《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》53 試験に潛む罠

「どうしてなんです!?」

我慢しきれなくなって、僕が申した。

スェル本人は、まだ突き付けられた事実のショックに呆然としている。

「スェルは九十七點だったんでしょう!? 百點満點中の! 充分な高得點じゃないですか、これで不合格なんて一何點以上で合格なんですか!?」

「四十點以上じゃ」

「思った以上に相當低いッ!?」

じゃあスェルの點數はそれこそ合格點ぶっちぎりじゃないですか!?

九十七ですよ、きゅうじゅうなな!!

これは納得できませんよ、関係者配偶者として斷固抗議する!!

「まあ落ち著いて聞きなさい若人よ。ここ薬師結社の存在理念を今一度聞かせてしんぜようか?」

「何度も聞いて耳タコですよ!!」

「しかし、その中にこそ答えがあるんじゃぞ?」

世に流布すると危険な薬師の知識。

それを管理し、闇雲に世間に出ないよう管理するのが薬師結社の務め。

「調合知識の深い部分は、我ら薬師結社がしっかり管理して外にれぬようにしておる。しかしそれでも完璧ではない」

「そこで我らは機會があれば、調合技洩していないかチェックしておるのじゃ」

「このような新団員の加もまた機會の一つ……」

それは……どういうこと?

「今、スェルに説いてもらったテストは、実は三割が専門知識から出題されておる。正式に薬師結社に加していなければ知りうることのできない知識じゃ」

「まだ薬師結社に所屬する前の加者が、絶対に知っているはずがない。だからそれらの問題を解けるわけがないのじゃ」

「もし解けるとしたら……、その者は我ら薬師結社が必死に守っている知識を何らかの方法で盜み取った者」

「そういう者が結社へ潛するのを警戒し、あえて盛り込んでいるひっかけ問題というわけよ」

つまり、このテストはどう頑張っても解けないはずの問題が一定數あるということか?

つまりどう頑張っても一定の點數しか取れない。

「このテストは七十點以上取れてはいかんのじゃ。もし取れたのなら、それは薬師結社が必死に守ってきたを何らかの方法で何らかの方法で盜み取ったということ」

「我らはそれを斷固許さぬ」

このテストの合格點數は、四十點以上七十點未満。

もちろん一人前の薬師を名乗るに実力不足ではいけないし、加えて薬師結社のを侵すようでもいけない。

しかしスェルは、薬師結社にらなければ絶対にわかるはずのない問題に正解してしまった。

どうして……!?

「考えられるのは、既に薬師結社に加した誰かしらから教授されたか……」

「彼の育った街にも一等の薬師はおるであろう。たとえば彼の父親などがな」

「エフィリトの薬師協會長バーデングは気骨あるよい薬師だが。……娘可さにを犯したか」

「薬師結社から伝わった調合知識は、たとえ親であっても教えてはならん。相手が資格を得るまでは。だというのに……」

これはスェルのお父さんである薬師協會長さんにまで累が及ぶ流れ?

「あの……もし薬師協會長さんがスェルに教えちゃいけないことをしていたら……!?」

「殘念ながら、彼の薬師結社の籍を抹消せざるをえぬ」

「そのあとでアサシンギルドから暗殺者を派遣してもらわねばならんのう。我らの守る薬の調合法は、それだけ重大なものなのじゃ」

予想通りのマズい流れになってきた。

彼らのを守ろうとする意志は、思った以上に強烈で堅い。

アサシンギルドってそんなヤベーところと付き合いがあるの? という気持ちもあるが……。

「ちょっと待ってください!!」

さすがにスェルが大慌てで弁明した。

「お父さんは何もしていません! ちゃんと薬師結社の約束を守って、一般に広まっているレベルの調合知識しか私に伝えませんでした!!」

「ならばおぬしは、どこでより深い調合技を會得した?」

「ママから教わりました!!」

「ママ? 母親か、ならばそちらが我らの誓いを破ったのか?」

スェルのママ。

それはあの魔にして神メドゥーサ様のこと。

は、市井の人間たちを遙かに超えた知と能力の保持者で、現在伝わっている薬の知識も彼が與えたものだという。

それを自分の娘に直接伝えたところで何の不思議もない。

「ママは別に薬師協會にも結社にも所屬していなくて……、あッ、そうだ」

スェルは何を思いついたのかいきなり駆け出した。

駆けて向かう先は……、あのおどろおどろしい祭壇?

「あッ……、ちょっと待て?」

「まさかあの小娘、ご神れるつもりか!?」

「バカ者やめなさい! それは我ら薬師たちの祖が殘したという神杖であるぞ!」

「とってもありがたいんじゃぞ!!」

老人たちが騒ぐ。

たしかのあの祭壇のてっぺんには、杖と思しき細長いものが恭しく収められていた。

裝飾いっぱいのゴテゴテしい杖だが、素材は青銅かはたまた鉄か。とにかく鈍い合いでそこまで価値のあるものとは思えない。

しかしその杖を、駆け寄ったスェルが握った途端……。

黃金か白銀かとばかりに眩く輝きだした。

「「「「「うわはぁあああーーーーーーーーーーッッ!?」」」」」

これにはマスターの老人たちも一斉に驚愕。

「こ、これは……!? ケリュケイオンの杖がり輝くとは!?」

「見よ! 杖に巻き付いていた蛇の飾りが踴っておる!? まるで本の生きた蛇のようじゃああ!?」

「薬祖様の事と伝えられるあの杖は、本來の持ち主である薬祖様が握った時、本來の能力を発揮するという……!?」

「それが何故、あの娘が握ってああなってるんじゃあッ!?」

杖は、本となる棒狀の部分に、蛇が巻き付いて螺旋狀になっているというデザインだった。

無論蛇は本ではなく青銅もしくは鉄で再現されたものであったが、今では本の生きた蛇であるかのようにうねり、鎌首をもたげ、シャーと唸って周囲を威嚇している。

それは杖を持っているスェルを主人として、その主人を危険から守らんとしているようだった。

「あの杖が、生命を持つという伝説は本當であったか……!? しかしそうなるには、神杖の所有者たる薬祖様が握った時のみと聞く……! ではあの娘が。我らが崇め奉るべき薬の始祖様であらせられるか!?」

「いいえ、違います」

スェルはすぐさま否定する。

「それは私のママです」

そしてまたすぐ言った。

「ママは薬師協會や結社ができる前から存在しているんで、決まりとか気にせず々教えてくれたんだと思います。私も気にせずに學んでしまって……、すみません!」

杖を握ったまま頭を下げるスェル。

そしてその杖を依り代とする蛇はなおもを鳴らし、正面にいる者たちを威嚇する。

『ウチのご主人様に何ガンくれとんねん、噛み殺すぞコラ?』とでも言っているかのよう。

まあ、たしかに人間に薬の知識を與え、それ以上の理力を駆使するメドゥーサ様に、人のルールが當てはまるわけないもんなあ。

「なので……、あのなくともお父さんは悪くないです! 私は不合格でもかまいませんので、私のお父さんのことは責めないでください!!」

誠心誠意をもって願い出るスェルに、結社の老人たちのリアクションは……?

一秒……二秒……五秒……十秒……!?

どんだけ沈黙を保っとんねん? 老いてボケたか? と焦れてやっと向こうの反応が返ってきたら……。

「「「「「神子様ぁああああああああッッ!!」」」」」

一斉に平伏しだした。

ただ頭を下げるんじゃない、額を地面に叩きつける勢いでの土下座だ。

膝も手の平も地面にへばりつけ、カエルのような態勢になっている。

「アナタ様は……! アナタ様は薬師の伝説において語られる……神子様!?」

「數百年に一度、薬祖様によって遣わされるという、その統をけ継ぎし神子! いずれも現れるのは乙であると伝えられているが……!?」

「まさしく伝説の通り! 麗しき乙ではないか!!」

態度がまったく変わって、スェルのことを崇拝するかのようではないか。

あまりな豹変ぶりに、正面から向かい合うスェルも、傍で見守る僕も、口をあんぐり開けて呆然とするばかりだった。

ただ杖から生命を帯びた蛇だけが『あ? 今さらびても遅いぞ?』とばかりに威嚇を続けている。

「あの……、それで私は不合格なんでしょうか?」

「滅相もない! 數百年に一度現れる神子様は、新たなる薬の知識を我々にもたらしてくれると聞きます! そのような方を追い出すなど恐れ多いことはできませぬ! もしそんなことをしたら我々は稀代の愚か者として薬師の歴史に名を殘すことでしょう!!」

「じゃあ、合格なんですね、よかった……!」

安堵のため息をらすスェル。

結局気にするところはそこだった。

いやまったくメドゥーサ様が余計な知識を余計なタイミングで吹き込んでくれたおかげで話がややこしくなったではないか。

いや待て?

スェルが既にメドゥーサ様から充分な薬の調合知識を教えられていたんなら、わざわざ薬師結社なんぞに加する必要はなかったんじゃないか?

これはもう本格的に、僕とスェルを二人きりで旅させるため。

そして結婚という決斷に踏み切らせるためだけに仕向けられたことだったんではないかな?

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