《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》56 彼は歴史に名をした

S級冒険者ともなれば王族とも顔合わせしておかねばならない。

などと言われてホイホイ付いていったのが間違いだった。

このあからさまな暗君との対面は、もはやどういう方向へ流れていくか見當もつかないままに暴走していく。

「ええい! なんでもいいから殺してこい! ドラゴンでも、山の主でも! そして余の名聲を高めるのじゃ!!」

「それは依頼ですかな? 冒険者を走らせるのであれば、ギルドを通したクエスト発注となりますが?」

「そんなこと知るか! お前らでよきようにはからえ!!」

「であればお斷りいたします」

きっぱり決然と斷固拒否。

「我ら冒険者ギルドは、冒険者の安全と倫理を考えてクエスト注の可否を決する職務があります。陛下からの依頼は、あまりに危険が大きく冒険者の生命を脅かす上、仮にクエストが遂行されても特に利益はありません」

労多くして功なし。

ハイリスクノーリターン。

「そんなクエストを冒険者たちに負わせるわけにはいきません」

「何を言う! 巨大な竜や怪を殺せば余の名聲が上がるではないか! これ以上の利益はない! 冒険者など所詮定職にもつかん宿無しの集まりであろう! 余のために死ねるなら本ではないか!!」

冒険者全員に対する、あまりにもな侮辱である。

これには黙っているわけにはいかない。最悪『消滅』スキルを使ってでも発言を撤回させようとしたが……。

「陛下、今の発言は撤回なさってください」

先に切り出した人がいた。

宰相のブランセイウス様だ。

「冒険者も立派なる陛下の臣民。我が國の民に死んでもかまわぬ者など一人としておりません。まして冒険者は危険に飛び込んで貴重な素材を持ち帰ってくる、社會にいなくてはならないもの。彼らを敵に回せば國は立ち行きませんぞ」

「ぐな、なななななな……!?」

國王はしどろもどろになりながら……。

「何をバカな! 民はすべて王である余のしもべ! しもべが敵になるなどあるわけがない!!」

「法ではそう決まっています。すべての民は王に従うのだと。しかし人には意思があるのです。その意思が反すれば、法を破ることをも厭わぬのが人なのです」

淡々と言い含める宰相様。

「だからこそ人がおのずから法に従うようことが為政者の務めなのです。法で決めれば誰もが無條件に従う。そう思うのは権力者の驕りです。そのような驕りにわされた王侯が、謀反なり革命なりで滅びた例も陛下は家庭教師から習ったはずではありませんか?」

「煩い! 勉強の話など聞きとうないわ!!」

見た目通りに勉強が嫌いそうな國王。

やはり王者の貫祿というのはあの宰相様の方から漂ってくる。

「とにかくS級冒険者が出てきたんなら余のために働かんか!! ドラゴンを倒せばダンジョンが消えてしまうんなら仕方ない、特別に生かしておいてやるわ! 代わりに山の主とやらを殺してこい!!」

「だーかーらー」

何回同じやりとりをすることになるのか。

「そっちもそっちでヤバいんですよ。山の主と敵対したら片っ端から呪いをかけられるんですよ?」

そうでなくとも大事なスェルのお母さんを倒すなんて真っ平ごめんだ。

「その通りです國王陛下。我が冒険者ギルドで山の主に手を出した大バカ者がおりまして、その者は慘殺死となって果てました。それだけにとどまらずそやつを任命した我ら理事すら呪いをけ、死の寸前まで追いやられたのです!」

アンパョーネン理事も説得に加わる。

「山の主は人間がれてはならぬ聖域です。いかに國王といえども、あの者に敵対しては命はありません。たちどころに呪殺されることでしょう……!」

「はっはっは! 何を言う大バカ者が!!」

國王は取り合わない。

「この神聖なる國王として生まれた余が、呪いなどけ付けるわけがなかろう! 下々の者と一緒にするな! バケモノの呪いなどたちどころにはね返し、王の偉大さを知らしめてやるわ!! わっはっは!!」

結局話にならず、話題に決著を見ないまま國王から下がった。

僕とスェル、そしてアンパョーネン理事は並んで王城の廊下を歩いていた。出口へと向かって。

「本當にすまんかったのうエピクくん。恩人であるキミたちに、また不快な思いをさせてしもうた」

「気にしないでください」

理事さんに悪気はないのはわかっているので。

「現國王はあのように聞き分けがなくていかん。謁見も早めに切り上げるつもりがあのように無理難題をふっかけてくるとはのう」

「あの……大丈夫なんでしょうか? 本當にママへの討伐が……!?」

スェルは、実の母親のことなので心配しないわけにもいかない。

「気に病むことはない。見ての通りいい加減なお方ゆえな。こちらがのらりくらりとかわしておればそのうち忘れてしまうよ」

「一國の主がそんなんでいいんですか?」

「いいともいいとも、実質今この國を支えておるのは、この方じゃ。お飾りの王がどれほど愚鈍でもかまわんというのが、この國の幸なのか不幸なのか……!」

一緒になって廊下を歩くもう一人、宰相のブランセイウス様がいる。

「今日のことは本當に申し訳がない。私が宰相の権限をもって、ムチャクチャな命令が執行されないように取り計ろう」

「ブランセイウス卿に任せておけば何の心配もない。今日もな、本當にキミたちに引き合わせたかったのは國王ではなく彼だ。もしこの國に何かしらの災いが起こった時、エピクくんとブランセイウス卿が顔見知りであることが有利に働くと思ってのう」

そう言われて宰相様が苦笑を浮かべる。

偉い人って大抵おじいさんなのだがこの人は若々しく、舞踏會での人気を獨占しそうな貌を備えていた。

「……我が王は、自分が凡庸であることに耐えられないのです。だからこそ何かしらの果を上げて、歴代の王に劣らぬ名聲を刻もうとする」

「民草としては迷千萬じゃがのう。この時代、慢的なモンスターの脅威はあれども他國間の戦爭はない。平地にを起こそうとする為政者ほど迷なものはない」

アンパョーネン理事の言葉は心底からにじみ出てくるようだった。

「特に政務については宰相殿が一手に引きけてしまうゆえに、余計自尊心が逆なでされるのであろう。そんなに褒められたいならご自も真面目に政務に打ち込めば……、と思うが、あのような方に世を引っ掻き回されてものう……」

そう言ってため息をつくアンパョーネン理事が、いつもよりずっと老け込んでいるかのようだった。

「陛下がいかように振舞われようと私が全力でお支えしよう。民にもとばっちりが當たらぬようにな。……エピク殿」

「はいッ!?」

宰相様に呼ばれて、背筋がびる。

あの國王になんか言われるより數倍プレッシャーだ。

「陛下とのけ答えは見事だった。優しげな印象ではあったが、必要な時にはしかと我を通せるのだな。さすがはギルドが認めたS級冒険者だ」

「有り難き幸せ!」

「キミの力が必要な時は、ギルドを通して依頼させてもらう。その時は是非とも前向きに検討してほしい。キミのような逸材がいることを、この國の安心材料にしたいのだ」

宰相様は真摯な視線で向き合ってきた。

かつてギルドでは役立たずと罵られてきた僕が、こんな立派な人から頼りにされるなんて……。

「僕は、自分の生まれ育ったエフィリトの街をしています。あの街が一部にるのであれば、この國の危機にも駆けつけます」

「頼もしい」

宰相様に顔と名前を覚えてもらった。

そのことを今日の果に、僕たちは王城をあとにした。

ここからは、話の本筋と関係ない後日談だ。

今語っておかねば永遠に語る機會もないだろうので記しておく。

メドゥーサ様を殺せなどと騒ぎ立てていた國王。

たとえ相手が誰であろうと敵対する者に容赦のない神は、當然報復の牙を剝いた。

呪いなんぞ意味がないなどと笑っていた國王が、ある日突然壯絶な不審死を遂げた。

それは大勢の王侯貴族が集まる式典の日。國王はその中心でその場にいる全員から讃えられるはずだった。

そこでいきなり國王は失した。

れ出た小水に、高価な裝が濡れ染みる。しかし裝は真っ赤に染まった。

國王が下半かららし出したのは小水ではなく鮮だった。

わけのわからないまま式典の參列者も、國王本人も混し、現場は騒然とした。

苦痛も伴ったのだろう、國王はびのたうち回りながらそれでもらし続け、裝の下半分を真っ赤に染め上げながら、床までも赤いを広げた。

慌てた醫師らが駆け付けはしたが、それよりも早くにすべてのを下かららし、干からびるようになって國王は死んだ。

死因は失死とも、中の水分を失っての渇死とも言われた。

このあまりにも奇怪な不審死は、歴代のどの王よりも不可思議で印象に殘り、歴史書には彼のことを指して『尿王』と記されることになった。

彼はみ通り、歴史に二つとない名を刻んだのである。

一旦一區切りしてお休みをいただきます。

二月中の再開を目指しておりますが、しばらくお待ちください。

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