《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》九條さんの生態

1時間ほどした後、力なく伊藤さんが現れた。普段事務所でしか彼を見ないため、現場で見るのはどこか新鮮にもじた。

彼ははあーあと大きくため息をつき、手に持っていたビニール袋をどさりと床に置いた。

「電話で九條さんから事聞いたので、來る途中で々買ってきました。食べに飲み、ポッキーもね。遅い晝食にしましょ!」

「わ、伊藤さんありがとうございます……!」

「あと小型のヒーター持ってきた、寒いよねー」

「神様ですか?」

伊藤さんが來るまでに部屋はそれなりに片付けを済ましておいた。ちょっと拾い切れないポッキーのカスが落ちてるけれど仕方ない、掃除機なんていいないんだから。

相変わらずの伊藤さんの気遣いに謝し、私達は床に座り込んだ。伊藤さんが早速つけてくれたヒーターを中心に固まる。九條さんはいつの間にか袋を漁ってポッキーを見つけ出し封を開けている。

「……で、これからどうするんですか? 伊藤さんも來てくれたわけですけど……」

私が尋ねると、ポッキーを夢中でかじりながら九條さんは言う。

「あとは待つのみです。大丈夫です、伊藤さんが來たなら今夜中に必ず來ます」

「そこまで斷言できるって凄い……」

「はいはいじゃあが僕の前に出てきてくれるまで待ちますかね〜ご飯食べよ、黒島さんおにぎりどれがいい?」

「あ、では梅で……」

「これ溫かい野菜スープ。九條さんも飲んでくださいよ、糖尿病になりますよー?」

テキパキとみんなに食べやスプーンを配る伊藤さんに、子力が完敗してることを素直に認めた。多分サラダの大皿が出てきても、取り分けるの伊藤さんだなこれ。

私は貰ったおにぎりを早速頬張り、溫かいスープを飲む。室とはいえ真冬にエアコンもない部屋は実際寒くて地獄だった。

が溫まるのをじてほっと息をつき、目の前の2人を眺める。

そういえば三人でご飯なんて初めてだな。タイプはまるで違う2人だけどいい人たちに囲まれて、私ついてるよなぁ。

そう考え、一人でそっと微笑んだ。

伊藤さんはサンドイッチを口いっぱいにれて憂鬱そうに呟く。

「とりあえずここでエサになったあとは、報収集続行ですねー……井戸田さんから昔住んでいた人たちの連絡先を何人か貰いました。電話もしたけど、この部屋について知ってる人はまだいないんですよねぇ」

「しかし自分の住んでるアパートで死人が出たとなれば記憶に殘るはず」

「そうなんですよ、だからその事件があった時にここに住んでた人に當たればすぐ分かりそうなもんですけど、なんせいつ頃の事かも井戸田さん知らないわけじゃないですか。かなり昔ではあるみたいですが」

「それなんですが」

九條さんは野菜のスープを熱そうに啜りながら言う。

「なぜ井戸田さんの祖母は、あの部屋について彼に何も言わなかったんでしょう」

伊藤さんがお茶をぐいっと飲んですぐに答える。

「そりゃ、お化けが出るなんてきみ悪い話孫にしたくないんじゃ?」

「一理ありますが、自分が死んだあとアパートを継ぐのは井戸田さんです。言まで殘していた。井戸田さんが子供だったら話は別ですがもうれっきとした大人、あの部屋についてあまりに説明不足かと思います。何か理由があるのか……」

言われてみればそれもそうだ、と私と伊藤さんは頷いた。井戸田さんってしっかり者なじだし、伝えにくい気持ちは分かるけど普通ならちゃんと話すべき事だ。

なぜこんなに報がないのだろう。

伊藤さんも腕を組んで考え込んでしまう。

「確かにそうですね……なんでもっとちゃんと話さなかったんだろう? そうしてたら井戸田さんも今ここまで困ってないのに……」

3人で考え込み沈黙が流れる。

が、考えても分からない、本當に報がなすぎるからだ。

九條さんも諦めたのか、再びスープを啜って話題を切った。

「まあここで議論しても正解へ辿り著くとは思えませんね。霊が出てきてくれれば、その人に直接聞いてみるのが早い」

「ま、そうですね。食べ終わったら僕寢ますね」

急いでサンドイッチを口にれる伊藤さんに、私は疑問を投げ掛ける。

「寢る? んですか?」

「ん? ああ、なんか人間って寢てる時が一番無防備でしょ? 出やすいんだってさ。だから僕はとにかく寢るのが仕事なの!」

「そ、それはまた……ご苦労様です……」

「あー布持ってくるの忘れたや。まあいっか、僕どこでも寢れるから」

をパクパクと胃袋にれてお茶を飲み干すと、伊藤さんはそのままゴロリと床に寢そべった。私は慌てて立ち上がり自分のコートをかける。こんな寒い部屋で冷たい床に寢るだなんて、風邪をひいてしまう。

「伊藤さん、これ使ってください、風邪ひいちゃいます」

「え? わーありがとう! さすがの子は気遣いが違うよね〜」

「伊藤さんにはまるで敵いませんよ……あ、九條さんのも貸してあげてください」

そばでスープを啜る彼にそう呼びかけると、小さな聲で「はあ、どうぞ」と答えた。私は九條さんの黒いコートも手に取り伊藤さんに掛ける。

「無理しないでくださいね。」

「あはは大丈夫大丈夫! 僕は寢るだけだから! あとはよろしくね」

伊藤さんはそう笑うと、貓のように丸くなり目を閉じた。九條さんの黒いコートにすっぽり顔も埋めてなんだか可い、と思ってしまう。

ヒーターが伊藤さんになるべく當たるよう位置をし調節すると、私は元いた場所にまた座った。

壁にもたれ掛かり、食べかけのおにぎりを頬張る。

なんとなく窓の外を見た。カーテンすらかかっていない窓からは青空が見える。カラスが一羽、飛んでいくのが見えた。

「いりますか一本」

隣から聲が聞こえたのでそちらを見れば、九條さんがポッキーを私に差し出していた。苦笑して首を振る。

「まだおにぎり食べてますもん、いいです」

「合いますよ、おにぎりとポッキー」

「絶対噓だと流石に分かります」

九條さんは不満げに手を引いた。彼は本當に合うと思っているのか、まだスープ やおにぎりが手元に殘っているのにポッキーを頬張っている。食後まで待てないものか。

「九條さんはポッキー以外何が好きなんですか?」

伊藤さんがいる手前小聲で尋ねてみた。率直な質問だ、彼が他に何が好きなのかまるで分からない。

九條さんは考えるように首を傾げた。

「……なんでしょう」

「お酒とかタバコとか?」

「飲もうと思えば飲めますが基本いりません、タバコは臭いが苦手です」

「あーギャンブルとか?」

「賭け事にはまるで興味ありません」

「うんと、映畫? テレビ?」

「流れてれば見ますけど、特に好きで仕方ない、というわけではないですね。あくまで暇つぶしです」

「旅行! アウトドア!」

「家が一番ですよね」

この男何に興味があるんだ本當に……! 驚愕したように私は九條さんを見つめる。

今まで生きてきて変わった人は沢山出會ってきた。でもここまでの人は初めてだ。九條さんの1日を覗いてみたいと思う。もはや珍獣扱い。

にも興味とかあるんだろうか。この人からはそういった匂いがまるでしない。せっかく顔はとんでもないイケメンだというのに。本気を出せばなんて落としまくれるだろうに。

「九條さん彼いるんですか?」

私はおにぎりを食べながらストレートに聞いた。多分いないだろうな、なんて失禮な事を思いながら、からかい半分。

九條さんはポッキーを食べながら言う。

「今はいません」

ふとおにぎりを食べる手を止めた。

今は、という言葉がなんだか予想外だったのだ。

最近までいたと言う事だろうか。

……いやいや、何を思ってるんだ私は。自分で答える。

変人だけどこれだけ男前だしは悪い人なんかじゃない、彼くらいいるのは當然だ。むしろようやく九條さんの人間らしいところが見えて安心するとこじゃないか。

九條さんだって異に興味がある。それは面白い発見のはずなのに、

……なんでちょっと面白くないんだろう私は?

私は無言で殘りのおにぎりを口いっぱいにれた。梅の酸味が広がる。

こんなに変わった人でも、彼とデートとかするんだ。彼といる時はもっと笑うんだろうか。外食したり? 思えばラーメン食べに行った時も意外とスムーズに奢ってもらったし。

……駄目だ、なんで1人こんな事考えてるんだろう。

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