《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》

「……ダメだ思い出しちゃった」

ぶるると震いする。泣いてる可哀想な霊、とか思ってたけど一人になるとやっぱり怖い。人間とは心が脆い生きだ。

一瞬もう著替えなくてもいいかと思ったが、清潔について九條さんに話した手前このままの格好でいられない。一応九條さんも男だし、てゆうかかなり男前な人なんだし、必要最低限のだしなみくらい気にかけねば。

そう思い急いで服をぎ著替える。凍えそうな寒さに鳥が立ってるのが分かる。ああ溫かいお風呂に浸かりたい、明日も解決しそうになければさすがに一度帰って銭湯に行こう。

新しい類を手にした時、ふとさっきの『パンツ散事件』を思い出した。

……そりゃ気のないパンツだけどさ。近くで安売りしてたやつ。

だってゆっくり買いする時間もなかったし、今後どうするかも決めてなかったから適當でいいかと思って。

でもあんなに無表でいるかな普通。私絶対として見られてないよね。

そもそも思えば仕事とは言え二人きりでこんなアパートに泊まり込むというのに、全然異として見られてるじはない。

はあとため息をついて服を著る。袖を通すとリビングでしだけ溫まっていた類の溫度をじた。

洋服を著終えた自分が鏡に映る。きっと霊は寒さなんてじないだろうなぁ、なんて思いながら。

恥心すら無くして、そんな中で必死に探しているとはなんだろう。

「顔かあ」

ポツンと呟いて鏡を見つめる。自分の困り顔がそこにはある。

顔を探してるってどういうことだろう。容整形に失敗して口が裂け……違う違うこれは口裂けのエピソードだ。

でも顔はよく見えなかったけど、例えば傷だらけだとか火傷をひどく負ってるとかには見えなかったんだけどな。

何となく目の前の鏡にれた。ひんやりとした鏡の覚が指先に広がる。すでに低くなっている溫が全て抜き取られていくような覚に陥った。

「……って寒いな。戻ろう」

誰に言うでもなくそう呟き置いてある服たちを手にしようとした時、目の前にある蛇口から水が一滴落ちた。

的にそちらを見る。

再びピチャン、と水滴は音を立てて洗面臺の陶へ落下する。

私は手をばして水栓を締め直す。覚的にはちゃんと閉まってるように思えたが、緩んでいたのだろうか。

だがしかし、再び水は出てきた。私は首を傾げる。さっきまでこんな水が出るような事なかったはずだけど。

もう一度締めてみようと腕をばした時、今度は水滴が何度か落下したのに気付いた。

ピチャン

ピチャン

ピチャン

瞬く間に水が落ちる。それを見た途端ハッとして手を引いた。

同時に水はさらに速度を増して落ち始めた。それは水栓の緩みなどではないことは明確な異常だった。

私は急いで踵を返して外へ出ようとする。震える手で洗面室のドアノブにれた時、それがびくともしないことに気が付いた。

まるで固められたようにかない。ドアノブはしも回らない。

一気に焦りと恐怖が押し寄せて全から汗が噴き出た。危機を覚えてすぐにぶ。

「九條さん! 九條さん!」

リビングば廊下を抜けてすぐそこだ。大聲を上げれば気づかないわけがない。

だというのに一向に九條さんに屆いた気配はない。返事も聞こえず、こちらに駆け寄ってきてくれる様子も見當たらないのだ。

必死にドアを叩いて主張した時、背後の蛇口から水が一気に噴き出る音が響いた。はっとして振り返る。

それは明らかに異様な景だった。どう見てもアパートの一室にある蛇口から出る水の量とは思えない多さが噴しているのだ。

滝のような水の落ちる音が耳に響く。とんでもない水の勢いに、細い蛇口は悲鳴を上げるように小さく震えていた。

「九條さん! 九條さん!!」

水は一気に洗面臺から溢れ出た。ありえない量の水はまるで生きのように私の足元に絡みつく。どれほど扉を叩いてもドアノブを回しても、びくともしない。

溢れた水は私の足元へ流れてきた。氷のように冷たいそれが私から溫を奪う。つい下を見下げた時、自分の視界に何かが映った。

水はすでに私の足首まで溜まってきていた。そんな私のすぐに側に、黒い塊がある。

水の中でゆらゆらと蠢めくそれは、どう見ても、

髪のだった。

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