《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》79 これにて閉廷

ドラゴンが去ったあとの王都広場。

そこにあるのは真っ新な、何のもない『虛』だけ。

それもそうだろうドラゴン襲來なんて一大事は超弩級の衝撃を呼んで、その衝撃はそれ以前にあったすべてのを木っ端微塵にしてしまったんだから。

誰もの心が空っぽとなってしまっている。

いずれは誰かが我を取り戻し、僕のことをつるし上げる査問會も再開の流れになるかもしれないから、その前に先手を打っておく。

……と思ったのに。

「……ふ、ふははははははは! ドラゴンめ恐れをなして逃げ去ったか!」

僕より先に再起するヤツがいて驚いた。

例の王子様だ。

アホは頭の構造が単純な分、起し直すのも早いってこと?

「やはりこのオレ! 最強無敵のタングセンクスを脅かすことはドラゴンでも敵わなかったな! これこそオレがゆ……!?」

……うしゃ、と言い出しそうな彼の口を慌てて塞いだ。

「やめろ、その言葉はもう二度と口にしない方がいい」

「むぐぐぐぐぐぐッ!?」

「アンタは軽く見ているようだが、竜や神との約束は想像以上に厳しい縛りだ。あのドラゴンがじた以上アンタは二度と勇者を名乗れない。たとえ冗談でも口にしたら、どこにいようとドラゴンはやってきてアンタのことを殺すぞ」

それだけならばまだいいが、いきなり約束を破られて怒ったドラゴンは、王子様だけでなく王都すべてを火の海にするかもしれない。

すぐ連帯責任を負わせたがるドラゴンだから。

「ひッ!? ……へ……」

王子様もやっと自分が行おうとしている自殺行為に気づいたのか、口を止めた。

恐る恐る手を放す。

口を塞いだおかげで僕の手が、顔汗と鼻水塗れできったねえ。

「……ふッ! まあいい。父上のあとを継ぎ王となるオレにはもう必要ない稱號なのだからな勇者は! これからのオレは、全國土を黃金楽土となるほどかに治める大賢王として世に知られるであろう!」

「その前に王子様……」

僕は追及の手を緩めない。

「結局アンタは、ドラゴンを倒していなかったんですね? その証拠品である聖剣も、戦いの果ての戦利品ではなくただの盜品だった。ドラゴンの目を盜んで掠め取ったものだ」

「ぎくぎくぎくッ!?」

わかりやすいリアクションを取りなさる。

「アンタ最大の功績が、ウソと竊盜で形作られていたハリボテだとするなら、それ以外のアンタがやってきた勇者としての所業もすべてがウソのハリボテだったことになる。アンタの所業も存在も、何もかもが虛構だったってことだ」

「ちちちち……、違う! オレはゆ……いや、勇者であった頃の偉業はすべて事実だ! オレの打ち立てた功績は千年先にも語り継がれるのだ!!」

「邪竜殺しの功績も?」

「うぐッ!?」

それを真実と言い張るのは無理だと、さすがに彼でもわかるようだ。

倒したはずの竜が王都にまで、吠えられるままに恐れい、戦利品のはずの聖剣(実際は違うけど)を奪い返されるまで何も言えなかった。

そんな醜態を曬してなお自分が竜殺しの英雄などとは名乗れない。

「王子は……竜を倒していなかった?」

「そんなのただの詐欺じゃん!」

「ウソつきめ! あんなヤツ勇者じゃねえ!!」

「王子の資格もないわ! あんなウソつきにこの國を治めてほしくない!」

勢に翻弄されやすい民衆も一気に反王子へ傾く。

その中で、そもそも僕の査問會へ正式に出席していたいかにも貴族っぽいオジサンたちも……。

「ううむ……、タングセンクス王子は、お父上に似ず英邁で、勇者としても勇敢というから次期國王への推し甲斐もあったのに……!」

「勇者としての実績がすべて虛構であったというなら、継承の仕儀は考え直さなくば……!?」

そんなことを言う重臣(?)さんたちに王子様はもう大慌て。

「ななな! 何を言うんだ!? 亡き父上を次いで國王になるのはオレ以外いないではないか!?」

「たしかに王子は先君唯一のお子でありますから継承候補に揺るぎはありません。しかし徒に國を危機に陥れる者を、簡単に王位に據えるのは……!?」

タングセンクス王子は、天空竜の寶庫から聖剣(?)を盜んだことで竜の怒りを買った。

その怒りから王都は火に包まれるところだったのだ。

『実際焼かれなかったんだから、よかったんじゃね?』では済まされない。

「それに、王子個人に対して竜からの怒りが解かれたわけではありません。そんな人を王位に立たせれば國全がドラゴンと敵対しているなどとけ取られかねない。そうなったら我が國は終わりですぞ」

九分九厘決まっていたはずの即位が今や雲散霧消しようとして王子様は大いに焦った。

「違う! 違う違う違う違う違う違う違う違うッッ!?」

「何が違うんだい?」

「違うんだ! これはオレの責任じゃない!」

ついに責任逃れまでしでかすようになった。

肝心な時に自分の責任を取ろうとしないなんて、益々指導者向きじゃないと思うけどな。

「……そう! すべて悪いのは聖だ! いや聖の資格を剝奪されて、もはやただのでしかないヒサリーヌのヤツだ!」

かつて傍らに侍り、行を共にしていた聖の名を出す。

「ど、ドラゴン討伐へ向かう最中……あのが聖剣を持ってきて言ったんだ!『ドラゴンは既に死んでいた』『死骸の傍にこの剣が落ちていた』と! だからオレは、その聖剣を持って途中で引き返したんだ! 竜がもう死んでいるなら討伐の必要はない! このまま進んでも無駄足だと!!」

「それを信じたのか? 自分の目で確かめもせず?」

「當然だ! 王たる者、無駄は極限まで省かなければな!!」

ヒサリーヌは、エレシスの地での失敗が理由で失腳し、もう聖の地位からも追われている。

そのおでこの場にもいない。

それをいいことにすべての責任を聖に押し付けて、自分は逃げおおせるつもりなんだろう。

この場にいない人間に反論は不可能。事実の検証もできない。

だから絶対安全で確実に助かる作戦だと思ったんだろう。

「では確認してみますか、本人に?」

「なに!?」

そうは問屋と屯田兵だぞ。

人垣を割って、ここまでやってくる二人の人

一人はギルド理事のアンパョーネンさん。

そしてもう一人は問題の人となっている聖ヒサリーヌだった。

……いや元聖か。

「ヒサリーヌ!? 何故ここに!?」

ビックリ王子。

今まさに全力で陥れようと現在進行中の相手が目の前に現れたら、そりゃビクリとするか。

「どうして……!? ききき、キミは謹慎中だと……!?」

「ご足労いただきましたよ。今日の審議には絶対必要な証言者だと思いましてな」

そう答えるのはアンパョーネン理事。

査問會冒頭まで同行してくれた彼が、あるきっかけで退席したのは他でもない。

この場に現れなかった聖ヒサリーヌを探し出すためだった!

「そんな……、でもこんな短時間で探して、しかも連れてくるなんて……!?」

「冒険者ギルドを甘く見過ぎですのう王子」

アンパョーネン理事は査問會から退出するとすぐさま招集をかけた。

王都滯在中の全冒険者に。

彼らに急クエストとして、王都のどこかにいるであろう元聖ヒサリーヌの捜索を発注。

多くの冒険者たちは依頼をけて、元聖探して王都中を駆け回った。

「S級冒険者とは、冒険者全の誇りと憧れの象徴。そのS級に罪をり付け、吊し上げようというのが國の全冒険者にどうけ取られるか。……想像しませんでしたかのう?」

「な……ご……!?」

相槌の聲も出ない様子の王子様。

「すべての冒険者が快く急クエストを引きけてくれましたぞ。橫暴な王子に一泡吹かせてやろうとな。特にアレオやビリリュートといった、エピクくんに直接面識のある者たちは一際って頑張ってくれた」

その結果、元聖を発見したのは大聖教會が所有しているという隠し屋敷の一つ。

やはり査問會にいい影響はもたらさないだろうと厳重に隠されていたのか。

「それどころか査問會が終わり次第殺す手筈になっておったようじゃのう。さすがに最中は目立つので躊躇していたようじゃが……間一髪であったわ」

僕が査問會で踏ん張っている間アンパョーネン理事たちも大冒険だったらしい。

その結果、無事救出された元聖ヒサリーヌ。

の口からどんな証言が出てくるのか?

「…………」

「ヒサリーヌ? あの、その……!?」

「やっぱりすべて私の獨斷で押し通すつもりだったようね? 北のドラゴンから聖剣を盜むことは、アンタと私の共謀だったはずでしょう? それをすべての責任を私に押し付けようなんて……!」

「何を言うんだ!? 待て待て聖殿! キミは思い違いをしている! そのあの……ッ!?」

「私はもう聖じゃないわよ! アンタが大聖教會に猛烈抗議して解任するように迫ったんでしょう!! おで私はすべてを失った! アンタのために! 腰抜け弱蟲のアンタを立派な勇者に仕立て上げるために何でもしてきた私をッ!!」

金切り聲を上げる元聖は、髪は掻き毟られてボサボサ、目は落ち窪んで鬼気迫った眼となり、しさなど欠片も殘っていなかった。

中、どんな扱いをけてきたのか、自分の絶的な未來を何度も想像してきたのか。

その苛烈さが彼からすべての潤いを奪い去っていった。

「処じゃなければなんだって言うのよ! たったそれだけのことで私を、アンタにあれほど盡くしてきた私を捨てるって言うの!? アンタなんて私の助けがなきゃ何もできないクソ蟲のくせに! ウソよ全部ウソ! コイツが勇者としてしてきたこと全部、私が仕組んだ大ウソなのよおおおおッ!!」

「何を言うんだやめろヒサリーヌ! 誰か! このクソを退場させろ! 出あえ出あえ! うわぁやめろ!? 目に指をれるなあああああッッ!!」

亡者のようにうまとわりつく聖を、自分一人では引っぺがすことすらできない王子様だった。

彼らの不始末を暴き立てることで目論見通り、僕にかけられた嫌疑は跡形もなく吹き飛んだ。

かつての勇者&聖のしたことで何が真実でありなにが偽りなのか、何が正義で何が不正義なのか。

それらを詳らかにしない限り、僕の罪を問うことはできないだろう。

ということで今回の僕への査問會は。

これ以上の追及は今の段階では不可能ということで、閉會!!

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