《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》しい気持ち
息が止まる。
水中を泳ぐ髪のから目が離せない。水は信じられない速さで部屋に溜まっていく。水が上昇するたびに、髪のも上昇してくる。
自分のから悲鳴がれた。ただそれさえも、水の音でかき消されてしまい耳に屆かない。
そして次の瞬間、水の中で私は何者かに足首を強く引かれそのまま転倒した。大きな水飛沫を立てながら餅をついた。
冷えた水に全浸かる。水は丁度転んだ私の顎下まで増えていた。
何とか立ち上がろうとするも、足首を摑む手は私を離してはくれない。ドアを必死に叩いて爪を立てるも、やはり反応はない。
命の危機をじ焦りが込み上げる、このままでは溺死してしまう、そう危懼して足首を摑む手を何とか振り払おうとするも、力は強すぎてびくともしてくれない。
水はもう私の口元にある。もはや溺れ死ぬのは時間の問題だと思った。何とか顔を上向きにし、水に浸からないよう僅かな抵抗をしてみせる。
「助け……!」
水に溺れそうになりながらそうんだ時、それまで水面下にいただけの黒い髪のが突然浮いた。はっとし目を奪われる。
の顔が目の前に出現した。首から下は水に浸かったまま、顔だけ水面から出したのだ。
驚きと恐怖で、もはや聲すら出なかった。
はギョロリとした目でただ至近距離で私を見つめていた。垂れ下がった前髪からは水滴が落ち、しばかり見えるは冷えをじさせる青白さ。
彼の睫一本一本すら見えるほどの距離だった。瞳孔は異常に小さく、は固く結ばれこれもまた青白い。はなんだか何かを訴えているようにじた。
私はそんなを見つめ唖然としながらも、どこか冷靜に考えている自分がいた。
には顔があった。
今度はハッキリと見えている。彼は至って綺麗な顔をしていた。傷一つない顔はただ悲しげにこちらを見つめているばかり。
それを確認したとき、突然自分に猛烈な眠気が襲った。
視界は急にボンヤリと滲み、頭がぼうっとしてくる。水は私の口の中へ侵してきていたが、もう恐怖はじなかった。
ただそれより。
自分の死より。
なぜか、なぜだか……九條さんが心配でならなかった。
あの人は無事でいられるだろうか、私が死んでからもちゃんと生きていけるだろうか。これから先どうなってしまうのか、ただ一目でいいからもう一度會いたいと思った。
手をばせば屆く距離にいるはずなのに、もう私にはそれは葉わない。
自分の目から涙が溢れ出た。今まで生きてきてじたことのないしさだった。これほど自分の存在より命より大切ながあるなんて。
死の恐怖さえ吹き飛んでしまうほどのしい存在が気になって仕方がない。本當はもっと長くあなたの隣にいたいと思っていたのに。
が苦しい。切なさで破裂してしまいそう。
今一度、あなたをこの手に抱きたい。
……抱きたい??
ハッとして目を開けた時、辺りはシンとしていた。
水など一滴も落ちていなかった。そこはありふれた洗面所で、蛇口も何も音を出してはいない。そんな中で私は一人倒れていた。
散した自分の類。冷たい床に寢そべる。しばらく呆然とその狀態を続けた。
……られた。またしても。
はあと長い息を吐く。今回は霊に嫌われてるぽいから、られる心配もないかと油斷していた。
ゆっくり手を上げて自分の目から溢れ出る涙を拭こうとして、その袖がぐっしょり濡れているのに気がついた。
いや、袖ではなかった。周りは何の異常もないのに、私のだけ全びしょ濡れだったのだ。やけにが冷えると思った。髪まで風呂上がりのように水が滴っている。
苦笑して手で顔を覆った。
……怖かった、けど。
同時に分かった気がする。あのの人が言いたかったこと。
最後のあの不思議なも、彼の死ぬ間際の気持ちが流れ込んで來たんだ。
相手はなぜか九條さんになっちゃってたけど。あのの人の気持ちはよく分かった。
……にしても、よりによってあんなに強く思う相手が九條さんって。そりゃ狀況的にも彼しかいないとはいえ、ちょっと恥ずかしいんですけど。もう一度抱きたいって。一度も抱いた事ないってーの。
「黒島さん?」
頭のすぐ上にある扉からそんな聲が聞こえた。
「隨分長いですが大丈夫ですか?」
私を心配して來てくれた九條さんだった。
どきんと心臓が鳴った。溺死しそうな時に湧き出たが一瞬蘇ったのだ。
「あ、は、はい!」
平然を裝って慌てて立ち上がる。落ち著かねば、あの不思議な気持ちはの霊が見せた幻覚なのだ。
とりあえず扉を開ける。ドアノブはすんなりいた。
洗面室から顔を覗かせた私を見た途端、九條さんは目を丸くした。
「……水浴びしたんですか?」
「はは……そんなところですね……」
彼ははあーと息を吐いて呆れる。
「……あなたのられやすい質も伊藤さんを笑えないくらい凄まじいですよ」
「自分でもそう思ってます」
「とにかくその格好では風邪ひきますよ。もう一度著替えては」
濡れて張り付いた服たちを見る。
あーあ。これ、著替え終わった服なんですけど。せめて著替える前にしてくれればよかったのに。
せっかく著替えてしサッパリしたのに、私はまた先程まで著ていた服に袖を通さねばならないという気分悪い結果となってしまった。著替えはどうやら數著持ってこなければならなかったらしい。
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