《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》97 意外なる再會
アルデンの街から出てきたであろう出迎え。
その人に見覚えがあることは僕にとっては大変意外だった。
こんなところで會うとは夢にも思わなかったからだ。
互いの顔がハッキリわかるほど接近して、相手側もまた驚いたように聲を上げる。
「はぁ? エピクじゃんなんでこんなところにいるのお前?」
「ヌメロさん?」
相手側も僕との遭遇になんとも意外そうな聲を出す。
若々しいつきの溌剌な好青年。
に著けた軽裝鎧の裝束は、いかにも冒険者であることが窺える。
「なんですエピクさん? この人知り合いです?」
そして一番わけがわからないのは僕に同伴するスェルであろう。
僕らは互いのことを知っているが故に驚いているのだが、スェルはそれこそ何も知らないんだから。
ここは僕からの説明が必要であろう。
えーと……!
「そう、この人とは知り合いなんだ」
「ですよね、この反応から見ると……」
「この人はヌメロさん、元はエフィリトの街にいた冒険者だよ」
そう、僕らの故郷エフィリトの……。
エフィリト街の冒険者ギルドに所屬していた冒険者。
等級はDで、かつてギルド最強とイキり散らかしていたガツィーブと同じだった。
しかしいつからか姿が見えなくなり、所屬するギルドを変えたなどと聞いていたが……。
「もしかしてヌメロさんは今、アルデン山渓のギルドに所屬してるんですか?」
「ああ、そうだぜ。あんなクズギルドにいたらオレの才能が腐っちまうからな!」
というヌメロさん。
「しかしまあ久しぶりだなエピク! お前なんかとっくに冒険者を辭めたんだろうと思っていたが、こんなところで何してるんだ? いや冒険者を辭めたからここにいるのか? 職探しか?」
「エピクさん、この人隨分遠慮を知りませんねえ……」
スェルがボヤくのも仕方なかろう。久々に味わうこの。
相手から送られる侮蔑の視線。
「ヌメロさんこそ。エフィリトの街ではガツィーブに並んでギルド最強の一角と言われてたのに、どうして急に消えちゃったんですか? さすがにギルドマスターも荒れてましたよ」
ここでいうギルドマスターとは前任のギズドーンのことで、現職ヘリシナさんのことではない。
かつてギルドを好き放題に牛耳って、街ごと潰れる寸前まで追い込んだギズドーンの評価はすこぶる悪い。
そんなギズドーンだが、當時ヌメロさんのことは彼のお気にりの一人であったはずだ。
実力的には、彼の上はほとんどいなかったはずだから。
そのヌメロさんがギルドからいなくなった『あの恩知らずがぁあああッッ!!』と荒れ狂っていたギルドマスターの記憶がある。
「はッ、ふざけんなよ。あんなバカギルドマスターに目をかけられて何の得があるってんだ? どうせあんなボンクラ、やらかしまくってギルド諸共沈んでいくんだろうから巻き添えになる前に離れた方が得策ってものよ」
実際その通りなので慧眼としか言いようがない。
「だからオレはいち早くあそこのギルドから離れて、別の街へ移籍したってわけさ。今じゃこの先にあるアルデン山渓の冒険者ギルドで新たなスタートを果たしたってところさ」
「なるほど……」
そんな理由で思わぬ再會を果たすとは。
しかし、あの害悪ギルドマスターがやらかす以前から、その危険をしっかり見抜いている人もいたんだな。
そしてさっさと見限る。
「それで、あのバカマスターは今でもマスターやれてんの? あんなクソ田舎の報なんて、遠く離れたここまでそうそう屆いてこなくてさあ!」
「ギズドーンさんはもうギルドマスターじゃありませんよ、辭めました。そして……」
死んだ、という事実まで口に出すことははばかられた。
僕はあの人から酷い仕打ちしかけてきた記憶がないが、そんな相手の不幸でも嬉々として語るのは良心が咎める。
「そうかあのバカ、ついにクビになったか。今までそうならなかったのが不思議でしゃあねえけどよ。街議會もギルド理事どももホント仕事が遅いぜ」
などと獨り言めいて呟くヌメロの口調には明らかな嘲りが含まれていた。
「それでエピク、テメエは新しい仕事でも探しにこんなところに來たってわけか?」
「え!?」
「あのバカマスターがクビになったってことは、あの懐かしの田舎ギルドも制刷新されたってわけだろ? 心機一転して再スタート切るにはいいタイミングだもんなあ?」
今度は僕の方に嘲りの視線が向く。
「萬年F級の底辺冒険者じゃ、自分に見切りをつけるのも見極めないとなあ? 見込みのない冒険者稼業からは足洗って、荷運びの日雇いでも始めようってか?」
「いえあの……!?」
「それで新しい街で働き口を求めに來たってところだろ? わかるぜわかるぜ、言わなくても全部わかるぜ。でもまあ職探しだったら王都の方が見つけやすいんじゃねえの? わざわざこんな辺鄙なところに來てよう」
なんか勝手に一人合點されている。
たしかにヌメロさんがエフィリト街ギルドにいた頃、僕は無能なF級冒険者でしかなかった。
彼の中で、僕はまだあの時の僕のままなんだろう。
「まあオレも、この街では冒険者としてそれなりに経験積んできたからなあ。ちったあ顔も売れてる。どうしてもって言うならオレから仕事を紹介してやれるぜ。皿洗い程度でよければなあ」
「いや、でもあの……」
「ただし冒険者は無理だぜ。お前みたいな無能を推薦したらオレまで信用失っちまうからな。……お前ももうわかってるはずだろ? お前に冒険者の才能はないんだよ、十年近くやって一回も昇級できないんだから、それくらいわかんだろ」
ううむ、言いにくい。
その萬年F級の僕が、今では凄まじい昇格を果たして頂點のS級にいるだなんて。
言っても多分ホラとかで一笑に付されるんだろうな。
真実と証明する手段も思いつかないのでますます明かしにくい。
気まずいので、ここで無理矢理にでも話題を転換しよう。
「ヌメロさんは、こちらで何を?」
「ああ? オレはこの先にあるアルデン山渓の支部ギルドに所屬しててよ。そこまではもう言ったか? とにかくまあ、そこで日々修行よ。やっぱ世界は広いよなあ、エフィリト街じゃあ最強なんて持てはやされちゃいたが、そんなの井の中の蛙よ。D級冒険者なんて世界中を見渡せば掃いて捨てるほどいる。そんな當たり前のことを知れただけでも外に出た甲斐はあったね」
素直にそう言うことのできるだけヌメロさんは、救いようがあったということなんだろう。
同じくエフィリト街のD級冒険者だったガツィーブは、ギルド最強という立場にいい気になって胡坐をかき、世界の広さを知ろうともしなかった。
そのおで最終的には破滅した。
失蹤して行方は知れず、死亡したギズドーンと同じような扱いになっている。
既に消えた人間と。
そうならなかっただけ目の前のヌメロさんは自分を冷靜に見る能力があったということなんだろう。
「それで今日はギルドから野暮用を言い渡されてな。下っ端は辛いなってところだぜ」
「野暮用?」
「何でも王都の方からお客さんが來るってさ……。しかもそれが……聞いて驚け。なんとS級冒険者らしいんだよ!」
「はあ……」
やはり最初の推察通り、ヌメロさんはS級冒険者の出迎えに派遣されたようだ。
……つまりは僕。
「冒険者ギルドにとっちゃあS級冒険者なんて究極VIPだろ? 失禮があっちゃいけねえってオレが出迎えによこされたのよ。つまんねえおつかいだと最初は思ったがな、よくよく考えりゃS級冒険者様なんてオレたち冒険者全員の憧れよ。傍付きになれば學べることも多い! オレ自S級になれる近道かもしれねえぜ!」
「はは、ははははははははは……!」
こういう上昇志向の強さがガツィーブ辺りとの決定的な違いだなあ。
どうする?
ここでそのS級冒険者が目の前にいることを告げておくか?
しかし信じてもらえる自信がミリも湧かない。
「つーわけでオレは引き続きS級冒険者様のお付きをここで待ちわびておかなきゃいけねえ。お前なんぞの相手してる暇はないんだ。とっとと通りな」
「えっと、あの……」
「アルデン山渓に行くならまた會うだろうよ。そん時は飯でも一緒に食ってやらあ、ただし割り勘でな! さあとっとと行きやがれ!」
イヌでも振り払うかのようにシッシと手を振られ、もはや取り付く島もない。
でもここで彼を殘して通過してしまったら、ヌメロさんはもはや絶対に訪れることのない待ち人を永遠に待ち続けることになるんだが。
だって僕こそが彼の待ち焦がれるS級冒険者ってことでOK?
……だよな?
だから彼の時間を無駄にしないためにも、ここは勇気を振り絞って真実を告げるべき……。
「さっさと行きましょうエピクさん」
「うわわわわわわ……!?」
……と思ったんだけど、手を引っ張られて通過してしまった。
我が手を握って引きずるのは、同行のスェル。
なんで?
「あの人失禮です! エピクさんのこといつまでも無能扱いして。あの人が町を出ていったのは何年も前なんでしょう? それなのにエピクさんが変わったとしも思えないなんて想像力が貧弱です!」
もしかしてスェル怒ってる?
僕自、ギルド仲間からの無能扱いなんて慣れたものなので気にならなかったが、彼としては初の遭遇になるのか?
ガツィーブや前ギルドマスターの場合は、彼と一緒の時はその都度やり込めてたしなあ。
「あんな人に掛ける気遣いはありません! むしろいつまで來ない相手を待ち続けていられるか耐久実験でもしてればいいんです!」
と辛辣なことを言う。
スェルの怒りももっともなので、このまま何も言わずに引きずられていくことにした。
ヌメロさん。
できればまた會いましょう。
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