《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》29 怪にして魔にして

あれが、魔の山を支配する怪

それは僕が想像したように、巨大でもなければ恐ろしげでもなく、ましてグロテスクでもなかった。

すべて想像の正反対だった。

しくて清らかで、それでいて見惚れるほどに艶やかだった。

訪れた城の、比較的大きな広間。

その奧で玉座に佇むのは人間のだった。

真っ黒いドレスに真っ黒い髪。

その黒盡くしが艶めくのは、まるで星空煌めく夜空のようだ。

「うわー、綺麗な人……!?」

スェルも同じ印象を持ったようだ。

あんな綺麗なが、魔の山……及び魔の森、さらには僕たちの住む街まで支配域に収める恐ろしい怪だと?

神メドゥーサ様である。首を垂れて禮を盡くせ』

「は、ははー!!」

頭を下げることなら大得意。

僕は言われた通りに跪き、スェルもそれに倣った。

「こら駄馬」

『ははッ!?』

ペガサス、呼ばれてビクリとする。

「『神』ってのはやめなさいといつも言っているでしょう? そんな仰々しくて気取った呼び方をされるとむずくなるわ」

『それではなんと……!?』

「そうねえ、下界の者たちが言う『怪』というのも恐ろしげでいいけれど、もうし艶っぽさもしいわねえ。……『魔』、私のことは魔メドゥーサとでも呼んでちょうだい。お客さん?」

俺たちに言ってるんだよな?

『わかりました』という代わりに頭をブンブン上下に揺らす。

「しかし、下界の人間も隨分無禮になったわねえ」

一転、話が不穏當になり始める。

「まあ私を狙おうなんて命知らずは昔からいたわよ? そりゃ何百年も前から、の程知らずのバカはいつでも一人はいるものよ。でもそのバカの後始末のためによこされたのがこんな子ども二人とはね」

あっ……。

どうやら神様、訪ねてきた僕たちの年格好に不満らしい。

「この時代の大人どもは何やっているのよ? 全責任をこんな子どもに押し付けて自分たちはヌクヌクとしているつもり? 下界の人間どもも隨分腐ったようね。これはもう一人殘らず絶やしにしても惜しくないパターンかしら?」

「ま、待ってください!!」

あの黒いの言葉は、字面の厳しさだけでなく聲音にもハッキリとした強さがこもっている。

一度言葉にしたことは実行するというたしかな強さが。

だからここで怯んではいけない!!

「たしかに僕らはいです! ですがちゃんと理由があって選ばれました! まず第一に、ここに來た人を捕まえるためです!」

「ふぅん、あの刺客にもならないチンピラのことね」

ガツィーブ、やはりここまで來てしまっていたか。

あの黒いも思い當たる節があるようだし。しかし彼にまったく傷もなく、今こうして佇んでいるということは……。

彼はもう……!?

「隨分と歯ごたえのない襲撃者だったわ。これまでもの程知らずはたくさんきたけれど、それなりに歯ごたえはあった。今日來たヤツはその中でもダントツに弱かったわ」

「それでも山の主さんに迷をかけないよう。確実に取り押さえられる人材が追っ手に選ばれました。それが僕です!」

「あら可いお顔なのに隨分勇ましいわね? お強いってことかしら?」

「はい……!!」

気張れ僕。

無難に謙遜している場合じゃないぞ。

ここは全力で自分の価値をアピールしないと、この超常的存在は納得しない。

納得しなければ、本當に彼は街を滅ぼしにくかもしれない。

それぐらい強大で、人間の常識が通用しない相手なんだと肝に命じろ!

「僕が……、僕が今、街で最強の冒険者ですッ!!」

言った……!

大それたことを言ってしまった……!

しかしこれぐらい言わないと、黒いさんは『舐められている』という印象をぬぐってはくれないだろう。

強大な存在とのやり取り……疲れる!

「見かけによらないってことねアナタ」

の視線がすうと冷たくなった。

あれ僕、言葉を選び間違えた?

「とてもそうは見えないんだけど、だから一旦試させてくれないかしら? アナタの強さがどれほどのものか?」

なんだ?

あのの、艶めく黒髪がうねっている?

何もっていないのにひとりでに、まるで髪そのものが生きて意思を持っているかのようだ。

やがて束なった髪の先端が持ち上がり、僕たちへ向かって鎌首をもたげた。

筆先のようにまとまった髪の端は……特徴的な形をしていた。

まるで蛇の頭のように。

いや、まるで蛇の頭そのものだ。

『メドゥーサ様お待ちを! この者たちは!!』

ペガサスが慌てた聲を上げる。

それと同時に僕の皮を、今まで経験したこともないおぞましさが襲った。

なんだこの怖気は!?

それと同時に、髪が変化した蛇の瞳がる。

何かがヤバい、と直した僕は……!

「『消滅』!!」

的に消滅スキルを放った。

あの黒を攻撃するためじゃない。

自分の前面に広い範囲を覆うように展開させた。言うなれば『消滅空間』の壁……もしくは盾だ。

スェルもしっかりカバーできる『消滅空間』の壁で、の速さで迫りくる何かを完全遮斷した。

パァンと原理不明の甲高い音が鳴る。

「あら」

それを見て黒は間の抜けた聲を発した。

「凄いスキルじゃない。私の邪眼が発した呪力までも『消滅』させてしまうなんて」

やっぱり何かしてきたのか。

危なかった。訳がわからなくても咄嗟に対応しなかったら僕もスェルもどうなっていたか……!?

『お戯れはおやめください! 私の恩人ですぞ!』

「何それ?」

『ご報告したではありませんか! 先日アナタ様の命を遂行中に不覚を取り、死命に関わる負傷を彼らが癒してくれたのです!!』

「冗談はヨシ子さんよ。聖獣のアナタを治せるなんて人間には不可能じゃない」

『ですから……!!』

ペガサス、慌てたり怒ったりしながら主たる黒魔にパッカパッカ近づき、耳元へ馬首を寄せる。

馬が耳元で囁くって、なんか変な絵面だな。

「あー、はあはあそういうこと……!」

は得心顔となって……。

「それなら私の邪眼をも遮斷したとて納得ね。ふむふむ……じゃあそっちの子は……」

「はいッ!?」

の視線が突如ずれ、スェルの方へと向かう。

大丈夫か!?

「アナタね、ウチの子の怪我を治す薬を作ってくれたのは?」

「ひゃ、ひゃい! 薬師協會長の娘スェルと申します!」

「薬師の集団の長の、娘ねえ……」

なんだか空気はらかくなってきた気はするが、気は抜けない。

の髪が変化した蛇は、まだチロチロ舌を出しながらこっちを窺っている。

「そう警戒しなくていいわ。アナタの実力はさっきのでわかったから。なるほど追跡者としては充分すぎるほどの実力を持ち合わせているようね」

「一何をしたんですか……!?」

「気になる?」

気になるというか……、知るのが怖いというか……!?

『消滅』で遮斷していなかったら、致命的なことになっていたって直でわかるのよ。

だからあえて聞きたくないというか……!?

「気になる気になる? アナタたちが知りたいことにも関わりがあるからどっちにしろ、わかっちゃうわよ?」

「どういうこと?」

「あれを見れば一目瞭然ということよ」

あれ?

さんに差し示されて初めて気づく。

謁見が行われるこの部屋の隅に、一つの彫像が置かれていることを。

人を象った石の像だ。しかも男。

しかしこの男の姿、どこかで見たような……。

……あ。

「ガツィーブじゃないか!?」

何でガツィーブの石像なんかが出來ているの!? しかもコレ、まるで本のようにソックリ。

は素人の僕ですら一目でわかるレベル!?

「もっと近づいて、その像のびに耳を傾けて見なさい」

「いや僕そういう蕓覚は持ってなくて……」

「そういうのじゃなくて」

言わんとすることの意味がわかりかねたが、言われた通り近づいてみるとそれだけでわかった。

実際に石像から聞こえてくるのだ、魂のびのようなものだ。

『助けて! 助けてえええッ!? かない! 指一本かせない! 何もじない何も見えない何も聞こえない!? おかしくなる! 頭がどうにかなっちまう!? 助けてくれ、もういっそ殺してくれえええッ!!』

これは!?

石像から聞こえるあまりにも悲痛な聲に、背筋がゾワゾワした。

「それが我が邪眼に魅られた者の末路。全が石と化し、言わぬ石像と化してしまう」

面白いものを紹介するように黒は言う。

「しかし意識がなくなるわけじゃないのよ。石と化し、かずすべての覚も封じられたまま時間の流れだけをじ続ける。常人であれば三日ともたずに気がふれるでしょうね。アナタたちも邪眼を防がなければ、同じ目に遭っていたのよ」

石化の能力……!?

なんと恐ろしいと心から思った。

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