わたしが、4歳くらいの頃ね。みなと市に、とある『家』がありました。その家には、お父さんとお母さん、あと3人の娘が暮らしていました。あ、その3人の娘の一番上が、わたしね。

わたしは、語り出した。暖斗くんに向けて、「右手」の思い出話を。

お父さんは、普通に重婚してて、わたし達の家の他にも2つ家庭を持ってて、――「コミュート」。通い婚方式なの。だから、わたし達の家に來るのは、月に７日間ぐらいだったのね。

それで世間一般の家庭と同じように、普通に暮らしていました。

でも、それが続いたのはわたしが4歳になるくらいまでだった。

「第四席(ラスト)」のお嫁さん、若い人とお父さんが一緒になってから、ウチに「帰って」くることがなくなったの。月に3日くらいになっちゃった。

それで、わたしのお母さんは、ちょっと疲れてしまって‥‥‥‥、まあ、重婚ＯＫの絋國あるあるで、ありふれたお話なんだけど。

その、々と大変になっちゃったのね。

そうね。詠夢(えむ)――１番下の子ね――が、泣き止まないのは、1番上のお姉ちゃんのせいになっちゃったりして。でも、わたしも當時5歳だし、「こういうなのかな？　わたしが悪いのかな？」って、深くは考えなかったんだけど。

で、その、お父さんの4番目のお嫁さんが妊娠して、男の子が生まれたの。お父さんすごく喜んでた。5歳くらいの時って、親が喜んでるとつられて喜んだりするよね。お父さんが

「バンザ～イ！」

って何回もやるから、わたしも同母妹(いろも)達と一緒に

「ばんざ～い！」

ってやって。お父さんホントに嬉しそうだった。

まあ、その「嬉しそうなお父さん」を見たのは、その時が最初で最後、みたいなじなんだけど。

第二席(セカンド)でも異母弟(おとうと)が生まれてたんだけど、結局、第四席(ラスト)のお嫁さんの家が「本家」になって、お父さんはますますウチには帰って來なくなっちゃったの。

「待の男子が生まれたんだから、仕方ないよ」

とか、おばあちゃん、あ、母方のね、が、お母さんをめてくれたんだけど、月1回帰って來るかなあ～、ってじになっちゃって。お母さんの心のキャパを超えてしまったのね。

同母妹(いろも)達が‥‥わたしもだけど、

「今日はお父さん帰ってこないの？　ねえねえ」

って聞くたびに、お母さんは、

「あなた達が男の子じゃないからよ。誰か1人くらいそうなら良かったのに」

って。

「逢初(あいぞめ)さん」

暖斗くんに聲をかけられた。

「大丈夫？」

わたしは驚いた。別に大丈夫、だけれど？

「なんか、ちょっと表が」

心配してくれた。

「そ、そう？　自分では、特に自覚ないけど。そんなに変なしてたかな？」

もともと、暖斗くんの右手をマクラにしてたわたしの、釈明會見みたいなこの昔話だし。もともと、もう泣いてしまったから、ひどいになってるのだろう。

「ごめんね。前置きが長くて」

「いいよ。そこから話さないと、なんでしょ？」

「うん。」

わたしは無理して笑顔を作った。

でも上手く笑えた自が無い。

「わたし‥‥‥こういう家の子よ。がっかりした？　暖斗くんの昔話に出てきた、6組の鳴沢さん家の狀況に近い‥‥。父親に顧みてもらえない母子は、々と肩が狹くて。暖斗くんのお家とは雰囲気がずい分違うでしょ？　きっと。わたしは暖斗くんが思ってる様な優等生でもないし。績良いって言ってもせいぜい學年10位だし、ね」

本當はあまり話したくない、「右手」の話。

でもここからが「右手」の話。

それは、わたしが5歳の、ちょうど今くらい、初夏の季節でした。

あれから――異母弟(おとうと)が生まれてからは、本當にお父さんは月1で來るか來ないか、になっちゃったんだけど、まあわたし達　母子(おやこ)は、何とか暮らしてたのね。

でもその日は、本當に久しぶりに、お父さんがウチに「帰って」くるって連絡があったんだって。まあ今思えば、お父さんも世間を考えてとか、そんな理由なのかもしれないけれど。

それでもお母さんはすごく喜んで。わたし達もすごく喜んで。

お母さんは張り切ってお料理をたくさん作って、わたしは、はしゃぐ同母妹(いろも)達をなだめたり、部屋のお片付けをしたりしてたんだけど。

ウチにはあんまり大きなテーブルって無いんだけどね、そのテーブルにお料理を目いっぱい並べて、

「お父さんが帰って來るまで食べちゃだめよ。ちゃんと待ってるのよ」

「は～～い！」

ってね。

え？　フラグ？　違うよ。待ったけど。お料理冷えちゃったけど、お父さんちゃんと帰ってきたよ？　その日はね。

で、本當～～に久しぶりの一家団らん。みんなで「いただきます」して、「ごちそうさま」して。テレビ見ながらお父さんはゴロゴロしだしたんだけど、その時なのね。

あの時、お父さんは上機嫌で、あお向けに寢てたの。お父さんから見て左側にお母さんが座ってて、お母さんがわたしに、

「依(えい)、麥茶だけ冷蔵庫」

って言ったから、わたしは言われた通り麥茶を冷蔵庫にしまったのだけれど。

それがちょっとした運命の分かれ道でして。

あ、運命は大げさかなあ。

わたしが戻ると同母妹(いろも)達がお父さんにじゃれついてて。わたしも！　って思ったんだけど、お父さんの右側のいい場所――腕とか板の辺り――はもう2人に取られてしまって。

左側はお母さんが座ったまま、お父さんと何か々お話してるから‥‥‥、それにお母さんがすっごく楽しそうなのが、5歳のわたしにも分かったのね。この2人の間に割ってるのはできなかったのね。

で、わたしはお父さんの右側をウロウロして、

「どうしよう。わたしもお父さんにくっつきたいのに！　朝になったら、お父さんいなくなっちゃうのに！」

って焦ったんだけど、同時に思ったことは。

「いつものことだなあ、いつものこと。わたしさえガマンすればいいんだ。わたしさえ」

なのね。

あの家では、わたしは母親ののけ止め役で、同母妹(いろも)達のお世話係。あ、ちなみに今はそれに夕食係も加わったよ。お母さんは働いてるから。

戦艦(ラポルト)に乗って良かったことは、あの家の家事としがらみから抜け出せたことかな。一時的だとしても。

あ、ごめんなさい。話が逸れました。

とにかく、わたしさえガマンすれば、あの家は何とか廻るのよ。第一子長って損だよね。つくづく。

この時も、お母さんに遠慮して、同母妹(いろも)達に先を越されて、わたしのお父さんなのに、わたしが甘える事ができる場所は――――もう無くて。

だから、いつもみたいに、しょうがない、わたしさえガマンすればいいんだって考えて、‥‥‥‥考えようと必死にしたんだけど、‥‥‥‥やっぱりさみしかったよ。今でも憶えてる。

ああもしかして、この世界にわたしの居場所って無いのかな、なんて考えてて。お父さん占拠された時もそう思って。5歳ながらに涙をこらえてたの。

そうしたら‥‥‥‥！

その時発見したの。わたしのお父さんって、寢てる時に「右手」の手のひらを上にして寢るんだってことを。

そう！！　暖斗くんと、同じクセ。

久しぶりに會えたお父さんの、わたしに許されたふれあえる場所は、そこだけで。

わたしはお父さんの『右手』にを乗せて、お父さんの右足に背中をくっつける様にして寢たのね。

何度か同母妹(いろも)達の足が飛んできたけれど。

本當に久しぶりに會えたお父さん。お父さんの手は大きくて、ゴツゴツしていて、あったかくて。

本當にあったかくて。

お母さんの事を気にせずに寢れたのも大きいかな。10分くらいしたら、結局　慶生(けい)の足で起こされるんだけど。

一生分の安眠を得られたような気分になったよ。齢5歳でだけどね。ふふ。

その時のお父さんの「右手」は、わたしの大切な、大切な思い出になったの。

＊＊＊＊＊

「これで、わたしの『右手』のおはなしは、おしまい‥‥」

わたしは、暖斗くんの前だけど、の前で両手を合わせて、自分の思い出に浸った。

暖斗くんの目に、こんなわたしはどう映っただろうか？

※「重婚って々大変そうだなあ。いい事ばかりじゃないのか」と悩む　そこのアナタ！！

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