《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第17話 浜さんと桃山さん②
そう言われて僕は驚くが、桃山さんはまたまぶたを閉じた様にしたままニッコリ笑う。
「あの子、あんな風に素気ないんですけど、打ち解けたらすっっごくいい子なんです」
あ~、子が子を評して「カワイイ」「いい子」と言ったら70%地雷案件だって先輩が
言ってたけど、どうなんだろ?
取りあえずこの、僕の目の前にいる桃山さんとは話しやすくて、彼はウソを言うようなじではない、って事は判るけど。
「咲見さんの家って、駅の近くなんですか?」
「うん、歩いて20分くらいのトコかな」
「いいですね~。うらやましい。私達さいはて中の方はな~んにもないから。あ、だから服買う時には、よく駅前とか行きますよ。商店街とか」
「その商店街からちょっと行ったところに、『シェ・コアラシ』ってケーキ屋さんがあってね。僕もそこに通ってるんだ。週一で」
「え、咲見さんとケーキ? なんか意外~」
「あの辺はスイーツ激戦區でね」
「はいはい。よくノスティモでも特集してますし。オシャレで味しいお店がいっぱい♪」
「よかったら教えるよ。味しいお店」
「それマ!? やっった! 是非お願いします!! 私‥‥といちこで是非」
桃山さんは手で口を押さえてケラケラ笑った。その度に彼の、栗のポニーテールが踴るように跳ねた。量がないから、滝の様に下にすらりと落ちてるじだ。
――――でもなんだろう?
この子となら何時間でもこうしてしゃべっていられる気がする。彼の表の向こうにチラチラ見える、つやつやのポニーテールを見ながらそう思ってたら。
浜さんが無言で戻って來た。機の下で桃山さんが手招きしてる。浜さんを急かすように。角度的にこっちから見えちゃったよ。浜さんは無表のままストン、と椅子に腰掛けた。
「いちこもほら、咲見さんに聞きたい事あったでしょ?」
目を逸らして固まったままの浜さんを見て、‥‥そういう事に鈍な僕も、何となくわかってきた。
この桃山さんは、「親友を応援したい子」で、この浜一華さんは、事前研修の時に確か‥‥同じ班になった‥‥気がする。
う~ん。
僕がいつも學校でつるんでるのは、いわゆる「非モテ系」だからなあ、そして僕自も。こういう時どうしたらいいか解らない。
まあ、そもそもこの予想も僕の妄想かもだし、友達に相談するにも――――男子いないしなあ。
「いちこぉ。訊きたい事あるでしょおぉぉ」
溫厚っぽい桃山さんが焦れだしてる。彼にとっても親友の直ぶりは予想の斜め上なんだろうか?
「‥‥‥‥‥‥あ、さ‥‥咲見さんの家って、集中方式(セントラル)なんですか?」
さんざん親友に促されて言った、渚さんの第一聲はこれだった。
「‥‥‥‥ちょ? ‥‥‥‥い‥‥!?」
桃山さんの顔からの気が引くのがここからでも分かった。
「ちょっ!! ア、アンタ何言ってんの! あ、いや、咲見さん。ごめんね。この子変な事言って。あはははは。やだもう。あはははは」
コミュ力高めの桃山さんでも困ってしまってるね。
「ああ、大丈夫。えっとウチは確かにセントラル方式だよ。異母姉(ねえ)さんや同母妹(いろも)達がガヤガヤしてて。でもまあ楽しいかな」
「ご‥‥‥ごめんなさい」
浜さんは直ぐに頭を下げた。本當に申し訳なさそうにしてる。桃山さんの言う通り、確かにいい子なのかもしれない。
「ごめんなさい。咲見さん。ほんとにほんとに」
桃山さんにも謝られた。
重婚制度が始まってもうすぐ50年、まだ歴史が淺いのか、どの家でもやっぱりお嫁さん同士の距離が微妙だったりする。でもプライベートだし、そういうの聞くのは良くない、って空気になってるんだよね。
ちなみに、「集合(セントラル)方式」は、4人の妻を一か所に集めて住んでること。それとは別に、奧さんを別々の家に住まわせて、父親がその家に通う「通い婚(コミュート)方式」もある。逢初さん家とか。
あと、その2つの複合型。そうなるには々おのおので家庭の事があるから、聞いちゃダメよってよく母親が言ってた。母親同士じゃあ、井戸端會議の絶好のネタなんだけどね。
あと、セントラル方式って、ある程度父親にお金が無いとできないみたいで。
だから、浜さんの発言は、初対面の人にいきなり
「アンタ、金持ちなんだってな、いい家に住んでんだろ?」
って言ったニュアンスに近い。
そりゃあ桃山さんも慌てる。
「いやあ、どうなるんだろうね、僕の代には。親が隠居するなら今あるセントラルを貰うけど、新しく作るじかな。でもひいおじいさんの家もあるしなあ。今時みんな80歳くらいまで余裕で働くじゃん?」
あらためて3人で雑談した。確かに浜さんは、慣れてくると普通に話す。
「さ、咲見さんは、やっぱりお嫁さんは4人なんですか?」
「こら、いちこ、その質問も踏みこみ過ぎ」
「うるさい、うたこ。さ、咲見さんがいいって言ってるし」
「あ、ぜんぜん大丈夫。でも、結婚かあ、正直この前まで小學生だった覚だから、ヨメとか言われても、ねえ?」
「い、いえ。お言葉を返すようですが、18歳で結婚できます。あ、あと4年です。もう、運命の人と出逢っててもおかしくないです。はい」
「あっはは。うたこエンジンかかってきた。けど前に出すぎ~」
「あと4年かあ。正直運命の人とかってよくわからないんだよね」
「そ、そんな事ないです。子化対策省では若人のペアリングを促進する數々の制度があります。ま、まずはカノジョです」
「子化対策省?」
「あー咲見さん。うたこは親が労務士なんで。ちょいちょいこういう話題を」
「あ~ね。男子としては、國からの『早くを固めろ。そして男の子寶を』みたいな圧をじるよ。でもさ、今こうやってそういうのを話題にして子と話すのも初めてくらいでして」
「マジですか? やっぱり男の子は余裕ありますね。いいなあ。子はもう売れ殘る心配しかないですよ。はあ。競爭率がヤバいですから。あはは。で、咲見さんのカノジョ候補、岸尾さんとか‥‥‥‥どうなんですか?」
と、桃山さんが聞いてきた。浜さんと目配せする。
「麻妃(マッキ)? あいつは馴染みだよ。兄弟より兄弟っぽいというか」
「じゃあ、逢初(あいぞめ)さんは?」
「逢初さん‥‥‥‥?」
僕の脳裏に、オレンジの照明に浮かぶセーラー服と白がよぎる。
「同中學(おなちゅう)で同じクラス、醫務室でも一緒が多くて、赤ちゃんみたいにお世話されてるんですよね?」
「赤ちゃんみたいじゃね~し! お世話は不可抗力だよ。知ってると思うけど」
やっぱり、醫務室でのあの數々の行為を、他の人が知ってるというのは恥ずかしい。できれば僕と逢初さんとの2人だけのにしてしかった。
あ、そういえば。
「逢初さんはね。なんか結婚とかしない予定って言ってたよ」
「ほ、本當ですか!?」
大聲で答えたのは浜さんだった。
「うん。あの子は醫者になるとかで、結婚せずに生きてくんだって」
「「ふ~~~ん」」
2人の子は僕の目の前でぴったりシンクロしてから、笑いあっていた。
そろそろ時間だ。僕は席を立つ。
「あ、咲見さん」
桃山さんに呼びとめられた。2人は足をそろえて僕の前に立つと、せ~の、でこの臺詞を言った。
「「あの、あらためて! ‥‥咲見さんのこと、暖斗くん、って呼んでもいいですか?」」
もちろん、僕はこう答える。
「うん。気軽にそう呼んでよ」
‥‥‥‥と、言ったところで、食堂中の視線が僕に集まっているのに気付いた。初島さん、來宮さん、泉さん、廚房から仲谷さんも顔を出して、僕を見てる。
浜さんが、にこっと笑った。ちょっとぎこちないけど、初めて見る、この子の笑顔。
そして、桃山さんとふたりで。
「「じゃあ、さっそく暖斗くん。赤ちゃんイジリして、いいですか?」」
良かねーよ。やめろし。
※「いや、子と絡めるなら容は問わない」という そこのアナタ!!
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