《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》77 最強の弁護人

それは天空より飛來する。

あまりにも大いなる巨

両翼は左右に広がって、城一つを覆い盡くすほどの面積になる。

その中央にある巨は、爪を持ち牙を持ち、そして人のあらゆる攻撃能力をはじき返しそうな厚い鱗で覆われていた。

頭上に突き出す角、視線だけですべてを焼き盡くしそうな眼

それらすべてが地上最強の王者の証。

この王都の、公開裁判所となっている広場に飛來してきたのは……他でもない。

ドラゴンだった!!

「ぎゃああああああああッッ!?」

「うひゃああッ!? ドラゴンッ!?」

「逃げろ殺されるぅうううううッッ!?」

査問會の見に來た王都っ子もこれには驚愕し、生命の窮地にビビりブルッて逃げうのみ。

実際ドラゴン襲來は都市の壊滅を意味する。

王都存続もはやこれまでと誰もが思うのも仕方のないことだった。

「ぐわわわわわッ!? あわわわわわわわわ……ッ!?」

中でも勇者でもあるタングセンクス王子は、ビビり合も群を抜いて、腰を抜かして逃げうことすらできない。

……。

もしかして失してない?

そして僕は何も言わず何もせず、ただ黙って見上げるのみだった。

突如として現れたドラゴンを。

恐れる必要など何もない。

すべては予定通りのことだった。

『我こそは太古より在り続けるエンシェントドラゴンの一角にして天空の支配者……オーバースカイドラゴン』

ドラゴンは、ここに集った全員に聞こえる厳かな聲で言う。

『ここに、我が寶を掠め取った盜賊がいると聞いて馳せ參じた。どこだ? 卑しき盜人は?』

言いながら左右に視線を走らせる巨大ドラゴン。

その視界にるたびに恐れて震え上がらぬ人間はいなかった。

『盜人は貴様か?』

「ひぃッ!?」

『それともお前か!?』

「ぎゃあッ!?」

『……ふむ、おお見つけたぞ! 貴様の持つその剣こそ、我が寶庫に所蔵していた一振りではないか!』

そう言ってドラゴンが注目したのは……まあわかりきったことで勇者兼王子のタングセンクスであった。

彼は完全に腰砕けになって、床の上にもちをついて震えるのみ。

逃げようとしてもに力がらず、蟲のようにジタバタもがくことしかできないようだ。

「あ、あへ……、ぎへぇ……!?」

『我の知らぬうちに城へと侵し、荒らしていくとは罪深い悪黨よ。その罪、命をもって償ってもらうぞ。貴様に縁あるものすべてを灰になるまで焼き盡くしてくれよう』

「ひぎぃいいいいいいッッ!?」

勇者のあまりにけない悲鳴が上がった。

あの勇者兼王子がもっとも自慢にする、腰から下げた聖剣。

それはどこぞに住まう邪竜を倒して手にれたものだという。

そして唐突に飛來してきたドラゴンを照らし合わせれば、関連は一目瞭然。

「アナタが、勇者が倒したという邪竜ですか?」

『あぁ?』

僕の問いかけに反応し、を翻してくるドラゴン。

僕以外の人間は皆ビビり倒して、その場に腰を抜かすかに隠れるかして様子を見守るだけ。

『邪竜だと? この天空竜に対して不敬な。それに「倒された」とはどういう意味だ? だったらこうして我が現れるのはおかしいではないか?』

『倒された』ってことは『死んだ』ってことですからねえ。

「そこの男が言ったんですよ。自分は北の山に住む邪竜を倒して、その剣を奪い去ったって」

僕が指さす先にいる勇者タングセンクスは、まるで火箸でも押し當てられたように飛びあがって騒ぎ立てる。

「お前ッ!? やめろやめろ! 余計なことを言うなッ!!」

『なんだと? たしかに我が城はここより北二千里の果てにある霊山で、こやつの持つ剣は、我が所蔵せし寶の一つだ』

じゃあやっぱりアナタが勇者に倒された邪竜では?

それは僕だけでなく、この場に居合わせた誰もが思うことだろう。

當代勇者を代表する偉業なのだ。ドラゴン殺しと、その証拠である聖剣のエピソードを知らない王都っ子はいない。

『何のことを言っているのか知らんが。我は生まれ出でてより數千年、人間風に敗北したことなど一度としてない。人ごときが我ら竜に勝てるなど、勘違いだとしてもそれ自がおこがましいわ』

「ハイ、その通りです」

『我らを脅かしうるとすれば、それは同類もしくは神に連なるモノどものみ。近頃、その神の一つ柱で地上に遊ぶ稀有なる方……神メドゥーサ殿から知らされてな』

――『キミんちの寶庫、荒らされてるわよ』

と。

「言われて中を改めてみると、なるほどたしかにあるべき寶のいくつかが消えておった。何者かが侵し、盜んでいきおったのだ! 我が寶を! そのようなことが許されてなるものか! それで我は盜人を追い、辿りついたのがここだということよ」

ふーん、そう。

さすればドラゴンさんの言う盜人の容疑者は……。

そこにいるタングセンクス王子にして勇者。

「ドラゴンさん。アナタが盜まれた寶というのは、あの聖剣で間違いないですか?」

聖剣フィングラムは、つい直近まで勇者が掲げて自慢していたため、今も抜きのまま手中にあった。

『おお、まさしくそうだ。……しかし聖剣? どういう心得違いでそんなことになっておる?』

「へ?」

『あれは聖剣なんぞと呼ばれるような聖気も神気も宿ってはおらぬ。むしろアレが孕む気は魔の屬に近く、なれば聖剣よりも魔剣と呼ばれるべきシロモノだ。その魔気すら放たれるは量。カエルの小便にも劣る勢いで魔剣と呼ぶことすらおこがましくてできぬ』

「えぇ……!?」

『それゆえに我が寶庫の中でもり口辺りに捨て置かれ、盜まれたことにも今日まで気づかなんだ。雑といったところよ。しかしそれでも我が寶であることに変わりない。我が寶を盜んで何の咎めもないとなれば、我が権威は疑われ、さらに大事な寶を奪われる溫床にもなりかねん』

ならば、どうすると?

『寶を取り戻すのは當然のことながら、それだけでは済ません。寶を盜み出せし罪人も、それに縁ある者もすべて殺し盡くして報復としよう。とりあえず最低限、この街は滅ぼす』

「王都を壊滅させると?」

『人がどう呼ぶかは知らんが、ここから見渡せる人の棲み処すべてだ』

ドラゴンの宣言に、居合わせた王都っ子全員の恐怖が高まる。

ドラゴンは、地上にあるあらゆる生の頂點に立つ最強種。そのドラゴンから処刑宣告されて生き延びられる人間などいるはずもない。

ドラゴンが『滅ぼす』と言ったら、それは実現するのだ。

この王都の命運は盡きた。

「助けて勇者様!」

そこで僕は聲を張り上げる。

「このままでは王都は、ドラゴンに焼き盡くされちゃいます。それを止められるのは勇者を置いて他になし!」

「うぇッ!? うぇええッ!?」

「さあ僕たちの王都を守ってください勇者様! 誰もが知ってる武勇伝そのままに、ドラゴンを倒して勇者の強さを見せつけて!」

僕から名指しされて、勇者兼王子のタングセンクスは目をしばたかせる。

まさかここで竜殺しの逸話を引き出されるとは夢にも思わぬ様子。

しかし、民衆は勝手な期待を遠慮しない。

「そうだ! そそそ、そうだ!!」

「勇者様! 今こそアナタの力を見せつける時!」

「邪悪なドラゴンから王都を守って!」

「一回倒したんだから、今度も楽勝でしょう!?」

「王子でもあるんだから、王都を守る義務があるだろう!?」

民衆からやんやの喝さいが飛び、王子兼勇者の期待は最高に達する。

「あわわ、あわわわわわわわわわわわわわわわ……ッ!?」

しかし當の勇者は一向にかなかった。

抜かした腰は上がらず、ガタガタ震えるばかり。

一向にこうとしない勇者に民衆は苛立ち、期待は段々と非難へ変わっていく。

「何だよ勇者! 早く戦えよ!」

「何グズグズしてるのよ!」

「それでも勇者か!? ビビッてけねえぞ!!」

吹き荒れる罵詈雑言。

ここまで來たら気づく人もいることだろう。

勇者タングセンクスが邪竜を倒したなどウソッぱちなのだ。

真実は、ドラゴンの目を盜んで寶の一つをこそっと盜み去った……ぐらいのものなんだろう。

しかも被害者ドラゴンは邪竜ですらない。

己をらせるメッキが、一気に全部剝がされた勇者は、もはや正義でもなければ強者でもない。

ウソつきの弱蟲でしかなかった。

そんな真実の前では、勇者と王子の稱號も虛飾にしかなりえない。

今や彼の信頼はどん底まで落ちた。

反撃開始のタイミングは、まさに今だ。

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