《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》33話 北小學校の生存者のこと
北小學校の生存者のこと
ここは市の小高い丘にある公園。
時刻は朝の7時過ぎ。
俺は軽トラを停車させ、運転席から下りる。
続いて助手席からは神崎さんも。
「さーて、まずは一か所目ですねえ。」
「はい、頑張りましょう。」
翌日、俺は早朝に軽トラで友に行き、神崎さんをピックアップした後ここまで車を走らせた。
宮田さんはくれぐれも偵察だけに留めて、無理はするなと俺たちを送り出した。
森山くんは柱の影からじとりとした視線を向けてきたが、神崎さんに見られると顔を青ざめさせてどこかへ逃げた。
・・・大丈夫かなあいつ。
貞拗らせた高校生じゃないんだからもう・・・。
まあいいや、仕事に集中しよう。
なお、何故ここを選んだかというと、この公園からはちょうど今回の目的地が見下ろせるようになっているのだ。
詩谷市立北小學校。
全校児と教員約400人に加え、警察や近隣の住民が避難してきてその総數は600名前後。
友高校より人數が多い避難所だったが、校に多數のゾンビが発生したとの無線を最後に音信不通となった。
ということらしい。
ちなみに俺の出校でもある。
我が母校よ・・・なんということに・・・
まあ俺が卒業した後に全面改裝したから面影もクソもないんだけど。
さてと、お仕事お仕事。
懐から単眼鏡を取り出し、眼下の小學校へ向ける。
これは家にあったものだ。
たぶん一時期バードウォッチングに凝っていたおやじのものだろう。
ネットでお値段を調べてびっくりした思い出がある。
趣味に金を惜しまない俺のやりかたは、どうやらおやじからの伝だったようだ。
神崎さんもゴツい雙眼鏡を取り出した。
似合うなあ・・・
校庭に人影はないが、そこら中に赤黒く変した何かの片や染みが見える。
っていうか単眼鏡を使うまでもなく全的に校庭のが赤い。
これは・・・大慘事が起こったようだな。
學校への出り口は、折り重なったパトカー4臺によって完全に封鎖されている。
・・・逃げようとしたんじゃなくて、わざと封鎖したようなじだな。
「ゾンビを外に逃がさないようにした・・・?」
「恐らくその通りかと、ここが崩壊すると見越してそうしたのでは?運転席にが見えます。」
「すさまじい覚悟だ・・・」
「警察の鑑ですね。」
立派な人たちが立派に死んでいく。
俺には真似できないな。
する気もないけど、尊敬はする。
「校庭は生存者無し、校はっと・・・」
呟きながら3階建ての校舎にピントを合わせる。
カーテンが閉まっていて中を確認できないものもあるが、いくつかの教室は中が見える。
あっ生存者…じゃないやゾンビだ。
々欠損した人間が教室に詰まってぼんやり立っている。
子供のゾンビは初めて見たな・・・
やらなきゃやられるけど、あまり積極的には戦いたくない。
「ざっと見て教室にいるのは全部ゾンビですかねえ。」
「ここから確認できる範囲ではそうですね。」
「全滅っぽいですなこりゃ・・・」
校舎に向かって左側の育館は・・・ダメだ、扉が破られている。
中は例によってゾンビでぎっしり。
あいつら、晝間は基本的にかないからそれはそれで不気味なんだよな・・・
急にアグレッシブになられても困るけども。
今のところ、ここから見える範囲には生存者は確認できないな・・・
裏側は見えないが、この様子では絶的だろう。
俺が行かせた金髪集団も見當たらな・・・あっいたいた。
に悪趣味な塗り絵をした一団が育館にいる。
やっぱここに來てたのか・・・特に俺は悪くないけど恨まないでくれよ。
化けて出やがったら張り倒してやるからな。
思わぬ発見はあったが、生存者はいないようだ。
生存者は殘らず死んだかゾンビになったっぽい。
そろそろ次の避難所へ向かうかなあ。
「田中野さん!ちょっと、屋上を見てください。」
屋上?
北小學校に上がれる屋上なんて・・・
あっ!改裝したからできたのか!
いかんいかん、俺が通っていた時の記憶で考えていた。
屋上、屋上っと・・・
フェンスで囲まれた屋上は、確かに校舎から上がれるようになっていた。
はー・・・いいもん作ったんだな。
芝生やベンチが見える。
くつろぎの空間だな。
ん?
給水塔の影に何かが・・・
あれは・・・
「なんか、テントみたいなもんが見えますね・・・」
「ええ、生存者の痕跡でしょうか。」
うーん。
注意深く屋上を観察すると、校舎からの出り口のドアが板か何かで封鎖されているように見える。
とりあえず、屋上に逃げ込むことができた誰かがいるようだ。
給水塔の影にピントを合わせ、最大倍率で拡大する。
緑のテントっぽいものの脇に靴が見える。
2足・・・かな?
角度が悪いのでこちらで移してみる。
あっ!リュックサックや段ボール箱が見えてきた。
段ボールはおそらく災害用資をれたものだろう。
文字は読めないが、俺が知っているものとよく似ている。
給水塔からフェンスまでロープのようなものが張られ、そこに服が干してあるようだ。
サイズからして子供のものに見える。
テントがいた!
中から誰か出てくる。
「の子・・・でしょうか?どう思います田中野さん。」
「ええ、髪が長いのでたぶんそうだと思いますが・・・」
遠すぎて顔がよく見えないが、背格好から小學生なのは確かだ。
噓だろ!?たった一人で生き殘ってたってのか!?
なんたるバイタリティだ・・・俺よりメンタル強そう。
その後も角度を変えつつ屋上を観察したが、いるのはその小學生だけのようだ。
彼?は外で朝食を取った後、またテントに戻っていった。
力を溫存するつもりなのか?
「まさか生存者がいて、しかも小學生だとは・・・これは予想外だなあ。」
「こんな狀況なのに、かなり落ち著いているように見えますね。」
うーん・・・助けてやりたいが、どうすればいいんだろう。
校舎はゾンビまみれだし、出り口は封鎖されている。
なんとか校舎を抜けても、ドアをガンガンやっていればすぐにゾンビに気付かれるだろう。
學校ってやけに音が響くし。
一一は大したことないけど、さすがに100や200は數の暴力で押し殺されてしまう。
一人だから食料や水の消費は多くないとはいえ、このままではジリ貧だ。
考えろ・・・考えろ俺の素敵頭脳・・・何か手はないか・・・
・・・お?アレとアレがああなってるから、あそこをああして・・・
・・・いけるかもしれん。
というかアレしかないな。
とにかく、宮田さんと連絡を取らなければ。
車に積んできた無線機のスイッチをれ、神崎さんに避難所の宮田さんとつないでもらう。
『なんですって!?子供が一人で・・・?』
「ええ、実際見た俺も信じられませんが、確かに生き殘っています。」
『しかし、どうするか・・・その狀況ではたとえ警を全員向かわせても・・・』
「それなんですがね。」
『はい?』
「俺にいい考えがあります。」
「本當にやる気なのですか?」
神崎さんが心配そうに聞いてくる。
やりたくないけどやらなきゃ仕方ないことも世の中にはあるのだ。
あの子が大人ならここまでしなかったかもしれんが、子供となると話は別だ。
さすがに、何も悪いことをしていない子供を見殺しにするのは寢覚めが悪すぎる。
この距離で今まさにゾンビに囲まれて食われそう、って狀況ならまだしも。
やれるだけのことはやってみるさ。
なあに、失敗しても俺が死ぬだけだ。
それなら賭ける価値がある。
「私が行った方が・・・」
「いやいや、神崎さんはもしもの時の援護をお願いしますよ。サポートしてくれるんでしょ?」
「それは・・・そうですが。くれぐれも、お気をつけて。」
「駄目だったら軽トラあげるんで、さっさと逃げてくださいね?はいこれ鍵。」
「・・・縁起でもないことを言わないでください!」
ヒエッ・・・すっごい怒られた。
小粋なジョークなのにい・・・
俺より何十倍も貴重な人材である神崎さんを危険に曬すわけにはいかないから、我慢してください。
適材適所!適材適所でござる!!
剣鉈以外の全ての武を外し、軽になる。
服は著てます、當然。
軽トラの荷臺に積んでいたロープを持つと、気を引き締めて行を開始した。
俺は公園に神崎さんを殘し、丘を下って小學校の橫を目指す。
小學校は周囲を1、5メートルほどの外壁に囲まれており、外壁の上には2メートルぐらいのフェンスがある。
校門から左側の外壁に沿って移し、ちょうど育館の橫あたりに到著。
この育館の屋はかまぼこ型になっていて、頂點はだいたい校舎の3階と同じ高さだ。
その校舎とは、屋付きの渡り廊下で1階部分とつながっている。
渡り廊下の屋は校舎のだいたい2階くらいの高さである。
育館の屋を伝って渡り廊下の屋を渡り、校舎の2階部分のベランダの手すりを経由すれば何とか屋上にたどり付けそうなのだ。
ゾンビまみれの育館は橫切れないし、校舎も行できる気がしない。
見えない場所にゾンビがわんさかいそう。
というわけで、信じたくないがルートはこれしかない。
ゾンビは段差とか登れないっぽいし。
腹をくくるとまず外壁に上がり、フェンスに手をかける。
フェンスを頂上まで登ってカサコソ反対側へ下りる。
屋の點検用だろう梯子が育館の外壁に確認できたので、それを使って屋へ出る。
うおお、高いなあ。
おまけに風も強い。
高所恐怖癥じゃなくて助かった。
そのまま中腰で屋を登っていく。
頂上はさらに風が強く、を持っていかれそうだ。
ふう、し座って休憩。
微かに見える公園の神崎さんっぽい人影に手を振ってみる。
・・・なんかすっごい睨まれてる気がする。
さて、気を取り直して行くぞ。
結構るので、足元に気を付けながら今度は反対側へ下りていく。
カツンカツンと音が鳴るが、下のゾンビに気付かれた様子はない。
渡り廊下の屋との接合部分に著いた。
育館のと違い、屋はそこそこ尖った2等辺3角形だ。
強度を確認しながら、慎重に雨どいに足をかけつつ進む。
ギシギシという音が本當に心臓に悪い。
肝を冷やしながら、なんとか校舎に到達した。
さあて、これからが本番だ。
渡り廊下の屋と校舎の正面は同じ奧行きになっているが、屋の端とベランダの手すりが50センチほど離れている。
屋=50センチの壁=手すり
こういう配置だ。
壁はフラットで、足をかけられる場所はない。
落ちたら死にはしなくとも足は折れるだろう。
・・・ここまで來たらやるしかない。
若干助走をつけ、手すり目掛けて飛ぶ。
うおおおお!よっしゃ摑んだ!
左手で手すりを摑み、揺れる反で右手を持ち上げ両手で手すりを抱えて這い上がる。
ふう、何とかなった・・・もう二度とやりたくねえ。
ここの教室はカーテンが引かれているので、中にゾンビがいても見られることはない。
息を整えると、ゆっくりと手すりの上に立って3階部分のベランダの下部分の出っ張りに手をばす。
軽くジャンプして摑むと、反と渾の力でを持ち上げる。
ぐおおおお!上がった!!!
こ、ここまで來たらあと一息だ。
3階のベランダから同じことをすれば屋上へ上がれる。
腕を軽くみ、肩を回す。
よーし、行くか!
その時、不意にカーテンがし開いた。
部の風のきか、ゾンビがれたかわからんが、その瞬間俺は運悪く小學生のゾンビとバッチリ目が合ってしまった。
神よてめえ!!!!!!!!!!!!
『キィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
高音でぶゾンビ。
畜生!ここまで來て!!
すぐに手すりに上がって屋上のヘリへ飛ぶ。
を引き上げる途中、ベランダからガラスの割れる音が聞こえる。
早く上がれ!早く!早く!!
ブーツに手のようなものがかするのをじながら、すんでのところで屋上のヘリにを持ち上げることに功した。
あ、危なかった・・・
下からはゾンビの大合唱と、地面になにか重くてやわらかいものが落ちる音がする。
ブレーキをかけることを知らないゾンビが、後ろから押されて何か地上に落下していったようだ。
顔を上げ、屋上のフェンスを登ろうと手をかけた俺の目の前にの子がいることに気が付いた。
ゾンビの聲に驚いて確認しに來たのだろう。
目をまん丸にして、武のつもりか手にレンチを持っている。
そのの子とフェンス越しに見つめあうことしばし。
「やあ、こんにちはお嬢ちゃん。・・・助けに來たよ。」
とりあえず、そう聲をかけた。
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