《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》110 毒師の供述1

「じゃ、じゃじゃじゃじゃ……! じゃあ聞きますけれども……!」

スェルがおどおど口を出す。

相手のペースに乗るまいとしているが、興味が抑えられないという風味。

「ここ……、ここは一どういう空間なんですか? こんなに多くの種類の薬草が栽培されていて、しかもどれも最良の狀態です。こんなに優良な栽培場、他のどこにもありません。一どんな……!?」

「おお、やはり気になるかね? たしかにいっぱしの薬師ならこの環境に何もじないということはあり得ない!」

毒師ロドリンゲデスの聲も弾み出す。

何コレ? 同好同士のシンパシー?

「この場にいて手にらない薬材はないのだよ。薬草だけではない。由來の薬効分、鉱も、ここにいるだけで思いのままに手にる!」

「アナタが作った毒にも、毒や鉱毒がじっていたらしいですね」

「そこまで分析できていたとは素晴らしい。そちらのお嬢さんの手柄かな?」

次々と手のを暴いていくというのに毒師の態度はひどく落ち著いている。

どうしてそんなに冷靜なんだ? 本當にもう観念しているから?

「ここは薬師にとって理想の空間なのだよ。どんな天才薬師だろうと必ずぶつかる壁がある。それは原料の問題だ。薬を作り出すには原料を調合しなくてはならない。しかしその原料を手できるのは必ずしも確実な話ではない」

簡単に手にるものもあれば、手のために様々な困難を乗り越えなければならないこともある。

であったり、効能が危険なために取り扱いが法律で規制されていることもある。

「そうした問題が、この場所では一挙に解決されてしまうのだ! その素晴らしさを理解できない薬師はいないといっていい。お嬢さん、キミだってそうではないのかね? この場所の素晴らしさにが震えているんだろう、のあまり!」

「それは、そうかもしれませんが……!」

たしかにスェルの様子がさっきからおかしい。

ソワソワして移り気し、気持ちが定まっていない狀態だ。

きっとすべての薬材が揃うという、この庭園に揺しまくっているんだろう。

「原料問題……それはどんな時代でも薬師を悩ませてきた。必要な薬材手のため、高い報酬を払って、卑しく野蠻な冒険者に頼まなければならない。世界の英知を得たはずの薬師にとって、何という屈辱ではありませんか」

「なんだって?」

僕も冒険者の一人としてついイラッとなる。

「その制約から解放してくれたのが、この箱庭なのです。大聖教會は、本當にいいものを私に與えてくれた。彼らが神の使徒であるというのも、あながち間違いではないのかもしれませんな」

「大聖教會だって?」

ここでその名が出てくるとは。

大聖教會がこの空間をロドリンゲデスに與えた? つまりヤツらがこの不可思議空間を用意できたってこと?

「キミたちも見ただろう、ここの外側を? 常識からは想像もできない巨大なる生。その側にこの庭園はある」

そういえば。

僕たちが侵し、進んで辿りついたここは、あの巨獣の腹の中なんだ。

ダンジョンに擬態してアルデン山渓に潛んでいたのは、想像を絶する巨大魔獣だった。

「あの巨獣は、その名をエキドナという。……大聖教會の崇める神が與えたもうた、すべての怪の母親なのだそうだ」

「怪の……母親……?」

「この魔獣はただ巨大なだけではない。その部であらゆる歪んだ生命を出産することができる。最高究極の能力の持ち主なのだよ!」

「あらゆる歪んだ生命を出産する能力……」

だから『すべての怪の母』?

たしかにちょっと気になっていた。

この巨大獣はダンジョンに擬態していたが、その擬似ダンジョンの中にはしっかりとモンスターが徘徊していた。

ただダンジョンを裝ったんじゃ、そこにモンスターがうろつくことなんてありえない。

モンスターはどこから出てきたんだ?

エキドナがみずから生み出していたのか……。

「モンスターだけではないぞ! ここまで解説すればこの箱庭のにも気づくことであろう!」

「まさか、ここに生息している薬草もすべて……!?」

「そう、エキドナが生み出したのだ! 本當に素晴らしいバケモノだよ、管理を任された私が念じれば、んだものを好きなだけ生み出してくれるんだ。薬草も芽吹き生えてくる! 鉱ですらちょっと掘り起こすだけで産出するんだ! 私にとっては神だね!」

それがこの空間のり立ち……。

部にあるここは、怪の特によって支えられたいびつの楽園であったのだ。

育つ環境が違うはずの様々な草木が、一つの場所で生息するという不自然な狀況の謎が解かれた。

「その環境を駆使してアナタは様々な毒を作り出し、大聖教會に提供していたんですね」

「それこそヤツらが私をここへ連れてきた理由だからな。私としてもこんなに優良な研究環境をくれたからには恩義に報いたいからね。憾なく共生関係を築かせてもらった」

「何が恩義ですか! アナタの作った毒で、大聖教會の人たちが何をしたか想像もできないんですか!?」

スェルは怒りと共に、相手の誤りを指摘する。

「アナタの作った毒で何人もの人たちが犠牲になりました! きっと私たちが知るよりもっとたくさんの人たちが! そのことに後ろめたさはないんですか!? 罪を犯したという自覚は!?」

「人が死ぬのは當然のことだ。毒を飲んで健康になる方がおかしいだろう?」

「そういうことじゃなく……!」

「私は、依頼通りに人へ作用する薬品を作り出しただけにすぎん。そして想定通りの効力を発揮したのならいいことだ。薬師は皆そうだろう?」

ヒトを小バカにしたような微笑みを浮かべる毒師。

「私も、他の薬師も、人に効能のある薬品を作り出す。私は人の運営を阻害することを目指して、他の連中は人の運営を補助することを目指して薬を作る。我々の違いはたったそれだけなんだよ」

「それが一番大きな違いです! まったく正反対ではないですか!!」

「同じだよ。我々は薬を通じて人のの働きを……神の業に手を加えようとしているんだ。傲慢なことだとは思わないかね。同じ傲慢だというのに、なぜか私の研究だけ邪悪だとなじって排除する。自分たちは薬師で、私のことは毒師だなどと呼び分けて仲間外れにしようとする」

その瞳に、歪んだ憎しみの炎が燈っている。

やはりこの男はこんな異界に押し込められているだけあって、んな部分がまともではないようだ。

「むしろ私は、私の仕事の方が凡百薬師よりも優れていると主張したいよ。何故ならヤツら薬師は所詮、正常に働いている人きを補助しているにすぎない、いわばお手伝い程度のものだ。しかし私は完璧な健康を、壊して死に至らしめる。それは人という神の奇跡への挑戦だ。どちらがより困難で、険しい道のりであるのか想像するまでもない! 私こそが真理を目指す正真正銘の薬師なのだ!!」

「戯言!」

スェルはけ容赦ない。

「アナタは薬師の働く意味を底からはき違えています!! すべての薬師は、ケガや病気に苦しむ人たちの、僅かな助けになることが仕事なんです! 真理なんか最初から求めていません! そんなくだらないものに目がくらんで人を助けるどころか害する薬を作り出すなんて、それこそ本末転倒です!!」

「なんという低い志なのだ、嘆かわしい……」

薬師と毒師。

同じ調合を行う者たちにしても、その目的も作り出す品も、神すらも決してわらない平行線。

「キミはそれでいいのかね? それだけ高い薬師としての技を持ちながら、その場凌ぎの醫療薬しか作り出せずに凡人の調合師として一生を終えてもいいと? 歴史に名をす偉大な人間になりたくはないのかね?」

「私の名が歴史に殘るべきなら、んでもまなくても殘ります。そんなこといちいち気にして生きる人なんていません!」

ハッキリ言うスェル。

「私たちは一日一日を懸命に生きればいいんです。そんな人の生命を壊して途絶えさせる毒薬は本當に罪深い。だからアナタを許しません。これは私だけじゃない、すべての薬師の総意です!!」

「悲しいな、本當に悲しいことだ。志の喪失は、すべての英知や技を無意味にする」

なんか會話が哲學的な方向になってきたんで益ないなと思ったから割り込んで強引に打ち切る。

「僕らが聞きたいのはそんな大層な話じゃない。お前がここで毒薬を作り続けていたこと、それが大聖教會の差し金であること。お前から渡された毒薬で大聖教會は自分たちに邪魔な人たちを消してきたこと。それらに間違いはないか?」

「ああ、統べて我が偉業の果だよ」

コイツ……!

しも悪びれもせず……!

「だったらそのことを公で証言してもらうぞ。お前には、教會の悪事を立証してもらう。死刑になる前にしは善行を積んでもいいだろ」

彼に判決を下すのは薬師協會もしくは薬師結社だろうが、それをするにもまずすべてを洗いざらい吐かせてからだ。

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