《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第15話 宴Ⅰ①
「この車椅子って、どうしたの?」
僕が訊ねると、逢初(あいぞめ)さんはちょっとドヤ顔で答えた。
「これはね、この艦の備品なの。正確にはこの醫務室のね」
朝イチの出撃で、Botを見事撃破したものの、いつものお約束でMK後癥が出てしまった僕は、今日は1日中醫務室で過ごす羽目になった。夜になってもが全回復はしなかったので、こんな風に車椅子に乗っている。
そして、「宴」というちょっとした親睦會みたいなが、この戦艦「ラポルト」で催されるらしい。
時刻は19時20分。もうすぐだ。
「子は全員參加だよ。あんまり來ない整備班も來るそうだし、ね」
逢初さんもちょっと楽しそうだ。彼に車椅子を押されながら醫務室を出て、會場へと向かう。まあ、となりの食堂が會場なんだけど。
食堂からは、戦艦らしからぬ明るい音楽が、ジャカジャカ洩れてきている。
「お疲れ様です」
逢初さんと食堂へると、殺風景なはずのこの部屋が、とりどりの布やリボン、鮮やかなの花々で飾られていた。機は4つの島に固められ、その上には、久しぶりに見るお菓子やスナックが皿に盛られている。立食パーティみたいなじだ。
「え、ここが食堂?」
思わず聲が出た。――――んだけど、14人の子達がワイワイ騒いでいてそんな聲はすぐにかき消された。學園祭の出しそのものだ。
子達は、制服だったり、私服だったり、思い思いだった。本當は僕らが乗艦した時に支給された艦服があるんだけど、暑苦しいしデザインが子ウケが良くないので、誰も著たがらなかったよ。付屬中(ふぞく)の3人すら早々と制服に著替えていた。
「おっ! 暖斗(はると)くんが來たね~。車椅子か。みんなぁ! この艦唯一の男子が來たぜ~」
聲の主は岸(きし)尾(お)麻妃(まき)だった。會場の視線が一斉に僕に集まる。気恥ずかしいので麻妃(マッキ)に話しかけて場を切り抜けようとした。
「麻妃(マッキ)。何でマイクなんか持ってんの?」
「だってウチ、MCだも~ん」
そうだった。コイツは昔からこういうの率先してやってたキャラだ。
とりあえず常に何かしゃべってるから、こういう會にはうってつけだ。その麻妃が僕に話題を振ってきた。
「暖斗くん。今みんなに『この艦であったらいいなあ』って思うものを1個ずつ聞いてるんだけど~。なんかある?」
即答。
「僕以外の男子」
「あ~ね。だよね~。そんな男子の相棒がほしいさみしがりやの暖斗くん。男子は殘念いないけど、子の相棒はどう? いらない?」
――――何考えてんだ?
「‥‥‥‥ほしいって答えたらどうなるの?」
僕の答えに、麻妃は、大げさにに手を當てた。
「実はさ、聞いて回ったら、暖斗くんと話した事ないって子が結構いたんだよね。だからこの機會にどうかなって思って。ほら、畫であるじゃん? 一緒に住んだり旅したりして男がカップルになる企畫」
「‥‥‥‥」
僕は真顔で麻妃を呼び寄せる。
「‥‥いいよ。そんなことしなくても。気まずくなるじゃん」
「いや、暖斗くん。このままの方が気まずいって」
小聲で麻妃と、そんな會話としてたら、そこへ渚さんが近づいて來た。
「咲(さき)見(み)くん。私も含めてなんだけど、咲見くんの事をちゃんと知らないのよ。たぶん、
みなと第一(いっちゅう)でもそうじゃない? 子は男子に遠慮して引き気味でしょ? 咲見くんが『タメ口でいい』ってメールくれたけど、額面通りにけ取っていいのかわからないのよ、みんな。――――塞(さい)ヶ(が)瀬(せ)中とかは特にね」
渚さんは、そう言って一番向こうの子の集まりに視線を送った。たしかに、あそこにいる子達とは話をしたことが無い。
この験乗船の応募は1年前から始まった。始めは大人數から、徐々に絞られて。で、最終選考の手前くらいから、5~6人のグループに別れて課題発表とか、共同作業とかをしたんだけど、同じグループにならなくて、知り合わない子は結構いた。
僕はパイロット訓練でいっぱいいっぱいで、子の顔と名前を憶えるとか、そんな余裕無かったんだよね。
いや、ホントにだよ?
「その人たちを今から私がざっくり紹介するから、聞いといてね。あ、一度に憶えなくてもいいから、ね?」
渚さんがそう言って、會場の端からメンバーの紹介をしてくれた。麻妃はMCに戻り、逢初さんは、子さんとなにか雑談している。結団式とか事前合宿で自己紹介してるんだけど、確かに全部の顔と名前までは。
「あの、まっ黒い制服の子が2人、さっき言った塞ヶ瀬中學よ。合服の方が桃山(ももやま)詩(うため)さんでブラウス姿の浜一華(はまいちか)さん。菜摘をしていた子達ね。あそこはもう何年も男子が居ない、子校狀態なのね」
それは僕も知っていた。みなと市の一番南にある中學だ。南の最果てにあるから、「塞ヶ瀬(さいがせ)中」を「さいはて中」ってみんな呼んでる。
「私たちの國防大學校附屬中學(ふぞくちゅう)は、男子も多いし、みんな『軍人』みたいなノリで、子も男子に議論をしたりするんだけどね。塞ヶ瀬中は元々男子がなかったのに、3年くらい前に遂に1學年に4~5人になっちゃって。そうすると、その男子の父親達は、自分の子をちゃんと男子のいる中學に転校させよう、ってなっちゃうんだよね。もう、あっという間に男子がゼロになって、それから、そのまま」
「渚さん。最後の1人になった男子の気持ち、僕にはよ~~くわかるよ」
そう僕が言うと、渚さんにはウケた。
「あっはは! そうね。同じ境遇ね~。でも、子ばかりになった塞ヶ瀬中學の子達は、話す機會が無いから、男子に対して『怖い』ってイメージ持ってるのよ。咲見くんが、『怖くない人』か、『話せる人』かが、判らないから」
渚さんは片手で髪をかき上げた。まるで大人の仕草だ。
「やっぱり、子は男子に強く出れないじゃない? だから、咲見くん自から話しかけていけば、みんなタメ口になるんじゃないかしら?」
渚さんの言いたい事はよく判った。
「あそこの、ピンクのブラウスにグレーのスカートが周防(すほう)中學の3人、初島(はつしま)羽(みう)さん、來宮(きのみや)櫻(さくら)さん、し離れて泉(いずみ)花音(かのん)さん。初島さんと來宮さんは菜摘班、泉さんは艦の舵手よ。あともう1人の周防中學の仲谷さんは、調理擔當だから廚房にいるわね」
仲谷さんは判る。いつもご飯作ってるから。話した事はないけど。
「あそこで逢初さんと話してるのが莉で、まあ艦長だからもう知ってるわね。で、澪はっと? あ、お菓子だけ持って電脳戦闘室(エンケパロス)に引きこもったみたい。お菓子が切れたらまた出現するでしょ。あの子は、男子どころか、『人類全部苦手』だから」
お? 渚さんは紅葉ヶ丘さんの事を「澪」って呼んでたよね。紅葉ヶ丘學生、って呼ばないんだ。早速確認してみよう。
「今、『澪』って呼んでたよね。彼の下の名前?」
渚さんはすこしはにかみながら。
「――――そう、実は私達って、プライベートでは下の名前で呼び合ってのよ。ただ公式には何々學生、って呼び合わないといけなっくてね、附屬中的には。まあオンとオフよ」
と、ちょっと舌を出して言った。「軍人」みたいだと思ってた彼達も、話してみればやっぱり「僕と同じ14才なんだなあ」ってじた。と、同時に、こういう親睦會をやる意味も。
こういうのやった方が、たしかにうち解けるよね。
次に、私服――Tシャツにスカート(いつもの制服と同じ短さ)の折越さんが近づいて來た。と、いうより通りかかったってじか。僕は、昨日の朝食堂で會話したのを思い出しながら、軽く會釈をした。
‥‥‥んだけど、彼の反応は意外だった。
「暖斗くんはちなみの事キライなんでしょ? あたしだって暖斗くんの事キライになるからいいもん。じゃね」
「は?」
僕は意味が判らずポカンとする。なんだ? あれから何もしてないけど、何があった?
プイ!
っとわざとらしく顔を逸らして去っていく折越さんを見てたら、後ろから背中をばっちんと叩かれた。
七道さんだった。その後ろには整備班の殘り2人もいる。
「おう、お疲れ」
「あ、七道さん、今の見てた?」
「あれな。安心しろ暖斗くん。私が折越に『ハナシ』しといたから。暖斗くんに変な事言うんじゃないってね」
あ、そういう事か。
「他の子からも、『ちょっと男子に何言ってんの?』というクレームがった。ったく、商業科の連中ときたら」
後ろの2人も、うんうんと頷いてる。
つまり折越さんは、七道さんに説教されて拗ねてる訳だ。ちなみに七道さんが、さっきやったみたいにわざと子っぽい聲音を使うと、その下の名前「璃(り)湖(こ)」の名の如く、意外とかわいい。
でも、あのまま本當に、折越さんのわき腹のホクロを見せてもらってたら、どうなってただろうか?
まあ、他の子全員引くだろうから、失うの方が多いか。
「ま、すぐにまたからみに來るよアイツは。復活早いから」
と、七道さんは言った。
いや、気にしてないし。
そして「宴」は続いていく。
※「折越さんの復活って需要あるんかな‥‥?」と思った そこのアナタ!!
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