《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》視る力は理解を得られない

「でも……母は一度も私を責めませんでした……」

優しい人だった。いつも私の味方で理解者だった。

結局んなお寺や僧に相談しても私の能力が弱まる事はなく、この力を人には言わないで生きていくしかないと諦めた。

母はいつも、「の気持ちを理解してあげられなくてごめんね」と謝った。

「そんなお母様を亡くされたのは、さぞかしショックだったでしょうね」

「ええ、突然の事でしたし……私には本當に母しかいなくて。

父のことがあって、人と関わることに臆病でした。學校に通うようになった頃も、中々友達も出來なくて」

視える、だなんて、誰にも言わなかった。

それでも私の言にはやや不審なところがあったらしい。

みんなで盛り上がっているコックリさんには參加しなかった。

肝試しも行かなかった。

一緒に道を歩いていても、真っ直ぐ歩けなかった。目の前に「いる」と、それを避けてしまうからだ。

ちょっと変わった子。それが私につけられたイメージだった。

ただそれでも、決してめられることも無視されることもなかったし、遠足や運會のお弁當は一人で食べる事はなかった。

今思えば私はクラスメイトには恵まれていたと思う。

その狀況に満足していた。私には、母という理解者がいればそれでいいと。

「突然の死は本當に悲しくてショックでしたけど……でも、それで死のうなんて思ってはいませんでした」

「それが原因ではない?」

私は握っていたコードに力を込めた。手のひらにし汗をかいているのをじる。

「私……卒業して就職して……そこで初めて、お付き合いをする人が出來ました」

基本あまり人のれない私とは真逆の、人の中心にいるような彼だった。

いつも明るくてにこやかで周りから信頼されている、まさにリーダー素質のある同僚。

一人でいる事が多い私を、自然とってはみんなのれてくれた。おかげで仕事も楽しくこなし、友達と呼べる人も初めて出來た。

彼に憧れるのは時間の問題で、それでも付き合うとかは考えたこともなかった。

そんな中、まさか向こうから際を申し込まれるだなんて……思ってもみなかった。

「母が死んだ時、付き合って2年経ってました」

「結構長く付き合われていたんですね」

「ええ。母を亡くした直後、ひどく落ち込んでいる私を勵ましそばにいてくれて……

そして、言ってくれたんです。『これから先も支えるから結婚しよう』と」

あの時の気持ちを思い出して、つい笑みがれる。

驚きと喜びで心が発してしまうかと思った。本當に大好きな人だったから。

九條さんは小さく頷きながら、私の顔を覗き込む。

「その彼は、あなたの能力については知っていたんですか?」

「…………」

私は小さく首を振った。

言おうとした事は何度もあった。でも父の顔が浮かんで中々言い出せなかった。

「でも、結婚するとなるならちゃんと話そう。そう心に決めて、タイミングを見計らっていました」

「……なるほど」

「でもそんな時……街中で彼と歩いている時、偶然。妹に會ったんです」

『あれ? お姉ちゃん?』

振り返った時に見えたのは、巻いた髪にお灑落な格好をした妹だった。母の葬儀以來、連絡すらとってはいなかった。

『あ……聡……』

『噓、彼氏?』

『え? あ、うん……』

はへえーと言いながら、彼を上から下までゆっくり見た。彼は名前を告げて自己紹介をし、聡と握手をわした。

『妹の聡です!』

『妹がいたなんて知らなかった』

『えー言ってなかったの? お姉ちゃんひどーい』

『ごめんね、今から言おうと思ってて…』

慌てる私を見て、彼はニコリと笑った。

そして私にではなく、彼に話しかけた。

『でもーお姉ちゃんと付き合うとか大変じゃないですか〜? だってほら、お姉ちゃんって幽霊が視えるとか言っちゃう電波ちゃんだし?』

『………は?』

『気をつけてくださいね? 変な商法とか!』

冗談ぽく笑う妹を見て、私は何も言えなかった。

が私に敵意を持っている事は、ずっと昔から分かっていた。

きっと私のせいで両親が離婚する羽目になってしまったことで、聡なりに恨みがあったのだと思う。

それに気づいていたから、私もその嫌味に何も言い返せなかった。

「……それで彼はなんと」

問いかける九條さんに、私はまた小さく首を振った。

「……し距離を置こうと言われて、そのまま連絡は拒否されました」

つい笑ってしまう。

2年も付き合ったのに、終わりはなんとも呆気ない。

せめてしっかり話して別れたかった。

「私も悪いんです。2年も話さずに隠していたわけたし、向こうも気味悪いですよね」

私の言葉に、九條さんは同意しなかった。ただどこか厳しい目でこちらを見ている。

彼のそんな真っ直ぐな目がし苦しくて、私は視線を逸らした。

「しょうがないと思ってました、彼に避けられるのは。それで振られるのも。ただ、彼なら理解者になってくれるだろうと信じていたからショックではありましたけどね」

「しかし相手は同じ職場なのでは」

「……そう、なんです。

どうやら彼が周りの人に話していたみたいで。その、避けられたり無視されたりするようになっちゃって」

彼の人気者という人柄が仇になった。

ひとりぼっちになるのは平気だったが、好奇の目で見られ、そして仕事に関する嫌がらせもされると流石に困った。

私にだけ重要な伝達事項を伝えられなかったり、大切な書類を隠されたり。

仕事のミスも増え、上司に迷を掛けた。

しばらく勤め続けたが、私はついに仕事も辭めた。

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