《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》38 遭遇戦

乗合馬車の者さんが指し示す先、たしかに何やらモゾモゾしている影がある。

ただし極小。

見晴らしのいい野原で、ほぼ地平線から出たり隠れたりしている遠さで、よくまああんなのに気づいたなと心する。

並の冒険者なら見過ごしているレベルだ。

「長く馬車転がしてるとわかってくるもんなのさ。まあ白狀すれば真っ先に気づくのは馬だ。そしてわしらは馬の怯えに気づいているだけなんだがね」

なるほど。

馬も食獣の餌食とならないため、人間の何倍も鋭い勘をしている。

その覚に頼れば忍び寄る危険も事前に察知できるというわけだ。

「街から街へと渡る馬車を転がしてたら一番怖いのはモンスターや野盜どもだからなあ。というわけで兄ちゃんたち、無事に目的地に辿りつきたかったら一仕事しちゃくんねえかい」

「任せろ! ちょうど退屈してたところだからな!」

同乗の若き冒険者に『避ける』という選択肢は最初からなかった。

まだ遙か遠い影ながら、あの不審な挙は人間のものではない、とすればモンスターだ。

ならば目當てはまず馬、それから人間の僕たち。食料としての『』だろう。

道を急ぎ、次の街に飛び込めば連中も諦めるかもしれない。

しかし影は我々の進行方向にあって、前進するのはヤツらに接近するのと同義になってしまう。

だから進みながら逃げるのは事実的に不可能だろう。

ならば一番安全確実なのはこの場でUターンして、今朝発った前の街に戻る。

後退はしてしまうものの安全を取るのであれば、これが最善策だと思える。

しかし、この場にはそう言う安全策を拒否する者もいた。

「冗談じゃないぜ! 一日も早く王都へ行きたいのにこんなところで後戻りなんかできねえよ! 危険を冒してこそ冒険者! 目の前の障害は蹴散らしてオレの武勇伝に加えてやるぜ!」

そうなるよね。

これまでの話しぶりから考えたら。

同行者がこんな勇ましさで僕が撤退を提案しても、意見衝突で卻って時間を浪費するのがオチだ。

その間にもモンスターは著々と迫っている。

僕が臨機応変に対応を変える方が賢明だろう。

「ズンズン迫ってくるな……。ほぼ直進。向こうもこっちに気づいて……獲と認識してるってことか」

「上等だぜ!!」

だからなんでそんなに勇ましいのか。

ええい、こうなったら迎え撃つしかない。

「スェルは馬車の中でかないでくれ、何があっても出てこないように」

「はいッ! 傷薬をたっぷり用意しておきますね!!」

馬車や同行者の安全を考えたらできるだけ近づけさせず、こちらから迎え撃ちに行った方がいいかなとも思ったが、萬が一伏兵がいたとすれば卻って危ない。

馬車を徹底的に死守するためにも、相手の戦力を見極めるためにも可能な限り引き付けるべきだなと思った。

「なあキミ、まだ名前を聞いてなかったよな?」

「えッ? ああ、はいエピクです……!?」

「オレの名はアレオ!!」

同行の男冒険者が言う。

「向こうが來るのを待ってるってのはに合わねえ! オレはひとっ走りいってモンスターどもに先制攻撃を加えてやるぜ!! エピクは萬が一のために馬車を守ってくれ! それで完璧だ!!」

いやあんまり完璧じゃないと思いますがね!?

しかし僕が止める間もなくアレオなる若手冒険者は駆け出して行った。

いくら見晴らしのいい草原だからと言って、切り拓かれた街道以外のエリアはけっこう背の高い雑草でぼうぼう覆われている。

モンスターでも種類によってはを隠すことも容易いというのに……!?

追いかけようと思ったが馬車には戦闘能力を持たないスェルや者さん、それと馬。

あの無鉄砲くんの道連れである魔導士の実力も未知數で、リスクを冒せなかった。

そうしているうちに無鉄砲アレオくんとモンスター影の間合いはドンドンまっていく。

ヤツらも獲を追い込もうとしているので距離はまる。

それで郭もだんだんはっきりしてきて、何のモンスターか識別できてきた。

「でもなんだあれは!?」

獣……と思しき全を覆う皮に尖った耳や突き出た鼻先。

一見してオオカミか何かのように思われたが、格というかつきが完全に人のそれ。

つまりオオカミみたいな人。

走ってアレオに接近する時は四本足で、充分に距離を詰めて戦闘態勢を取ったら立ち上がって二本足になった。

狀況で使い分けている。

「あれはライカントだ……!」

僕の隣で者さんが言った。

「この辺に出沒するモンスターの一種で、オオカミみたいに人や家畜を襲う兇悪なヤツだ。その上見た目通りに半分人がじっているせいかオオカミよりずっと狡賢い。襲ってくる時も群れで、獲を罠にハメるように追いつめるんだ」

説明を聞いただけでとても厄介なヤツだということがわかった。

「兄ちゃん初めて見るかい?」

「僕のいた街では見かけませんでしたね……!?」

ところ変われば品変わるとはこのことか。

確認のため、馬車に殘った魔導士さんを振り返ると無言で首を振られた。

のところでもあのモンスターは棲息していないということか。

だとすると必然あの無鉄砲アレオくんも、あのライカンプなる人狼モンスターは初見ということになる。

何の予備知識もなくひたすら突っ込んで大丈夫?

「一刀両斷に突き進んでやるぜ! スキル『切斷強化+2』!!」

おお。

なんか凄げなスキルを発させて斬りかかった。

あれで振り下ろせば敵もやすやす斬り刻めそうだが……。現実は非、なかなかそうはならない。

「そんなッ!? オレのスキルで斬れない!?」

いや、正確には斬ることは斬れた。

しかしそれは群れる人狼の一の腕に食い込み、切斷できぬままで途中で止まっている狀態か?

それを遠目で確認し……。

「骨を斷てなかったか」

「『切斷強化』って剣の斬れ味を上げるスキルだからなあ。結局切斷力は持ってる武能に依存するからスキル頼みで武をちゃんとしないと案外あっさり限界が來るんだ」

案外的確な解説をしてくる者さん。

何者?

いや、そんな落ち著いて見守っている場合じゃない。

振り切ることができず武が埋まってしまった無鉄砲アレオは、いまやきができない狀態。

ライカンプは群れで襲ってきているので、この直を他の獣が見過ごすはずがない。

一斉に襲い掛かる。

「うわあああッ!? 來るなあああああッッ!?」

アレオは剣の柄から手を放し、を転がして避ける。

そのタイミングが紙一重で冒険者としての才能をじさせたが、しかし完璧にはよけきれなかったようだ。

人狼の爪の一振りが足をかすったようだ。この距離では確認しがたいが、足を引きずっているので深手かもしれない。

どの道、足に傷を負ってはあの人狼集団から逃げ切ることもできないし、剣も手放したから丸腰だ。

つまり攻めるも退くもできない八方塞がりというわけだ。

「アレオッ!」

魔導士さんが慌てて馬車から飛び出してくる。

人のピンチなんだから當然だろうが。

「魔法で援護を……ダメだわ、距離が遠すぎて今の私のレベルじゃ程にらない! もっと近づかないと……!」

「待ちなさい」

何よりもまず駆け寄ろうとする魔導士の肩を持って止める。

人を助けたい気持ちもわかるが無策で突っ込んでも、二の舞になる可能が高い。

相手は群れで行する上に、俊敏なモンスター狼なのだ。

「でもあのままじゃアレオが殺されちゃう! まさか見殺しにするつもり!?」

「そんなわけないでしょう」

この距離なら……行ける。

『消滅』スキルを発。僕は丸く球狀に整えた『消滅空間』を數個。狙い定めて投げ放った。

それだけで彼に飛びかかろうとした人狼數、その頭が音もなく消え去った。

「うえええッ!?」

よし、今日も狙いが正確だぞ『消滅弾』。

飲み込んだものを何でも消し去る『消滅空間』を飛ばす遠距離攻撃だが、毎日魔の森で訓練した甲斐もあって大分遠くでも正確に目標を抜ける。

「どうして!? モンスターが皆死んで……助かった!?」

遠い前方でアレオくんは、目まぐるしい狀況変化についていけず呆然としていた。

しかし狀況はさらに激変する。

「エピクさん!!」

つんざくスェルからの聲に緩みかけた警戒心が引き締まる。

馬車の周囲の草むらから、突如突出する複數の影。

またライカンプか!?

やはり草むらに隠れて忍び寄っているヤツがいた。

「これ見よがしに姿を曬してたヤツらは!?」

獣のくせに周到な。

普通ならここまで接近を許してしまった時點で詰みだった。飛び出してきた人狼は五~六匹。これだけの數に大きな馬車を守りながら戦うのは現実的ではない。

しかし。

「『消滅』!!」

僕の放ったスキルですべての人狼が一瞬のうちに消え去った。

その様子を魔導士さんは間近で、無鉄砲くんは遠方から目撃して目を丸くしていた。

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