《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》55 暗君

宰相様は、高い分の割に気さくな人だなというのが伝わってきた。

こういう人が上層部にいるなら、この國も安泰かな? と一民草の視線から他人事として思う。

しかし、その考えを撤回しなければならない出來事がすぐさま起こるのだった。

それは謁見の間でのこと……。

「これが新しいS級冒険者か? 何とも小さくて頼りなさそうではないか、みすぼらしい」

と言ったのは、椅子に座った何とも態度の偉そうな小男であった。

この場にいる誰よりも豪華な服裝をして、頭にキンキラの冠を被り、尊大な態度ではあった。

「とはいえ、これがS級というのであれば余が使ってやるのも吝かではない。おい、余が現國王フリュードゲルンゴズワルド二世である。跪くがいい」

えー、これが?

に著けているものの豪華さに反して、本人に明らかな覇気がないためまったく偉そうに見えない。

直前に出會った宰相様とまったく印象が正反対だ。

正直どうしようか迷ったが、一応王様には禮儀を通さないといけないだろうので言われた通り跪く。

「……フン、我が國のS級冒険者であるからには何よりも余に忠節を盡くすのだぞ! それがお前の役目と心得るがいい! 何の価値もない平民風、王たる余が価値を與えてやらねば誰もがクズにすぎぬのだからな!」

しかし口が悪い。

宰相様の態度が晴れやかだったものだからすっかり油斷したところでこれだよ。

なので余計にガッカリが強い。

「余は王だ! お前ら民は、王である余に仕えることが役目なのだからな! それをゆめゆめ忘れるな! 余の役に立たん民など何の価値もない、即刻処刑してやるから、そのつもりでおれ!」

「國王陛下」

たまらず……とばかりに口を挾んだのはさっき出會ったばかりの宰相様。

この謁見の間の脇に控え、その向を見守っているかのようだ。

「そのようにお気を荒げてはいけません。陛下の評判に傷がつきますぞ」

「評判だと!?」

「お城に上がる貴族はもちろん、市井の民とて陛下の一挙手一投足を見ております。陛下の振る舞いが好ましくなければ、人の心は瞬く間に陛下から離れていきましょう」

「余から離反すると申すか!? そんなヤツはすぐに捕えて首を刎ねるがいい!!」

「そのようなことをすれば益々人心は陛下から離れていきます。その末に誰からも支えられなくなった陛下は玉座から転がり落ちていくのみ。もっと他者を気遣いませ」

「ぐぬぬぬぬぬぬ……!?」

反論できないのか、國王は顔を真っ赤にして唸る。

その仕草はまるで子どものようだった。そして宰相様は、聞き分けのない子どもに辛抱強く言い聞かせる教師のよう。

「……ふん! 民心など、偉大なる余の政略がればたちどころに集まってくるわ! そのためのS級冒険者よ!!」

「陛下それは……!?」

「おい! 貴様らはダンジョンの奧底で竜に會ったそうだな!! しかも伝説に名高い古代竜エンシェントドラゴンに!」

どうやら僕らに言っているようだ。

ギルド理事さんたちを救うためにダンジョンに潛った時のことか。

何故そのことが王様にれているかはわからないが、まあ事実なので頷いておく。

「よし! では國王が命ずる! その古代竜を討伐するゆえ、我が騎士団に加わりダンジョンにれ!!」

「はあ!?」

何故そう言うことに!?

いきなり古代竜を討伐しろなんて言われて『はいそうですか』となるか!?

「わからんのか!? 鈍いなこのバカめ! そんなことでは余の手足としてくことなどままならんぞ! 進せよ!!」

「はあ!?」

「いいか!? 古代竜といえば伝説に登場する存在、その力は神にも匹敵するといわれる! その古代竜を余の勅命の下に討伐すれば、それは即ち余の功績! 貴族も民草も、余を崇め奉るであろう!!」

「……」

絶句。

そんなことのためにエンシェントドラゴンを殺そうと。

そもそも王様はエンシェントドラゴンの恐ろしさをわかっているのか、地上を飛び回る普通の竜ですら、討伐するにはA級以上の冒険者が必要だ。

伝説に謳われるエンシェントドラゴンの能力は、その通常ドラゴンより遙か上。

それを倒そうとなったら、なくともこの國が抱えるすべての騎士を投して、そのほとんどを失う覚悟がいるだろう。

それでも必ず倒せる保証はない。

そしてそれ以前に、特に理由もなく倒されるドラゴンが可哀想だ。

「余のダンジョンに竜が住み著いているとは意外であるが、ソイツを殺せば余の勇名も他國まで轟くであろうよ! 殺したドラゴンは標本にして城に飾るとしよう! そして我が國に訪れる他國の使者どもを恐れさせてやるのだワハハハハハハ!!」

「やめてください!!」

思わず聲が荒くなった。

國王は、一瞬にして尊大な態度を引っ込めてビクリと震える。

「そんなことをして何の意味があります!? 古代竜は、人間に対し何の迷もかけていません! そんな竜を殺すなど人間の方が悪者ではないですか!!」

「な、それは……!?」

意見されるとは夢にも思わなかったのか、國王は反論も出ず押し黙る。

「それに……」

と僕の言葉を継いだのはスェルだった。

いつも可い彼とはまた違う、聡明な神子の面影を浮かべて言う。

「アンダーグラウンドドラゴンは、この街にあるダンジョンの主です。彼が死んでしまったら、ダンジョンも消え去ることでしょう」

「なんだとッ!?」

これには國王も顔を変えた。

ダンジョンは、様々な素材を産出する寶の源泉だ。

「この王都は、ダンジョンを求めて百年前に移されたものなんですよね。それなのにダンジョンが消え去れば、この都は完全に価値を失いますよ」

「そうなれば無能な國王の名が歴史に刻まれることでしょうな」

便乗してアンパョーネン理事まで言う。

「なにッ!? それはダメだ! 余は歴代一優秀な王として名をさねばならんのだ!!」

「では余計なことなど企てずに大人しくしていなされ。ブランセイウス卿は稀代の名宰相であらせられる。卿に支えられていれば陛下はつつがなく治世を過ごされることができるでしょう」

そう言われた國王は、何故か表を歪めた。

屈辱と怒りと、そして我がままな子どもが噴出する癇癪を詰め込んだような表だった。

「宰相なんぞに頼って名君になれるか!!『つつがなく』では足りん! 余は過去未來のいかなる王よりも勝る大名君になりたいのじゃ!! ……おお、そうじゃ!」

また何か思いついたのか……絶対ロクでもないことを思いついたんだと確信しているが……國王の視線が再び僕らへ向く。

「聞いたぞ! たしか貴様らの住む地には誰もれぬ魔の山があり、そこには恐ろしい怪が住んでいると!」

「ぬなッ!?」

「その怪を討伐しよう! そうして我が名聲は高まるのだ! ウワハハハハハハ!!」

さらにヤバいことを言い出した!?

このバカ王、よりにもよってメドゥーサ様にケンカ売るつもりか!? むしろエンシェントドラゴンより數倍ヤバい相手だぞ!?

「そこのS級冒険者! この國王が命じる! 即刻魔の山の怪を殺し、その首を持ち帰れ! 褒はいくらでも取らすぞ!」

「嫌です」

「うむうむ! 余の期待を裏切るでな……、何ぃ!?」

『わかりました』とでも言うと思ったのか。

斷られるなど微塵も思っていなかったのか見事なノリツッコミが炸裂したが、それもまた見苦しいばかりだ。

「貴様……ッ! この癡れ者がぁ! 國王たる余の勅命に逆らうか!?」

「王だろうと誰だろうと、間違った命令なんか聞きませんよ。僕らの土地に住む山の主には決して敵対してはいけないんです」

あらゆる穣を與えてくれる神であると同時に、あらゆる災厄をもたらす魔でもあるからな。

メドゥーサ様の支配域に住む人間は皆大きな恵みを頂いて恩があるし、敵対したら確実に殺されるのはギズドーンの一件で証明済みだ。

「人には決して踏み込んではいけない領域があります。魔の山に住む主がまさにそれです」

今は住んでいないけど。

「王たる余が命じているのだぞ! そちらの方が優先されるに決まっているだろうが!!」

「そんなわきゃーない」

「この無禮者がぁああああああッッ!!」

ついに國王、ブチギレる。

頭に乗っていた豪勢な冠を外すと、激のままに床に叩きつけて々にした。

「S級冒険者というから命令してやろうというのに、あれもダメこれもダメと我がままばかり言いおって何の役にも立たんではないか!! こんなヤツに大層な肩書きなどいらん! 等級など剝奪してしまえ! いや処刑じゃ! 王に逆らった大罪で公開処刑にしてしまえ!!」

「お言葉ながら陛下」

僕の隣から、底冷えするような凄味のある聲がした。

ギルド理事アンパョーネンさんからだ。こんな恐ろしい聲を出せるのか。

「冒険者等級の昇格は、我らギルド理事の判斷によって行われるもの。それに介する権利も、まして剝奪する権利も國王にはありませぬ」

「余は國王だぞ! 余にできぬことはない!」

「であれば我ら冒険者ギルドは王家と袂を分かち、獨自に活していくまで。獨立不羈こそがそもそも冒険者の気風ですからの」

「ひげッ!?」

理事さんからの強烈な反抗に國王は気圧された。

「エピクくんも、このような無理強いに付き合う必要はないぞ。S級冒険者の名聲は、部外者が考えているより遙かに大きい。他國に移っても大歓迎をけることであろう」

「げへぇッ!?」

それを聞いて狼狽える國王。

「バカなことを言うな!? せっかくのS級冒険者が他國へ逃げたら、余の評判がガタ落ちではないか!!」

「冒険者は本來のない浮草、ゆえにこそ暗君の下から離れ、名君の下に集まるのでございます」

「ウソをつくな! 余は名君じゃ! ならばS級冒険者どもも百人は余の下へ集うべきじゃろうが!!」

S級冒険者はそんなにたくさんいねーよ。

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