《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》76 開廷
査問會。
要するに権力者主導で、僕一人に対する言葉の集団リンチが行われるらしい。
始まる前に、この場に足りないように見える幾人かの空席について尋ねる。
「ブランセイウス卿のお姿が見當たりませんが?」
まずアンパョーネン理事が、ソワソワと尋ねる。
この國の宰相であるブランセイウス様は、良識のある能臣で理事様も心から頼りにしていた。
この査問會でも真っ先に頼りたい人なのだろう。
それに王子様が答えるは……。
「宰相か。彼は急な別件で出席できなくなった」
「なんですと!?」
「父上亡き今、國の運営は彼に一任してあるのでね。こんなくだらない後始末にまで出席させて苦労を掛けるわけにはいかないんだ」
だったら王子様であるアンタの方が積極的に國政を擔うべきでは?
勇者ごっこになんて興じている場合じゃなく。
「……エピクくん。ヤツらもブランセイウス卿がいては思うようにできないとわかっているようだ。その上で作為的に遠ざけたのだろう」
アンパョーネン理事が小聲で耳打ちする。
聲を潛めているつもりで、まったくコントロールできず耳元で煩いくらいだった。
頼りの宰相をアテにできなくなって揺が増している。
……僕も試みに尋ねてみることにした。
「聖……ヒソサリンヌさんでしたっけ?……はどうしてます?」
「ヒサリーヌだ! ヒトの名前を間違うな!」
それは申し訳ありません。
しかし名前を覚えられるほど長くもなければ深い付き合いでもなかったので。
「今回の用件が先日の遠征なら、あの人も當事者だしここにいてもいいと思いますが?」
「……彼は、もう聖ではない」
ほう。
「オレが大聖教會へ厳重抗議することで聖の資格を剝奪された。當然だ、いずれはオレの妻になるべき席にいながら処ではなかったとは……! どれだけオレをバカにしている!? 他の男にれた汚らわしいなどオレの傍に置く資格もない!!」
「潔癖だなあ」
ならば聖でなくなったあとの彼はどうしたかと問えば王子様は知らないという。
もはや欠片の興味も殘ってないらしい。
聖の名を取り上げられた彼は、運がよければ多分を降下させてまだ教會にを寄せているか。
あるいは叩き出されて、その辺で野垂れ死にしているか。
僕は、隣りにいるアンパョーネン理事へと目配せした。
その視線をけて、理事はそそくさと僕の隣から離れていく。
「ふん、最後の味方にまで見捨てられたか。悪の末路はいつでも哀れなものだな」
「僕が何か悪いことをしましたかね?」
いかにも無自覚なじで問い返す。
「惚けるな! キミのしたことは重大な裏切りだ! 犯罪行為だ! 冒険者としてでなく人としても生涯恥ずべき行為だろう!!」
「的には?」
「まだシラを切るか……ッ!? いいだろう、キミが積み重ねてきた悪事を一つ一つ、言い逃れできないほど克明に詳らかにしてあげよう!!」
勇者として振舞うにも王子として振舞うにも、芝居がかった作だなあと思った。
「まずキミは遠征中、オレ率いる勇者一行に同行していた。聖なる任務を遂行するオレの手助けをするためだ」
「はい」
「それなのにキミは途中から敵に寢返り、敵と一緒にオレたちを攻撃した! 聖なる役目を擔う勇者一行をだ! これが重大な裏切りでなくて何という!? お我々は九分九厘功まで達しかけていた聖務を臺無しにされたんだぞ!」
功寸前とは吹きなさる。
いや、まあ聖の悪巧み(毒)が進みかけだったから功しかけていたのは事実かもしれないが、それとエレシス側の反撃はまた別問題。
その件で責められるのもまたお門違いではあるまいか。
「その行為は裏切り、背信、利敵行為……様々な呼び方をすることができる。いずれも王國軍で行われたなら即時処刑となる大罪だ。冒険者などという犯罪者モドキと照らし合わせても、一度注したクエストを斷りなく破棄したのだから重罪に違いあるまい!」
「……」
冒険者を、犯罪者モドキだと……!?
その侮辱に一瞬キレそうになったが、自分を抑えて流れを見守る。
大丈夫、最終的に思い上がったヤツには思い知らせてやるように準備はできてるから。
今は落ち著いて。
「S級冒険者と言っても所詮は無法者にが生えた程度か、言われたことも満足にこなせないとは! まったく失の極みだよ、ハンッ!」
またわざとらしい鼻鳴らし。
王子はドンドン饒舌になっていき……。
「オレもあの時は危うく命を脅かされそうになったが、こうして無事王都へ生還することができた。であるからにはキミの罪を放置しておかない! キミは王族殺害未遂の罪で絞首刑だ! 覚悟するがいい!」
「そうだ!」「勇者様を裏切った不屆き者を殺せ!」「王子弒逆犯に罰を!」「何がS級冒険者だ無能め!」「冒険者ギルドに責任を負わせろ! あんな組織解だ!」
査問を見守る群衆からも一斉にヤジが飛んだ。
これはどんな弁論を展開しても、無罪を勝ち取るなんて不可能だろう。
最初から有罪だと決まっている系の裁判だコレ。
「……しかしオレは勇者にして王子。絶対的正義のオレは慈悲の心を持ち合わせている。最低大悪人のキミにも最後に一度だけ、正義の心に目覚めるチャンスを上げようじゃないか」
「はぁ?」
「悪魔デメテールの討伐には失敗したが、だからこそ殘る大邪悪メドゥーサの討伐を、このオレの手でなんとしてもやり遂げたいと思っている。その果を記念にオレは勇者から卒業し、正式に父上のあとを継ぎ空前絶後の大名君となるのだ! エピクくん、キミの罪滅ぼしのために、我が偉業の手伝いをさせてあげよう!」
結局そういうルートできたか。
やはりデメテールかメドゥーサ様、どちらかの神を滅ぼすことが勇者の狙いなのだな。
正確には勇者の後ろにいる大聖教會か。
「キミはやたらとメドゥーサに執心しているようだが、我が國民であれば王とバケモノのどちらに従うべきか考えずともわかるよな? まさにオレへの忠誠を取り戻す最後の機會だ! そのチャンスを摑み我が忠臣として幸せになるか、愚かな選択をして処刑されるか! 好きな方を選びたまえ!」
「そんなこと考えるまでもねえ!」「王子に従えS級冒険者!」「お前も人間なら王子に従いなさい!」「バカでもわかるでしょそんなこと!」
相変わらず外野が煩い。
そろそろ聞くに堪えなくなってきた。言われっ放しも我慢できないからそろそろ僕も喋っていこう。
「……その剣」
「あぁ?」
唐突な話題転換に、王子の得意満面の演説も止まる。
「王子が腰に下げている剣。素晴らしいですね。どういう來歴の剣でしたっけ?」
「なんだいきなり無関係な話を? 追及に困って話題逸らしか? しかしまあ、この剣に著目したのはいいセンスだ。それに免じて答えてやろう。……この剣こそッ!!」
腰からシャランと剣を抜き放ち、黃金の刀剣を見せつける。その刀は相変わらず清浄でありながら禍々しい。
「聖剣フィングラム! この勇者タングセンクスが邪竜討伐の証としてゲットした寶だ」
「わーすごい」
「邪竜との戦いは壯絶を極めた! ヤツは山にも匹敵する巨で、口から吐くブレスは湖も蒸発させる! そんな強敵にも立ち向かって打ち倒すオレこそ、勇者の稱號に相応しい!!」
「素晴らしいですね」
そんな激闘の末に手にれた聖剣フィングラムも相當強力な武なんでしょうなあ。
「無論、財寶集めを習にする邪竜が最高の寶として蔵していた剣だからな! その刀から放たれる黃金気はあらゆる邪気を振り払い、一振りすれば城をも一刀両斷にできる! キミが遠征で見たアダマンサイズなど、この聖剣フィングラムに比べればゴミに過ぎないな!」
「凄い凄い本當に凄い! しかし……」
そんなに凄い武を持っていながら……。
「どうしてエレシスの地では何もしなかったんです?」
「え?」
「王子で勇者様は、恐ろしいドラゴンとも正面から戦って勝てるぐらいに強いんでしょう? さらにはそのドラゴンが大事にしまっていた強力な武さえある。そんな勇者様なら、たかが人間何百人の集団に襲われても難なく撃退できますよね?」
「う、うむ、そうだな……!?」
「たとえ僕一人が寢返ったって、結果はまったく変わりないでしょう。最強無敵の勇者様が、何千人でも蹴散らせるんですからね。さすがは勇者。最強勇者」
「そうだとも、そうだとも! オレは最強なんだからなあ! 何千人でもはね返してやるから大船に乗ったつもりでいたまえ!」
「でもこないだの遠征は大敗退したけどなあ?」
「ぐぃッ!?」
これが突かれると相當痛いところであったと、勇者兼王子様は今さら気づいた様子。
観衆も、同じ疑問に気づいたらしく、先ほどとは打って変わった戸いの聲が聞こえる。
「そう言われれば……!?」「勇者軍はどうして負けたんだ?」「勇者様さえいれば無敵だろう?」
これが衆愚ってヤツかな?
「ええい! 煩い煩い! 詭弁を弄するな!!」
答えに窮した王子が大聲を上げる。
「それはだ! オレはあの時……たまたま調子が悪くてな! 傍らにか弱い聖もいたし、戦いよりも優先して彼を守らねばと思ったのだ!!」
「怒って聖の位を剝奪したのに?」
「揚げ足をとるな! とにかく本來のオレは最強無敵なのだ! 邪竜討伐の功からしてもそれは明らか! この聖剣フィングラムこそがその証拠だ!!」
とまたしても黃金剣をたかだか掲げる。
それこそが彼の功績の証拠であり、邪竜と倒して手にれた剣がその手にある以上、彼が邪竜を倒した事実は揺るがぬだろう。
「では、実際のところを本人に聞いてみましょうか?」
「へ? 本人?」
王子様が呆けているところへ、バッサバサと羽音が鳴る。
上空のを遮る、長大な影。
その影の主は……。
『お前か? 我が寶剣を盜み出した罪人は?』
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毎日引きこもっていただけでLv.999になっていた―― ちょっと前まで引きこもりだったのに、王女様やら幼女やらが近寄ってきてハーレムも起きてしまう。 成り行きで勇者をぶっ飛ばし、代わりに魔王の娘、ロニンを助けることになった主人公・シュン。 みなが驚く。 引きこもっていたくせにこんなに強いなんてありえないと―― 魔王の娘と関わっていくうち、シュンはすこしずつ変わっていく。 ――平和な國を作るとか、そんなめんどくせえことやりたくねえ。 ――でも誰かがやらないと、またロニンが不幸な目に遭う。だったら、俺が…… いつまでも自分の世界にこもっていられない。 引きこもりによる國づくりである。 皇女セレスティアとの爭い、國王エルノスとの政治的駆け引きなど、さまざまな試練を乗り越えながら、シュンは自分の國を育てていく―― 全力で書いております。 読んで後悔はさせません。 ぜひお立ち寄りくださいませ。 *キャラクター人気投票を実施しております。よりよい作品にするため、ぜひご協力をお願い致します。リンクは目次と各話の一番下にございます。 *アルファポリスにも掲載しております。
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