《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》36 旅立ち

なんか急に王都へと旅立つことになってしまった僕。

王都ってどこにあるの?

まずそこからよくわからない。

心ついてからずっとこの街を起點に暮らしていて、隣街にすら行ったことがない。

そんな僕がいきなり大都會、王都へ。

その事実だけでもビビって腰が抜けそうなんだけれど、ヘリシナさんやリザベータさんが持ち上げてくるので斷るに斷れず、作られた流れに乗るしかない。

僕は一応ここまでの流れを報告しに薬師協會へと訪れた。

お世話になっている協會長一家の皆さんに話を通しておかないと。

「だからママ! 人前でイチャつかないでよ!!」

「いいわね、この家族! 山じゃ味わえないわ!」

最近よくスェルとメドゥーサ様がめている。

今になって急に家族としてまとまり出したんだから軋轢があるのは仕方ないかもしれないが。

もめる原因はひとえにメドゥーサ様が、夫である薬師協會長さんと所かまわずイチャつこうとするからだ。

街では怪の本を隠して一平凡なマダム然としているが、元が絶世のなだけに凡人ぶっていても全然凡人にならない。

さらには街有數の名士でもある薬師協會長さんが、これまで頑なに男やもめを貫いていたのに、ここに來て急に結婚!?……という事実自が街を騒がせている。

分も実力もある年経た男が、小悪魔に魅られて道を踏み外したなんてことまで言われている。

あるいはご令嬢であるスェルと継子継母関係で一波あるか? という周囲からの視線もあったが、どうやら実の母娘らしいという続報が伝わりさらに興味が過熱。

『どういうこと!?』と注目が集まり、今では僕の活躍もそっちのけで街の話題を総ざらいと言ったところだった。

悔しくなんかないものね!!

「というかせめて! せめてイチャつくのは夜だけにして!! いや、夜もできれば遠慮してほしい! 親の聲を壁越しに聞かされる娘のにもなって!!」

「こっちとしては娘への教育のつもりで聞かせてあげてるんだけどねえ? アナタもいい歳なんだから、好いた男へのアプローチのかけ方ぐらい學んでおかないと、泣きを見るわよ?」

「何で泣くのよ!?」

「そりゃあ好件は男問わず皆から狙われるものだからねえ。ずっと一緒にいるからって油斷してると、行力のあるヤツにパッとさらわれて泣くことになるのよ。ただの時間経過で関係が深まるなんて夢にも思わないことね」

「ぐぬぅ!?」

なんか言い負かされたになってしまったスェルが一瞬こっちを向いた気がするが……。

なんだ?

「まあまあ、エピクくんもやってきたことだしケンカはそこまでにしようじゃないか。ウチの家族もすっかり賑やかだなあ」

「薬師協會長さん、痩せましたね」

それから僕は、今日の用向きを手短に告げた。

ギルドからA級への昇格を勧められたこと。

僕はその話をけたので、審査をけるためにギルド理事會へと行くことになる。

「ギルド理事會はどこにあるんですか?」

「王都だって」

「王都!? じゃあそこまで行って帰ってくるには……!?」

その話にまず大きく反応したのはスェルだった。

慌てているような、怯えているような……?

「まず王都までの移に二十日ほど、帰りにも同じだけの時間がかかる。さらにはA級の審査がどれだけの時間がかかるかは正直見當がつかんな。B級C級と違って決まった試験があるわけでもないから」

薬師協會長さんが説明してくれる。

この人もかつてA級まで登り詰めた冒険者なので教えを乞うにはうってつけだった。

「実際に私がA級になった時は全部ひっくるめて半年は街に戻れなかったよ。たしか理事會の招集に時間がかかるとか言われた。お役所仕事がトロトロなのはどこでも同じらしいね」

「っていうかイモーロまで行くのに二十日で済んじゃうのね。人間の技も隨分進歩したじゃない」

「今の王都はイモーロじゃないんだよ。百年ほど前に遷都してね。……キミと會話すると時代の流れをじさせられるね。無闇に大きな……!?」

半年か……!?

僕自、経験者の報から予想以上の期間に揺させられる。

そんなにも長く街を離れることになるのか。

「あの、僕がいない間の薬草採取ですが、リザベータさんが代わりを務めてくれるそうなんで心配しないでください。他の冒険者も彼がガンガン鍛え直していますし……」

「ギズドーンさえいなければ冒険者ギルドは大丈夫だろうから心配してないよ。それよりも心配なのは……」

薬師協會長さんの視線が不意に橫を向く。

つられてその視線を追うと行き著いた先はスェルだった。

何か彼の様子が妙だった。

僕がA級昇格の審査をけに行く……と言った時點から一言も話さないし。

何やら怯え戸っている様子は普段の彼らしくない。

「……アナタ」

「うむ」

そしてもう一言二言で通じ合っている夫婦。

「頼みがあるんだがエピクくん、ウチのスェルも一緒に連れていってやってくれないか?」

「えッ!?」

「ちょうどこの子も薬師結社に加させなければいけない時期だからね」

結社!?

何ですいきなり!? 不穏當な単語が出てきたけれども。

「勘違いしないでくれ。薬師結社は危ない組織ではない。しかし薬師という職業の質上、その職に就く者は協會と結社両方に加しておいた方がましいんだ」

「というと?」

「薬師は薬を作る職業だ。そして薬は人の社會に大きな影響を與える。いい意味でも悪い意味でも」

疫病を治す特効薬があれば、數千數萬という人の命を救うことができる。

その逆に薬は使いようによっては毒にもなる。薬の間違った使い方が橫行すれば毒殺によって社會は大混に陥るだろう。

「そのため薬師は、自分の修めた薬の知識をみだりに広めず、正しいことに使うと誓わねばならない。その誓いを統括するのが薬師結社だ。薬の売買を司る薬師協會とは別組織として獨立していて。互いに表裏を補い合っている」

「本來薬の調合法は、薬師結社だけが管理しているの法なの。の厳守を誓い、薬師結社に加した者だけが師について、教わることができるのよ」

メドゥーサさんも説明を継ぎ足してくれる。

「下界のことにお詳しいですね……!?」

「そりゃあ、このを守る仕組みは私が考えたことだもん。もっと言えば薬の知識は、私が人間たちに與えたのよ」

スケールが違った。

「簡単な消毒薬や風邪薬程度……なら一般的に広まっていてし學べば誰でも作れる。だがもっと効果のある薬となったら薬師結社に所屬して専門知識を得なければならない。スェルもそろそろそういった段階に進まなければと思っていたところだ」

つまり薬師とは、薬師協會に所屬するだけでは一人前とは言えない。

より深い知識を蔵した薬師結社にも所屬することで、真の第一級の薬師となる。

スェルにもその段階を進ませようと……?

「しかし薬師結社への門は王都へ行かなければ。スェルもいつかは……と思っていたが、若い娘一人あんな大都會へ送りだすのは心配で躊躇していたところだ。そこでエピクくん」

「はいッ?」

A級冒険者の資格を取るため、王都を目指す僕。

行くべきところは同じ。

「キミと一緒なら他の誰よりも安心できる。それぞれの目的を果たすために一緒に王都へ行ってやってはくれないか」

「僕でよければ喜んで」

僕、即答。

これまで散々世話になってきたスェルたち一家なので、僕でお役に立てることがあれば率先して行いたい。

「行きましょう王都、スェルと一緒に!」

「……!」

それがきっかけとなったのかどうか、スェルの表がまた一気に激変した。

何やらキラキラとときめいて……!?

「うふふふ……スェルちゃん、さっき言ったこと忘れないようにね」

そんなスェルの肩にメドゥーサ様の手が置かれた。

「一緒に過ごした時間の長さは、関係の深さとあまり関わりがないのよ。功するのは常に行を起こした者だけ。それに男もも違いはないのよ」

「ま、ママ……!?」

「白馬の王子は、迎えに來るものじゃなくて捕まえに行くもの。肝に銘じておきなさい」

こうして王都へ向かう旅路は、僕とスェルの二人で行くことになった。

一人だと何かと寂しく不安だったが彼が一緒にいてくれるなら全然安心、百人力だ。

そしてしの準備期間を経たのち、僕らは王都へ向かって街を発った。

意外に多くの人たちが見送りに駆けつけて、ちょっとしたイベントになるほどだった。

僕が無事A級冒険者になれれば、我が街からは約二十年ぶり、それこそ現薬師協會長さん以來の快挙になるとのこと。

そりゃあ街中浮かれるはずだった。

スェルと共に馬車に揺られ、途中の街や村で宿泊しつつ、幾日もかけて進む。

しかし、それでも王都に著くのはいつのことになるやら。

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