《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》47話 ゾンビまみれのこと

ゾンビまみれのこと

「おおう・・・なんじゃこれ。」

俺の目前には、ゾンビゾンビまたゾンビの海が広がっている。

ここまでくると、ある意味壯観だ。

ちょっとした名所になりそうだな。

・・・嫌な名所だな。

何で俺がここにいるかというと、発端は昨日にさかのぼる。

「布ー?」

「ぬのー?」

「そうなのよぉ、一朗太ちゃん。」

避難所で玖ちゃんを肩車してスクワットをするという荷重筋トレの亜種みたいなことをしていると、千代おばちゃんが浮かない顔をしていた。

気になったので聞くと、布が足りないのだという。

何故避難所の布の在庫におばちゃんが詳しいのかというと、おっちゃんのようにおばちゃんもここで仕事というか頼まれごとをしているからだ。

おばちゃんは洋裁や和裁が得意で、おっちゃんと結婚するまでは市で有名な仕立て屋で働いていたのだ。

現在、避難民の人たちは外に出ることができず、細々とした作業のほかには學校の中で暇を持て余している。

俺のようなフットワークの軽いロンリー無職と違って、普通のおじさんおばさんたちが自由に外で行することは自殺と同義である。

というわけで、おばちゃんは避難民の人たちに簡単な服の仕立て方や再利用方法などを希者に教えている。

晴れた日ならミシン程度の電力はソーラーで十分らしいし。

子供たちだけじゃなく、フラストレーション解消ってのは閉鎖環境では重要な問題だなあ。

おばちゃんに、もし余裕があったら探索のついでに布を持ってこようかと言った。

おばちゃんたちには昔から世話になっているので、その程度なら別にかまわん。

どうせこちとら絶賛365連休中なのだ。

おばちゃんは決して無理をするなと俺に釘を100本くらい刺してから、申し訳なさそうに頼んできた。

別に気にしなくていいのになあ。

「自分で言っといてなんだけど、俺には布のことなんてわかんないけどいい?」

「手蕓屋とかでロールになってるやつならなんでもいいわよ?こちらでなんとでもなるし。」

あー、なんか見た覚えがあるなあ。

新しい場所を開拓するついでに探してみるかな。

ふと、肩に乗せている玖ちゃんに話しかける。

玖ちゃん、何が好きー?」

「んーとね、あいいろ!!」

ピンクとかじゃないんだ・・・渋いな。

と、いうわけで俺は初めて來る場所に來ていた。

ここは南區の川沿いにある平屋型の大型スーパーだ。

元々ここはかなりの範囲の田んぼがあったが一部を地主が売りに出し、土地を買い取ってその上に作られたものだ。

だだっ広い休耕田の真ん中の、一段高い所にドーンとスーパーだけがあり、周囲には何もない。

近所では一番大きい店舗で、中にいくつものテナントがっている。

俺はここのパスタとかドリアを出す安いチェーン店が好きで、ゾンビ騒前はよく利用していた。

その時に、けっこう大き目の手蕓用品店を見たような気がしたので今回やってきたわけだ。

駐車場には結構な數の車が停まったままになっている。

どれもこれもガラスが割られていたり、給油口が開けられていたりと散々な姿だ。

・・・以前からやたら俺の軽トラが目を付けられると思っていたが、確かに古いとはいえ小奇麗な車が狙われるものわかるな。

ここにはカー用品店もあったし、何か役に立つものがないか探すとしよう。

と、思っていたのだが・・・

適當なボロ車たちの中心に軽トラを目立たないように停め、手蕓屋の看板がかかっているり口に行った俺の目に飛び込んできたのは・・・

そう、冒頭のゾンビの海である。

・・・見たところ、全部おばちゃん達っぽいな。

ゾンビ発生時にバーゲンでもやっていたのだろうか?

どうしよう、これはさすがに無理だ。

なんというか、ゾンビ映畫によくある「ゾンビに寄ってたかって食い散らかされて死ぬ」シーンみたいになることは確実である。

音をたてないように気を付けながら、ぐるりとスーパーの周りを歩きながら中を確認していく。

ゾンビの顔面に、たまにライトから結構な量を當てているが全く反応しないな。

これまでの経験から、ゾンビは聴覚以外の覚がかなり鈍いことがわかる。

小學校の子供ゾンビは目がよかったのに・・・

あれは突然変異かなにかかな?

どうも、手蕓用品店のあたりにゾンビが集しているな。

正確には、用品店の隣にあるスーパーの生鮮食品売り場のあたりだが。

やっぱりバーゲンか何かあったみたいだな・・・?

うーん、これどうしよう。

別の場所を探してもいいが、これほど手つかずの場所をむざむざスルーするというのも・・・

おや?

待てよ、こいつをああすれば・・・

危険はないし、試してみるか。

「んぎぎぎぎ・・・!」

現在俺は、軽自車をがんばって押している。

窓が割られていたのでロックを解除し、ハンドブレーキを下げ、ギアをニュートラルにれた。

あとはもうただひたすら頑張るだけだ。

じりじりと車は進み、やっと駐車場の端までたどり著く。

「ぬううおおおおおおお・・・!!」

気合で段差を乗り上げさせ、下の休耕田に落ちるかどうかギリギリの位置までかす。

そこで一息れて呼吸を整える。

「そおい!」

軽自車の後部に蹴りをれると、車はゆっくりと休耕田に向かって傾いていく。

そのまま走ってスーパーまで戻っていると、背後からぐしゃりと落下音。

一拍置いて、盜難防止用のけたたましいブザー音が鳴り響いた。

そのタイミングで、壁にある自販機の影に走り込んで息を殺す。

「ギュウウウウウウ!!」「アアアアアアア!!!」「ゴオオオオオオ!!!!」

すると、あらかじめ開けておいた自ドアから続々とびながら飛び出すおばちゃんゾンビ集団。

うおおお・・・すげえ、まるでマラソンのスタート直後のようだ。

地面の揺れが凄い。

ゾンビ達はびながら駐車場の端にたどり著き、そのまま休耕田にバンバン落下していく。

続々と走り出てくるゾンビ達を見ること數分、だんだんとその數はまばらになり、出てこなくなった。

その後もかずにしばらく待ち、そろりそろりと壁伝いにスーパーの反対側まで行く。

ドアから覗き込むと、あれほどいたゾンビは1も殘っていないように見える。

ドアを押し開け、部に侵

以前のように上半だけ殘ったゾンビがまだいるかもしれないので、音をたてないように歩きながらライトで周囲を照らす。

見える範囲にはいな・・・いた!!

店員っぽい若い男の上半ゾンビ!

幸いにも、こちらにを向けているので気づかれていない。

ライトがバッチリの斷面図を照らしているのでグロいことこの上ないが。

木刀を振り上げてそろりと近付き、一撃で頭を叩き割った。

注意深く観察したが、この周囲にはコイツ以外はいないようだ。

手蕓用品店にる。

なんかよくわからんボタンっぽいや、端切れのようなものが並んでいる。

それらをかきわけて奧へ進むと、ロール狀にまとめた布を置いている區畫にたどり著いた。

あったあった、へえ、こんな風に売ってるのかあ。

平常時なら何㎝ください、なんて注文するんだろうが、今はロールごと持っていこう。

結構な重さがあるので、何度か駐車場と往復することとなった。

玖ちゃんが言っていた藍や、他のもバランスよく持っていく。

あって困るものでもないだろうから、糸や先ほどの服のパーツ的なものも。

荷臺が半分ほど埋まったので、このくらいでいいだろう。

さて、それではカー用品店も見ていくかな。

防犯になるものがあればいいが・・・

カー用品店にも半ゾンビがいたが、こちらは下半だけだったので問題なかった。

さすがに下半では生きれないようだな・・・

となるとやはり頭が弱點なのか・・・?

まあいいや、さーて

紫外線をなんやかやしてカットしてくれるフィルムを見つけた。

紫外線はどうでもいいが、こういうのをることで窓が破られにくくなりそうだし持っていこう。

音で知らせる警報機も見つけたけど、さっきのこともあってゾンビがわんさか寄ってきそうだから卻下。

ハンドルをロックするストッパーも逃げたりする時に邪魔になりそうだし無理だなあ。

ん?バッテリーを盜まれないようにするボルトかあ・・・

バッテリーは盲點だったな・・・持ってかれたら困るし、これはもらっておこう。

折り畳み式の幌があるじゃないか!

出先で雨になった時に必要だな。

軽トラ用の強化バンパーなんてあるのか。

オフロード車とかによくついてるパイプみたいなやつだな。

早速家に帰って取り付けよう!

あれ?これだけ手をれているとより一層狙われるのでは・・・?

・・・とりあえず現狀、目立たない所に停めるようにするしかないな・・・

ガソリンの給油口をロックするものももらっておくか・・・

戦利品を荷臺に運び、車で一服。

この後は食料品でも探すとするかな?

煙草・・・こういう所にはメジャーな銘柄しかないんだよなあ・・・

まあ、急用に回収しておくのも手かな・・・

最後にもう一回るか。

いやー、今までゾンビまみれだったからほぼ手つかずだったんだなあ。

ハチミツをリュックサックにるだけ詰め込んでしまった。

栄養補給にもなるしなにより賞味期限が長い!

売っていたエコバッグを2つもらって、缶詰や保存食もポンポン詰め込んだ。

煙草が持てなかったので、荷を車に積んでもう一回行くことにしよう。

助手席に戦利品を下ろし、空になったエコバッグを抱えて再度スーパーにる。

サービスカウンターに向かい、煙草を探す。

あー・・・やっぱりマンドレイクはないな。

仕方ない、ないよりマシだからメジャーな銘柄をカートンでもらっていこう。

お菓子なんかもかなり殘っていたので、避難所へのお土産にパンパンになるまでリュックに詰め込んだ。

もちろんカロリーバーもポケットというポケットにねじ込んだ。

よっしゃ今日は大収穫だ!避難所に寄って家に帰るとするかな。

その時、開けっ放しのドアの方から車の音がした。

一瞬車が盜まれたのかと思ったが俺の軽トラじゃない、もっと大きなトラックのような排気音だ。

反対側のり口から出ようかと思ったが、そちらからも音がする。

くそっ、今からじゃどっちに行っても鉢合わせになるな・・・

仕方ない、人が來なさそうな手蕓用品店の奧に隠れて様子を見るか・・・

先ほど布を回収したエリアのさらに奧、店員の詰め所まで速やかに移する。

ライトを切り、荷を下ろして息を殺す。

丁度いいことに、ここからなら両方のり口が見える。

しばらくすると、両方のり口から人がってくる。

それぞれ4人ずつだ。

手に懐中電燈を持っているから數が數えやすいな。

はほとんどバットだが、2人だけマチェットのようなを持っている。

「すげえ!ほとんど手つかずだ!!」

「ゾンビもいないし、アタリだなここ!」

「ヤベー!最高!」

ゾンビがいないので安心したのか、椅子や床に座って口々に喋っている。

聞こえてくる聲の調子から、結構若そうだ。

20代か、ひょっとしたらもっと下かもしれん。

それから5分くらい。

テンションが上がりすぎたのか、奴らは延々と喋っている。

早く資を探しに行けよ馬鹿!

俺が帰れないじゃないかよ!

どう考えても「探索ですか?お互い頑張りましょう!」って別れられるタイプの奴らじゃないし・・・

このまましばらくは引き続き様子見だなあ・・・

「ぎゃはははははは!!」

「で、そいつが言うんだよ、『た、たすけてぇ~』ってなっさけない聲でさあ!」

「だっせ~!!ぎゃははははは!!」

「あんときはバットでぶっ殺したんだよなあ!人間スイカ割り~って!」

15分経過。

奴らはまだ喋っている。

先ほどはうんざりしていたが、奴らの話を聞くうちにどんどん心が冷え切ってきた。

略奪。

暴行。

殺人。

放火。

奴らが嬉々として語った『武勇伝』の數々。

こいつらは、市民會館で『処理』したあいつらと同じ部類の屑だ。

好んで他人から奪い、積極的に殺戮を楽しんでいる。

若い分タチが悪い。

この先長生きするからだ。

俺もたいがい人殺しの人でなしだが、こいつらはケダモノ以下の何かだ。

手裏剣の狀態を確かめ、刀の柄を握ってガタつきがないか確認する。

音を立てないように、手首のストレッチも。

奴らは油斷しきっている。

すら床に放置するほどだ。

神崎さんが言っていたように、襲う側は自分が襲われるなんてほども疑っていないようだ。

どう回り込むか、どのように仕掛けるか。

冷え切って冷靜になった頭で作戦を考えていると、不意に見知った名前が聞こえてきた。

「そういえばさあ、友やっちゃうのって、いつだっけ?」

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