《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》80 新たな王
あれからすったもんだがありまして。
結局タングセンクス王子は、王位継承候補から外された。
彼はエンシェントドラゴンから敵意を持たれている。
それだけでも王位にはふさわしくない。
超自然の存在からの好悪は、高貴なる統をも無意味にさせてしまう。
そりゃあそうかも……とは思う。
その気になれば王都全を容易く火の海にできるような存在。そんな超越者から嫌われている人間をどうして自分たちの王に據えたいと思うだろう。
それに際してタングセンクス王子は子どものようにごねまくったが、結局聞きれられずに廃嫡。
王籍からも追い出され、どこぞの田舎城で過ごすことになるそうだ。
とはいってもよほどのことがない限り領地どころか城からも出られない実質上の幽閉生活。
そして元聖のヒサリーヌも一緒にその城へ送られた。
一人の幽閉生活は寂しかろうという配慮から、彼はタングセンクス元王子の妻として共に過ごすらしい。
無事結婚できてよかったね。
ということで二人は平穏な人生を手にれることができました。
めでたしめでたし。
そしてまだ平穏になれないのが殘された僕たちだ。
僕自は、いまだに掛けられた嫌疑を晴らせてはいないが、原告であるタングセンクス元王子が王都から消え去ったことでうやむやになった。
まだ彼らのバックである大聖教會がいるが、特にく様子もなくなくとも今回に関しては終息したらしい。
ホッと一息ついたがあくまで僕個人の話。
公には、次期後継者と決まり切っていた王子様の失腳は、天地を揺るがす大騒だ。
しかも現王陛下は既に死去。
早急に代替わりしなければいけない狀況下にあって、たった一人の王子様が廃嫡。
兄弟姉妹はいないらしい。
それって大変じゃない?
王朝斷絶?
あわやそんなことになるかと思いきや、事には何にせよんな方法が用意されているようで、今回も元々より優良な選択肢があったりなかったりあったりした。
それは何かというと……。
……宰相ブランセイウス様の即位だった。
◆
「ブランセイウス様は、そもそも亡くなった陛下の弟君に當たるのじゃ」
アンパョーネン理事。
「とはいえ、兄弟おられれば兄が継ぐのが世の倣い。元々王弟であったブランセイウス様は王籍を抜けて、臣下として兄君に仕える道を選んだのじゃ」
兄君……、死んだ國王様のことですね。
「ブランセイウス様が王籍を抜けられる時はけっこうな騒ぎであった。何しろ同じ王子といえど兄と弟で人格能力も大違いじゃったのでな……。代々のしきたりを変えてでも、弟君に王位を継がせるべきという聲も大きくてのう……」
しかし結局ブランセイウス様は、執拗に自分に迫ってくる聲を振り切って王位継承権を返上し、臣下の地位に下った。
それでもあの方の類まれなる能力を遊ばせておくことができず、頼られていくうちに宰相の地位を得たのだという。
「まあ、國王にはもちろん面白くない話だったがのう。ご自分の即位の際には、弟君を推した重臣を難癖付けては職剝奪、地方に左遷。やりたい放題しておった」
「わかりやすい報復ですね」
「しかし、そのおで中央が人材不足となり、誰より有能なブランセイウス様が重用されて結果宰相までのし上がるという皮なこととなるわけじゃが……」
ただ、そのように骨の爭いとなってもおかしくない間柄の二人だが、王の兄・宰相の弟と上下をしっかりして押し進められる政治は危ういところもなく、とりあえず安定していたらしい。
あれはあれで理想的なタッグだったのか。
しかし、そんな奇跡の均衡を保っていた凡庸兄はもう亡く、殘るは才徳兼備の有能宰相な弟。
誰もが、いつしか見た夢の再來を願うことだろう。
あの有能宰相を今度こそ王にと。
「しかし本人が頑なに拒否しておるのじゃ」
「え? なんで?」
ブランセイウス様が? 王様になることを?
ってことだよなあ?
「思えば、先の王位継承の際もそうであった、周囲がどれだけ讃え、王位に就かれることを乞い願っても、あの方はけっしてみずからこうとはしなかった。まるで晴れやかな舞臺に立つことから逃げておるかのようじゃった」
逃げる……?
そりゃあ人間、何かからひたすら逃げたくなることもあるでしょうが。
「ブランセイウス様は、王様になりたくないんですか?」
「わからん。ただ権力を疎むのであるなら宰相の座に就くこと自拒否したはずじゃ。王籍を捨て一般貴族となり、どこぞ辺鄙な領地を得て引きこもり平穏無事な一生を過ごすことだってできたはずなのに、そうなさらぬ」
彼は、王族の地位を捨てながら王都王宮……権力の中樞にいつづけて、みずからの能力をいかんなく振り回し続けている。
みずからの限界に挑戦するかのように。
「であれば王座をんでもおかしくないはずなのじゃ。己の能力を余さず使い切るには大きな権力も併せ持たねばならぬ。より大きな権力を振るうには、より高い地位につかねばならぬ。あの方の賢さでそれに気づけないはずがないんじゃが……」
それでアンパョーネン理事?
どうしてその話を僕にするのでしょう?
僕は王都での用事も終わったし、そろそろエフィリトの街へ帰ろうかなって思っていたところなんですが?
「もちろん、おぬしにもブランセイウス様の説得を行ってほしいからじゃ」
「なんで!?」
いくら何でも僕!
恐れ多くも王弟殿下に口出ししようなんて、S級冒険者はそこまで偉いのかよ!?
「ただS級であるよりも、エピクくんの立ち位置と言うべきかな。何しろあの方の代わりに王になるべき方々の消失に、どちらもキミが関わっておる」
た、たしかに……!
國王様が急な変死を遂げたのは僕が謁見した直後のことだし、その息子タングセンクスの失腳の原因を作ったのは僕だ。
……。
むしろ僕が説得に行くことほど差し障りがあるんじゃない!?
宰相様が王位につきたくないならなおさら!!
「それに加え、……エピクくんの言うことならあの方も聞いてくださる。そんな気がするのじゃよ」
「どういうことです?」
「いつぞやの謁見の際に、キミもブランセイウス様とお目通りしたが、その時の方がな……他のものには向けないような、そんな深みのある表をしておられた。もしかしたらキミたちは、余人には付けりがたいところで通ずるところがあると思えてな」
隨分フワフワした所だが、拠はと問われると多分ないのだろう。
しかし何十年と荒くれ冒険者たちを統率してきたギルド理事の言葉。まったくのあてずっぽうとも言い難かった。
……。
こうなってくると最初にきりだした拠は、僕に責任をじさせるためのものだったのかもしれない。
それで斷りづらくさせようと……!?
繰り返すが何十年も荒くれ冒険者を統率してきたギルド理事の手腕は侮れない。
いつの間にか僕自も、おじいちゃんに乗せられた孫のように掌で転がされているのだった。
◆
その日のうちに王城へあがり、ブランセイウス様への謁見を賜る。
二回目の対面になるが、今日お會いしたブランセイウス様は、以前よりも憂げであった。
この人を取り巻く環境を思えば當然のことか。
「先日は大変だったな。キミがタングセンクスから訴えられたことはすべて欺瞞だった。本當なら正しい者を助けるべきところを駆けつけることもできずに申し訳ない」
「いえいえ! とんでもない!」
むしろあの件で大変だったのは、訴えてきた方の王子様でしたし。
その一件でブランセイウス様の運命も大きく変わってしまったんだから、恨み言を言われる筋合いすらあるのに、気遣いの言葉を貰えるなんて……!?
宰相として縦橫無盡の活躍をしつつ、それでいて公正かつ思いやりまであるという絵に描いた完璧超人、ブランセイウス様の姿がそこにはあった。
「できればもっと盛大に歓待したいところだがね。私もそれどころではなく、話をする程度で済まないと思っている」
「いえいえそんな!?」
「キミの用件はわかっているつもりだ。どうせアンパョーネン理事辺りから頼まれて、キミも説得をしに來たんだろう?」
バッチリ読まれておる。
さすが有能の方。そういう人だから皆から王になってほしいと言われてるんだろうが。
「まさかこういうことになるとは夢にも思っていなかったよ。國王陛下……兄上にお子が生まれた時點で正統の流れができて、私の順番はなくなったと思っていた。それがこんなことになるとは……!」
「あの、本當に申し訳ありません……!?」
「キミが気に病むことではないよ。タングセンクスについては完全に彼の非だ。自分の愚かさに刺されたに過ぎない。だが……」
ブランセイウス様は、やはり憂げな表のまま……。
「エピクくん教えてくれないか? 神メドゥーサは何故國王陛下を呪殺したのだ? あの方の発言が軽率であったことは認める。しかしあのように慘たらしい死を與えるほど罪深いことではあったか?」
思えば王政がれ始めたのは、あれこそが契機だった。
國王は、忌の山の主にれてしまったことで呪い殺された。
やはりそれは王宮の共通認識になっているらしい。
その理由を、メドゥーサ様のお膝元で暮らす僕に尋ねるのも無理からぬことだ。
僕は真摯に答えることにした。
「僕はそのことをメドゥーサ様本人にお尋ねしたことがあります」
「さすがはS級冒険者だな」
「あの方はこう仰いました。國王を呪い殺したのは自分ではないと」
たしかにあの方は、敵対する者に一切慈悲を掛けない恐ろしい魔でもある。
しかしだからと言って逆らう者は誰彼かまわず殺すといった殘な方でもない。
『多悪口を言ったところで殺すほど私も暇じゃないわよ』というのが本人の弁だ。
「それは、本當のことか?」
「冒険者の魂に誓って」
キッパリ答えると、納得してくれたのか、しかし益々表を曇らせて俯くブランセイウス様だった。
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