《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》21 ギルド崩壊【ギズドーン視點】
ギルドマスターのギズドーンは、突然の揺れに晝寢から目を覚ました。
「なんじゃあッ!? 何事じゃあッ!?」
ギルドの建全を揺るがすほどの震。
地震か何かと思いギルドマスター専用の執務室から飛び出す。
するとギルドにはもう誰もいない。
もしこれが地震だとすれば、もう皆外へ避難したということなのだろうか。
「このギルドマスターを置き去りにして逃げたのか!? けしからん!!」
文句を言いながらも一人廊下を駆け抜け、自も屋外へと飛び出る。
そこで信じられないものを見た。
「ま、眩しい!? 白い!? えッ!?」
天に浮かぶ純白の。
太とはまた違う気高さで地上を照らす天上の燈火は、形ある獣の姿を取っていた。
大きく広げられた翼の中心にい立つ逞しい馬。
純白のに包まれた姿はたしかに太のように眩しかった。
「あれはまさか……、聖獣ペガサス……!?」
さすがにギルドマスターを務めるまでになった彼は、一目見てペガサスに気づきえるだけの知識は持ち合わせていた。
しかし何故ここに聖獣が。
「聖獣……聖獣様だ……!?」
「ありがたや、ありがたや……!?」
気づけばギルド職員たちも殘らず外に出て拝んだり祈りを捧げたりしている。
ギルドに誰もいなかったのはそのためだったか。
「……そうか!? オレ様のギルドマスターとしての有能さを、聖獣が讃えに來たのか!?」
時折そういう話を耳にする、時の聖人偉人の下に聖獣が現れ、祝福をもたらしていくと。
ならば自分が聖獣に選ばれるのは當然のことだとギルドマスターは理解した。
むしろ遅いくらいだが、自分に対してあるべき出來事に心から躍る。
「おお! よくぞ我が下にやって來た聖獣よ! お前からの祝福を喜んでけようぞ!」
『我が怒りにれし愚か者どもよ』
しかし天から降り注ぐペガサスの聲は刺々しかった。
すぐさま浮かれていた衆生の心が冷たく凍る。
『我は聖獣ペガサス……艶福にして妖しき神に忠誠を誓う馬なり。こたびは我に敵対せし兇人どもを罰するためにやって來た』
「てきた……ッ!?」
その言葉に地上がざわめく。
「聖獣と敵対!? 聖獣を襲ったということか!?」
「誰がそんなバカなことを!?」
「恐れ多い……! ソイツは世の道理を知らんのか……!?」
混が広がる中、ペガサスは意に介さず宣告を進める。
『この罪人はお前たちの所屬だろう、返しておくぞ』
そう言ってペガサス、みずからの背に載せていたものを咥え地上に向けて投げ放つ。
「うわわわわーッ!?」
それを見上げた者たちは大混。
ある者は怪我を嫌って避け退き、またある者はけ止めようと進み出る。
重力に引かれドサッと地面に激突したのは、人の形をしていた。
「だ、誰だコレは!?」
「ガツィーブ!? D級冒険者のガツィーブじゃないか!?」
「こないだA級冒険者にケンカ売ってボコボコにされた!?」
ギルドマスター始め、関係者一同の顔が青くなった。
ペガサスは『自分に敵対した者』と呼んでいたから。
『森で私が休んでいたところに襲い掛かってきた。私を殺し、その死を持っていけばこの施設が高く買い取るそうだな』
「バカなッッ!?」
ギルドマスターの口から心臓が飛び出そうなほどの大聲。
「違うのだ聖獣よ!! これは間違いだ! このバカが勝手に勘違いして……! こんなバカなど無関係だ! オレ様はまったく知らんぞ!!」
『言い逃れとは見苦しい。非を認め、一心に頭を下げて謝罪すれば水に流せるみもあったのにな』
「へぇッ!?」
『個人の罪は集団に帰する、それがお前たち人間のしきたりであることは既知している。我ら聖獣を舐めるでないぞ。その愚か者に理を教え込まなかった組織の罪。これを監督責任というのだろう!?』
地上から見たペガサスは、一旦そのを小さくする。
それはより天高くへと上昇し、地上との距離が開けたからであった。
『同胞として連座に服せ! この聖獣に歯向かいし冒険者ギルドとやら!!』
充分な助走距離をつけて下降するペガサス。
その勢いは流星のごとしであった。
「はわわわわぁあああーーーッッ!!」
その勢いのままに地上へ激突すれば甚大な被害は免れない。
地面が抉れ、クレーターができてしまうかもわからなかった。
もちろんその場にいる人間たちは一人殘らず原型も殘すまい。
「ぎゃひひひひぃーーーーーーッッ!?」
全員が死を覚悟した瞬間、流星は軌道を変えカーブを描き、再び上昇する。
地上への被害は免れたが、軌道上にあったギルド建に直撃し貫通。その一部が弾け飛んだ。
「はぎゃぁああッ!? オレ様の城がぁああああッッ!?」
『本來なら敵対者一人殘らず蹴り殺してやるところだが、慈悲だ。貴様らの城の破壊だけで済ませてやる』
ペガサスは再び上空へと戻り悠然としていた。
建を半壊させた衝撃はペガサスの側に掠り傷一つの名殘もない。
『それは恩返しのためだ。昨今私はある人間によって生命の危機を救われた。その大恩ある相手がんだゆえ、苛烈なる復讐を控えてやっているのだ。貴様らもその者らに謝することだな』
ペガサス、もはや用は終わったとばかりに翼をはためかせ離れていく。
『その者たちの名はスェル、それにエピク! 貴様らもその名を忘れず永久に謝し続けるがいい! その者らの懇願によって自分たちの命があるのだとな!!』
そうしてペガサスは去っていった。
あとには呆然と立ち盡くす人間たちと、半壊したギルド建に散らばる瓦礫だけが殘された。
◆
ペガサスが破壊したギルド建の被害程度は、思ったほど広くはなかった。
建上部を削るように打ち砕かれたため、本倒壊の恐れもなく、被害部分を修復しつつだましだまし使っていけば數年もつかと思われる。
ただ直接被害に遭った部分はメチャクチャとなり、もはや使用不可能であった。
その部分は、ギルドマスター専用の執務室。
「バカな……!? バカな……!?」
見る影もない自分の部屋を目の當たりにし、呼吸も忘れて直するギルドマスター。
みずからにとってもっとも快適な環境にするため、金にあかせて集めた調度品も、ふかふかのソファもオーク製の執務機も木っ端みじん、あるいは瓦礫に埋もれて無慘となっていた。
「オレ様のコレクションが……!? オレ様の空間が……!?」
こんなことになったのは誰のせいだ。
人間なら誰もが知っていて當たり前の聖獣。
その聖獣に敬意も払わず、ましてモンスターと同様の扱いをして討伐しようとしたバカ者。
その大バカ者が今、ギルドマスターの眼下で意識を取り戻している。
「これは一どういうことじゃ……!?」
「待って……聞いてくれマスター……。オレは手柄を上げようと……!?」
「手柄を上げようとしてなんで聖獣と敵対するんじゃ!? お前はバカか!? 頭に脳みそじゃなくて馬糞が詰まっておるのか!? 愚か! 愚鈍! クソ蟲! 生きている価値のない大たわけ! バカ! アホ! マヌケ! 最低無能のクソ弱者! お前など死んだ方がマシじゃったわ! 何で生きておるぅ!?」
思いつく限りの罵倒を浴びせられるガツィーブ。
元々プライドの高い方なので悪しざまに罵られれば、率直に腸が煮えくり返る。
できることなら今すぐにでも毆り飛ばしたいところだが、それをするには相手が権力を持ちすぎているとは彼にも理解できた。
「……ガツィーブ、お前をF級に降格させる」
「はぁッ!? なんでだよ!? オレはこのギルドで最高のD級冒険者だぞ!?」
「そのD級に相応しくないということを、あのA級娘に慘敗した時點で気づけばよかったわ。聖獣に憎まれたお前をこのまま置いておいて、また巻き添えでも食えば最悪じゃ。そうじゃ降格など生ぬるい、お前もクビにしてやるからギルドから出ていけ!!」
ただでさえズタズタのプライドが、々に砕け散る。
F級で追放など、あの底辺冒険者エピクと同じ。みずからを最強冒険者と信じて疑わないガツィーブにとってエピクと同程度など死よりも辛い屈辱だった。
「エピクと同じ……!? エピク? そうエピクだ!」
「なんじゃ? 早く出ていけ」
「聞いてくれマスター! 報告がある! 森でエピクと會った!!」
「はあ?」
唐突な報告に、理解が追い付かぬギルドマスター。
「エピクといえば、あの使えぬ底辺F級か? それがどうした? アイツが今さら生きていようが死んでいようが知ったことではない」
「でも、まさに今日森の中でアイツと會ったんだぜ? 冒険者をクビになったアイツが、狩り場にまだいるなんておかしくねえか?」
「……」
「しかもアイツには連れがいた。ピーピー煩えで、アイツが薬草を持ってきてくれるんだと喚いていやがった。……なあ、最近薬師協會からの発注切られて苦しいんだよなあ、なあ?」
ギルド追放の瀬戸際に立ったガツィーブ、その危機から今までにないほどに頭が早く回転する。
そして記憶にあるない報を繋げ合わせた結論は、奇跡的に真実を抜いた。
さらにはギルドマスターにまで報のピースは速やかに繋がる。
「薬草採取しか能のないアイツと、薬師協會に繋がりが? 新しい手ルートがあるとか抜かしていたが……!?」
さすがの鈍いギルドマスターの頭脳でも、結論が出るのに時間がかからなかった。
「アイツの仕業ということじゃったか……!? おのれ恩を仇で返しおって! 犬が、飼い主の手を噛もうというのかぁあああッッ!!」
しかしやつらの手のさえ見抜ければ対抗のしようはいくらでもある。
ギルドマスターの脳に、既に復讐の手筈が浮かび上がっていた。
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