《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》14 A級冒険者の訪問【リザベータ視點】
リザベータは冒険者である。
階級はA。
A級冒険者といえば押しも押されぬ一流の証であり、同業者だけでなく全人類から羨の眼差しをける。
その中でリザベータは『白豹』の異名を持つ猛者であった。
冒険者ながら數々の修羅場を潛り抜け功を収め、國王からの謁見を許されたこともある。
ここ最近は北端の巨大ダンジョンに挑戦し、ある程度の果を挙げたので一定期間の休暇を取ろうとしていたところだった。
そこへ舞い込んできた依頼が、とある冒険者ギルドへの出向であった。
エフィリトなる聞いたこともない街に小さなギルドがあるという。そこのギルドマスターが有力者と知り合いであり、そのコネから彼を送り込む手筈を整えたようだ。
常に実戦で生きてきたリザベータにとって、こうした折衝で事を決められるのは不快にならざるをえない。
どうせ重要ポストを任されて有頂天になった新任マスターが、箔付けしようとでも言うのだろう。
つまりリザベータは能力云々ではなくA級冒険者としてのネームバリューのみで引っ張られようとしている。
名を譽めそやされ、実を無視されるのは実踐家リザベータの誇りを傷つけるものだが、頼み込んできたのがかつて世話になった恩人であったために斷ることもできず、腰を上げた。
「せっかくの休暇が臺無しだわ……!」
しかもこれから向かうギルドは小規模で、元々の在籍者にはA級どころかB級すらいないらしい。
それでも回っていくのだから各地に星の數ほどある中小ギルドにすぎないのだろう。
そんなところにA級が出向しても持て余すのみだろうが、元々休養に當てる期間でもあったので『バカンスの小旅行』という気分で行けばいいかと繰り出す。
リザベータも引きけたからには中途半端な仕事はしないつもりだった。
こうした上級冒険者の出向は、新人たちへの指導教導による戦力の底上げが意義だとされている。
冒険者とはいえ平和な田舎町のギルドでは大した騒もなく、意識も弛緩しがちだというのは常なること。
そこに活をれ、現場を張させるのが第一線を知る上級冒険者の役目である。
リザベータも到著し次第、在籍冒険者たちに鬼の訓練を課すつもりだった。
ギルドマスターの箔付け願の末に下の者たちは地獄を見ることになるだろうが、その結果クエスト中に死ぬこともなければ恨まれることもあるまい。
目標ができればモチベーションも上がるということで、街に近づく頃にはリザベータもやる気に満ちてきた。
その一端として……。
「ギルドにる前に、狩り場の下見でもしておきましょう」
という気になった。
大抵各街のギルドにはそれぞれに即した活フィールドがあり、冒険者はそこでモンスターを狩ったり、薬草や鉱を採取したりする。
狩り場の雰囲気を見れば、そこで活する冒険者のレベルも窺い知れるというので指導の參考にしようと思った。
上手くいけば冒険者の活そのものも見學することができる。
エフィリト街の冒険者が主に出りしている狩猟場は魔の森と呼ばれているらしい。
事前に調べてきたが、現れるモンスターはディスイグァナ、カンルーチョグ、ウルシシカなど標準的なものばかりのようだ。
それらのモンスターに低級冒険者がどの程度立ち回れるか、それを確認できれば上々と思うリザベータであった。
◆
そして実際に魔の森へと到著し、周囲を見回す。
森というだけあって數え切れぬほどの木立に囲まれ、枝葉には遮られて鬱蒼と暗い。
そして何より靜かだった。
リザベータの気配察知能力なら忍ばせた足音も労せずじ取れるはずなのに。
何も聞こえてこないということは、この周囲で人の一人もいないということなのだろう。
気候時刻、この絶好の狩り日和に冒険者が一人も活していないというのか。
もうし探し回れば誰か見つかるのだろうか。
「あの」
「ひゅわぁああああッッ!?」
唐突に聲を掛けられリザベータは驚きに飛びあがった。
聲がしたのは背後から。
に染みついた急作で、獨楽のように旋回しながら腰のサーベルを引き抜き戦闘態勢へ。
「ひえぇッ!? ちょっとちょっと待ってください!?」
聲をかけてきたのであろう相手は、向けられたサーベルの切っ先に恐れおののき、両手を上げて無抵抗を示す。
よくよく確認すれば、まだ十代半ばというほどの年ではないか。
大人とも言い切れないい相手に抜刀する大仰さを恥じ、リザベータはすぐさまサーベルを鞘に戻した。
「失禮、このような危険地帯で突発的なことが起こり、つい反応してしまったのよ」
「はあ……?」
「アナタも気を付けることね。実戦を積んだ冒険者に背後から忍び寄るなんて、反的に斬られても文句は言えないわよ」
「忍び寄る、ですか? そんなつもりはなかったんですが……」
という年の抗弁を聞き『そんなまさか』と思った。
リザベータはこの時、気配察知を使い周囲を窺っていたのだ。そんな彼の背後にまで近づくには、難関ダンジョンで磨き上げられた彼の覚を欺かなくてはならない。
匂いも足音も消せるネコ科猛獣ならまだしも、人間程度ができるものだろうか。
ましてこんな素人臭そうな年が。
「……アナタ、冒険者?」
「はい?」
「この魔の森の中をうろつくのは冒険者以外にいないでしょう? 散歩コースにしてはスリリングすぎる場所よ」
「はあ……、たしかに僕は、冒険者……でした」
「でした?」
より詳しく事を聞くと、なんでもつい數日前まで冒険者であったところ、実績不振を理由にギルドから追放されたとのこと。
元の階級はFで、薬草採取ばかり請け負っていたそうだ。
「それは理不盡な話ね。冒険者の進退を決める権利は本人にしかないわ。たとえギルドマスターであっても犯罪への罰以外でその権利を取り上げることはできない」
「そ、そんなに怒らなくても……!?」
「とはいえアナタがけないことに変わりないけどね。F級に三年以上とどまり続けるなんて適がないとしか言えないわ」
厳しい言いをズケズケと言うが、それが本人のためでもあるとリザベータは弁えている。
これまでも若い冒険者たちがの丈に合わぬクエストに挑戦し、儚くなるのを何度も見てきた。
進退を決める権利が本人にしかないからこそ、その権利を行使した先に待っているかもしれないものは死だ。
自信だけを燃料に押し進み、その果て帰れぬ人となっても自分以外の誰も責任を取ってくれない。
その點鑑みれば、諦めのつかない不適格者に引導を渡すのも上役の務めか……とも思えるリザベータだった。
そこまで考えが巡ってふと、ある矛盾に気づく。
「え? だったらどうしてアナタここにいるのよ? 冒険者をクビになったんでしょう? だったらここにいる資格もないんじゃない?」
「実はいい縁がありまして……!」
冒険者をクビになった彼だが、そのれ替わりのように薬師協會の重役と出會い、雇われたのだという。
薬剤を納するのに信用がおけない冒険者に代わり、専任で直接薬師協會に薬草を屆ける。
「へえ、変わったことをするのね」
「おで僕は路頭に迷わずに済みました。薬師協會の人には謝しかありません!」
言葉の強さに謝の念がじられたが、リザベータの頭は冷めていた。
彼を雇ったという薬師協會の人間は、ことの重大さをわかっているのだろうか。
この年が実力不足からギルドをクビになったのは、そうしなければ今後命に係わると危懼したからかもしれない。
そんな彼を再び危険地帯に突させては、結局死の運命は変わらないではないか。
中途半端な優しさはけっして本人のためにはならない。
それは死線を潛り抜けた本の冒険者にしかわからないことなのか、とリザベータは嘆息した。
「あの……、僕のの上はこんなものですけど、アナタの方は……?」
「ん? ああ私ね、私の名はリザベータ。A級冒険者よ」
そう言って証明となる襟章を見せる、『元』であっても冒険者ならこれで通じるはずだった。
「えぇーッ!? A級冒険者!? 凄い! 僕初めて會いました!!」
「そ、そう……!?」
そこまで激されると悪い気もしない。
チヤホヤされれば人並みに浮かれもするリザベータだった。
「知らない人が森の中にいたんで、もしかしたら新しくった冒険者が迷ってるのかなと思ったんですが、いらない心配でしたね! 失禮しました!」
「なッ!?」
そしてすぐさま冷や水がかかる。
このA級冒険者リザベータをよりにもよって新人扱いとは。
「この辺は危険なんですよ。A級さんでも注意した方がいいかもしれません」
「あら舐められたものね。冒険者の狩り場に指定されてる地域に冒険者が立ちるのは危ないと?」
むしろ危ないのは萬年F級のお前だろうと言いかけた、その時だった。
「いや、魔の森は奧に進むと格段に危険なんですよ。そして今ここはかなりの奧、するとあのように」
のっそり……、と二人にかかる巨影。
年と話し込んでいたとはいえ、その気配に気づくことができないとはA級冒険者として恥じる失敗だった。
二人に接近する巨は……。
「ガリゴリグリズリーッ!?」
クマの様相を持ったあまりにも巨大なモンスターは、ギルドデータにおいてB級相當とされる難敵。
たとえA級の彼であっても油斷していい相手ではない。
「どういうことよ!? この森の適ランクはE級じゃなかったの!?」
つまりE級冒険者ならば問題なく生還できる、という難易度であった。
しかしそこにB級相當のモンスターが現れれば適ランクなど無意味となる。
「くッ、ここは私が引きけるから早く逃げなさい! モンスターめ! A級の私に出遭ったことを不運と思うがいいわ!!」
「『消滅弾』」
「あれぇーッ!?」
リザベータが構えるよりも前に、魔クマは頭部を消し飛ばされて絶命した。
F級冒険者……しかも『元』と名乗った年が飛ばした何かしらによって。
F級冒険者によって。
明日から一日一回更新となります。
よろしくお願いします。
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