《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》83 賢人の後悔
「エピク……と言いましたわね?」
大聖の視線がこっちに向く。
さすがに『大きい』が付くだけに、その視線の強さも妖しさも、ただの聖だったヒサリーヌとは比較にならない。
「ブランセイウス様は明日にも國王となり、これからの國運を背負っていかねばならぬ方。無責任な誤報を軽々しく吹き込んではいけませんわよ」
「エピクくんは、お前たち大聖教會に陥れられた人だ。脅しより謝罪が先ではないかね?」
今回僕が王都へ呼ばれた用件。
勇者タングセンクス王子への裏切りの嫌疑をかけられたんだが、その結果は王子様の自滅破滅でカタがついている。
邪竜討伐を偽裝した件については大聖教會にも非難が向かうべきところだ。
「力ある信者たちへのコネで必死に火消しして回っているようだが、我ら王宮側はしっかり問題にするつもりだ。大問題にするのでそのつもりでいるがいい」
「この年が、勇者と認められたなどという流言が広まっているらしいですが……」
ブランセイウス様からの指摘はあえて無視して話題を強引に変える。
「勇者を任命する権利は大聖教會にしかありません。本當に勇者と認められたければ大聖神の教えに従い、信仰の敵となる悪魔を滅ぼしていくことね。さすれば……本當に勇者となるべきはこれから私とブランセイウス様との間に生まれる王子なのでしょうが、その子が生まれて長するにも時間がかかります。それまでの繋ぎとしてなら認めてあげてもよろしいわ」
「僕のことを勇者だと言ったのは、ドラゴンです」
一方的に決めつけてくる大聖に僕も負けずに言い返す。
「この間王都にやってきたドラゴンが勝手に言ったことです。自分以外が勇者を任命することをずるとも言っていました。文句があるならそのドラゴンへ直接言ってください」
「……ッ!?」
僕からの反論に何も言えずに押し黙る大聖。
その景に橫から笑音。
「ふははははははは!! さすがはS級冒険者! 大聖教會の自分勝手な理屈に一歩も引かないか!」
ブランセイウス様楽しそう。
その上僕の肩まで抱いて親さをアピール。
「彼を吊し上げたのは王子だったタングセンクスだ。なので我ら王宮も彼に負い目がある。だからこそ全力をもって彼を守る所存だ。迂闊なチョッカイはかけぬ方がのためだぞ、痛くもない腹を探られたくなければな」
「チョッカイなど、とんでもない」
二、三歩あとずさり、僕たちから離れる。
「とにかくしい人の顔を見られて私も安心しましたわ。できれば次は結婚式でお會いしたいものですわね」
「私は結婚しないし、仮にするとしてもお前は招待しない」
「ふふふ、面白い冗談ですこと」
大聖は振り返るが、それでも余裕の笑みを浮かべて……。
「大聖教會と王家が一丸となってこそ國家安泰は保たれます。賢明なるブランセイウス様がそれに気づかないはずがありません。心を整理する時間は與えてあげましょう。だから一日も早く真理をけれますよう。神にお祈りしておきますよ」
などと自分勝手なことを言って出ていく大聖だった。
再び談話室に僕とブランセイウス様の二人だけ。
疲れたようなため息をついて……。
「すまないねエピクくん。見苦しいところにキミを巻き込んでしまった」
「僕もまったく無関係なわけではないですし……」
「キミにもあのの魂膽は察しがつくだろう。王となった私の妃となり、その立場で大聖教會の権威を強めていくつもりなのだ。さっきも言ったように聖ヒサリーヌにはヤツの息がかかっていた」
子飼いの聖を現王妃にして間接的に王宮を支配せんとしたが、その計畫が頓挫。
ならば今度は自分自が表立って王宮支配に乗り出そうと?
「元々それが最初からの彼の野ではあった。私という王族を踏み臺にしてね。古い野を二十年越しに果たそうとするとは。私の想像を上回る深さだよ」
「……ブランセイウス様は結婚なさっていないんですか?」
「う、む……?」
ブランセイウス様は見たところ三十代後半か々四十代も始まったばかりという年齢だろう。
しかしながら結婚していない。獨。
そうでなければあの大聖に強引に結婚を迫られたりはしない。さすがに既婚者に迫ってくるほどなりふりかまわずってこたないだろう。
王家に生まれ宰相などという重要職を務めていれば當然結婚しているものと思っていた。
家庭を持つことは社會的信用なのだと薬師協會長さんも言ってたし。
「そもそも結婚していれば大聖の付ける隙にもならないでしょうし。ブランセイウス様はお嫁さんを迎えて家庭を持たないんですか?」
「キミには関係のないことだ」
ピシャリと言われた。
その言葉には人を寄せ付けない頑なさと冷たさがあった。
「……すまない」
そしてすぐに態度を改める。
賢人として多くから慕われるブランセイウス様にも、立ちられたくないナイーブな領域があるのだということを知った。
「わかっているさ。ある程度分のある者なら妻の一人や二人は迎えなくてはならない。王ともなればなおさらだ。王権のより所が統とされるからには王者の結婚は義務、いやそれ以上のものだ」
「はい」
いや待って?
一人や二人って言った?
「だから私は王になれない。私は誰とも結婚したくないのだ。私のみが葉わないと知れたあの日から……」
ブランセイウス様のお言葉からは、滲み出るような悲しさと心に刻まれた傷をじ取れた。
正直言って僕は、ブランセイウス様に王様になってほしい。
それだけの能力人格を持った人だし、それに加えて大聖教會を危険視して、その影響を削ぐようにいている。
死んだ王様が大聖教會を嫌いしていたと聞くけれど、ただ嫌っているだけでは能力がなければ対抗できない。
その辺りの実務はすべてブランセイウス様が、宰相としての職権でもって行っていたと思われる。
メドゥーサ様の元で暮らしている僕たちにとっても、大聖教會のきは必ず脅威になる。確信をもって言える。
だから僕としてもブランセイウス様に王様になってほしいんだ。
「王様になったら絶対に結婚しなくてはいけない、それが嫌なんですか?」
「けないだろう? 賢人英才などと持ち上げられる私がそんな個人的な理由で責務から逃れようとしているのだ。王とは誰よりも公の立場であらねばならないのに……!」
いやそうは思わないけれど……!?
王様だって人間であるからには好きな人と結ばれた方がいいんでは?
と思うのは僕が小市民なせいなのかな?
……うん?
好きな人と結ばれる?
もしかして……?
「ブランセイウス様は、誰か好きな人がいるんじゃないですか?」
「!?!?!?!?」
メチャクチャあからさまな反応を頂いた。
どうやら僕の推察通り。
ブランセイウス様には誰か好きながいて、その人以外と結婚したくないから王位を嫌がっている。
王様になったら、結婚しないという選択肢はあり得ない。
「まいったな……!? キミのような年に見かされるとは。私のようないいオジサンがいつまでも引きずって、恥ずかしいと思うだろう?」
「あの……だったらその人にプロポーズしたらいいんじゃないですか?」
そりゃ王妃ともなったら家柄とか、賢さとか々厳しい水準が求められるんだろうと思う。
しかし當の本人がそこまで切実にんでいるなら周囲の人々も反対しないんでは?
「いやダメなんだ。彼に私は求婚することなどできない。求婚する資格もないんだ」
「ええ?」
「それこそが私の勇者として犯した罪……。自分が正しいと思い上がったバカ者が背負うべき罰なのだ」
◆
今から十五年もしくは二十年ぐらい前。
その頃は大聖教會から任命をけた勇者ブランセイウスが暴れ回っていた。
ほぼニセ勇者と言っていいタングセンクスとは違い、才能も実力も充分すぎるほど備えていたその人は、向かうところ敵なしで神に敵する者を討伐していったという。
異邦にて、異なる神々を崇める人々も同様に。
當時のブランセイウス様は若く経験淺く、敵意剝き出しで自分を襲ってくる者たちをそれこそ悪としか認識できなかったらしい。
大聖教會の関係者たちからも、常にそういう風に吹き込まれてきた。
制圧してからの民衆の更生、教化は大聖教會に丸投げし、彼らがどんな扱いをされていたかまったく知らない……知ろうともしなかった。
それはとても罪深いことだったと宰相ブランセイウス様は言う。
彼の罪は、正義に踴らされ続けたこと。
無思考で正義という言葉にだけ突きかされて、他人の正しさを壊し続けてきたこと。
勇者を名乗る愚かな若者は、その報いを確かにけることとなった。
彼への斷罪は、大聖教會のいう悪魔が巣食う場所。
『木霊の森』で行われた。
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