだけの村、らしいよ」
「そうですか‥‥‥‥」
僕はがっくり肩を落とした。けないけど。
「でも、暖斗くんには、そこでいい出會いがあるかも知れないよ。『運命の人』とか。うふふ」
「それってさあ。子はよく言うよね。いわゆる白馬の王子様、みたいなの。その、運命の人って出逢ったらわかるの?」
彼は、口に手をあててし首をかしげた。
「きっとわかるんじゃないかなあ、たぶん」
「たぶん?」
「たぶんだよ? だって、わたしだって、そういう人に出逢ったことないもん。『わあ、この人がわたしの運命の人だあ、ついにキタ!!』って思った経験ないもん」
「――――そうか。イヤ、そうだよね。僕だってまだ14年しか生きてないのに、もう出逢ってる方がおかしいか。まだ、これから、んな人と出合うんだろうしね。まあ、ゆっくりでいいや僕は」
「ちなみにわたしはまだ13年しか生きてないよ」
「あ。そうなんだ。誕生日まだ? 何月?」
「9月」
「9月。あ、そ」
「うん」
「‥‥‥‥來月だ」
「‥‥‥‥うん」
ミルクの用意ができたので、また、いつものように飲ませてもらう事になる。
彼はその華奢な左手を、すうっと首後ろにり込ませてくる。首がくと、MK(マジカルカレント)後癥候群を発癥中の僕が、なからず痛がるから。
もう何回もやってもらってるけど、すごく優しい左手だ。
「よいしょ」
けない僕をし自分の方へ引き寄せると、右手にスプーンを持って、口もとへそっと寄せてきた。
「でもさあ」
飲み終わり、口を開いたのは僕だった。
「『運命の人』に出逢えたとして‥‥、あ、さっきの話だよ。その後の人生で、それ以上にすごい人と出逢う事ってあるのかなあ」
「何? 急に」
「いや、ちょっと待てよ‥‥。大人って、だいたい25才までに最初の結婚するじゃん? でも人生は100年。後の75年で、もっとすごい人に出逢う確率の方が多くない?」
彼は、スプーンを一旦置いて、思案顔。
「それは、確率論で言えばその通りよ。でも、でも、しょうがないじゃない。の子は1人としか結婚できないし、ただでさえ男ないから、すっごい競爭率なんだからね? もう、この人だって思った時に行くしかないじゃない」
「逢初さんもそうするの?」
「‥‥‥‥前に言わなかった? わたし、結婚はしないって」
あれ、し怒ってる?
「大丈夫でしょ。男の人は『何回も結婚できる』んだから」
そのまま彼の姿は、2回目のミルクを作りにバックヤードに消えた。
「ね、暖斗くん」通路の向こうから聲だけ聞こえる。
「話題変えない? わたしはお醫者様になって、1人で生きてくの。その醫療つながりで思い出したんだけど、わたし、理學療法士と作業療法士の資格も持ってるのね。もちろん『わチャ験』だから、『準療法士』なんだけれども」
そう言えば、七道さんが言ってた。履歴書に書ききれない程の資格持ちだって。
「そのPTとOT‥‥あ、療法士の事ね。データ取りながら、暖斗くんの全マッサージをさせてほしいの。暖斗くんのメリットは回復が早まる可能があること。デメリットは、施の結果調の変化の可能があること。許可はとってあります」
戻ってきた逢初さんは、し他人行儀な気がした。
「逢初さんって、たくさん資格を持ってるって聞いてたけど、すごいね」
とりあえず會話を続ける。
「醫療系の資格はだいたい取ったよ。全部『わチャ験』だけど」
「整師とかは?」
「一応考えたけど、整師は実技が多いのよ。わたしはペーパーテスト専門だから、まだける予定はないよ」
「‥‥‥でもすごいね。僕なんか、將來の事なんて。まだ」
「それが普通。わたしがおかしいのよ。‥‥‥‥わたしね。高校行ったら、『大學検定』けるつもりなの」
「大學検定」。高校學と同時に、高校卒業見込みの學力の検定けるのか。
うわぁ‥‥‥‥と僕はガチでビビる。
「そうしたら、『社會人(おとな)』と見做(みな)されて、正式に各種資格が取れるでしょう。『わチャ験』みたいな、なんちゃって、じゃなくて。高校3年の1年間は醫學部験にあてて、1、2年の時間を10分割くらいして、使える資格を取りまくる予定を立ててるの」
まずもって凄まじい。――――と、ここでふと。
疑問が湧く。
「え、ちょっと待って。學校の授業は?」
「ちゃんとやってるよ。教科書読んでるし。暗記は家の家事の合間で」
「へええ‥‥‥‥」
なにか凄まじい話を聞いてしまった。彼の能力も凄まじいけど、その計畫というか、信念というか。この戦艦験乗船も、君の人生計畫の一部なんだね。すごい。
こんなにしっかり自分の人生を見つめてるなんて。
でもなんだろう。違和をじる。そう、將來の事を話す中學生(ぼくら)って、もっと目とかをキラキラさせながら話すよね? 彼にはそれがじられない。何か事が? なんて考えてたら、逢初さんの方から言ってきてくれた。
「暖斗くん。‥‥‥‥引いたでしょ。わたしこんな、ガツガツした子なんだよ。周りにも、『あまり高學歴すぎると結婚で苦労するぞ』って言われてて」
どうやら、ぼくが心してたのを、彼は悪くけ取ったみたいだ。上目でチラチラ、僕を気にしながら、申し訳無さそうに言葉を続けた。
そして、初さんが話してくれたのは、綿國ならではの――――
――――あの制度の弊害の事だった。
※「ん? 重婚に弊害? あってもシカトっしょ?」と思う そこのアナタ!!
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