《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》49 狡知の末路【ギズドロビィー視點】
現役ギルド理事の一人ギズドロビィーは、野心家であった。
その點かつてのエフィリト冒険者ギルドマスターであったギズドーンも同様だったろう。
彼らの決定的な違いは、その野心をし遂げうるに相応しい知恵を持ち合わせているかどうか。
ギズドロビィーにはそれがあり、ギズドーンにはなかった。
それゆえにギズドーンは、悪しき知者の先代が殘した儲けの仕組みをまったく理解せず、瞬く間にムチャクチャにして崩壊させてしまった。
そもそもマスター時代のギズドロビィーは、自分ののし上がりの筋道を立て、順序良く進もうとしていた。
そんな彼にとって新人エピクとの出會いは、まさに天啓だったであろう。
高い能力を持ちながら、その価値にまったく気づいていない世間知らずな年。
彼を上手く使えば自分自の栄達にもなると、抜け目ないギズドロビィーが考えないわけがない。
それでも最初は真っ當な考えで、若いエピクに目を掛けてA級冒険者にまで育て上げて、その功績でもってギルド理事にのし上がろうという計畫も組んだ。
しかしすぐに卻下した。
上級冒険者への昇格はあくまで冒険者當人の手柄であり、ギルドマスターの功績には見做されにくい。
同一マスター指揮下にあるギルドで數人と數多く昇格すれば話も違うだろうが、エピク一人を大事に育て上げたところでマスターに帰する利は薄い。
そう考えて別のプランに切り替えた。
むしろエピクの才能を使って使い潰して、そうして巨萬の利益を生もうと。
そう考えたギズドロビィーはまず、エピクの能力にケチをつけ徹底的にこき下ろし、彼の自尊心をへし折った。
そうして扱いやすい奴隷にしてから、危険なクエストを薄給でこなさせる。
たちまち大金が流れ込み、エピクになるはずの取り分をすべて自が獨占し、懐へと仕舞い込んだ。
その金は、彼の猟運資金とされる。
中央へ盛んに働きかけ、味方を増やし、ギルド職員が登りつめる頂點ギルド理事へとなるために。
大願就し、ギズドロビィーはついに中央から呼び戻され、晴れてギルド理事を名乗れるようになる。
そうなればエピクは用済みだった。
古巣ともども捨て置かれる。権謀數渦巻くギルド理事會においては、逆に命取りとなりえる不正の証拠とは完全に切り離されるべきであった。
彼に誤算があるとすれば、自分の後任となったギズドーン。
彼のギルドマスター就任にもギズドロビィーは多関わっていた。
みずからがギルド理事に就くにあたり、その協力者となった一派に様々な見返りをしなければならなかった。
そのうちの一つとして協力者一族にいながらうだつの上がらなかったギズドーンの出世の世話をした。
彼が古巣に殘した不正システムは、明るみになれば確実にダメージとなるが、同類にあとを任せれば見の心配もなく、憂いもない。
むしろ彼が殘したシステムを利用すれば、どんな無能でもすぐさま出世できるだろうし、貸しを作って將來自分のために働かせることもできるだろうと期待もした。
しかし彼でも見抜けないことはあった。
知者にも善悪の別はあったが、ギズドロビィーのような悪しき知者にも、愚者がどれほど想像を絶する愚かなことをするかなど見抜きようがなかった。
ギルドマスターの立場から見ればすぐにわかるであろうエピクの価値に気づかず、役立たずとして追放。
さらには報酬著服のシステムまでも気づかずに崩壊させた。
ギズドロビィーにとっては『言わなくても気づくだろう』と思いあえてれなかったことが完全に仇となる。
彼の舊悪は無様に見し、かつて自分がいいように利用した無知なる子どもが今、たくましきS級冒険者となって目の前にいるのだから。
◆
「今の話は本當かなギズドロビィー理事」
彼に迫るのは、ギルド理事會の中でも古株のアンパョーネンだった。
ギルドの良識派などという呼び名を持つ、ギズドロビィーからみれば怖気の走るような偽善者であった。
ちなみにギズドロビィーにとっては自分の悪事を邪魔する者は皆等しく偽善者である。
「もしエピクくんの言うことが本當なら、キミは許されざる不正を行ったことになる。報酬の著服も、冒険者への不當な評価も、ギルドに命を預けてくれる冒険者からの信頼を損なうことじゃ」
「な、何を言うのかな? も葉もない推測でヒトを批判するではないぞ?」
ギズドロビィーは惚けた。ここはシラを切って逃げ通すしかないと判斷した。
どんなに見苦しかろうとこの場さえ乗り切れば、あとは裏から手を回して証拠隠滅できる。
「不正とも言うが、その拠はそこの小僧の証言のみであろう? そんなあやふやな拠でギルド理事がくなど聞いたことがない! もっと慎重にかねば王都中の笑いものになりますぞぉ!!」
「忘れたかギズドロビィー。エピクくんはたった今S級冒険者となった。そしてS級冒険者の発言力は我らギルド理事と同等だ!」
他の理事も非難めいた口調で言う。
今の自分の置かれた狀況が、想像以上に悪くなっていることにギズドロビィーは気づいた。
「そのエピクくんが問題提起するからには我々も誠実に対応せねばならん。何より彼は我々全員の命の恩人なのだからな」
「くッ……!?」
ギズドロビィー自、ギルド理事として呪いに苛まれていた一人であった。
人一倍自分の痛みだけに敏な彼は一日中のたうち回り、アンパョーネンのように鋼の意志で狀況報告をけるなど土臺無理であった。
回された解呪薬でなんとか回復するものの病み上がりのまま參加した理事會ではいつものように聞き流すばかりだった。
ここでしでも真面目さを発揮していたら、彼の困難は避けられたかもしれない。
しかし狡賢さをもっていくら報いから逃れようとしても、結局いつかは追いつめられるものだった。
「もちろん充分な調査は必要でしょう。それは僕らの街の方で進められています」
エピクが言った。
ギズドロビィーにとっては利用する奴隷でしかなかったはずの子どもが。
「ギズドーンは、山の主にまでれようとしました。だから街全が怒っています。ギズドーン本人にも、ヤツの勝手を許したギルド理事會にも」
「ふへ……ッ!? まさか理事會を襲った原因不明の病は……!?」
気づいた時にはもう遅い。
ギズドロビィーは心の底で自分の後任を罵った。『この無能害悪が!!』と。
悪徳ではあっても愚かではないギズドロビィーは、エフィリトの街全が恐れる山の主の危険さも本能的に察知して、けっして安易には扱わなかった。
だからこそ無事勤め上げることができた。
しかしながら彼のあとを継いだ後任ギルドマスタ-は、そうした用心とはまったく無縁。
悪事は、自分一人がしっかり気を付けていればバレるものではないと、そう思い込んだ彼もまた淺はかだったろう。
「違う! ワシは……ワシは関係ない! ギズドーンのアホがすべて一人でやったことじゃ!!」
ギズドロビィーにできる最後の手段は、せめて責任のすべてを死んだギズドーンに被せる以外になかった。
「前任として、我が古巣で起こったトラブルの數々には憾に思う! ワシも原因究明に全面協力しよう!! それをもってワシは前ギルドマスターとしての責任を……!?」
「そうしてギズドーンが全部悪かったように工作するんですか?」
鋭く遮ってくるのはエピク。
先ほどからカミソリのように切り込んでくる年に、ギズドロビィーはおののいた。
彼の記憶にあるエピクと、目の前のエピクが一致しない。
洗脳により徹底して自己を潰し、マスターに依存するように仕立て上げた最高の手駒。
それが臺無しであった。
一誰がエピクの利用価値を無慘に潰してくれたのか、余計なマネをと苛立つギズドロビィー。
「仮にすべての罪をギズドーンに被せたとしても、僕に向けられた不當な評価は、間違いなくアナタがしたことだ。その責任をS級冒険者として追及させてもらいます」
「バカなッ!!」
「けた恩も仇もうやむやにするなと僕に教えてくれた人がいます」
だからそれは誰だとはらわたが煮えくり返るギズドロビィーだった。
「エピクくんは満場一致でS級に採択されるほどの逸材。その才を見抜けなかったというのはギルド理事として致命的ですなギズドロビィー殿?」
「アンパョーネン!? 待ってくれワシは……!?」
「いや、満場一致ということはアナタもエピクくんに昇格に賛したのですかな? これはおかしい心変わりですのう? アナタから見てエピクくんは役立たずだったのでは?」
「それは……、あの……!?」
追いつめられるほどに上手い言い逃れもできずしどろもどろとなる。
エフィリト街では誰にも見咎められず悪事を遂行できた彼も、一旦後手に回ると踏みとどまりきれない。
所詮はその程度の悪黨でしかなかった。
「この心境の変化に説明がつけられないなら、貴公からはもっと詳しい事を聞く必要がありそうですな。……衛兵」
アンパョーネン理事が呼ぶとドアを開け、數人のいかめしい男たちが雪崩れ込んできた。
ギルドが雇う警備兵たちであった。
「ギズドロビィー理事をギルドの査問に掛ける。柄を拘束し、終日の監視下に置きなさい。事実確認の取れ次第しかるべき罰をけてもらう」
「ま、待て! 何を拠に!? 橫暴だ謀だ!! 悪いのはすべてギズドーンだ!! ワシは何もしていない! ワシは無実だ! ワシはギルド理事だぞ! ワシを助けろ! 助けろぉおおおおおッッ!!」
見苦しく泣きわめきながら引きずられていくギズドロビィー。
彼は狡賢く、自分の悪事を上手く消してきたが、結局最後まで報いから逃げ切ることは葉わなかった。
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