《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》78 怒りのドラゴン

「はひ、誰か助けて……、助けて……!?」

民衆からどんなにヤジられても、恐怖から指一本かすことのできない王子様。

僕は、査問會の被告席から飛び上がり、ドラゴンの巨を橫切って王子の下まで行く。

「この事態を治めるためにコレがいる」

「あッ?」

王子兼勇者の手から、黃金の聖剣をスルリと抜く。

「何をする!? それはオレの聖剣フィングラムだぞ! 泥棒!」

「泥棒はキミらだろ?」

そのままドラゴンに向かって刀を捧げる僕。

「竜よ、アナタの下から盜み出されたこの剣をお返しします!」

『うむ』

剣は獨りでに浮かび上がり、ドラゴンの下へ引き寄せられていく。

そして鱗に覆われた巨に吸い込まれて消えた。

どういう仕組みか知らんが、あれでしっかり収納されたみたいだ。

『我が寶、たしかに回収した。あとは犯人どもを滅し盡くすのみだな』

「ご容赦いただきたい」

僕が単刀直に言う。

「剣はあるべきところに戻りました。これですべて解決としていただけませんか?」

『話にならぬ。罪と罰は一。罪人にしかるべき罰を與えねば何度でも悪事を繰り返す。我もこれ以上人間どもの愚行に煩わされるのは面倒ゆえ。ここで滅ぼしてしまうのが手っ取り早い』

「罪を犯した者は我ら人間の法で裁きます。それをもって竜の側も満足してはいただけませんか?」

『ここですべて滅ぼせば、そのような手間もいらぬと言っている』

ドラゴンにとっては人の法律も営みも、細々面倒くさいことで全部吹っ飛ばせばそれでいいだろうと思っている。

あたかも、ゴミを一つ一つ拾って集めるよりも一気に焼き払った方が効率的だとばかりに。

王子兼勇者の巻き添えで國一つが滅ぼされるなど斷じてやめたい。

なので僕も一回卻下されたぐらいじゃ怯まない。

「竜よ、人も弱く短いなりに一生をまっとうしようとしています。罪人が裁かれるのは當然としても、そのとばっちりでひた向きに生きている人たちにまで被害が及ぶのは理不盡です」

『知ったことではない、人間ごとき小生のチマチマした生などはな。我は、愚かな人間どもがしっかり竜への恐怖を忘れず刻み込めればそれでいいのだ。二度と人間ごときに舐められることがないように』

ドラゴンとしては、まったく正常な理屈なのだろう。

たとえば人が、ハエがブンブンと煩いので煙でも焚いて一網打盡にしてやろうという覚に近い。

竜にとって人はそれほどどうでもいい存在なのだ。

しむにも値しないほど下等な生

そんな生がいくら囀ったところで上位生ドラゴンの心をかすことはできない。

言葉ではなく、実力でなければ……。

「そういうことなら仕方ありません。アナタの流儀に従うのみです」

『大人しく滅ぼされると?』

「いいえ、力に対しては力で対抗するだけ。アナタが僕らを滅ぼすというのなら一杯抵抗するだけです」

『はッ、驕るな人間!!』

侮辱とけ取ったのか、ドラゴンの高ぶるが気炎となって渦巻く。

それだけで周囲の人間がショックで気絶するほどだった。

『脆弱な人間風が抵抗して何か意味がある!? 貴様らが毆ろうと蹴ろうと、我らドラゴンには蚊の鳴く聲にも値せぬわ! その傲慢だけでも我を怒らせる! 萬死に値するぞ!!』

「じゃあ、試してみますか?」

『ぐぬッ!?』

ドラゴンの鼻先で『消滅空間』を展開。ドラゴンを飲み込まんとするかのように。

それが危険なものだとすぐさま察したのだろう。

ドラゴンは背の翼を羽ばたかせて後退し、僕から距離をとる。

『その力……「神威」かッ!? まだこの世の中に使い手がいるとは!』

「一手目でアナタの頭を消し去ることもできました。そうしなかったのはあくまで警告だからです」

僕だって、ドラゴンとの全面戦爭はまない。

互いに落としどころを定めて、許し合い妥協するのがもっとも合理的だ。

『…………………………』

ドラゴンはたっぷり沈思黙考してから……。

『……よかろう、いかに人間が脆弱下等といえども「神威」の使い手となれば話は別。本気で対立すればいかに我らドラゴンといえど死を覚悟せねばならん。さすがにナマクラ剣一つのために命を張るのでは割に合わんわ』

「ご英斷です」

『ただし、盜人の処分を一任するからにはしっかりやってもらわねばな。充分な厳罰を加えよ。しでも手心があると見做せば、この街を極大火炎ブレスが襲うこととなろうぞ』

「肝に銘じます」

ドラゴンの納得を得ることができた。

これで王都もひとまず危機を回避することができた。ホッと一息というところだろう。

『……時に、我が寶を盜み出したのは勇者だということを聞いたが……貴様が勇者か?』

「え?」

それって僕に向かって言ってます?

何故か勇者に間違えられる僕。

「そんな恐れ多い。僕はただのしがない冒険者ですよ」

ましてドラゴンの寶を盜んだのが勇者という認識なら、なおさら否定して濡れを避けないといけない。

「勇者はこの人です、この腰抜かした人」

『はぁん? 我に一睨みされた程度で腰を抜かすザコが勇者? 何の冗談だ?』

僕からの紹介をけ、再び竜の注目をけるタングセンクス勇者さん。

「ぎゃばぁあああああッッ!? 違う違う違うッ! オレは勇者じゃない! 勇者じゃないいいいいッ!?」

「多分、ここで勇者と言ったらアナタと戦わなきゃいけないと思っています」

そこで必死のNOT勇者アピール。

『くだらぬ。勇者とは無類の勇気をもって戦う者のことではないのか? こんな臆病者の卑怯者が勇者とは、タチの悪い冗談にもならん。盜人の上に詐欺師とはな』

ドラゴンの歯に著せぬ叱責が留まるところを知らない。

『それに引き換え貴様は、なかなかの偉丈夫よ』

「へ? 僕ですか?」

『「神威」の使い手であるのもいいが、神に迫る異能を持ちながらも、我らドラゴンに対しうる肝の太さは尋常なものではない。しかもみずからの命を張るのは己のためではなく、他人を守るためときた、なかなかあっぱれではないか』

はあ。

『よかろう、このオーバースカイドラゴンの名において、貴様に勇者の稱號を與えよう。これよりどこで誰に出遭ったとしても勇者と名乗ることを我が許す。誰にも臆することなく宣するがいい』

「はぁッ!?」

いやしかし。

勇者というのは大聖教會が選び出して任命する者だと聞いたが。

それを勝手に決めちゃっていいものだろうか?

『何を言う? 勇者とは古來我らドラゴンが人に與えてきた稱號ぞ? 竜は勇気を好むゆえな。後世、神々どもが真似して気にった人間に何かしらの稱號を與えることはあったが、我ら竜をはばかり勇者の稱號だけは勝手に扱うことを避けた。さらに時代が下り、そうした遠慮すら忘れたらしいな……』

いまだにガタガタ震える王子を一瞥するドラゴン。

『このような木っ端カスにドラゴン自慢の尊稱を與えるとは、我らに対する宣戦布告ととられても仕方がないな。……おいカス、この我が命じる。今後永久に勇者を名乗ることをずる。もし違えれば、いつどこにいようとも我がブレスで焼き盡くされると心得よ』

「はひ! はひぃいいいいいッッ!?」

『そして全人間どもに告げておく。貴様ら風が勇者の稱號を與えるなど不遜千萬、思い上がりも甚だしい。以後、そのような越権行為を一切じる。それを破った者たちにも業火の厳罰が下ると心得よ!』

その聲を、王都に住む人々の誰もが聞いたはずだ。

ドラゴンの言葉は、ただの大聲なだけでなく神に響いて刻まれる言霊として全土に轟き渡るのだから。

『これで我が用事は済んだ。くだらん人間どもには金際煩わされたくないが、貴様とは機會があれば再會したいものだな勇者よ』

「……」

『貴様のことだ』

「はいッ!?」

僕でしたか!?

まったく勇者呼びに慣らされていないのでいきなり言われてもどうかとしか!?

『まったく貴様は、竜から認められた稱號をしは有り難がらんか。とにかく人間どもよ。勇者を讃えるがいい。愚かな貴様らのくだらん命運は、この勇者のおかげで繋がったのだからな!!』

ドラゴンが翼をはためかせる。

その反で浮かび天空へと上がる。

『我を恐れよ! 我を忌め! 我が名を聞くたびに戦慄し、心の平穏を失うがいい! 我は天空竜! いと高き空の頂から下等生どもを見下すオーバースカイドラゴンなり!!』

そして竜は去っていった。

概ね上手くいった。

この公開裁判にドラゴンがしてきたのは、けっして偶然じゃない。

人脈をフル活用したというか、もちろん裏で糸を引いていたのは我らがメドゥーサ様だ。

あの方なら普通にドラゴンとだって連絡が取れる。

エレシスでの騒で、あの王子兼勇者様が、勇者というにはあまりにも不甲斐ない活躍の仕方だというのはわかっていた。

なのでペガサス辺りに聞けば裏を取れるのではないかと気軽に相談したところ、あっさりメドゥーサ様にまで話が上がった。

結局勇者が見掛け倒しであり、最大の武勇伝もイカサマづくだったと知れば彼の株価は急降下。

僕にかけられた嫌疑も吹っ飛ぶだろうという目論見が、ピシャリと當たった。

今やドラゴンの去った公開裁判所に殘るのは、耳が痛いほどの靜寂と、それに負けないぐらいに冷たい人々の視線。

それはすべて、あの王子様に注がれていた。

これまでは『勇者兼王子』とか『王子兼勇者』とかややこしい呼び方をしていたが、もうそういう必要はないんだよな。

だって彼はもう勇者と名乗ることを止されたんだから。

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