《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》112 勧
毒師はなおもペラペラとしゃべり続けている。
聞かれてないことまでも自発的に。
きっと彼自が喋りたがりなのだろう。みずからの功績を誇りたい、ああいう手合にはよくあることだった。
「喋りたかったことは大全部か? だったらそろそろ口を閉じてもらおうか?」
そもそも目の前にいる男は悪黨だ。
ヤツの一人語りを聞いてますます確信した。
悪黨の獨演會ほど聞いていて不愉快なことはないがヤツ自の罪を認めさせるために必要なことだ。
おかげでヤツと大聖教會の繋がり……『おのれは聖なる者でございます』と取り澄ましている連中の裏事も詳らかにすることができた。
結果は大漁。ここまで來た甲斐もあったってところだろう。
「あとはお前をとっ捕まえて王都へ運ぶだけだ。一応僕の耳にった時點で決まりにはなったが、今言ったのと同じことを、薬師結社やブランセイウス様の前でも繰り返し喋ってもらうぞ」
「私を捕まえる? 王都へ移送するというのかね?」
そうだとも。
そもそもお前も観念したから、これだけペラペラ喋ったんじゃなかったのか?
「もうしゆったりしてはどうかね? 若者はせっかちでいけない。まあ、かく言う私も天才であるからには生き急いだよ。何しろこの才能は無限大だというのに、このの継続には限りがあるのだから。生あるうちに一つでも多くの偉業をし遂げたいと若僧だった頃はシャカリキになったものさ。しかしこうして年老いていくと気づくこともあるのだよ。ゆったりと時間をかけて見詰めた方が、大切なものを見つけられるとね」
「いいから!!」
これ以上コイツのお喋りに付き合っていると頭がおかしくなりそう!
王都に到著するまで口を塞いでおこうか!
「まあ、そう言わずにもうしお喋りに付き合ってくれたまえ。こんな話題はどうかな?『何故キミたちは、ここまで辿りつくことができたのか?』」
「はあ?」
何を言い出すんだこの天才の紙一重的なヤツは?
「僕らが何故ここに來たか? そんなのお前を追ってきたからに決まっているだろう?」
「では何故私は、こんなところで簡単に捕まってしまったのかな? キミたちがここに來ることは晝間のうちにわかっていた。一度下調べのようにエキドナ扮するダンジョンの最奧まで來ただろう。そしていかにも怪しそうに嗅ぎまわっていた」
「う……!?」
「エキドナにはね、自分の部どころかある程度の周辺まで見通す能力があるのだよ。それを使ってキミたちの目的や考えもすぐ明らかにできた。つまり私から見てキミたちはまるっとお見通しだったというわけだ」
じゃあ、現地の冒険者ギルドマスターが黒幕かと疑っていた時も……。
こっちのきを悟っていたとしか思えないタイミングで襲ってきたから、唯一知りえる現地ギルドマスターが怪しいと思った。
しかしその推察は間違いだった。
そうした理屈とは無関係に、ヤツは反則的な業で僕らの向を完全把握していたんだ。
「自分に危機が迫っているとわかれば、私はもっと積極的な行ができたのではないかね? キミらが夜の再突をチンタラ窺っている隙に、ここから逃げ出すという手もあったろう」
た、たしかに……!
僕らの行を完璧に把握できていたんなら、先手を打つことだって充分に可能だ。
いや、厳に言えば先手は打たれた。
幻剤によってられた街の人々の襲撃……という。
しかしアレも今思えば不自然だ。
手ぬるい、という意味で。
相手は、天才を自稱する毒のエキスパートなんだぞ。お得意の毒を使って僕らを止めようというならもっとやりようがあるじゃないか。
それこそ毒を飲ませるならターゲットの僕たちに直接服用させることだってできるんじゃないか?
僕らだって飲まず食わずでいるわけにもいかない。
必ず日に何回かは口の中にれるものへ毒を混ぜておく、それだけで簡単に殺せるから、いついかなる時代も毒は暗殺のスタンダードでいられる。
しかし目の前にいる毒マスターはそうせず、周囲の人間に服毒させるという迂遠な手でもって仕掛けてきた。
悠長だ。
それにも何か目的が?
「簡単な理由だよ。私はキミたちに興味を持ったんだ」
「はあ?」
「キミらの向はエキドナを通じてすべて把握していたと言っただろう? キミたちのダンジョンでの活躍もすべて見させてもらっていた。まずエピクくん!」
「はいッ!?」
「キミのスキルは非常に素晴らしい! どんなものでも瞬時に『消滅』させてしまうスキル! しかもにある異まで『消滅』させられるという、このスキルを利用すれば、摂取された毒の影響をより詳しく調査することができる!」
僕のスキルのことまで知られていたか。
今まで顧みられることなく『役立たず』扱いされることまであった『消滅』スキルだが、こんなに手放しで稱賛されたのは初めてだ。
それだけに、褒めてきたのがこんな悪人で複雑な気分。
「それにスェルくん! キミの薬學知識も素晴らしい!」
「ふぇッ!?」
「こちらに來てからの振舞いだけで、キミがどれだけ薬學に深い見識があるか、天才である私だからこそ即座にわかった! 著しくレベルが下がっている薬師業界だが、その中でキミは最高水準にあると言っていい!」
スェルにまで矛先が向かった。
「このエキドナ薬草園には、ほぼ完ぺきにすべてのものが揃っているんだが、それでも足りないものがいくつかあった。そのうちの一つが優秀な助手だ。やはり、いかなる偉業をなすにしても自分の手一つだけでは不足しがちでね。しかし天才たる私の仕事を補助するには凡人では務まらない!」
「はあ……!?」
「そこでキミのように優秀な若手を兼ねてから求めていたんだよ! エピクくんのような最良の実験までついてくるとなればますます嬉しいものだ!」
僕はかよ。
「だからキミたちのことはできる限り無傷で手にれたいと思っていたのさ。最初は食事に睡眠薬なり仕込もうとしたが、スェルくんの知識と覚を持ってすればすぐさま見破られるだろうからね。用心深く回りくどい手に切り替えたというわけさ」
「それが、さっきのあの騒ぎか……!?」
宿屋を取り囲んだ薬ゾンビたち。
最初吸引式の睡眠薬で僕らを眠らせようとしていた。それで僕らをここまで運ぼうとしていたのか……!?
「殘念ながら思った通りにはいかなかったが。……私は思った以上にキミらを侮っていたということだ。素直に見通しの甘さを認めよう」
「それで降參宣言なら有難いんだけど……」
「本題はここからだ。キミらを拘束することができなかった以上、ここはもっと直接的な方法に訴えてみようと思ってね」
……。
は?
「どうだねエピクくんにスェルくん、私に協力しないかね? 私と共に薬學の極みを目指し、研究の道をまい進しようじゃないか!」
「「斷る」」
「そう言わずに」
まさか……ここまでダラダラと話してきた本當の目的はそれだったのか?
僕らを仲間に引きれようと?
「私の崇高なる目的や、危険と隣り合わせながらここまで生き延びてきた能力をつぶさに説明すれば、きっと私に賛同してくれると思ってのことだよ。どうだね? 私と協力して、薬師の見地から世界の真理を解き明かしたくなっただろう?」
「「まったく」」
「そう言わずに」
クソ、真面目に聞いていてバカを見た。
いや一応大聖教會の謀を暴くために有用な報ではあったんだけれど。
その裏では供述する側にこんなバカな考えが及んでいたとは……!?
「冗談じゃありません。毒師となんか手を組めません。斷固お斷りいたします」
スェルもまったく的外しな提案に立腹だ。
「おやおやスェルくん。キミはこのエキドナ薬草園の素晴らしさに銘をけてくれたと思っていたんだがね?」
「くッ? ……所詮は外法で築き上げた偽りの楽園です。それに、どんなに素晴らしい技を誇っても、罪なき人を傷つけることにしか使わないなら何の意味もありません! 私はそんな無意味なことに絶対賛同しません!!」
さすがスェル、悪のになど屈しない。
それにロドリンゲデスも隨分自信ありげにしているが、大事なことを忘れていないか?
ご自慢のエキドナ薬草園だが、その母である大魔獣エキドナはとっくに始末されてるんだと。
僕が『消滅』スキルで頭部を吹っ飛ばしてな。
強力な研究土壌を失ったお前は、ただのしがない毒マニアでしかない。
年貢の納め時をしっかり自覚しろ!
「ふふふ……エキドナはもう死んだか? 果たしてそうかな?」
……え?
【書籍化・コミカライズ】誰にも愛されなかった醜穢令嬢が幸せになるまで〜嫁ぎ先は暴虐公爵と聞いていたのですが、実は優しく誠実なお方で気がつくと溺愛されていました〜【二章完】
『醜穢令嬢』『傍若無人の人でなし』『ハグル家の疫病神』『骨』──それらは、伯爵家の娘であるアメリアへの蔑稱だ。 その名の通り、アメリアの容姿は目を覆うものがあった。 骨まで見えそうなほど痩せ細った體軀に、不健康な肌色、ドレスは薄汚れている。 義母と腹違いの妹に虐げられ、食事もロクに與えられず、離れに隔離され続けたためだ。 陞爵を目指すハグル家にとって、侍女との不貞によって生まれたアメリアはお荷物でしかなかった。 誰からも愛されず必要とされず、あとは朽ち果てるだけの日々。 今日も一日一回の貧相な食事の足しになればと、庭園の雑草を採取していたある日、アメリアに婚約の話が舞い込む。 お相手は、社交會で『暴虐公爵』と悪名高いローガン公爵。 「この結婚に愛はない」と、當初はドライに接してくるローガンだったが……。 「なんだそのボロボロのドレスは。この金で新しいドレスを買え」「なぜ一食しか食べようとしない。しっかりと三食摂れ」 蓋を開けてみれば、ローガンはちょっぴり口は悪いものの根は優しく誠実な貴公子だった。 幸薄くも健気で前向きなアメリアを、ローガンは無自覚に溺愛していく。 そんな中ローガンは、絶望的な人生の中で培ったアメリアの”ある能力”にも気づき……。 「ハグル家はこんな逸材を押し込めていたのか……國家レベルの損失だ……」「あの……旦那様?」 一方アメリアがいなくなった実家では、ひたひたと崩壊の足音が近づいていて──。 これは、愛されなかった令嬢がちょっぴり言葉はきついけれど優しい公爵に不器用ながらも溺愛され、無自覚に持っていた能力を認められ、幸せになっていく話。 ※書籍化・コミカライズ決定致しました。皆様本當にありがとうございます。 ※ほっこり度&糖分度高めですが、ざまぁ要素もあります。 ※カクヨム、アルファポリス、ノベルアップにも掲載中。 6/3 第一章完結しました。 6/3-6/4日間総合1位 6/3- 6/12 週間総合1位 6/20-7/8 月間総合1位
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