《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》35話 新しい住人のこと

新しい住人のこと

「にゃあああああああああああ!かーわーいーいいいいいいいい!!」

「にゅうううううううう!?」

玖ちゃんが由紀子ちゃんに思い切り抱きしめられてもがいている。

すっげえ!でかいで窒息するっていうラブコメにありがちなアレってフィクションじゃなかったんだ!!

あっ!神崎さんが俺を不法投棄された産業廃棄を見る目で見てる!!!

命だけは!!!!

北小學校から玖ちゃんを保護し、無事に友まで戻ってきた俺たち3人。

なお、神崎さんは膝の上に玖ちゃんをのせたまま、一言も喋らなかった。

・・・こんなおっさんに、綺麗だの人だのとで言われてたんだもんなあ。

セクハラで訴えられたら確実に負ける。

気まず過ぎる帰路を経て避難所に戻ったところ、校舎のり口でたまたま由紀子ちゃんと遭遇した。

玖ちゃんに俺の知り合いだと紹介したところ、元気よく自己紹介した玖ちゃんを見るなりこの狀態になってしまった。

「由紀子ちゃん由紀子ちゃんどうどう。玖ちゃん窒息しちゃうからそれ。」

「あっ!・・・ご、ごめんねえ玖ちゃん!」

「ぷはっ!びっくりしちゃった!」

けらけらと笑う玖ちゃん。

うーんじてない。

これは將來大になるぞ・・・

「田中野さん、神崎さん。お疲れ様です。」

玄関先での騒ぎに気付いたのか、廊下の奧から宮田さんが歩いてくる。

「その子が、北小學校の・・・」

「ええ、生存者です。名前は・・・おっとお!」

玖ちゃんは由紀子ちゃんから離れ、素早く俺の後ろに回り込んだ。

びっくりしたのかな。

まあ宮田さんデカくてゴツくて強そうだからなあ。

すっごいいい人なんだけど。

「おや、怖がらせちゃったかな?おじさんは宮田剛二郎(みやた・ごうじろう)っていうんだよ。よろしくね。」

「う・・・」

苦笑いして宮田さんがしゃがみこむ。

宮田さん名前まで強そうですねえ!

「さ、桜井玖です!10さいです!」

「ほおそうか、いいお名前だねえ。元気でいい子だねえ。」

宮田さんはニッコリとほほ笑んだ。

な、なんというアルカイックスマイル・・・

避難所の子供たちに「地蔵のおじちゃん」と言われるわけだ。

俺には地蔵というか、顔の優しい不明王か毘沙門天、もしくは金剛力士に見えるけど。

やさしさ含有量100%の笑顔を見たからか、玖ちゃんはおずおずと俺の影から出てきた。

「こんにちは!よろしくおねがいします!!」

「はい、よろしく。疲れたろう、ゆっくり休みなさい。ここにはお友達もたくさんいるからね。」

宮田さんに頭をでられ、うれしそうに玖ちゃんははにかんだ。

「わーい!たかーい!かっこいー!」

「ははは、そうかいそうかい。」

その後、そこには宮田さんに肩車をされてはしゃぐ玖ちゃんの姿が!!

「うー、いいなあ。私もばそうかなあ・・・」

由紀子ちゃんが羨ましそうにつぶやく。

羨ましがるポイントも目標もおかしすぎる。

あのさ、ばそうと思ってグインってびるもんじゃないからね長は!?

「・・・由紀子ちゃん、ちょっとこっちに。」

「んー?どしたのおにいさん。」

玖ちゃんが宮田さんに遊んでもらっているうちに、由紀子ちゃんを離れたところに呼ぶ。

「実はね・・・」

玖ちゃんに聞かせるわけにはいかないので、小學校で知ったことを今のうちに話しておく。

橫田先生のことをだ。

あらかじめ由紀子ちゃんに伝えておくことで、先生が亡くなったのではなく行方不明だと口裏を合わせてもらわなきゃな。

後で宮田さんにも伝えておかないと。

いつかは玖ちゃんにも真実を伝えなくてはならないが、今はまだその時ではないだろう。

「・・・っていうわけなんだよ。雄鹿原さんにも伝えて、心のケアをしてあげてしい。」

俺の知り合いの若いの子なんて2人しかいないからな。

神崎さん?の子っていうか大人のでしょ。

俺は避難所に住んでいないし、男だからなあ。

同士の方がいろいろとケアしやすいはずだ。

ここにはちょこちょこ婦警さんもいるし。

「頼んだよ由紀子ちゃ・・・」

玖ちゃああああああああああああああああああああん!!!」

「にゃあ!?」

俺の話を聞くやいなや、涙目の由紀子ちゃんは宮田さんの肩車から下りた玖ちゃんを再び抱きしめた。

おおいまた窒息・・・お、そこは加減したのか。

「わた、私を本當のお姉ちゃんだと思ってくれていいからねえ!いっくらでも甘えていいからねえ!!」

「ゆ、ゆきこおねーさんどうしたの?おなかいたいの?」

由紀子ちゃんはわんわん泣きながら玖ちゃんに頬ずり。

そういえば昔妹がしいって言ってたっけなあ・・・

玖ちゃんは急に泣き出した由紀子ちゃんにびっくりしつつ、心配そうに涙を拭いたり頭をナデナデ。

・・・あれえ?姉妹が逆になってない!?

まあとにかく、玖ちゃんはここでもやっていけそうだな。

あんなにいい子なんだ、大丈夫だろう。

今まで大変だった分、ここでは楽しく過ごせるといいんだけどな。

あ、そうそう。

ここの避難所、満員だったんだけどれて大丈夫かって心配していたんだよな。

宮田さんに聞いてみたところ、問題ないそうだ。

以前、ゾンビを逃がそうとして噛まれたアホの化みたいな男子生徒。

あいつがこの度ゾンビ化して『処理』されたから大丈夫らしい。

一足先にゾンビになった彼の分も含めると、現在ここには2人分の空きがあるというわけだ。

あんなアホ10億人分くらいの価値はあるけどな玖ちゃんは。

命は平等に尊い。

尊いが、その振る舞いによって価値は上下するのだ。

たぶん。

由紀子ちゃんやら、途中からやってきた雄鹿原さんにもみくちゃに可がられる玖ちゃんを見ながら、俺はそう思った。

それからどうなったって?

玖ちゃんなら俺の橫で寢てるよ?

まあちょいと話を聞いてくれよ。

いや、あのまま今日の所は帰って映畫でも見ようとしてたんだけどさ。

次の避難所探索は明日だから、ゆっくり休んで備えようかと思って。

「いちろーおじさん、帰っちゃうの?なんで?」

「お外はあぶないよ!玖といっしょにいて!」

それを察した玖ちゃんが、涙目で俺にしがみついて離れなくなってしまったのだ。

図らずも屋上から出した時と同じ格好である。

コアラの親子めいたスタイル。

「いやあの・・・おじさんここの人じゃないからね?明日また來るからさ・・・っていうかちょくちょくここに來るからさ・・・」

「や!」

「あのーおじさんはね、おうちから(快適すぎて気楽すぎて絶対に)離れられないんだよ玖ちゃん。」

「やーっ!!」

これである。

うーん頑固。

これがゾンビやクソガキなら頭の一つでもぶん毆って引きはがす所だが、こんないい子じゃどうにもできん。

どうしよこれ。

由紀子ちゃんや、羨ましそうな顔しないでください。

神崎さん、クスクス笑わないで助けて!!

雄鹿原さ・・・あっこれは自分も抱っこしてほしい顔だ!たぶん!!大きい子は無理ですう!!

見かねた宮田さんが助けにってくれ、とりあえず今日は泊まっていけという話になった。

まあ、リュックには食料もっているので數日は帰らなくても大丈夫なんだけどさ。

ということで、俺はまた保健室を借りて泊まることになった。

それを聞いてやっと玖ちゃんは俺から離れてくれた。

泣く子とじ、じ・・・地蔵?には勝てぬっていうしな。

それから俺は玖ちゃんと夕食を食べる。

本日の俺の夕食は海のチキンの缶詰とヤバくなってきたキャベツなり。

玖ちゃんが自分の夕食を分けてくれようとするのを必死で止めた。

そんなかわいそうな夕食かなこれ・・・?

その後、保健室で楽しくお話をした。

話の中でそれとなく聞き出してみたところ、玖ちゃんは両親と3人暮らしらしい。

父親は、この市の中心に位置する詩谷駅で駅員。

母親は隣町、由紀子ちゃんの母親のいる秋月町の役場職員だそうだ。

両方人がうじゃうじゃいる環境だな・・・どうなったことやら。

初めは俺と玖ちゃんは別々に寢ていた。

しかし慣れない環境、特に保健室という狀況もあってか、早々に俺のベッドにもぐりこんできた。

元気そうに振舞っていたがそこはやはり小學4年生、寂しいのだろう。

・・・明日からは由紀子ちゃんか雄鹿原さんに頼んで一緒に寢てもらおうかな。

由紀子ちゃんは大喜びしそう。

事案になりそうな絵面だが、俺はロリコンではないので全く問題がない。

せめて20歳以上じゃないとなあ・・・

「えへへぇ・・・」

玖ちゃんは俺のにぐりぐりと頭を押し付けてくる。

貓みたいだ。

「ん~・・・パパとおんなじにおいがする・・・パパぁ・・・」

玖ちゃんはそう呟いて、幸せそうに眠りについた。

そうか、お父さんも煙草を吸うのかな?

ん?んん?

お と う さ ん?

え~ちょっと待って、俺の年齢だとそんな子供は・・・いや計算したら普通にいてもおかしくないわ・・・

があったかいけどが痛いぞ・・・

玖ちゃんがすやすやと眠りについたので、起こさないように気を付けてそっと保健室を離れる。

煙草を吸うためだ。

今日の後半はずっと玖ちゃんと一緒にいたため、吸うタイミングがなかったのだ。

校舎のり口から出て、駐車場に向かう。

ここには誰かが設置した灰皿とベンチが置いてあるのだ。

元々この學校は敷地煙だったはずなので、ゾンビ騒の後に置かれたものだろう。

今は敷地から出ると最悪死んじゃうもんな。

それぐらいは許していただきたい。

喫煙所に向かうと先客が1人。

「ああこんばんは、神崎さん。」

「こんばんは、田中野さん。玖ちゃんは寢ましたか?」

「ええ、寢つきのいい子ですね。疲れてたのもあるんでしょうが・・・」

神崎さんも煙草を吸っていた。

おや・・・?この香り・・・

吸っているのはマンドレイクじゃないか!

好きになってくれたのかな。

同好の士が増えるってのはいいもんだなあ。

「しっかしまあ、なんであんなに懐かれたもんだか・・・」

「・・・わからないのですか?」

「なんとも、皆目見當がつきませんねえ。」

あれ?神崎さんが俺を殘念な生きを見るように見ている。

ナンデ?

「・・・孤立無援の狀況で助けに來て、わがの危険も顧みず救出してくれた人ですよ?むしろ懐かない方がおかしいです。」

あれぇ?そう言われるとなかなかヒーローめいてるな俺。

まるで自分じゃないみたいだあ・・・

「前から薄々じていましたが、田中野さんの自己評価は低すぎます。」

若干俺を睨んで、不機嫌そうに神崎さんがこぼす。

こわい。

「あなたが今までしてきたことは、普通の人がなかなかできるようなことではありませんよ?」

「ええ?いや、でも・・・」

「あなたは人に謝されることをしてきたのです。もっと自信を持ってください。」

俺をじっと見つめながら神崎さんは言う。

雄鹿原さんを助けた。

隣町に行き、自衛隊との連絡要員を連れてきた。

避難所で現れたゾンビに対処した。

小學校から生存者を単で救出した。

・・・確かに客観的に見ればたいしたヤツだが、俺の場合この生活を楽しんでるからなあ。

嫌なことはやってないし、たまたま俺の興味と噛み合った結果である。

だから自覚がないんだろうなあ。

「ま、前向きに善処しますよ・・・」

「そうしてください。必ずですよ?」

顔を見合わせて、どちらともなく吹き出した。

神崎さんとし仲良くなれた気がした。

ここんとこ毎日が充実している。

嫌な上司にヘコヘコすることも、様々な理不盡を我慢することもない。

ミスしたら俺が死ぬだけ。

実にシンプルだ。

こんなこと口が裂けても言えないけど、俺は以前の世界よりこっちの方がに合っているらしい。

一服した後保健室へ帰ったところ、目が覚めて俺がいないことに気付いた玖ちゃんが大層お怒りであった。

その結果、コアラ親子スタイルでの就寢を強要されたことをここに記しておく。

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