《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》ここからが始まりだ
しばらく私はその場で子供のように泣きじゃくった。
泣いても泣いても中々涙が止まらず自分自困した。
九條さんは何も言わずただ私を見守って待っていてくれた。
下手なめもせず聲も掛けない所が、最高の優しさにじる。
こんなに泣いて、明日は目が腫れてとんでもないブス顔だろうな。
しばらくしてようやく落ち著きを取り戻した私は手のひらで涙まみれの顔を拭いた。そして再び九條さんに向き直り、深々と頭を下げる。
「九條さん、ありがとうございました。
お母さんと九條さんがいなかったら今私はここにいません。命の恩人です」
「大袈裟です」
九條さんは片膝を立てて座ったまま私を見て言った。
「大袈裟じゃないです、本當の事です。々失禮な事も言いましたけど、本當に謝してます」
「私としては事務所に同じ能力のある人手を探していたので丁度よかったんです。こういうのは中々出會えませんから」
「この能力がちゃんとお役に立てれるように頑張ります。この人生邪魔だっただけのこの力が、今度は特技になるように」
「これまでの働きぶりで十分役立ってますよ。られたあなたは大変でしたでしょうし、あまりられるのはよくないのでコントロールしてほしいですが」
「あは、本當ですね。九條さんに迷もかけてますし、そこ何とかしたいです。仕事をこなして充実させていいになって、元カレも見返してやります!」
鼻を啜りながらし笑う。泣いてスッキリした気分になれた。
長く疑問だった事も解明され、霧が晴れたように心は爽やかな気持ちになれている。
本當に謝しなくては、九條さんに。今度ポッキーいっぱい奢ってあげよう。
片付けの続きをしようと、そばに散らばったコードを再び手に取った。
今までは疎ましかったこの力を認めてくれる人がいる。だから、大丈夫。
ここには私が求めていた理解者がいてくれるんだから。
お母さんはこうなる事を見越して、九條さんに助けを求めたのかなぁ。
そんな考え事をしながらいていると、九條さんが言う。
「でも、よかったですね」
「え?」
「そんな理解のないくだらない男と結婚しなくて」
ふと手を止める。やや強い語尾に聞こえた。九條さんが毒を吐くのは珍しい気がした。
「……そ、れも、そうですね……」
「あなたには相応しくないですね」
「どどど、どうも」
「ああそれと黒島さん、一點」
「はい?」
思い出したように九條さんが言うのを、コードを纏めながら耳で聞く。やや手が震えている自覚があった。
彼はいつもの淡々とした話し方で言った。
「私はあなたの妹さんの事は知りませんけど」
「聡ですか?」
「華やかで人で自分と正反対とあなたは言ってましたが。
あなたも十分綺麗ですよ」
ついまた手を止めて強めに振り返ってしまった。彼は相変わらず無表でこちらを見ている。
が鳴ってしまった。この男、突然凄い事を言い出す。
慌てふためきそうになるのを必死に隠し、私は返事した。
「は、はあ、どうも。でも、自分の事男前の自覚ないのに、他人の的覚あるんですか?」
可げのない返答になってしまった。しかしそれでも、九條さんは平然と言う。
「當然です。自分のことは興味ないですけど異については私も一般的な的覚は持ってますよ。
私も男ですから」
ついに心臓が自制も聞かず音で鳴り響いてしまった。
駄目だ、何をドキドキしてるんだ自分は。恥ずかしくて張して九條さんの方を見れない。彼の事を酷く意識してしまっている。
やめろやめろ、これはあれだ、あの霊にられた時、娘に対するしい気持ちがなぜか九條さん相手になってた、あの名殘がまだ殘ってるんだ! そうに違いない!
あれ、でも娘にドキドキはしなくないか?
しかもそういえば、九條さんの過去の話がやけに不愉快だった事もあって……
それってつまり、私?
一人パニックに陥る私にトドメをさすように、九條さんは続けた。
「なくとも、傷心の相手に嫌味なメールを送りつけてくる人より、他人の痛みに敏で泣くことが出來る人の方がずっといいです。
あなたはもう十分『いい』ですよ」
そう言い放った九條さんを見ると。
今まで見たことのないくらい優しく笑っていて。
とうとう私の心臓は止まった。
……いやいや、生きてる、大丈夫止まってない! せっかく生きると決めたのにここで死んでどうする!
でもうるさい、心臓がうるさい、顔は今絶対赤い。
やめてほしい、どうしちゃったんだろう自分は。バクバクく心臓はおさまる気配がない。
……こんな変な人好きになったら、絶対苦労するに決まってるのに
完全に停止してしまった私を他所に、九條さんは面倒臭そうに立ち上がってモニターの片付けを始めた。やっぱり、彼自は何も思っていない天然タラシ。
その飄々とした態度が最高にムカついた。人をこんなにしておきながら、この男は。事務所のポッキー全部捨ててやろうか。
私が逆恨みをしている時、アパートの部屋のドアがガチャリと開いたのが聞こえた。
「お疲れ様でーす! 片付け手伝いにきましたー。掃除道も持ってきましたよ〜」
伊藤さんの明るい聲が響いた。すぐに足音と共に、あの人懐こい笑顔が見えた。
が、彼はリビングにって私の顔を見た途端、目を丸くして驚いた。挨拶を返す間もなく、彼は九條さんに言い寄る。
「九條さん! 何黒島さん泣かしてるんですか!」
「はい?」
「何言ったんですかもー!」
伊藤さんは九條さんに詰め寄りながら責めた。九條さんは心外だ、というように伊藤さんを見る。
「私じゃないですよ。事件の終わりとかなんやかんやで極まったみたいですよ」
伊藤さんが本當? とばかりに私を見た。慌ててそれに同意する。
「ほ、本當です! 井戸田さんのお母さんの姿とか見ちゃったりして……切なくて……」
「そうなの? ならいいけど。九條さんに泣かされたら僕に言うんだよ!」
鼻息荒くして言う伊藤さんについ笑う。九條さんは呆れたように伊藤さんに言った。
「あなた私を何だと思ってるんですか」
「ええ? だって九條さん心も何も分かってないんですもん! 前貰った明らかなラブレター仕事の依頼と勘違いして僕に寄越したりするし!」
「……あれは」
「心は複雑なんですよー? 気をつけないと!」
なぜか男の人なのに伊藤さんは心を語っている。でも不快ない、伊藤さんの凄さ。
九條さんはどこか拗ねたように口を尖らせたが、すぐに思い出したように伊藤さんに言った。
「ああ、黒島さんは本格採用です」
「……え! そうなんですか!?」
「はい、々教えてあげてください」
伊藤さんが笑顔でこちらを振り返る。私は頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
「そっかそっかよかった! よろしくね。いやー助かるなー九條さんの世話僕の手には負えなくて!」
「あはは!」
「あ! そうなれば事務所の近くで部屋探しからだね? 僕ちょっと知り合いいるし一緒に探すよ」
「わ! 心強いです!」
「これからよろしくね、頑張ろう!」
眩しいほどの笑顔の人。
その後ろでぼーっと立ってる人。
なんだか個的で凄いメンバー(特に後ろ)だけど、私はきっとこれから頑張れる。
この人たちは私を信じてくれる、理解者であることは間違いないから。
私は目を細めて二人を眺めた。
これから大変な毎日かもしれないけど、もう下を向いたりしない。
ゆっくりカーテンのない大きな窓を眺めた。
今日も空は晴れて青空が気持ちよく広がっていた。
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