《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》41話 戦後処理と休憩のこと

戦後処理と休憩のこと

「あの・・・も、申し訳ない・・・」

「・・・」

「ゆ、許してください・・・」

現在俺は、市民會館の廊下で神崎さんに土下座している。

神崎さんは正面で仁王立ちになって腕を組み、絶対零度の視線を俺に注いでいる。

このままだと氷漬けになりそうだ。

どうしてこうなった。

さっきまで俺は全返りにまみれ、座り込んでボーっと煙草を吸っていた。

それを半死半生だと勘違いした神崎さんは、相を変えて走り寄るなり俺を橫たえ、有無を言わさず上著をはぎ取った。

大丈夫ですから!怪我してないですから!!とぶ俺を無視し、あっという間に上半に剝かれてしまった。

そのまま涙目でペタペタと俺の上半をまさぐり倒した神崎さんは、俺が無傷だという事実に気付くときを止めた。

しばらくして急に顔を真っ赤にしたかと思うと、すっくと立ち上がって俺を恨めしげに睨んで今に至る。

・・・これはセクハラに該當するのであろうか。

「ちょっと、いろいろあって疲れただけなんですよ・・・紛らわしい真似をしてすみませんでした。」

「・・・本當に、本當に心配したんですよ!」

「スミマセンスミマセンご勘弁くだしあ。」

「・・・まったく、もうっ!もうっ!!田中野さんの馬鹿!!」

コメツキバッタよろしく頭を下げ続けることしばし。

神崎さんは頬を膨らませながらなんとか許してくれた。

なんだそのムーブは。

かわいい。

おっといかんいかん。

「・・・と、とにかく、會館は全滅です。外はどうですか?」

お許しが出たので服を著ながら立ち上がり、神崎さんに聞く。

「・・・死だけです。」

そいつは重畳。

ほんのしだけ街が綺麗になったな。

床に落としたままだった刀を拾う。

・・・うわあ、歪みはないが盛大に刃こぼれしている。

何匹か、骨ごと無理やり叩き切ったからなあ・・・

とはいえ、これまでの酷使によく耐えてくれたもんだ。

とりあえずを拭き、納刀する。

砥ぎに出そうにもこの狀況ではなあ・・・

ダメもとで自分で研ごうにもさすがに砥石がない。

農業用のクッソ適當なやつだからなあ。

・・・家に帰って、別の1振りと換する必要があるな。

アレそこそこ高かったんだけど、背に腹は代えられんし。

「神崎さん、々できそうですけど砥ぎとかはできませんか?」

「田中野さんは私を何だと思ってるんですか・・・」

クールビューティ完璧超人・・・かな?

気を取り直し、會館を見回る。

十字手裏剣と剣鉈は回収しないとな。

悪用されないように拳銃と銃弾は殘らず回収したが、警察手帳は発見できなかった。

嫌々死を確かめたが、どこにもなかったので捨てたのかもしれない。

どこまでも見下げ果てたやつらだ。

詰め所にあった類や食料品には、手を付ける気がしない。

神崎さんもランドセルを見て拳を握りしめていた。

「神崎さん、俺ここの服とか食料品、持って帰りたくないんですが・・・甘いかもしれませんけど。」

「・・・私も同じ気持ちです。報告だけして、ここはこのままにしておきましょう。」

・・・また街を探索すればいい話だしな。

ここにしか資がないわけじゃない。

「あんたたちを殺した奴らは殘らず地獄に墮としたから、無念だろうけど仏してくれよ・・・」

最後に服の山に手を合わせ、會館を後にした。

しやることがある、そう言って神崎さんは會館に消えていった。

手伝おうかと言ったが、そこまで手間がかかるわけじゃないのでゆっくり一服して待っていてほしいとのことだった。

お言葉に甘えることにする。

エントランスのベンチに座りゆっくりと一服。

3本目に火を點けようか悩んでいると、神崎さんが帰ってきた。

本當にちょっとした用事だったみたいだな。

2人で正面り口から駐車場に出る。

駐車場には、そこかしこにニセ警の死が転がっている。

數を數えると7匹。

俺が殺した奴と合わせて13匹・・・しっかり全滅だ。

すげえ・・・全員頭を撃ち抜かれて死んでる・・・

えっ100メートル先からく相手全員にヘッドショットを!?

そりゃあ負けるわけがないとは思ってたけど、ここまで圧倒的だとは・・・

神崎さん半端ねえ!!

怒らせないようにしよ!!

いかんもう怒らせてた!!!

命だけは!!!!!!

駐車場のビルに戻り、置いていたリュックサックに拳銃をざらざらと流し込む。

銃弾は全く扱い方がわからないので、全部神崎さんに預けることにした。

背中で暴発したら一瞬でレンコンみたいになってしまう。

餅は餅屋だ。

さて、本當に々あったがやっと帰れるなあ・・・

・・・あっ!そうだ、會館はどうしよう。

あのままにして置いて、またややこしい誰かに悪用されても困る。

警察の制服もそのまま殘してきちゃったし。

今から戻って制服だけでも燃やすなりなんなりした方がいいかな?

神崎さんに相談すると、大丈夫だと言われた。

は腕時計を確認すると呟く。

「もうすぐですので、ここから見ていましょう。」

えっ?なにg

直後、にズンと地響きをじる。

會館の窓ガラスが側から全て割れると同時に、どでかい発音と衝撃波が俺を襲う。

その後、窓という窓から塵と火炎が噴き出てきた。

呆気にとられた俺の前で、建が黒煙と炎に包まれていく。

「・・・うわぁ・・・うわぁ・・・」

あっという間に會館は『元』會館になってしまった。

「これなら再利用はできないでしょう。」

「えっなに・・・あの・・・なに?」

「自家発電機用のボイラーにし細工をしました。・・・延焼用に燃料系統にも々と。」

ぼ、ボイラーってこんなに発すんの!?

発もそうだが神崎さんもとんでもねえ!!

それもあんな短い時間でそんなことを!?

・・・マジで何者なんだこの人。

「アアアア!!」「オアオオオオオ!!!」「イイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」

破の衝撃で割れた周囲のビルから、ぞろぞろとゾンビが出てくる。

高所から落下した奴はそのままかなくなったが、それ以外はみんな會館に向かって走っていく。

うおお・・・ざっと100以上はいるな。

・・・ダメ押しで再利用できなくなったな會館。

「ここら一帯のゾンビはあそこに引き寄せられたので、今のうちに撤退しましょう。」

「アイアイキャープテン!」

「やめてくれませんかそれ。」

「ハイ!」

なんとも言えない気持ちのまま、俺は帰路についた。

ゾンビ共は會館の方に集まっているのか、全く遭遇することがなかった。

車に乗り込みエンジンをかける。

「うおっ!?」

「どうしました?」

「俺がすごいスプラッタですよ!?」

「・・・私が勘違いした理由がわかりましたか?」

ミラーに寫る俺は全返りにまみれ、どこもかしこもどす黒く染まっている。

なんだこれは・・・たまげたなあ。

これはこのまま避難所に行くわけにはいかない。

玖ちゃんに一生もののトラウマを植え付けてしまう。

最悪ずっとコアラスタイルで外に出してもらえなくなる恐れすらある。

・・・一回自宅に戻って洗濯やら著替えやらが必要だな・・・。

「あの・・・神崎さん、すみませんけど・・・」

「ご自宅に寄られるんですよね?どうぞご自由になさってください。というか、そのまま避難所に行くようなら私が止めるところでした。」

話が早くて助かるゥ!!

アクセルを踏み込み、自宅へと向かうことにした。

うーん、久方ぶりの我が家に著いたぞ!

俺の城は変わらずに俺を迎えてくれた。

庭の野菜くん達も著実な長をしている。

以前設置した、適當ハンドメイド水やりマシーンも問題なく水を供給しているようだ。

さすがにそれなりの時間がかかりそうなので、神崎さんにもってもらう。

ベランダ経由で2階に上がり、階段を通って1階の居間まで案する。

々ヤバいものは2階の俺の自室にしかないので安心だ。

「しょうもない家ですけど、楽にして映畫でも見ていてください。井戸水ですけどお水どうぞ。」

「いえそんな、お気遣いなく・・・す、すごい數のDVDですね。」

居間の本棚にギッチギチに詰め込まれたDVDを見て驚く神崎さん。

ソファーに案して座ってもらい、どれでも好きなのを見ていいと伝えて所へ向かう。

うわ、いかんいかん著替えを持っていかなきゃ。

今は俺一人じゃないってのを忘れかけていた。

カーニバルはまた今度だ。

以前釣屋から回収した上下と、バイク屋で見つけたSFインナー、それに下著を持って風呂場に行く。

タライに井戸水を張り、今日著ていた服を沈めると水がみるみる深紅に染まっていく。

うわあ・・・ホラー映畫みたい。

それを橫目で見ながらを洗っていく。

ううう冷たい!!井戸水だからキンッキンに冷えてやがる!!!

冬の風呂どうしようかな・・・

何とかお湯を沸かす方法を考えなきゃな・・・凍死してしまう。

またホームセンターに行ってみるかなあ。

頭もしっかり洗い、とてもサッパリした。

湯上りでないので卵とはいかないが、それでもさっきまでのスプラッタ一朗太よりはだいぶマシだ。

返りはほぼ全て服がガードしてくれていたのもよかった。

なお、ベストと上下の服の方は駄目だった。

洗濯用洗剤を付けてどんなにガシガシこすってもの汚れが落ちない。

・・・インナー以外は諦めるしかないなあ。

屋で回収しておいて助かった。

ベストも家に予備があるし。

実質水風呂だったので若干震えながら居間に戻ると、神崎さんがソファーにもたれかかって寢ていた。

映畫を再生しているプレーヤーの明かりに照らされたその顔は、いつもと違ってさがある。

そういえばこの人いくつなんだろう?・・・に年齢を聞くのは抵抗があるから聞いていなかったが。

20代前半・・・中盤?くらいかな。

うーん若いの年齢はわからんなあ。

・・・彼も今日は大変だったもんなあ。

俺みたいに近距離でザクザクやったわけではないが、それでもあいつら7匹を相手に銃撃戦をしたんだし。

今はこのまま寢かしておいてあげよう。

起こしてしまわないように気を付けながら、自室へ向かう。

自室のベッドに座り、今日差してしていた刀を點検。

・・・汚れは綺麗に落とせたが、やはりこの刃こぼれはどうしようもないな。

今すぐ折れるほどのダメージはないが、切れ味は以前と比べてもだいぶ落ちているだろう。

今日までがんばってくれた刀に謝しつつ、簞笥から刀袋に包まれた日本刀を取り出す。

紐をほどくと、俺の所有する所有する3振りの中で2番目に高い刀が顔を出す。

いわば松竹梅の『竹』だ。

『梅』の拵えが黒一だったのに対し、こいつは全的に黒漆っぽい上品な

ぬるりとを反する鞘は、蛇腹のように段々になっている。

時代劇の某柳生出の片目大剣豪に憧れて、刀剣商に々と注文を付けてなんちゃって柳生拵えにしてもらった逸品だ。

も無銘とはいえもちろんいいものだが、拵えの値段も『梅』とはまるで違う。

拵えにも興味があったのだが、あっちは居合向けではないし諦めた。

これは今までの刀と違い、刃渡りは2尺4寸5分。

俺の長が178㎝くらいだから、長に適した長さになっている。

今までの刀は刃渡り2尺だったので、これはだいたい12㎝強長くなる。

この長さにを慣らす必要があるので、さっそく避難所で道場を借りよう。

今までの刀を刀袋にくるみ、簞笥にしまう。

ご苦労さん、砥ぎの手段が見つかったら復活させてやるからな。

それまでゆっくり休んでくれよ。

ちなみに『松』の一振りはまだ安置しておく。

こいつはそれ以外の2振りの値段を足してもまだ足りないから、恐ろしくて使えない。

この『竹』でも十分実用に耐えるしな。

・・・本當は実用なんてしなくても済むのが一番なんだが、アホが多くてそうも言っていられない。

新たな相棒を片手に階段を下りると、神崎さんはすやすや眠っていた。

時間はまだまだ余裕がある。

タオルケットでもかけてあげようと近付いたところ、だいたい1メートルの距離でスッと目が開いた。

ヒエッ!?〇ルゴ13さんかな?

俺を認識すると、神崎さんは若干顔を赤くした。

「す、すみません田中野さん。どうやら眠ってしまったようです。」

「いいんですよ。今日は々ありましたし・・・もうし休まれたらどうです?俺2階にいますんで。」

あわてて立ち上がろうとする神崎さんを手で制しながら言う。

「いえ、そこまで甘えるわけには・・・」

「いえいえ、大活躍の立役者じゃないですか。そんくらいいくらでも甘えてくださいよ。」

冗談抜きでこの人いないと俺死んでるかもしれないしな。

ソファーどころか妹のベッドまで提供するぞ俺は。

妹よ、もちろんいいよな?答えは聞いていない。

「そうですか・・・そ、それでしたらお願いが・・・」

「どうぞどうぞ!何でも言ってください!」

「あ、あの・・・」

神崎さんのお願いは、風呂を使わせてしいとのことだった。

避難所にも簡易的な風呂はあるが、避難民の數も多いので毎日れるものでもないらしい。

やはり、そこらへんは大事だもんなあ・・・むしろ先にらせてあげればよかった。

風呂場には俺の殘念なことになった服が置いてあるし。

井戸水しかないのでかなり冷たいこと、シャンプーやなんかは好きに使っていいことを伝え、俺は自分の部屋に戻った。

枕元に置いてある、國民的大人気貓型ロボットの漫畫本を読みながらゴロゴロする。

大人になって読んでも面白いんだよなあ、これ。

しばらくすると下から聲をかけられ、サッパリした表の神崎さんと合流。

バスタオルは自分で洗って新品を返すと言われた。

気にしなくてもいいのに・・・いやその方がいいか。

俺が洗濯するから大丈夫!って言うのはだいぶ変態っぽいし。

本棚のDVDから玖ちゃんでも問題なく見れそうなものをいくつかすると、支度を整えて家を後にした。

「ところで田中野さん、それは・・・柳生拵えですね?」

・・・ブレないなあ神崎さん!!

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