《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》最終報告
それから二人で一旦事務所に戻り、案の定九條さんはあの狹いソファにすぐに寢そべり寢息を立てた。
この人ソファでばっかり寢てるけど、痛くないのかな。
いや、本來はきっと仮眠室を使っていたのに私が場所を取ってしまっているからだ。申し訳ない。
九條さんに布を掛けると、私は自分もベッドに橫になり、疲れたを橫にしてそのまま寢った。
翌朝。
早朝に起きてそのままお風呂にりに行った。朝早いと人なんていないかと思えば意外と中は人が多い。朝風呂の魅力なのだろうか。
九條さんが起きてしまう前にと急いでお風呂にり事務所に戻った。帰った時、彼はまだソファで寢息を立てていたのでほっとする。
事務所は日がり込んで眩しくなっていた。ちょうど九條さんの顔にが當たっているが、彼はまるで気にしているそぶりはない。
伊藤さんが來るまではゆっくり寢かしてあげよう、と笑いながら、私はブラインドを閉じていた。
しかし丁度その時、慌ただしく事務所の扉が開いたのだ。
「おはよーございまーす!」
伊藤さんだった。意気揚々とってきたその人を見て、昨日の幽霊にあんなに至近距離で顔を見られていたのに元気な人だなぁ、なんて思ってしまう。
私は笑って答えた。
「伊藤さんおはようございます」
「おはよ! 出ましたよ出ましたよー……ようやく報がりました!」
嬉しそうに言った伊藤さんの聲が響いた時、珍しく九條さんは起こしてもないのに一人でパチリと目を開けた。
だるそうにゆっくり起き上がり、大きな欠をする。案の定寢癖は後頭部についていた。
「おはようございます伊藤さん……」
「九條さん! おはようございます!やっと分かりましたよー、もうびっくりの事が!」
伊藤さんは機に持っていたカバンを勢いよく置く。そして中をごそごそ漁りながら話す。
「昨日井戸田さんに貰った連絡先に電話しました。その中には事件を知ってる人はいなかったんですけど、當時アパートに住んでた人で今でも友のある人はいないか尋ねて追っていったんです。
んでようやく、あそこの部屋で死人が出た時、住んでいたと言う人にたどり著けました〜」
九條さんは寢起きのややぼーっとしている表で頬をかく。私は冷蔵庫に行って彼のために水を取ってきてあげた。
九條さんは寢ぼけ眼で私からペットボトルをけ取り、すぐに水を流し込む。
伊藤さんは続けた。
「どうやらやっぱり病死であることは間違いないです。そしてビンゴ! 風呂場で亡くなったとのことでしたよ」
「わあ……凄いですね、よく分かりましたね」
「まあ運もあるけどね。話を聞いた人の記憶によるともう20年くらいは前じゃないかと」
「20年……」
私は呟く。その間、あの部屋は誰にも貸し出されず、の人は一人泣きながら誰かを探して待っていたのか。
……寂しいな。
死ぬ間際、あんなに想っていた人とまだ會えないなんて。
九條さんは水を飲んでようやく頭が冴えてきたのか、伊藤さんにたずねた。
「その亡くなった人について分かりましたか」
その質問に、伊藤さんは大きく頷いた。そして鞄から取り出した紙を、私と九條さんに差し出した。
どこか複雑そうな顔で伊藤さんはため息をつく。
「九條さんの言う通りでしたよ」
私はそこに記してある容を目で追い、一瞬呼吸を忘れた。
隣にいる九條さんを見れば、彼はやはり、というように小さく頷いた。
「これ、って……九條さん……」
「そういうことですね」
「まさか……」
震えるを手で抑える。伊藤さんからけ取った紙には、あの風呂場で亡くなったとされるの名前が書いてあった。
『井戸田 雅代』
「…い、井戸田、って……」
混する頭をなんとか整理させようと試みる。
あの井戸田さんと同じ名字。
井戸田さんはご両親を亡くして祖母に育てられたと言っていた。
そんな。だってまさか。
グルグル頭が回る私の隣で、九條さんが立ち上がる。凜とした表で伊藤さんに言った。
「井戸田さんに連絡を。調査の最終報告をします」
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