《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》16 ギルドマスターの失【ギズドーン視點】
ギズドーンは自が優秀なギルドマスターであることを信じていたが、自分の支配するギルドに関しては不満もあった。
上級冒険者がいないことだ。
一般的にはS~Fまである冒険者等級の中で、B以上の等級を持つ者が上級とされる。
ギズドーンが率いるエフィリト街の冒険者ギルド、そこに登録する冒険者の中で最高等級はDであった。
これがギズドーンの自尊心から見ると非常に面白くない。
彼が率いる世界一のギルドには、世界一の冒険者が所屬しているべきだった。
D級以下のゴミクズなど存在するだけでも汚らわしい。
気にらぬ狀況打破のためギズドーンはギルドマスター就任直後から力的にいていた。
彼の持つあらゆるコネクションを駆使し、各都市の冒険者ギルドに働きかけB級以上の上級冒険者の招聘を呼び掛けた。
無論そんな簡単な話ではなく、上級冒険者は數においても希である上に、強であるからこそ多くの人から求められ引っ張りだことなる。
実際にダンジョンやモンスターなど、急の理由で上級冒険者が求められることが多く、ギズドーンのような『箔付け』で求める者には後回しになることが常だった。
しかし數年越しでの招聘運が実を結んだか、ついに彼のギルドにA級冒険者がやってくることとなった。
これで自分のギルドはより完璧となり、優秀なる自分に相応しいものとなる。
ギルドマスターは、A級冒険者が到著するその時を指折り待ち焦がれるのだった。
◆
そしてついにやってきた。
A級冒険者が。
その名をリザベータという若い冒険者だった。
見た目もしく、ギルドマスターとしては言うことのない完璧な手駒。
起死回生の切り札だった。
「……隨分と遅かったのう」
しかし喜びをあらわにしない。
あくまで分はギルドマスターが上。これから相手を使いこなすためにも舐められないことが肝心だと思った。
ゆえに高圧的に、主人が奴隷に対するようにふるまう。
「冒険者風はマスターに命じられれば全力で駆け付けるべきであろうに、どこでグズグズしておった? お化粧でもして遅れおったか?」
ここで散々嬲って相手の非を打ち鳴らしておけば、恐し自分の言うことに逆らわなくなるだろう。
それが彼にとって処世のつもりだった。
「本當はS級冒険者がよかったというのにA級なぞガッカリじゃ。しかしまあオレ様の采配ならお前ごときもS級になれるかもしれんぞ? 向上心があるならオレ様に従い、研鑽に勵むことじゃのう」
そして相手のプライドのよりどころになっているところを折り、支えを失ったところで自分に依存させる。
最後のとどめの一言を放った。
「それが嫌ならとっとと出ていくがいい!」
「わかりました、出ていきます」
A級冒険者リザベータは踵を返し、ギルドマスターに背を向けた。
「は?」
意表を突かれ、ポカンと大口を開けるギルドマスター。
「こ、この大バカ者! 帰れと言われて本當に帰るヤツがあるか!!」
「帰れと言われて帰るのは當然でしょう。自分の発言には責任を持ちなさいよ」
冒険者は、顔一つ変えずギルドマスターに真正面から向き合う。
數多くの修羅場を潛り抜けたからこそのA級冒険者である。苦難によって能力だけでなく神も磨かれ、罵詈雑言ごときで怯むたおやかさなど持ち合わせていなかった。
「アンタがこの弱小ギルドの無能マスターってわけ」
「じゃ、弱小!? 無能!?」
「理解していないから教えてあげるけど、私は別にんでここに來たわけじゃないのよ。知人から頼まれて“來てやった”の。だから気が変わればいつでも回れ右して出ていくことが可能なのよ」
「バカな! バカなそんなことがあるものか!?」
想定していたのとはまったく違う展開にギルドマスターは大いに慌てる。
「オレ様はギルドマスターだぞ! 冒険者はギルドマスターの命令に従うものじゃ! 逆らってみろ! ギルド理事會に報告してお前の冒険者登録を無効にするぞ!」
「やれるもんならどうぞご自由に」
ギルドマスターの中で最大級渾の脅しにもA級冒険者は揺らぎもしない。
「実際にやってごらんなさい。アンタのギルドマスター適に疑問が生じて追い込まれるだけよ。冒険者とギルド職員は平等なのが大原則。ギルドマスターも本質は指示者であって上司じゃないのよ」
「何を言っとる!? 指示者も上司も同じではないか!?」
「想像以上にバカのようね」
の冷靜な態度が益々ギルドマスターの神経を逆なでする。
「細かい違いを教えるのも面倒だからもっとわかりやすい事実を教えましょうか? A級は冒険者等級の最上位S級に次ぐ。そこまでのし上がった冒険者には様々な特権が與えられるの。たとえばA級冒険者はギルドマスターと同等の権限を得るとか」
「何をッ!?」
「ちなみにS級はギルド理事と同格になるわ」
ギルドマスターは信じられなかった。
自分が得た地位と特権、それと同じものがこんな小娘にも與えられるなど。
「ギルド規約を読めばわかることでしょうに。こういうところで有能無能が浮き彫りになるわね」
「ぐぬぬ……!?」
「だから私はアンタの指示に従う義務を持たないし、場合によってはアンタを差し置いてこのギルドを指揮することもできるのよ。そんなアタシに暴言を吐き、服従させようとしたこと訴えたければ訴えればいいわ。どっちの首が飛ぶか見ものね」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……!?」
一言も反論できない。
ギルドマスターはかつてない屈辱に歯が欠けそうなほど強く食いしばる。
「それにね、私だってこんな底辺ギルドに籍を置くなんて真っ平ごめんなの。こっちにも選ぶ権利があるって理解してほしいわね」
「底辺!? 何を!?」
「ここに來る途中、魔の森に寄ったわ」
A級冒険者リザベータの発言に、ギルドマスターだけでなく周囲がにわかにざわつく。
冒険者ギルドのロビーでは、居合わせた冒険者たちが何人も視線を釘付けにされていた。
大勢の前でA級冒険者をやり込め、自分の権威を高めようとしたギルドマスターの思が完全に裏目に出ていた。
「まさか、お前が遅れた理由は……!?」
「その街のギルドを知るには、狩り場を覗くのが一番だからよ。おで一目でわかったわ。このギルドに本の冒険者なんて一人もいないと」
薄曇りの晝下がり、モンスターを探して仕留めるには絶好の日和に活中の冒険者を一人も見かけなかった。
「そしてギルドに來てみれば、自稱冒険者の連中が晝間っから酒盛り。こんなだらしない連中見たことないわ! コイツら全員冒険者の資格なんてない! F級からやり直すがいいわ!!」
「おーおーデカい口叩くな姉ちゃんよう!!」
場に居合わせた冒険者の集団から、一際偉ぶった男が立ち上がる。
「ヒトのシマに上がり込んで勝手放題ぬかしやがって! 禮儀がなってねえなあ! このオレが躾け直してやるぜ!! このギルド最強の冒険者! D級のガツィーブ様がよぉ!」
「……何?」
突如としてケンカをふっかけてきた男冒険者にリザベータは訝しむ。
「はねっ返りなB級はこれまでも何度か相手にしたけれど、D級からそんな舐めた口の利き方をされたのはさすがに初めてね」
「A級ぐらいでイキッてんじゃねぇぞ! 冒険者ってのは結局最後にはハートの熱さよ! それをナマイキに教えてやらぁ!!」
駆け寄るとともに鉈のように厚い剣を振り下ろすD級ガツィーブ。
それに対しリザベータは細のサーベルを抜き放つ。
「ケッ、バカが! オレのスキル『切斷強化』にそんな小枝みてぇな剣が役に立つか! テメエの腕ごと叩ききってやるぜ!」
「『切斷強化』ねえ……!」
リザベータのサーベルの先端が、相手の刃に當たって押し戻していた。
砂粒よりも小さな點で、髪のよりも細い線を捉える。その神業に居合わせた全員が息を飲む。
「そんな有りれたスキルでよくいい気になれたものね。ダンジョンに隣接した激戦區ギルドじゃ、他に四つはスキルを持ってないと真っ當な戦力とみなされないわよ」
「ウソだッ!? 何で斬れねえ!? オレのスキルを全開にしてるのに!?」
「一応教えておくけどね、F級は本當にその日なったばかりの仮免冒険者でE級は見習い、D級に上がってやっと一人前とされる。それが冒険者等級の意味よ」
他の都市のギルドへ移れば、ガツィーブなどその他大勢でしかないということだった。
それなのにこの街では唯一にして頂點のD級冒険者だと思い上がり、みずから高めることを忘れるどころか神まで腐ってしまった。
「鳥なき里の蝙蝠って諺をここまで的確に現しているヤツはいないわね」
「ウソだ!? ギルド最強であるこのオレが負けるなんてウソだあああああッッ!?」
「スキル『釧刺し』」
氷結魔法と細剣を合わせたリザベータ必殺のスキルによって、ガツィーブは打ちのめされた。
自慢のスキルを込めた剣と、大仰な鎧が凍りながら砕け散る。
「手加減してやったんだから謝しなさいよね。本當なら剣の突き刺さった側から氷漬けよ」
「さぶい! さぶいぃ~ッッ!?」
命まで取ることはないと思われたのか。
氷結の刺突はガツィーブの脇をすり抜け、余波だけで全を凍結寸前まで追い込んだのだ。
「誰かお湯持ってこい! ガツィーブくんが凍死しちまうぅ!?」
「そんなに都合よくお湯なんかねぇよ! 火炎魔法なら……!?」
「やめろギルドが燃えるぅ~ッ!?」
ギルド中が大騒ぎになる中、一戦し遂げたリザベータは剣を鞘に戻す。
「一番高ランクの冒険者がクズで、最低ランクが最強。等級と実力がアベコベ。まったく奇妙なギルドね」
「はぬ?」
呟きを聞き取れずにギルドマスターは困。
「とにかくこんなギルドの最低水準も満たしていないエセギルドにるつもりはないわ。ヘドロに浸かって私まで腐っちゃう」
「エセギルド……最低水準を満たしていない……!?」
「街の組合ともめてるそうだし、遠からず理事會の査定はるでしょうね。それまでの短い間ギルドマスターの分を満喫していなさい」
もはや何の興味もないとばかりにギルドから出ていくリザベータ。
頼みのA級冒険者は風のごとく素通りしていき、何事もなかったように吹き抜けていった。
あとには『窮地に陥った冒険者ギルド』という前と変わらぬ狀況だけが殘った。
「ウソだ……!? オレが負けるなんてウソだ……!? さぶい……!?」
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