《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》46 地下竜は『消滅』の恐怖を知るか

もはや勝負は見えていた。

持久力、許容量で人が竜に勝てる道理がない。絶対的に劣った分野での勝負を強いられた時點でビリリュートさんの敗北は決定していたのだ。

『そろそろ限界か? 飲み込んだ炎がスキルの許容量を超えて、貴様のを焼き始めたぞ?』

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……!?」

ドラゴンの言う通りで、ビリリュートさんのは真っ赤に茹で上がり、無數の汗の玉が浮かんでいる。

「……お前たち、逃げろ……!」

ついに彼の口からそんな言葉が出た。

「今はまだ、ヤツの炎を飲み続けていられる。そのうちにダンジョンを出するんだ。この均衡が続いているうちはヤツもけないはずだ」

「いや、でもそうなったら……!?」

「オレはもう助からない」

自分の終わりという衝撃的な事実を、あっさりれている。

「オレの『貪呑』スキルは間もなく限界を迎えるが、あの竜はまだまだ炎を吐き続けていられる。次の日まで吐いていられるんじゃないか? とにかくこれ以上は吸収し続けられないし、かといって放出する余裕はない。……八方塞がりだ」

引くも進むもできない。

自分の破滅という最悪の事実を、実に冷靜にけ止めている。

「だがオレ自滅ぶとしても、お前たちは必ず生きて地上に戻す。後輩を守り通さずしてA級冒険者の最後の誇りは守れないからな! さあ行け、オレの気力がまだ続くうちに!!」

手柄に貪な野心家の面もあるが、ビリリュートさんはA級という立場に見合うだけの責任も同時に持っていた。

自分の命と引き換えにしても弱者を守り通そうという気概に満ちている。

「……」

っていうかさっきから何を傍観しているんだ僕。

ここでかなきゃ恥ずかしすぎるだろう。

「『消滅』」

「うおおおおおッ!?」

目の前を覆い盡くすような紅蓮が一瞬にして消え去って、ビリリュートさん驚愕する。

僕の『消滅』スキルによってドラゴンの放つ火炎を消し去ったのだ。

「これは一!? お前の仕業なのか!?」

「今です、さっさと溜め込んだモノを放出してください」

「そ、そうだなッ!? 倍返しパンチ!」

『いてえッ!?』

放出のついでにしっかりドラゴンを毆りつける。

これで一旦スキルの吸収量をカラにして人心地ついたかに見えるが、既に彼のは限界を迎えていた。

一度スキルから溢れかけた炎の熱で全がレアもしくはミディアムレアぐらいまで焼き上がっている。

こので再びドラゴンの火炎ブレスをけ止めることは不可能だろう。

A級冒険者ですらここまで痛めつけられるドラゴンを恐れるべきか。

ドラゴンにここまで食い下がったA級冒険者を讃えるべきか。

「とにかくこれからは僕がやります。ビリリュートさんは休んでいてください」

「待てッ、お前のような新人が……!?」

「スェル治療をお願い」

戦闘中におった怪我の処置なら薬師であるスェル以上の打ってつけはない。

すぐさま何らかの薬品をビリリュートさんの頭からぶっかけていた。

それで彼のの赤みがみるみる引いていくのだから凄い。

そして代わりに竜の前に立ち……。

竜は、僕のことを訝しげに見下ろしていた。

『我が炎を苦も無く消し去るとは。前のヤツと同じスキルの持ち主か?』

たしかに『消滅』と『吸収』は似ている。

対象を、理屈もなしに瞬時に消し去ってしまえる點は。

「希なユニークスキル、それをまったく同じものを持つ者が二人揃っている。そんなことがあると思いますか?」

『正論よな。つまりはよく似た効果の別種のスキルということか……!?』

さすが數百年を生き続けた古代竜。

理解が早い。

『しかしながら我らドラゴンからしてみれば、貴様ら人間どもの差異など些細でしかない! 貴様がいかなるスキルを持っていようが、ドラゴンの強大な力に屈する以外にないのだ!!』

そう言って再び口から噴き出される炎。

それを前に僕も再び……。

「『消滅』」

スキルを使用した。

『消滅空間』に飲み込まれて消える大炎。

『やはりこうなる。前の愚か者と同じだ。そうして力盡きるまで、けっしてやむことのない我が炎をけ止め続けるがいい!』

「僕の方はそれでもいいけど……」

僕の消滅『消滅』スキルに力の強弱は関係ない。

ただ消し去るだけなんだから、対象が何であろうと違いはないんだ。

たとえ消し去るものが綿であっても、鋼鉄であっても、同じスキルの力加減で消せる。

その消費量は常に最小限。

持久戦になってもそれほど問題はないということだった。

僕自このスキルは子どもの頃から使い続けているからペース配分には慣れている。

不眠は辛いかもしれないが、それでも翌日まででもこの狀況を維持し続ける自信はあった。

「しかし、その気はないがね」

僕がどんなに上手くペースを保ったところで相手は竜。

ビリリュートさんよりは長くもたせられるというだけで、僕もいずれはドラゴンの無限の力の前に屈するだろう。

僕がこのドラゴンに勝つには、守りに回って均衡を保つのではなく、みずから攻めて押し切るしかない。

そう思って僕は発生させている『消滅空間』を大きくした。

『なにこれはッ!? うおおおおおおおッッ!?』

最初は、ドラゴンの炎に僕が飲み込まれないよう必死に踏ん張る構図だったのが、瞬時のうちに逆転され、大炎こそが飲みこまれる構図となる。

そして我が『消滅空間』は、ビリリュートさんの『貪呑』と違って実際に飲み込んでいるわけではない。

消しているんだ。

だから許容量もあるわけがないし、さっきも言ったように窓枠の埃をでる程度の最小限の力でいくらでも消し去ることができる。

目の前の竜すらも。

『おおおおおおおおッッ!? これはぁああああああッッ!?』

既に『消滅空間』はドラゴンの格以上に膨張し、ドラゴン自に迫りつつあった。

ここが地底深くだということもヤツに災いした。

ドラゴンは翼で飛べるとも聞くから、ここが野外なら一目散に飛翔し、『消滅空間』から逃れることもできるだろう。

しかし地底の、壁や天井に閉ざされたこの空間では逃げ場がない。

ゆっくりと広がっていく『消滅空間』に追いつめられるのみだった。

『この力はもしや……! わかった! 降參だ、降參する! いかに古代竜たる私といえども「神威」には抗いようがない!』

「…………」

『だから降參だと言っている!!』

僕は相手にかまわず『消滅空間』を膨張させ続けた。

相手が降參してもかまわず二、三発は毆り続けろ……というのは薬師協會長さんの教えだった。

戦いを始めて、不利になった途端に降參を言い出すぐらいなら最初から戦わない方がいい。

それを理解できずに戦いを始めてしまうのは相手を……そして闘爭という行為そのものを舐めているからだと。

そういうヤツらは簡単に許すと味を占めてまた安易に戦い始める。

そうならないように『降參』を口にしてからもしばらくは毆り続ける方がいいのだ。

……って薬師協會長さんは言ってた。

「『降參』という言葉は小聲で言っては意味がない。大聲で言っても意味がない。が破れてが出るほど必死にんで初めて意味を持つ。……って誰かが言ってた」

「ウチのお父さんだろうなあ……」

ドラゴンは壁際まで追い詰められたが大する『消滅空間』はまだまだ広がる。

もうしで相手のつま先を消し始めるだろう。

『わかった! わかった済まぬ! お前たちの話を聞きれず一方的に襲ってしまい悪かった! お前たちのみはできる限り聞き屆けよう! だから降參をれてくれッッ!! 頼むッッッッ!!』

「わかりました」

僕の意思一つで『消滅空間』はすぐさま消滅。

ぽっかり空いた空間に凄まじい勢いで空気が流れ込む。

危機を逃れたと理解したドラゴンは一気に憔悴し……。

『とんだ災難であったわ。百年ぶりの侵者がよりにもよって「神威」の持ち主とは』

「なんかすみません」

彼からしてみたら、安穏として暮らしているところに勝手に踏みったのが僕たちだからな。

ある意味僕らの方が極悪じゃん、と思って申し訳なくなった。

『まあ、むしろ神の封印を破ってくるぐらいだから、「神威」持ちである方が納得ではあるが。普通の人間が來る方がよほどありえん』

「そんなに珍しいんですか? 僕の力って……?」

『「神威」が現れた時、必ず世はれる。……そういえば前の擔い手が暴れ回ってからそろそろ百年、次代が現れるにいい頃合いか』

ドラゴンは自分だけ納得したようにこちらを眺めて……。

『よく見れば、そっちの娘は神殿の落とし子か。結局時代は変われど顔ぶれはそう変わらんな』

「あの……僕らお願いがあってここに來たんですが?」

しみじみされているところ申し訳ありませんが。

『いやすまなんだ。よう考えれば神の封印を突破してきたもの。それ相応の資格ある者であるのは當然であるのに有無も言わさず排除しようとしたのが短慮であった。追いつめられて當然だ』

ドラゴンは一転殊勝な態度となり……。

『詫びのためにもお前たちのみはできる限り葉えよう。さて何をむ? このダンジョンに眠るすべての財寶を與えようか? それとも古代竜の権限をもってお前を王者に任じようか?』

「いや、そういう大袈裟なのはしくなくて……!?」

竜のしいだけなんですけども。

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