《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》100 余計な親切、心労の種

夜が明けた。

爽やかな朝! とは言い難い。このうら寂れた街では早朝の爽やかさも何やら靄がかったようだ。

今日から本格的にダンジョンへろうということで、まずは冒険者ギルドへ寄る、現地の。

そこではやはりギルドマスターがみ手で待ちかまえていた。

そして彼の提案に、僕は思わず顔をしかめる。

「案人、ですか……!?」

「そうです!」

現地ギルドマスターさんは、そらもう善意二百パーセントの満面たる笑顔で言う。

「何しろS級冒険者様にとっては初めてるダンジョンですし、突発的な事態は萬が一にもありえますでしょう? いえいえアナタ様の実力は充分承知ですが、我々も何かしでもお役に立てることがあればと知恵を絞った次第でして!!」

人か……。

聞いて一瞬不快になったのは、僕たちの行が監視されるのではないか?……ってことだ。

人と言うことは、ダンジョンで僕とスェル以外の無関係な第三者がずっとついて回るってことだろ。

とは表向きの理由。真に求めているのはダンジョンで、余所者の僕が何かおかしなきをしないように見張るってことじゃないのか?

……そう勘繰ってしまうのは僕自にこそ後ろめたい真の訪問理由があるからか。

実際のところは本當に純なる親切心から、ということも大いにあり得る。

けるか斷るか、難しいところだ。

僕は一瞬だけスェルに向かって目配せする。彼は微かだがたしかに頷いた。

ここは余計な疑念を抱かせない方が上策……ってことか。

「わかりました、ご厚意に甘えます」

「それはよかった! 王都ギルドへお帰りの際には、是非とも理事たちにお伝えください」

……。

やっぱりただのゴマすりだったのかもしれない。

「では肝心の案役ですが……ウチの冒険者から適役を一人選びました」

「そうなるでしょうね」

ダンジョンの案役といったら、何回も出たりったりした経験がなければなりませんし。

そんな人といったらご當地の冒険者ぐらいしかいない。

「そちらがこのヌメロになります」

「うわー」

よりにもよってこの人かいぃいいい……!

エフィリト街の冒険者ギルド出

かつては同じ釜の飯を食った仲……といえようか。

「ヌメロくんは、元々S級冒険者様と同郷だとか! 顔も見知っているようですし、気心も知れましょうということで抜擢させていただきました! 我ながら気の利いた人選だと自畫自賛しておりますよ!」

気まずい……!

引き合わされたヌメロさんは凄まじい仏頂面で、それでいて凄い三白眼でこっちのことを睨みつけている。

ううですか、顔見知りだから……。

顔見知りだからこそ気まずくなることだってあるんですよ。

僕が生地エフィリトでは何の役にも立たない底辺冒険者となじられ続けた時代があったって、遠く離れたこの地で知る人はなかろう。

あの時代、僕は周囲の全員から見下されていたの。

それが今や大逆転。見下した相手から見下されることの気まずさを考えて!……と過去の事をまったく知りえぬ人に話したってしょうがない。

相変わらず気の小さい僕は、相手の好意に対して面と向かって『やだ』とも言えず、ただ素直にれるのみであった。

「さあヌメロよ! S級冒険者様をしっかりご案するのだぞ! 昔の仲間だったからと言って気安くするな、賓客と思って失禮ないよう、懇切丁寧におもてなしなさい!」

「……」

ヌメロさんは不満そうな表を隠しもせず、僕とギルドマスターの顔を互に睨みつけた。

そして我慢できないとばかりに。

「シストレさん! 待ってください! やっぱりおかしいですよ!」

訴え出る。

『シストレさん』なるものは、この現地ギルドマスターのことかな?

「このエピクは、地元じゃ何の役にも立たないクズ冒険者って言われてたんですよ! できるクエストといえば薬草採取しかない、十年近くずっとF級だったんです! こんな底辺野郎がいきなりS級なんておかしいですよ! きっと汚い手段で皆を騙してるんです! 詐欺ですよ!」

「……」

「へぶッ!?」

叩かれた!?

頬をバッシーンと叩かれるビンタで怪我はしなさそうだが痛そう!

それに加えて屈辱的でもある。

「何度も言わせるなヌメロ、この指示にお前の意見は必要ない」

「ぐ……ッ!?」

「ギルド理事會から送られてきた資料に間違いはなかった。ということはこちらのエピク様は詐欺でも幻覚でもなく正真正銘の正當なS級冒険者だ。我々は全力をもって接待し、彼の行に便宜を図らねばならん。冒険者ギルドに所屬するならそれもまた大事な務めなのだ」

「…………ッ!」

「聞いているのか?」

「……聞いています」

僕に対する時とは打って変わって高圧的な態度の現地ギルドマスター。

それが地の格なのか、それとも反抗的な相手に対する毅然とした態度を知っているのかどちらなのかは僕にはわからぬ。

「わかっているならしは従順に手伝え。この案役は正式なクエストとしてお前にあてがっている。キッチリこなせば報酬を與えるだけでなく、お前の評価にもいい影響を與えるだろう。お前もこのギルドに來てそろそろ二年……いい加減D級に上がりたいだろう」

「?」

最後のフレーズが引っ掛かって僕は注意を引かれる。

ヌメロさんが、『D級に上がりたい』だって?

「彼は既にD級では?」

その聲に反応して現地ギルドマスターさん、また速やかににこやかな表を戻して。

「同郷の古馴染みの等級までしっかり覚えていらっしゃるとは、さすがS級冒険者様! たしかにこのヌメロはD級でした。ウチのギルドへやってくるまでは」

「というと?」

「我がギルドへ移籍する時に能力審査を実施いたしましてな。何、ギルド加者には全員最初に行っていることです。それでコイツ、とてもD級には留めておけぬ散々な結果を出したのですよ!!」

冗談めかして賑やかに言う現地ギルドマスターだが、その隣でヌメロさんの表は屈辱に歪む。

「冒険者の安全、信用のための等級設定ですから、要件を満たさぬ者に高い等級はやれません。それ以來コイツはE級冒険者です。もちろんしかるべき実力をつければいつでも昇格させてやるんですが、コイツが私の期待に応えたことはまだまだありません」

その言葉が真実であるのだろう、悔しげに息を飲み込むヌメロさん。

彼がもともといたエフィリト街ギルドは、全的に水準の低いところがあった。

最たる原因は僕なんだが。

僕が『消滅』スキルの正當な評価をけないまま、F級としてモンスターを駆逐し続けたせいで他の冒険者たちが強敵と対することができず、結果長の機會を奪い去ることになってしまっていた。

當時のエフィリト街ギルドはぬるま湯にどっぷり浸かったような狀況になって、所屬者の最上等級がD。

それでもギルドマスターの恣意によって大分甘めの評価でつけられた等級だった。

ヌメロさんも途中で抜け出したとはいえ、影響皆無なわけではなかったのだろう。

エフィリト街ではD級という評価をけていたが、本當の実力はそれに伴っていなかったんだ。

「まあ、こうなったらこの行き詰った若者をS級冒険者様の手で鍛え直してはもらえませんか? ダンジョン探索のついででかまいませんので。冒険者最高峰の実力を間近で見られれば、この男の盡きたびしろにも何か刺激が加わるかもしれません」

「はあ……!?」

「もちろん案はキッチリさせる所存ですので、何なら馬車馬と思ってコキ使ってやってください! 荷持ちでもモンスターへの囮でも何でも! それが我がギルドからの好意と思って!」

一瞬『斷ろうかな?』とも考えたが、やめた。

このタイミングで拒否したら、まず間違いなく『ヌメロさんが気にらないから』という印象を與えてしまう。

そうしたらヌメロさんの立場はますます微妙なものとなるだろう。

既に充分すぎるほど微妙な立場だってことはここまでの話で嫌と言うほど伝わってきたから、ここで僕自が追い打ちになりたくない。

かつて底辺として見下してきた僕にアゴで使われる狀況だってヌメロさんには屈辱だろうが、それでもなんぼかそっちの方がマシなように思えるんだ。

「わ、わかりました……! お願いします……!!」

「ありがとうございます! ほらヌメロ、お前からもお禮申さんか! お前のようなポンコツに役立つ機會を與えてくださったのだからな!!」

この街のギルドマスターは悪意があるのか天然なのか、あえて選んだかのようにヌメロさんのプライドに引っかき傷がつくような言葉を使う。

そして必然的にヌメロさんは管ブチギレそうな表で何とかの震えを抑えて……。

「よ……よろしくお願いします……!!」

前途多難としかじられなかった。

彼を伴ってダンジョンへ降りていくのか……。

余計な心労がかさみそう。

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