《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》せめて著替えたいと思うのは人間として普通

井戸田さんは調査の経過を聞いた後帰宅し、伊藤さんも再び報収集をする為に事務所へと戻って行った。

が彼の寢顔を覗き込んでいた事を教えてみたが、あっけらかんとして「気づかなかった」と笑っていたので彼は大だ。

今回はあまりの不調もないとむしろ喜び、伊藤さんは帰っていった。

九條さんは伊藤さんや井戸田さんが持ち込んでくれた暖房もあるので一晩ここにいて様子を見るとの事だった。

彼は意外にも、「黒島さんは事務所に帰ってもいいですよ」と気遣ってくれた。

が、それを私は斷った。また夜一人でいることにより気分が落ちるのも嫌だし、九條さんが仕事しているのに私だけ帰宅するのはどうも良心が痛んだのだ。

正直今までの私なら霊が出る部屋で一晩過ごすなんて正気の沙汰ではないと震え上がっただろうが、九條さんもいるし、あんなに泣いてる霊が不憫でし恐怖心が薄れたのだ。

私は九條さんとただ座って、時折差しれをつまみながらひたすら時間が経つのを待っていた。

「伊藤さんパワーほんとにヤバいんですね」

「でしょう。あれば並じゃないですよ」

「伊藤さん寢た途端夜になって……びっくりしました、時間覚狂わされるなんて」

「中々力を持った霊ですね。私も驚きました」

全然驚いてるように見えない九條さんは壁にもたれながら何をするでもなくぼんやり座っていた。ポッキーはもう食べ盡くしていた。

私は隣にある電気ストーブに當たりながらお茶を飲んでいた。

「でも伊藤さんが寄せ付けるっていうの、何か分かる気がするんですよね……こう、無害そうなオーラが凄いというか」

「まあ同ですね。伊藤さんにしろあなたにしろ人に思いれしやすい人ですよね」

「え、私ですか?」

突然自分の話題になり驚いて九條さんを見た。彼はこちらを向いて頷いた。

「病院でもられた後激しく泣いてたでしょう、化しやすいんですね、だからられるんです」

「今回は嫌われてそうですけど……」

「勝手にり込んで機材など使って相手を捉えようとしたのが反を買ったかもしれませんね」

そうなのだろうか。自分が人に思いれしやすいタイプだなんて思ったことはなかった。

むしろあまり人と関わらないことが多かったのだけれど……。

私は膝を抱えて首を傾げる。

「自分ではよく分かりません……人に思いれしやすい、だなんて」

なくとも私が神谷すずにられたとしても、泣きじゃくらない自信はあります」

そう言われて、九條さんが泣き喚く姿を想像した。そしてあまりに衝撃的な景だったため、私はついぶはっと笑ってしまう。

「た、たしかに想像つきません……!」

この人基本無表が多くて笑う事すら殆どしない。何を考えてるかよく分からないんだから。

九條さんは笑われた事に特に何も思っていないようで、話を続ける。

「羨ましいですよ」

「え?」

「あなたや伊藤さんのようにに素直な方々が」

ふと笑いを止めて九條さんを見る。彼がそんな事を言うのは意外な気がした。

マイペースだし、人を羨まむ事なんてしないと思っていた。

「……そうですか? 私はいつも冷靜な九條さんが羨ましい時もありますよ」

「変わってますねあなた」

「もうちょっと笑ったほうがイケメン活かせるのになとも思いますけど」

「はあ、笑うですか。笑ってますけど」

「え、今ですか!?」

「大笑です」

「え!?」

「冗談です」

突然よく分からない冗談をぶっこむのやめてほしい。私は口を尖らせた。やっぱり、何考えてるのかよく分かんないよ。

「に、しても顔ですか……」

ポツンと九條さんが言う。私は考えながら言う。

「まあ確かに、俯いてたし髪が邪魔で顔はよく見えませんでしたけど……」

でも顔を探す、って一どういうこと?じゃあるまいし。

九條さんもどこか納得していない様子で言った。

「なんだか一つ一つが繋がりませんね。で病死という所まではいいと思いますが……顔を探す?人の顔を覗き込んでなぜ『自分の顔を探してる』んでしょう」

「盜まれるものでもないですもんね、顔なんて……」

「それにやはり、井戸田さんの祖母があまりに隠しすぎているのも気になる……やはり病死ではないのか……殺人?そこの報が知りたい、再び出てきてくれればいいのですが、あまりに伊藤さんを使い過ぎて彼の調に支障が出てはなりませんし」

「もう一度話せれば何か分かるかもですもんね。でも私たち嫌われてるぽいですけど……」

「これは相の問題ですからね、なんとも」

困ったように息を吐いた。

霊が出てくるのを待つしかないという焦ったい狀況。時間だけが無に過ぎ、時刻はそろそろ23時を回ろうとしていた。

私はふと思い立ち、九條さんに尋ねた。

「あの九條さん、お風呂場ってカメラつけましたよね」

「はい」

「でも洗面所は映りませんよね?」

「はい、浴室の中を映すようにしてますから」

「私ちょっと著替えてきます」

殘念ながら今日はお風呂にれそうにない。銭湯に行ったきりで正直かなり気分は悪いが致し方ない。調査中はこうなるともう理解している。まだ冬でよかった。

ただせめて著替えぐらいしたかった。霊に一度散らかされまくった類たちは、一応破れてはいないので使うのには問題はない。

九條さんは不思議そうに言う。

「マメですね……1日くらい著替えなくても死なないのに」

「私は死ぬ死なないじゃなくて清潔のことを考えて言ってるんです。本音を言えばお風呂にりたいです」

ってもいいですよ」

「この冬に水浴びしたら死にますよ」

「そうですね、流石にガスは通ってませんでしたね」

この人は頭がいいんだか悪いんだか。私は呆れる。

まあ調査中お風呂にれないのは仕方ないけど、それにしても無頓著だなぁこのイケメンは。男の人ってこんなもんなのだろうか。

私は部屋の隅にある荷から著替えを手にした。

「ではちょっと外します」

「はいどうぞ」

今度はパンツを落とさないように気をつけて移する。廊下に出た瞬間、冷気が自分を包み込んだ。

當然ながらリビング以外に暖房はないので極寒なのだ。さっさと著替えないと風邪ひきそう。

私は急足で洗面所に行く。ドアを開けて電気を付けると、別段変わった様子は何もない洗面所だった。

小さめの洗面臺に鏡。浴室へはすりガラスの引き戸。

その時伊藤さんから聞いた元住民のエピソードが蘇る。このすりガラスにのシルエットが、って……

……というかそもそも、もしかしたらお風呂で人が死んだかもしれないんだよね……

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