《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》濡れた髪
「ドライヤーなんてありませんからね。ちゃんとストーブに當たっててください。風邪ひきますよ」
小さなハンドタオルで髪を拭く私に九條さんは言う。私は言われた通り溫かな所に座り込み冷えたを溫めた。
指先まで冷え込んでしまっていた。こんな真冬に水を浴びればそうなるのは仕方ない。
「せっかく著替えたのに結局また元通り……」
「それだけ水に當てられればシャワー浴びたようなものでしょう、逆にスッキリしたのでは」
「それ凄いプラス思考ですね」
私はついぷっと笑う。九條さんは私のすぐ隣に片膝を立てたまま座り込む。
「……で、それだけ水に濡れているのであれば、風呂場で死んだ説は正しいとみて間違い無いですね?」
私は頷いた。両手をり合わせて答える。
「そうだと思います、溺死しそうでしたから」
「……私はられた経験などないですが味わいたくない経験ですね」
「ええおススメしません。本當に怖かったです」
膨れながらそう答え、しかしすぐに真剣な表で彼を見た。
「九條さん、の人には顔ありましたよ」
「……顔があった?」
「間違いなく見ました。傷一つない綺麗な若いでした」
九條さんは腕を組んで考え込む。不思議そうに首を捻った。
「……それと、これは私の憶測なんですけど」
「はい」
「あの人死ぬ時、側に誰か大事な人がいたんじゃないかと」
「大事な人?」
私は彼に先程の事を話そうとし、はっとする。霊にられたとはいえ、私は九條さんに対してしいを持ったというのは流石に恥ずかしい。
彼の名前は出さないでおこう。
「えっと、水の中でやたら眠くなって死ぬ! って思った時、心の中でぶわっとが湧き出たんです。死ぬ恐怖より大事な人の存在が気になるって。命より大事な人、もっとあなたの隣にいたい、もう一度抱きたいって強くじたんです」
ゆっくりそう語りながら、再び先程の想いが蘇る。
切なくて悲しくて寂しくて、言葉では表現出來ないほどのだった。
ついじんわりと目に涙が浮かぶ。あんな、私は知らなかった。
……本當のを、私はまだ知らないのかもしれない。
自分が死にそうな時ですら他の人の事を心配するだなんて。なんて深い。
流れてしまった涙を九條さんに隠れるようにして拭いた。それでも彼には気付かれていたらしく、九條さんはし目を細めて私を見る。
「……相変わらずがかな人ですね」
「は、られたらこうなりますよ」
「やっぱり霊もる相手を選んでますね」
九條さんはそれだけ言うと、どこか遠くを見つめるように考え込んだ。普段のぼーっとしてるような橫顔と違い、どこか鋭い目つきにじた。
私はなんとなく邪魔をしてはいけない気がして、ストーブの前で手をりながら暖まる。
しばらく沈黙が流れた後、九條さんがポツリと呟いた。
「なるほど……」
私は彼の方を勢いよく向き尋ねる。
「え、なにがですか!? 分かったんですか? てゆうか、あの『私の顔』発言とかはどういうことなんですか?」
鼻息荒くし矢継ぎ早に質問してしまう。私と言えばられた経験もあるくせに、ことの真相はまるで分かっていないからだ。あのの人が『誰か』を探している、ということぐらい。
九條さんは私の質問には答えず、まだ考えるように一點のみを見つめている。集中するその姿はいつものマイペースな様子とはまるで違って、ああ九條さんずっと集中してればいいのにと失禮な事を思ってしまった。
やがて彼は小さくため息をついたあと言う。
「一つ仮説は立てましたが、々複雑といいますかデリケートな問題でもあるので、確実な証拠が集まるまでし待ってください」
「はあ、証拠……?」
「これはもう伊藤さんの報収集がかなり重要となって來ました。まあ彼ならそろそろ真相にたどり著くと思いますけど」
九條さんの伊藤さんに対する信頼って凄いなと改めて思う。そりゃ事務所に二人だけの職場なんだから當たり前だけど。
いいコンビだなぁ、と、し微笑んだ。
「分かりました、九條さんがそう言うなら待ちます。私のポンコツな頭じゃまだよく分からないし」
「あなたがられた経験がなければ私も分かりませんでしたよ。さあ、しっかり髪が乾いたなら事務所に戻りましょう。そこそこ霊についてはわかりましたし、ここで一晩過ごしてまたられたらたまったものではないでしょう」
九條さんはそう言うと、突然手をばして私の先にれた。
突然のことに、私はどきりとが鳴る。
彼の綺麗な手が目の前に來て、それが酷く恥ずかしく思ったのだ。
「……まだまだですね。は髪が長いと大変ですね」
九條さんはなんの意識もせずそう言うと、再び私の髪から手を離した。
私は答えず、ったハンドタオルで必死に髪を拭いた。張してしまった自分の気持ちを隠すために。
……本當にマイペースな男だ。斷りもなしにの髪のにっちゃうんだから。
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