《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第26話「年上好き」報と6組の鳴沢さんⅡ②
同刻。
絋國、はたやま県みなと市。
市によくある小公園で、空を見上げるがいる。
は、星空を見上げていた。白なにつぶらな瞳。長い髪を後ろでひとつに束ねている。14歳ほどだろうか、真面目な印象のだ。
みなと市くらいの規模の地方都市だと、町明かりがまあまあの明るさになる。
お世辭にも星がキレイ、とはならない。
だが、は一心に空を見上げていた。中の鳥島――ガンジス島――のある、南の空を。
*****
あの日、咲見(さきみ)暖斗(はると)くんと私との間に、公園でのいざこざがあった日から數日前、私は、母に連れられて親戚の家へ行っていた。
そこには、父もいるという。
久しぶりに父に會える! と、5歳の私はいつもよりはしゃいでいた。
訪れた親戚の家は、つまり「本家」、父の、私の母以外の奧さんとの通い婚家(コミュート)で、運よく男児に恵まれた家だった。
なので當然、居間に座る父のとなりには、私より3歳年上の男の子、異母兄(あに)がいた。
彼は父とそっくりな一重まぶたで、じろりと私を見た。
子供ながらに嫌な予がしたけれど、果たして、それは現実になった。
男の子は、大人の見えない所で私に嫌がらせをしてきた。
父を盜られるとでも思ったのか?
母が、父と會うこの日のためにと、用意した新品の靴を泥靴で踏み、同じくおろしたての私のお気にりのスカートを、わざと汚れた手で引っ張った。
何より私を悲しくさせたのは、その男の子の同母妹(いろも)の存在だった。當時の私と同じ5歳だが、私にとっては異母姉(あね)になる。
彼は、彼の同母兄(いろせ)のたくらみに加擔した。
むしろ、積極的でなおだったと言っていい。
同であれば助け合える、と踏んでいた私は甘かった。
純白のレースのスカートに、カラフルなクレヨンの手痕が付けられたのがわかった時點で、私は怒りで我を忘れた。
「やめて」
気が付くと私は異母兄妹を突き飛ばしていた。
異母兄(あに)の方は打ちどころが悪かったのか、倒れ方が悪かったのか、わき腹を押えてあぶら汗をかいている。すぐさま、卑怯者の妹が「とうさん」、と父に駆け寄っていった。
それから私は――――、いいえ。母と私は、これ以上無い、というくらい平低頭で謝罪させられた。
ようやく顔を上げる事を赦され、仰ぎ見た父の言葉は忘れられない。
「オマエら2人とも、犯罪者な」
「あなた‥‥‥!」
母は泣き聲だった。
「‥‥だってそうだろうがよ? このまま警察つき出しゃ有罪だ、有罪!」
「そんな‥‥‥‥それはあんまりです」
悲鳴をあげる母。――腕を組んでhふんぞり返る父は。
「たく。‥‥めんどくせえな。オマエらが犯罪者になったら、オレが犯罪者のダンナで親っつう事になっちまうだろうがよ」
5歳の私に、當時本當にこんな事で警察沙汰になるのかは判らなかったけれど、であることや「本家」でない妻が、なくとも不利益を得る世の中の空気は、母の様子からじ取った。
――――私達母子は、「本家」から逃げるように退出した。
玄関の引き戸をぐ時に、朝、この家にった時の事を思い出した。
父に會えると、有頂天で母にまとわりつく私。母も心底うれしそうだった――のに。
一なんでこんな事になってしまったのか。
私達の足どりは重かったけれど、母は私を責めなかった。
私のスカートや靴の異変に気付いていてくれたのだ。
「お父さんのお家で夕ご飯、だったんだけれど、食べそびれちゃったね。駅前のスーパーにまだお惣菜あるかな?」
子供心にも、母が無理して笑顔を作っている事はわかった。
生まれて初めて、「心が痛い」とじた夜だった。
それから3日後、暖斗(はると)くんと公園で遊んだ。
母が、私の気晴らしに、と連れ出したところでバッタリ會ったのだ。
暖斗くんとは以前からよく遊んでいた。
だけど、今回は違った。
私が‥‥‥‥男の子に対して、普通に接する事が出來なくなっていたのだ。
「はるとくん、どおして」
砂場に作った砂山を崩した暖斗くんを、私は執拗に責めた。
5歳の子供のする事だ。砂山を作ったら崩したくもなるだろう。
他の男の子なんかはもっとひどい。私が作っていた砂山を、わざわざ道路の方から駆け寄ってきて跳び蹴りで崩して行った事もある。だたそれだけのために。
暖斗くんはやさしい。
暖斗くんは異母兄(アイツ)じゃあ無い。
でも男の子を前にすると、どうしてもあの時の負のが湧き出してきてしまった。
あるいは、私なりの、母の敵討ちだったのかも知れない。
私が爪で暖斗くんの手を引っ搔くと、暖斗くんもさすがに表を変えた。
「私」がけた黒いを、目の前の男の子にぶつけれは事が収まると思ったのか? 私の単なる無差別な腹いせ、だったのだろうか?
そして、母は、今思えば過剰とも言える謝り方をしていた。
母からしたら3日前のトラウマが思い起こされただろうし、先回りして大袈裟に謝罪して、とにかく最悪の狀況だけは回避しなければ、という思いだったのでは?
私は今、星空を見上げている。
今頃、この星空のどこかで戦艦(ふね)に乗っている暖斗くんを想像してみる。
暖斗くんがあの時、ちゃんと私にあやまってくれたから、あの後お母さんと2人して泣いたよ。
お母さんは、
「も強く生きなきゃね」
って言うようになったよ。
その言葉でわかった。
あの時お母さんは、とにかく私を守ろうとしてくれてたんだ。
の価値が毀損されてしまったこの國で、――――私が何とか生きていくために。
二人でよくこの公園で遊んだね。
小學校にあがると、暖斗くんには男の子の友達が増えて、この公園には來なくなっちゃったけど。
おんなじ中學ったね。家がこんだけ近いから當たり前か。
でもおんなじクラスには、なかなかなれないね。
‥‥実はまだ、ほんのちょっとだけ男子が苦手です。
だから、麻妃ちゃんみたいに気軽に暖斗くんには話かけられないよ。
あの日以來、私達の事を々と気にかけてくれる、ステキなお父さまにもよろしくね。
私は今日も、この公園に來て、暖斗くん達の事を心配しています。
擔任の先生は、登校日に
「3人とも帰ってはこれないけれど、無事で元気でいる」
って説明してるけど、実際に顔を見るまでは正直――――心配。
今は、この國も大変な事になってしまって、戦艦の事を気にするのは乗っている中學生の関係者ぐらいかなあ。
もしかしたら、今無理に戻って來るよりは、空を自由に飛んでいる方がいいかもね。
でも、祈ります。
暖斗くんにもう一度逢いたいから。
逢って、この公園であったあの日の事を、私からもいつか、ちゃんと、あやまりたいから。
「どうか。ご無事で。暖斗くん」
※実は‥‥ この「6組の鳴沢さん」は、作者が一番好きなエピソードだったりします。同意の方いたら★ください。
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